星野源と宇多丸『Same Thing』EPとワールドツアーを語る

星野源と宇多丸『Same Thing』EPとワールドツアーを語る アフター6ジャンクション

星野源さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さんと自身の2019年の活動を振り返りながらEP『Same Thing』の制作やワールドツアーの話などをしていました。

(宇多丸)というわけで、改めて今夜のゲストは星野源さんです。

(星野源)よろしくお願いします! 星野源です!

(宇多丸)今、後ろでEP『SameThing』に入っているね、PUNPEEくんとの『さらしもの』が流れていますが。まあ、PUNPEEとの共演の話もぜひ伺いたいんだけど。ということで今日はね、星野さんいらしてね、いろいろもちろん取材なんかも受けられたりもしていると思うん。年表というか、なんとなく時系列順に見ながら……。

(星野源)ああ、ありがとうございます。すごいですね。年表がある。

(宇多丸)そう。その時に何を考えてたか、みたいな話をざっくばらんに伺っていければなという風に思っております。まずこの『POP VIRUS』のリリースが去年の12月19日ということで。そこからポンポンと間をあけずにドームツアーみたいなことですよね。これはちょっと既出のインタビューとか発言とかも拝読すると、なかなかでもその『POP VIRUS』のその作品的な達成とか、それを受けてのドームとかがあって。結構抜け殻になったというか。

(星野源)そうなんです。「燃えつきってこういうことなのかな?」っていう。初めて、ドームツアーというすごく大きい場所、五大ドームというのを回って。その前に『POP VIRUS』もあって。『POP VIRUS』もすごく久しぶりのアルバムで。『YELLOW DANCER』の次ということもあって。しかも『恋』っていう曲をリリースした後、初めてのアルバムで。

ドームツアー後、燃え尽きる

(宇多丸)何て言うのか、言っちゃえばもう本格ブレイクして。まあ本人のね、その「図らずも」と言うべきかはわからないけども、国民的な立場に否が応でもね、なってしまって。からの……じゃない? やっぱりそのハードルたるや……だしさ。しかもそれで出してきたアルバムがまあ、僕はもうひっくり返るド傑作で。どの角度から見てもね、考え抜かれてるし、攻めてるし、素晴らしい作品でしたよ。それはそれは。

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(星野源)ありがとうございます! めちゃくちゃ嬉しいです。

(宇多丸)本当にもう、恨みに思ってますという(笑)。

(星野源)フハハハハハハハハッ! 恨まれてる(笑)。

(日比麻音子)先輩(笑)。

(宇多丸)なんでいい作品を作って恨まれてるんだっていう(笑)。

(星野源)いや、嬉しいっす!

(宇多丸)でも、すごかった。だからさぞかしプレッシャーもあろうという。でも、その中でやっぱり今、星野くんがやりたいこととか、見据えてるその志みたいなのが本当に、しかもそれが誰もが楽しめる日本のポップスとして評価されてて。本当、どの角度から見ても文句のつけようがなくて。

(星野源)ああ、嬉しい……ちょっと今、涙ぐんできましたけれども。

(宇多丸)ただね、だからこんな……だから大変だろうなと。で、しかもドームツアーじゃん?

(星野源)ですね。その『POP VIRUS』もこう1年ぐらいかけて、ちょっとずつちょっとずつ積み上げてきて。それで「よすい、出すぞ!」って出して。それでありがたいことにもセールスも、そういう評判もすごくいただいて。それからのドームツアーで。そのドームツアーもものすごく楽しかったんですよ。それで、ファンの皆さん、お客さんの皆さんとの距離感みたいなものがドームだとは思えないぐらい……まあ、何回もインタビューで言っちゃってるんであれなんですけども。ドームだとは思えないぐらい近いというか。

(宇多丸)でも、そういう意図でやられたんでしょう?

(星野源)そうですね。演出でド派手に……みたいなことよりも、音楽を中心に1人1人となるべくコミュニケーションを取れるような、何かそんなライブをやろう。自分のやり方でやろみたいな感じでやったら、すごく上手くいったんですよね。それで、いつもそのツアーとかアルバムが出来上がったタイミングとか、そのあたりでだいたい次のことを考えるんですよ。「次、どうしようかな」みたいな。で、もう思いついていることがほとんどだったんです。「次はこういうことをしよう」って。

(宇多丸)やっぱりその製作の過程でね、いろいろ見えてきたりすることもありますもんね。「ああ、これはやれてなかった」とか「これはまだやっていない」とか。そういうのが見つかるもんだけどね。

(星野源)そうなんです。なんかそれが、荷物をずっと……リリースを重ねるにつれて自分の背中に背負った荷物みたいなものを山の一番てっぺんに。

(宇多丸)『デス・ストランディング』だ。

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(星野源)そういなんです。『デス・ストランディング』。ドサッとちゃんと納品したというか(笑)。

(宇多丸)『デス・ストランディング』で言うところの納品をしたんだ(笑)。しかも、かなりいい点でね!

(星野源)そうなんですよ。劣化もせず、損傷もせずみたいな(笑)。

(宇多丸)理想的な形で運べたと。

(星野源)で、そういうのがあって、「あれ、俺、何も思いついてないな?」っていうのがあったんですよ。

(宇多丸)ある意味、それもすごいけどね。そんだけやりきるってさ、なかなかできないもん。「もうやれることはやっちゃったんじゃないか」って思えるところまでやれるって、それはないもん。すげえよ。

(星野源)それも、なんか「そういう気持ちって甘いのかな?」とか、なんかそういう風にも思ったんですけども。「まだまだだろう、俺は」みたいにも思ったけど、でもなんかこう、「ああ、燃えつき症候群ってこういう感じなのか?」っていうくらい、なんにも思いつかず。

(宇多丸)うんうん。でも、もちろんそんな心境っていうのは知らなかったですけど、「言われてみるとそりゃそうだろうなって。こんなすげえアルバムを出して、それで……」っていうのはありますよね。だから、うん。俺としてはそこに至るのが本当にすげえなっていうのはあると思うけど。ただ問題はね、本人もそんなことを言ってられないしさ。期待をされている部分も当然、あるじゃないですか。で、『POP VIRUS』の次って、なかなかだと思うよ。それは。

(星野源)なんで、ちょっとしばらく休もうかなって。1年ぐらいちょっと。で、その後すぐに『罪の声』っていう映画を撮っていたので。役者仕事にすぐ入ったということもあって、「音楽はまあできることだけやって、しばらくは休んだりしようかな」って思っていたんですよ。そしたらちょっとその様子が変わってきたという感じですね。その時に知り合った人たちとか、その時に考えたこととか。

(宇多丸)それこそ、トム・ミッシュさんと会って……とか。今回参加されてるね、Superorganismの方と会ったりとか。まあ、Pさんも参加されていたり。とにかく、そこは別にこういう作品を作るために付き合いが……っていうことじゃないですよね。順番はね。

(星野源)そうですね。たまたま友達になって。で、最初はオロノだったんですけど、Superorganismのオロノと「何か一緒にやろうよ」ってなって。でも、今までそういうのをやったことなかったんですよ。フィーチャリングって全然やってなかったんで。

(宇多丸)人とのコラボっていうか。

(星野源)はい。で、その理由としては僕がくも膜下出血で倒れて、その時に武道館公演を延期したんですよ。で、その時に復帰した後にやっぱり待ってくれているたくさんのファンの人たちがいて。自分の活動っていうのを主にちゃんとしなきゃいけないんじゃないか。なので、誰かの作品に参加するとか……しかも役者もやっているので、普通のそのアーティストの人と比べると稼働の時間が半分しかないので。そういう風に思うと、やっぱり自分のことをしっかりやろと。

(宇多丸)僕がね、ずっと自分を奮い立たせる時に「星野源よりは忙しくないぞ!」っていう。それがやっぱり常に僕の座右の銘としてありますんで。

宇多丸座右の銘「星野源よりは忙しくない」

(星野源)フフフ、座右の銘にまでなっていたんですか?(笑)。宇多丸さんの心の中に俺がいるの、嬉しいです(笑)。

(宇多丸)ねえ。まあ、そうだよね。

(星野源)まあ、それもあってやってなかったんですけど。

(宇多丸)なんかやる時も、やっぱり編曲って……落し込みはかならず星野くんみたいな感じなんですよね?

(星野源)そうですね。編曲もプロデュースも全部自分でやってたので、やっぱりそれだけ時間もかかるし……っていうのもあって。それでやってなかったんですけど、そこで「あれ? そういえばやってなかったな」って思って。それでそこからちょっとずつ気持ちが変わっていって。それで最終的に『Same Thing』っていうEPが出るんですけども。元々は本当に趣味でやろうとしてたんですよ。

(宇多丸)なんかこれ、高橋芳朗さんとの公式インタビューになるのかな? そこですごい「おっ!」って思ったのは『ミックステープ文化論』っていう僕の先輩、小林雅明さんが書いたすげえ本がありますが。あれ、世界的にもすごい本だと思うけども。

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(宇多丸)なんかあれを読まれてそういうミックステープ……要は「ミックステープ」という名のフリー音源として出すという文化。アメリカではそれがすごくプロモーションツールでもあり、作品のアーティストにとって自由な形態の。それこそKREVAの新作(『AFTERMIXTAPE』)なんかはそこに感化されているけども。だから俺、面白いなって思って。同じくミックステープ的な出し方をしたいっていうのを星野くんも考えたし、KREVAも考えたっていうのは面白いなと思ってさ。

(星野源)やっぱり何かその、日本でももちろんやってる人、いますけど。その自由さっていうか……自由さでもないとは思うんですよ。もちろんいろいろあるとは思うけど、やっぱりよりアートに近い感覚になれるじゃないかなっていうのもあったし。あとはその、本当に自腹でやろうとしていたんですよ。自主制作として作って……。

(宇多丸)それもね、面白いよね。

(星野源)で、それを思いついた瞬間に「あっ、すごい楽しそう!」と思って。「これこれ!」みたいになって、「休もう」と思っていたんですけど、「ああ、これは休んでいちゃダメだ!」みたいな。で、ちょうど知り合った、本当にたまたま知り合った友達たちができていて。そこで本当に話も流れて「何か一緒にやらない?」「ああ、じゃあやろうよ」みたいな感じになっていて。「じゃあ、これだな!」「みたいな。で、PUNPEEくんとは僕のドームツアーの中でSTUTSくん。

(宇多丸)ああ、STUTSくん。MPCプレイヤーの。この前、来ていただきました。

(星野源)STUTSくんにツアーに全部参加してもらっていて。で、そのSTUTSくん、僕がドームのメインステージから移動して、客席の中で1曲歌うっていう部分があったんですよ。一番ステージから遠い客席のところで。その移動がドーム公演なんで結構時間がかかるんですよ。その間にSTUTSくんに1曲、MPCだけでやってもらうっていうコーナーを作って。そこで、1曲僕の曲を全部サンプリングして、そのトラックでSTUTSくんの曲でPUNPEEくんをフィーチャリングした『夜を使いはたして』っていう曲のそのラップを乗せて。それで1曲やるっていうコーナーがあったんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(星野源)で、その時に元々の音源のラップのアカペラを使おうとしたら、PUNPEEくんが「ちょっとやりたいんで」って言って、リリックを書き直して録り直してくれたんですよ。

(宇多丸)わお! うーん、気の利いた男だ!

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(星野源)それで「いい人だな!」と思って。それでその後、会いたかったんですけど。僕のライブを見に来てくれて、その後にでも会おうと思っていたら、ちょっとPUNPEEくん、その後にスケジュールがあって会えなくて。それでその後、スペシャのアワードでたまたまPUNPEEくんと会ったんですよ。で、そこで知り合いになって。「会いたかったです」みたいな話をしてからの、「じゃあ何か一緒にやりましょうか?」っていうのがたまたま重なって。

で、いわゆる自分の勉強っていうんですかね? 今まで自分の世界しか知らなかったというか、そこをいっぱい耕すっていうことをずっと何年も何年もやってきたところで今、取りあえずひとつの頂上に行ったんだという気持ちの中、誰かの場所を知りたい……いつもだと「自分のフィルターを通す」みたいなことばっかり言っていたんですけど、「誰かのフィルターの中に飛び込んでみたい、自分は取りあえずどうでもいいから。なぜなら自主制作だから」みたいな。

(宇多丸)うんうん。そんぐらいの気分で。もう、さっきの背負ってる状態の逆ね。

何も背負っていない状態での制作

(星野源)そうですね。何も背負っていない、ビジネスを1ミリも考えないみたいな。なんかそういう作品を作ったら自分のセラピーにもなるんじゃないかと思ったし、すごく勉強になるんじゃないかと思ったんですね。で、それをやり出したのが春ぐらいですね。

(宇多丸)これが面白いですよね。だからその、やっぱり星野くんって最初にね、僕が会った時にとある対談で呼んでいただいてお会いしたじゃないですいか。あれ、なんだったっけ?

(星野源)ええと、POPEYEかな? その僕の連載だったかな?

(宇多丸)ああ、そうか。それでお話しした時に、「なんで呼んでくれたんですか?」って聞いたら「グループでやってますけど、宇多丸さんはその1人で立ってる感じがするから」みたいな感じておっしゃっていただいて。で、逆に僕、その言葉で星野くんが何を重視しているのか。つまり「1人で立ってる」っていうことを重視している人なんだっていう風にずっと星野くんを見ているところがあって。という人が、でもさ、その「1人」を確立した後に、その確立した人同士が……要するに他者として出会う体験で次の段階に行こうとしてるっていうのは面白いなというか。あとさ、単純に「人がどう音楽を作ってるか?」って実は意外と知らなかったりするじゃない? 我々は意外と。

(星野源)そうなんですよ。やっぱり人のスタジオに遊びに行くみたいなのがなくて。いわゆる同世代の知り合いみたいなのもやっぱりすごく少ないですし。だから知らないことばかりだったですね。

(宇多丸)「あっ、その手順?」とか。それこそ「あっ、そのノリで連絡してくる?」とか(笑)。

(星野源)フハハハハハハハハッ!

(宇多丸)そういうレベルもありますよね。で、じゃあ割とカジュアルな感じで始めて。まあ最終的にはね、今回一応ちゃんと作品、EPとして出されたけども。でも実際にやっぱり仕上がってきたものを聞くと、もう最初に何も知らない聞いたら、やっぱりこれぐらい自由なスタンスでやることで、やっぱり『POP VIRUS』……要するに「次にまたあれ級のアルバムを出しますよ!」みたいな、そんなことをやってたら死んじゃうよって俺もやっぱり思ったし。だから「ワオ、健全!」っていう風にもすごく思ったし。

僕ね、あとすごい星野さんが前におっしゃっていた、これは本当にプライベートでの会話の中なんだけど。曲を作る時にね、これは『YELLOW DANCER』を作る前の段階の話。だから今と全然意識が違うのかもしれないけど。特にサビを作る時は譜割りを……特に『YELLOW DANCER』以降はそこが前面に出てきた部分としてR&Bとか、なんならヒップホップとか、いろんなそういう影響みたいなのをでも、ちゃんとJ-POP的なフォーマットに落とし込む。

その中で、落とし込むチューニングとして、サビは特に譜割りを、僕らだったら1拍に複数の音を乗せたり、三連にしてみたり、今風のフロウです!っていう感じでやりたいのをグッとこらえて、1拍1音で乗せるというところを自分に課しているみたいなことをその時に、まあプライベートな会話だけど。まあだいぶ前なんでいわせていただくと、おっしゃっていて。その時に「うわっ、なんという背負い方だ!」って。

(星野源)フハハハハハハハハッ!

サビの譜割りは「1拍1音」ルール

(宇多丸)つまり「この男、自分の趣味性とか自分のやりたいことというその音楽を前進させたいとの気持ちと同時に、J-POPをもその中で背負おうとしている!」というのがあって。そう思ったんだけど、今回のを聞いてだからまず1曲目でSuperorganismとさ、「英語かい!」っていう。

(星野源)そうですね(笑)。

(宇多丸)「英語かい!」だし「ラップかい!」だし「ラップの中でもPUNPEEかい!」だしさ。なんかいろいろとこう……そこの背負ってる感がだから、音楽像にそこが「ああ、いつものあれ、今回は少なくとも考えてないでやってるのかな?」っていう感じがしたんですよ。

(星野源)そうですね。だから、そのあれです。荷物を下ろしたんです。納品したんです(笑)。

(宇多丸)ちなみに小島秀夫監督、この番組にも来ていただいて。

(星野源)ああ、僕も聞きました。

(宇多丸)ご自身でね、『デス・ストランディング』。荷物を持って届けるゲームだけど、「ご自身はどうプレーしますか?」って聞いたら「うん、すぐ人に預ける!」って言っていて(笑)。「できるだけ身軽でいたい」とかね。

(星野源)それもいいですよね(笑)。

(宇多丸)ああ、じゃあ早速だけど話題に出てるから、『Same Thing』でも行きますか?

(星野源)ああ、はい。じゃあぜひ。ありがとうございます。

(宇多丸)では、星野さんから曲紹介をお願いします。

(星野源)10月にリリースされました。無事……本当は趣味で、ミックステープで人に渡すぐらいな勢いで作ろうかと思っていましたが。あまりにもちょっと面白かったので、無事リリースすることになりましたEP『Same Thing』の中から星野源で『Same Thing feat. Superorganism』です。

星野源『Same Thing feat. Superorganism』

(宇多丸)はい。ということで星野源『Same Thing feat. Superorganism』をお聞きいただきました。ねえ。なんかサビで国民的スーパースターらしからぬそんなワードが。「ファックユー」だなんて。

(星野源)楽しいですね!(笑)。

(宇多丸)「スカッと言ってやろう!」っていうね。

(星野源)スカッと楽しく。

(宇多丸)でもさ、音楽……特にそのヒップホップ以降というかさ、そういう一見ネガティブな言葉とかネガティブな内容を歌ってるものに見えるかもしれないけど、それがすごくさ、発散になったり、「行ったれ!」っていうか。なんか全然それが元気な感じになるみたいなのって全然イズムとしてあるじゃないですか。

(星野源)そうですね。今回、まあワールドツアーという感じでいろんな国に行ってきたんですけど、この『Same Thing』をやっぱり歌うとですね、みんな全員歌詞を覚えていて。もう全部歌ってくれるんですよ。で、このサビの「ファックユー!」もすっごい楽しそうにみんなで「うおーっ!」って。拳を上げてみんなで歌っていて。なんかこの感じがすごく健全だなと思いました。

(宇多丸)そういうのが発散の仕方に欧米圏の人はむしろ慣れてるっていうのもね、ヒップホップ以降は絶対あるかもしれないし。

(星野源)それは上海も……上海のライブ、公安の人が横にいるんですけど、「うおーっ!」ってみんなやっていて。それは台湾もそうだったし。それもなんか「いいな!」って思いましたね。

(宇多丸)だからそこを……これは「背負う」っていう意識じゃないにせよ、その星野くんみたいな本当にもう国民的スーパースター的な立場の人が、その歌詞のあり方とかさ。「こういうこと、もっと歌っていいんだよ」みたいなさ。「別にこれ、ネガティブなことじゃないんだよ」ってさ。「何でこんなひどいことを歌うんですか?」「いや、そうじゃない、そうじゃない。みんな、そういうことを言いたくなる時ってあるじゃん? そういう時に寄り添うのもポップミュージックじゃん?」っていうことをちゃんとやるのはすごく意味があることだと思います。

(星野源)うんうん。ああ、嬉しいです。

(宇多丸)しかもそれで『Same Thing』が来て。そこで僕はヒップホップ以降の感性だっていうところでちゃんとやっぱりPUNPEEくんを呼んで、ラップをやってさ。今までになくさ、行っちゃえば尖ってストレートな言葉を結構ぶち込んで来てるじゃないですか。それこそさっきのさ、J-POP的な落とし込みの中でグッとこらえ、グッとこらえ……っていうところだったら絶対にやっていないじゃん? 『YELLOW DANCER』『POP VIRUS』では絶対にやらなかったことを解き放っていおる。それはやっぱりそういう、さっき言ったミックステープモードというのもあるし。

(星野源)そうですね。あとはその、いわゆるメロディーが付いた歌っていうものの詞のあり方。ポエムのあり方と、ラップというものの詞のあり方が全然違うなっていうのは……。

(宇多丸)それってさ、意図的に変えようとして……「ラップだからこれでいいや」と思うのか、それとも書いてるうちに「ああ、ラップだとこれを言えちゃうな」なのか?

(星野源)そうなんです。自然とその「埼玉」って書いて「ああ、レペゼンしてる!」みたいな。全然その「埼玉のツァラトゥストラ」って書いて「ああ、いい語呂だな」って思っていたんだけども。「あっ、俺、レペゼンしてる!」みたいな。埼玉生まれ、埼玉育ちみたいなことを。なんかそれって、できるっていうよりかは書いていたら自然となんかそうなっていく感じっていうのが、歌だったらそれはなかなかできないんですよ。「埼玉」っていうのはなかなか入らなくて。

自然と埼玉をレペゼン

(宇多丸)それはさ、普段はおそらくだからその普遍を目指して、その「埼玉のツァラトゥストラ」的なことが言いたいとしても、それをもっと普遍的な表現に落とし込んでからやるっていう。少なくとも、今までの星野さんはそうだったと思うんだけど。まあ、それがラップだとありになるみたいな?

(星野源)そうですね。僕、詞知ってZIPファイルみたいな感じだと思っていて。その圧縮して、その聞いた人によって解凍されるみたいな。なんで、特に歌のそのZIPファイルの密度みたいなのが僕は今まで結構密度を高めて、ギュッと圧縮していて。イコールそれって、「普遍的な言葉にする」みたいなことだったりもするし、「全部言わない」みたいなことだったりもする。

(宇多丸)うんうん。もちろんそれは歌の強みだなとも思うしね。

(星野源)「隙間を作る」って言うんですかね? でもラップだと単純に字数が多いのと、あとそれをやってももちろんいいですし、そうじゃない圧縮の仕方っていうか。飛躍したり。

(宇多丸)はいはい。それこそ韻のためによくわかんないこと言うとか。それも面白かったりするもんね。

(星野源)そうなんですよ。言うことで何か世界がグワッと広がったりとか。

(宇多丸)「かく語りき 埼玉のツァラトゥストラ」っていうさ、この倒置法?

(星野源)フハハハハハハハハッ!

(宇多丸)ラップのための倒置法っていう(笑)。

(星野源)「それも行けちゃう! 書いてて楽しい!」みたいな(笑)。

(宇多丸)そう。だからね、いい意味で『ツァラトゥストラはかく語りき』なんだけども。「かく語りき 埼玉のツァラトゥストラ」っていうこの……これは褒めているんだよ? このラップならでは軽薄なこの倒置法(笑)。

(星野源)フフフ、「動かしちゃえ! 入れ替えちゃえ!」みたいな(笑)。

(宇多丸)そう。それをぶち込んでいる感じも「ああ、軽やか!」っていう感じがしたし。しかもね、今回のEPが面白いのは、というラップならではだったり、まあSuperorganismだったら英語だから……っていうのがだんだん、そのトム・ミッシュさんとの曲が入ってからの。だんだんとそれが、とはいえ星野源の個の表現。だからひょっとしたら、出口はやっぱり今までの星野くんみたいな……だから『私』っていうさ。で、その『私』っていう静かな曲で、今までの星野さんの曲調としてはあるかもしれないけども。でも、言葉のトゲとかエッジの部分みたいなのはこのEPのその手前の3曲を経た後の尖りというか。だからこの3曲の後の星野くんは前の星野くんとちょっと、やっぱり「あり・なし」の基準が変わった?

(星野源)そうですね。

(宇多丸)この4曲で「変身!」みたいな。

(星野源)フフフ、「変身完了!」みたいな(笑)。

(宇多丸)変身完了、新しい私へ……みたいな。なんかその手順になってる気がする。だから最後にあれを持ってきたのって明らかにそういうことかなと思ったんだけど。

(星野源)うんうん。ええと、自然な感じではあったんですけど。この曲を作った順なんですよ、並んでるのが。で、『私』っていう弾き語りの曲を僕が1人でギターを弾いて歌っている曲があるんですけど。それは一番最後に作って。で、なんか並べて自然に聞けるなと思って、どんどん自分の個が強くなっていくっていう感じですね。曲を経ていくにしたがって。

(宇多丸)なんかね、さっきは最初、「他者にあえて飲まれてみる。自分が出てなくてもいい」って言ってたのが。

セラピー完了していく感じ

(星野源)何かそのセラピー完了していく感じっていうんですかね? だんだんなんかこう、人と会ってそのコミュニケーションしてっていうの中で、勉強したり自分を癒したり、いろんな世界を知ったりしていく中で、その必要性っていうんですかね? だんだん少なくなっていったという感じに自分では感じていて。特に意識をしたわけではないんですけども。だんだんと自然とそうなっていって。

で、じゃあもう最後は弾き語りでいいかっていうか、これが一番なんか気持ちいいなっていう。で、歌詞もでも、いわゆるそのさっきの背負ってる感じっていうか。「これをこうしなきゃ、譜割りをこうしなきゃ……」とかじゃなくて、何も考えないで作ったんですよ。『私』っていう曲は。で、歌詞に関しても本当に何も考えてなくて。つじつまが全然合っていないって今でも自分でも思っているんですけども。ただ出てくる言葉を、ビジョンを全部文字にしたみたいな。

(宇多丸)なかなかでも出だしから「あの人を殺すより♪」っていうところから来てさ、それよりもでも、さっき言っていたネガティブな感情をポジティブにっていうところをさ、結構なんていうか、なかなかドキっとするワードとか表現でぶち込んできているし。まあたしかに飛躍もあったりして。次の行では「何を言ってるの、あんた?」みたいな。「棒アイスが……」とか言い出して。

(星野源)ああ、「悲しみと棒アイスを食う」っていう。あれはすごい自分にとって自然な言葉なんですよ。なんか深夜のコンビニとかで棒アイスを……でも、「なんか腹が立つな」とか「あいつを殺したいな」とか……まあ、なんかそういうイライラしながらっていうのは誰にだってあるわけじゃないですか。「でも、もちろんそんなことはしないよ」っていう中で、なんかアイスを食べながらぼんやりするみたいな。そういう時間っていうのが頭の中にボワッと出てきて。それをボワッと書いたという。

(宇多丸)だからね、これ結果的になのか知らないけど、このEPの起承転結がよくできすぎている!

(星野源)ありがとうございます。

(宇多丸)最初にだからそのSuperorganismでね、やっぱりそのネガティブな「ファックユー」っていうのもすごいポジティブに昇華して。音楽としてもすごい楽しいし。ワーッと普通にストレートに盛り上がる曲で、こういうことはストレートに言っていいんだよっていうのを星野源さんのすごくだってさ……俺がよく考える「『私はマドンナよ』っていう自意識を持っている人がこの世には1人いるわけだよな」とかさ。そういう感じね。マドンナさんは「私はマドンナよ」って思って生きているわけだから、そういう人が1人はいるということで。まあ、かつては「自分はマイケル・ジャクソンだ」と思って生きている人が本当に生きた人間としていたわけで。という、星野源というね。

(星野源)えっ、その並びで?(笑)。

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