星野源『POP VIRUS』解体新書・延長戦 『恋』に効いた曲を語る

星野源『POP VIRUS』解体新書・延長戦 『恋』に効いた曲を語る 星野源のオールナイトニッポン

星野源さんがニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で宇多丸さんと話した『POP VIRUS』解体新書の積み残し曲についてトーク。『恋』の制作に効いた曲を2曲、紹介していました。

(星野源)さあ、そして先ほど、TBSラジオさんの方でアトロク、『アフター6ジャンクション』という……ここから、解説に行きますからね。メールが来ています。千葉県の方。「『アフター6ジャンクション』、拝聴しました。『POP VIRUS』解体新書の名に相応しい、宇多丸さんにしかできないであろう独特かつ鋭いメスの入れ方で発売から半年たってなお、『POP VIRUS』の新たな一面を発見できて、作品をいままで以上に立体的に感じられるようになりました。

なにより、お二人が一緒にいる時の『あのアーティストの新譜、最高だったよな!』みたいな、学校の部室で先輩と後輩がわちゃわちゃと音楽トークをしているかのような楽しい空気感が大好きです。個人的にいちばんの収穫だったのは美空ひばりさんの『江戸の闇太郎』を例に出して語ってくださった、残響音を残さないドライな音作りという原産のこだわりを知ることができたこと。

『POP VIRUS』を聞くたびに『なぜこんなに目の前で演奏をしているかのような近しさを感じるサウンドなのだろう?』と常々不思議に感じていたのですが、その理由のひとつが解明された気がしてゾクッとしてしまいました。発売から半年を経過してもいまだに語り尽くせない『POP VIRUS』という宇宙のような作品。宇多丸さんが再び番組で取り上げたくなる気持ち、すごくわかる気がします」という。ありがとうございます!

星野源と宇多丸『POP VIRUS』解体新書書き起こし
星野源さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』にゲスト出演。宇多丸さんとアルバム『POP VIRUS』の制作の「効いた」楽曲について語り合っていました。 星野源が「アフター6ジャンクション」にゲスト出演しました!アナログ盤『POP V...

そうですね。本当にたくさんいろいろと語らせていただいて。なんで、最近になって自分で「あっ!」って気づいたことが結構いろいろとあって。それでいっぱいその、「実はこういうことがあったんですよ」みたいな話を語っているので。ぜひ、Radikoのタイムフリーで1週間、聞けますから。5月28日の『アフター6ジャンクション』の8時台のところをぜひ聞いていただければと思います。よろしくお願いします。

(中略)

(星野源)さあ、先ほどTBSラジオさんの方の『アフター6ジャンクション』で特集を組んでいただきました星野源の『POP VIRUS』。いちばん新しいアルバム『POP VIRUS』の解体新書。それの、話が盛り上がりすぎて1曲分できなかったので、その1曲をやろうじゃないかというコーナー。星野源の『POP VIRUS』解体新書延長戦をお送りいたします。

それで、この最後の1曲は実は僕の『恋』という曲だったんです。『逃げるは恥だが役に立つ』というドラマ、僕も出演させていただきましたが、そのドラマの主題歌でですね、『恋』という曲を作りまして、リリースしまして。本当にいろんな人に聞いていただきました。今回その解体新書の趣旨ってういのが、参考にして……たとえば上辺だけ真似をするみたいな。「この曲、好きだ! この曲っぽい曲を作りたい!」みたいな感じで作るのがすごい好きじゃなくて。

なんというかその曲の中にある魂みたいな。「これ、ここがいいんだよ!」みたいな、そういうものに魂、琴線が触れまして。心が震えて。でも、それに影響を受けたいという気持ち。それを上辺だけ真似しないで、自分の中のフィルターを通して自分の血肉と化すにはどうしたらいいか?ってうのをすごい考えた時期があって。「それがこれだ!」という結論にたどり着いたのが「好きなだけ聞く」という。「好きなタイミングで好きに聞く」という。ただむやみに聞くんじゃなくて、好きな曲は絶対に好きで自分の血肉になるはずなので。

だからいつ、自分の血肉になって曲に現れてくるか分からないんで、それが数ヶ月後か1週間後か、はたまた数年後っていうパターンもあるわけで。だからそういう……『POP VIRUS』を作ってる時に効いてきた、効能の方の「効く」。効いてきた曲っていうのを紹介しながら楽曲を解説していきました。で、この『恋』という曲なんですけども。まず1曲目は細野晴臣&ティン・パン・アレーで『ファイアークラッカー』。ちょっとかけてみてください。これ、ライブなんですけども。

細野晴臣&ティン・パン・アレー『ファイアークラッカー』

僕がすごく大好きなチャイナタウンの中華街ライブ。細野さんが40年ぐらい前にやった中華街ライブというのが僕、すごい好きで。それの音源が『ハリー細野 クラウン・イヤーズ1974-1977』っていうボックスの中にライブ版がおまけで入っているんですよ。

ハリー細野 クラウン・イヤーズ1974-1977
細野晴臣 ティン・パン・アレー 馬場こずえ
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で、そのライブ版の音源なんですけども。僕が高校生の時ってその音源って全く世に出回ってなかったんですよ。映像も出回っていない……いまはもう映像もあるんですけども。僕が高校生の時には写真が数枚しかなかったんですよ。で、その中のひとつの写真が細野さんが白スーツでちょびヒゲ……なんて言えばいいんだろう? 口の上に2本のヒゲがビュッてあってメガネをかけていて七三分けでマリンバを叩いてるっていう写真だったんですよ。それを「かっけー! 俺も白スーツでマリンバを叩きたい!」という気持ちでですね、それでマリンバを買ったわけです。20代前半でしたかね。バイトしたお金を貯めて買いました。

それでSAKEROCKという自分のバンドの中でマリンバをいっぱい叩いて、それで曲を作ってですね、それで白スーツを着ながら叩くという、そういう風にやってたわけですけど。それでゆくゆく、その音源が解禁されたりして。「うわっ、こんな感じだったんだ。やべえ!」みたいな。で、そんな中でこの曲をたくさん聞いてきたわけです。で、この『ファイアークラッカー』っていうのはマーティン・デニーというたしかアメリカ出身だったと思います。アメリカ人のミュージシャン、ピアニストなんですけど。

エキゾチカというジャンルを世界的に広めた張本人で。そのマーティン・デニーという人の『Firecracker』っていう曲のカバーなんですけど。その『ファイアークラッカー』という曲を「エレクトリック・チャンキーディスコ」だったと思うんですけども。それにするというコンセプトでコンセプトでイエローマジックオーケストラは組まれたんですよね。細野さんは。なので、YMOのファーストアルバムにはこの曲が入ってるんですけど、もう全然リズムも違うし、スピードも違うし、演奏方法も全然違うんです。

でも、細野さんのその前のソロアルバム『はらいそ』……厳密にはインドのアルバム(『コチンの月』)があるんですけども。『はらいそ』っていうアルバムとYMOのファーストの間。で、厳密に言うと『はらいそ』のちょっと前なんですけど(笑)。ごめんね、こんな話をしてあれなんですけども。『泰安洋行』と『はらいそ』の間ぐらいにこのライブがたしかあったと思うんですけど。そこを先に実は『ファイアークラッカー』をやっているんですよね。

で、このアレンジが僕は大好きで。もう死ぬほど聞いてきたんですよね。それこそSAKEROCKにも影響はあると思うんですけど。で、いわゆるオリエンタルなアジアンな音階。でも、その中のビートの中でドラムの速さ……何だろう。こう、ノリの楽しさみたいなもの。で、僕はこの曲はすごく腰が動くんですね。で、『恋』という曲を作った時に、最初は『恋』って遅い曲だったんですよ。結構ゆったりした曲だったんですよ。で、ソウルミュージック、ちょっとディスコティックな曲だったんですね。なんで、僕の『SUN』という曲にかなり近いテンポの曲だったんです。

「でもこれ『SUN』と近いし、なんかつまんないな。これなんか違うんだよな」ってずっと思っていて。で、もう1個の曲に行くんですけど。マイケル・ジャクソンの『Rock With You』っていう曲です。

Michael Jackson『Rock With You』

これはこの番組の選曲……ネットBGMというね、CM部分に入ってCMがない、曲だけ流れる部分の曲の選曲にこの曲を選んでますけども。もう本当に大好きで。ドラムの入りから最高っていうね。あと、聞きすぎてドラムの入りのスネアの回線にある卓のノイズ……おそらく埃のノイズであろうノイズに気づいてしまったという。なぜこのノイズを取り除かなったのか……まあ、録り直さないほどいいテイクなんですけども(笑)。それに気づいてしまうぐらい聞いてるんですけども。

で、すごい大好きな曲で。これはまあ、あえてこの曲っていう感じなんで。この曲だけではないんですけども。いわゆるモータウンとか、こういうテンポのソウルミュージック、R&Bという大好きな曲たちがいろいろとあるわけです。モータウンでもあったし、マイケルのソロでもあったし、プリンスでもあったし。そういう曲たち。ミドルなテンポで体が動く。ミドルなテンポなのにダンスミュージックっていう。それでミドルなのにすごく楽しい気持ちになったり、嬉しい気持ちになったりするという、そういう音楽。

で、その方向だったんですね。『恋』っていうのは、最初は。でも「なんか違うな。これ、なんか違うんだよな。前と一緒だよな」って思って。前も話したことあるかもしれないですけど、ふと「あっ!」って思って。「回転数を上げてみよう」と。レコードって回転数を上げると早くなるじゃないですか。それで音程も上がっちゃうんですけど。33回転のレコードを45回転にするとすごくテンポがよくなんですけど。こういう『Rock With You』とかそういうソウルのミディアムテンポの曲を早くすると、ダンス感は維持したまま、ものすごい楽しい曲になる。でも、なんかちょっと変っていう。

なんかなもちろんね、「○×※△♪」みたいな感じになるんで。その感じは普通にはもちろん聞けないんですけども。でも間違えてかけちゃう時っていうのがあるんです。45回転のレコードを聞いた後に33回転のレコードをかけた時に間違えてそのままの回転数にしちゃった時に「ああ、間違えた」っていう。あの感じが面白いっていうのを、その頭の中でゆったりした『恋』を上げていった時に「ああ、面白い。これこれ! この感じ!」ってなって。「これは絶対に面白い。この感じで行こう!」ってなったんです。

そして、改めてレコーディングをしてる間に「ああ、これ細野さんの『ファイアークラッカー』の感じに近いわ!」っていう。なんかその、時間差で自分がこのイメージ……早いところになって「ああ、これだ!」って思った源泉の「これがいいよね。すごい好きなんだよ」っていうところの自分の中での同じイメージは細野晴臣&ティン・パン・アレーの『ファイアークラッカー』。あのテンポ感だったんですよね。

なので、奇しくも細野さんとマイケル・プリンスという僕のもうルーツ中のルーツっていうものが『恋』という曲の源泉といいますか、そうなっているというお話をしようと思っていたけどできなかったので、この番組でさせていただきました。それではそんな曲、私の星野源の『恋』という曲を聞いてください。どうぞ!

星野源『恋』

<書き起こしおわり>

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