町山智浩さんが2025年8月12日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で戦後80年を迎える今年、見るべき第2次世界大戦を描いた日本映画を5本、紹介。『人間の條件』について話していました。
※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。
(町山智浩)今週、8月15日。終戦記念日がありますんで。敗戦後80年。そうなるともう全然、身近に戦争の話をしてくれる人がいない状態になってきていますけれども。やっぱりね、そのために映画があるんですよ。映画で見れるんで。特に戦争が終わってしばらくの間は戦争を実際に体験した人たちが作って、それを体験した人たちが見るという状態だったわけですね。だから当時の映画は一切、嘘が言えないんです。
全員が事実を知ってるわけですから。その頃の映画を見てみようということで今日は実際に第2次世界大戦を日本人でいろんな形で体験した人たちが作った映画をお勧めします。それで今も見れるもの。すぐに配信とかで見れるものがいくつもありますんで。戦争のことを知るって、はっきり言ってめんどくさいじゃないですか。
重そうじゃないですか。それで勉強みたいになっちゃうじゃないですか。でも、映画ってその部分がすごく楽なんですよ。黙って座って見ていればいいんだから。そのために映画があるんでぜひ見ていただきたいということで、5本紹介できたらと思います。
(中略)
(町山智浩)次はですね、『人間の條件』っていう、これがとんでもない映画で。これ、6部作・9時間! 大ボリュームです。これ、今も日本各地で一挙上映、やってます。ただね、U-NEXTとか配信でつまみ食いしながらも見れますので、ぜひ見ていただきたいんです。これね、なんで見なきゃなんないかっていうと中国で日本人が何をしたか?っていうのを基本的に全部、見せます。満州で。
これ、最初の方で戦争に行きたくなかった主人公の仲代達矢さんがですね、要するに中国の労働者たちをこき使う現場に行くんですね。そこへ行けば戦争に行かないでいいかと思って。ところが、そこで行われていることは人間を殺すための訓練として中国人を縛りつけて刺し殺したりして。練習をしてたりするんですよ。そういうことをやらされている。でも結局、軍隊に入ると今度は軍隊の中で日本人同士でもっていじめがあって。そのいじめで田中邦衛さんが殺されます。
日本人同士でいじめ殺すんだから、中国人にだって絶対にやっていますよ。そういう状況だったんですよ。しかも、その日本人をいじめ殺すっていうのも面白半分で殺すしね。で、今度はソ連軍が来ると、ソ連軍がめちゃくちゃすごい戦車で蹂躙してきて、一気に負けるんだけど。負けると今度、日本軍は満州に開拓民として来ていた日本人たち、民間人たちをほったらかしにして逃げちゃいます。
で、ソ連軍が突っ込んでくるんですけど満州の民間人たちはそこから逃げなきゃならないんですよ。これ、地獄の撤退戦です。で、今度ソ連軍が来てどうしようもないってなってその時にどうするかというと、女の人たちを差し出します。これは今、ちょうど公開されているドキュメンタリー映画で『黒川の女たち』という映画があるんですけれども。これがその満州で開拓民の人たちがソ連軍に守ってもらおうとして女性たちを差し出したという実際の事件を追ったドキュメンタリーですね。それを最近になって女性たちがこれ、告発したんですけど。
『黒川の女たち』
(町山智浩)で、これがひどいのは男たちは女性たちをソ連軍に差し出したんですけど、その後にその女性たちを売春婦扱いしたんです。これ、日本映画ってその頃の中国を描いた映画だと、朝鮮人の慰安婦の人たちが当時の映画にはいっぱい出てくるんですよ。今、「慰安婦なんていなかった」とか言ってますけど、当時の1950年代、60年代の映画にはいっぱい出てくるんで。だってそれはその頃の中国とかを知ってる人たちが見る映画ですからね。で、この『人間の條件』も実際にその中国に参戦していた人が監督してます。
で、今になって朝鮮の慰安婦の人たちを「彼女たちは売春婦だったじゃないか」とか言ってる人がいますけど……だって日本人がそういう風にしてやった人たちだって、日本は差別してたんですよ。だから、同じなんですよ。別に日本人だとか朝鮮人だとかは関係なく差別してたんですよ。そういう女性たちを。そういうこともこの映画、描かれていて。『人間の條件』って、すごいですよ。
それで今度、ソ連軍に捕まってソ連の強制収容所に主人公たちが送られるんですけど。すると、そこではその中で日本人同士のまたひどいじめがあるんですよ。でも、その中で『人間の條件』とは何か?っていうことを考えていくんですね。これ、原作者の五味川純平さんの全部、実体験なんですよ。すごいですよ。
でも、ちょっとスカッとする一瞬もありますので。それは9時間20分ぐらいでスカッとする時があります。一番最後の最後で一瞬、スカッとします。でもね、これね、一挙上映でオールナイトで見た時はね、その9時間目で……それまでの9時間、ずっと地獄ですよ。でも9時間10分とか20分ぐらいでスカッとする一瞬があって。そこでみんな、「うおーっ!」って観客が歓声を上げるっていう、そういうすごい映画が『人間の條件』ですね。ぜひご体験ください。
