宇多丸、ポン・ジュノ、ソン・ガンホ『殺人の追憶』を語る

宇多丸、ポン・ジュノ、ソン・ガンホ『殺人の追憶』を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2020年1月8日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でポン・ジュノ監督とソン・ガンホさんにインタビュー。映画『殺人の追憶』の元になったファソン連続殺人事件の真犯人が2019年に特定された件について話していました。

(宇多丸)ということで、まずちょっとこの一発目の素材を聞いていただきたいと思います。今回はせっかくポン・ジュノ監督とソン・ガンホさんのお二人がそろったインタビューでしたので。『パラサイト』の話に行く前に、先ほども言いましたが2003年の『殺人の追憶』という、本当にもう世界的名作と言っていいいと思います。これは元々ですね、ファソン連続殺人事件という80年代後半にソウル近郊の農村で発生して10人の犠牲者を出し、長年未解決事件となっていった件が元になっているんですね。『殺人の追憶』はそれを描いた戯曲のが原作になってるということらしいんですね。ところがそれが昨年、2019年の9月に刑務所に収監されていた男がいろいろとその捜査の科学の進歩もあって、真犯人として特定されたという。

(日比麻音子)何十年の時を経て。

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(宇多丸)そう。だからその全世界の映画ファンがとにかく「『殺人の追憶』の犯人が特定されたってよ!」」っていうことで「ええーっ!」ってもうひっくり返ったニュースだったわけです。で、こちらに関して『パラサイト』の取材ではあるんですが、ちょっとどうしてもこれを聞いていいですか?っていうことで。なんか取材によってはその件を聞いてはダメって言われていたりもするらしいんですが、私はちょっとバカのふりをして聞いてみてしまいましたっていう。本当に他の方、すいません。でも非常に貴重な発言も聞けていると思いますので。ぜひこの「『殺人の追憶』の元になった事件の真犯人が特定された件についてどう思ったのか?」というあたり。5分ほどの素材をまずはお聞きください。

<インタビュー音源スタート>

(宇多丸)本題の『パラサイト』の話に行く前に、せっかくお二人が揃っているのでぜひ伺いたいのは、この9月に『殺人の追憶』の元になったその連続殺人事件の真犯人と思われる容疑者がついに特定されたっていう驚きのニュースが入ってきて。日本でもそれを聞いてびっくりしたんですけど。その件について、お二人のご意見というかお気持ちをぜひお聞きしたいと思います。

(ポン・ジュノ)大変驚き、複雑です。こんな日が来るとは。永遠に未解決事件のままと思っていました。映画を撮っている時に考えていたことはこの人物、この犯人は劇場でこの映画、『殺人の追憶』を自分の過去にしでかしたことを考えながら見るのではないかということです。ソン・ガンホさん演じる主人公の刑事は映画の中では失敗します。

エンディングシーンでソン・ガンホさんがカメラを正面から見つめていますが、それは客席に座っている犯人と主人公の刑事の目が合うようにしたかったのです。「この事件はまだ終わっていない」という印象を持たせたかったのです。ところがこんな風に本当に犯人が捕まる日が来るとは思っていませんでした。

(宇多丸)ソン・ガンホさん、まさにカメラの方向を見た役柄を演じた立場としていかがですか?

(ソン・ガンホ)犯人が特定された後、韓国でいろんな記者から電話が来たんです。監督も私もその時、ちょっと忙しかったので出られなかったんです。記者のインタビューには刑事役の俳優キム・サンギョンが答え、私たちの心情を代弁してくれたのを覚えています。犯人が捕まった時は複雑で悲しくなりました。あの事件をまた思い出して残念な気持ちになったんです。とにかく真犯人が捕まり、真相が明らかになって良かったと思いました。

(ポン・ジュノ)不幸中の幸いとも言えますが、犯人は他の事件で20数年間、刑務所の中にいました。DNAがマッチして、連続殺人が全てこの犯人によるものだったということが分かったわけです。同じ刑務所にいた人の証言によると、その犯人は刑務所のテレビで『殺人の追憶』を3回見たそうです。私はとても気になり、この犯人に会ってみたい。面会しに行こうかどうかとは考えてはいますが、今はまだそんな風に出しゃばるような時期じゃないとも思うので、まずは静かに見守っているところです。

印象的なエンディングシーン

(宇多丸)個人的にはポン・ジュノさんの作品は常にエンディングがとても印象的で。エンディングの余韻が何か特定の言葉に表わしづらい感情で終わること。いつもそれがすごく素敵だと思うんですけど。あの『殺人の追憶』の素晴らしいエンディングも今回のその事件の顛末を受けて、またニュアンスが変わって受け取れるようになったっていうのがまたひとつ、映画の本来持ってるポテンシャルみたいなものを感じて。改めてこの作品の価値みたいなのをすごく感じたんですね。

(ポン・ジュノ)映画の撮影や公開当時、この事件はもう永久に迷宮入りになるだろうと考えていました。エンディングでは漠然とした、はっきりしない思いというのを描きました。「なぜ私たちは失敗してしまったのか?」という悔恨の念。複雑な感情が入り交ざったエンディングなのですが、この映画を今後見る人たちはすでに犯人が捕まっていることを知っているわけですよね。さらにこの犯人の顔がニュースでで公開されているので、観客は犯人の顔を知っている状態でこの映画を見ることになるわけです。私たちが犯人の顔を知らなかった時代の記録のような感じでこの映画が受け止められるでしょう。それはまたそれで、意味のあることではないでしょうか?

(宇多丸)ありがとうございます。

<インタビュー音源おわり>

(宇多丸)はい。ということでちょっとね、『パラサイト 半地下の家族』の前に『殺人の追憶』という作品の元になった事件の真犯人特定という件に関してお話を伺ったんですけども。なかなかね、ちょっとそのメディア上でここまでまとまった形でのご発言はされる機会がなかったと思うので。

(日比麻音子)本当に資料というか、今後も残る言葉たちがたくさんあって。身震いするような表現もいっぱいありましたね。

(宇多丸)そしてやっぱりその映画がね、その時代にね……作っていた時と、そして公開された後と、そして今回みたいにその後、大きな進展があった時とでやっぱりその意味合いが変わってくる。後の時代の人が見るとまた全然ニュアンスが変わって受け取ってくるという感じですね。特にやっぱり『殺人の追憶』っていう、たぶんこれからずっと映画史的に見続けられる作品だと思うので。そういう意味でもその、「興味深い」と言ってはあれかもしれませんけども。

(日比麻音子)映画の底力というか。

作品自体のポテンシャル

(宇多丸)映画のポテンシャルというかね、その感じ。僕はやっぱり最後、すごく苦々しいラストだったものが、むしろ希望にも見えるっていうか。その「諦めてない」っていうことがちゃんと解決につながったわけだから。「俺は忘れていない」っていうあのソン・ガンホさんの目線がその未来にちゃんとつながった。そして映画を作って、この事件を忘れなかったっていうことも今回の件につながったんだっていうことで。

僕はむしろ、そのポジティブなニュアンスさえ帯びたというか……まあ、こっちが勝手に感じることなんですけどね。みたいなことなんかも感じたりしましたけどね。そんな感じで、もしご覧になったことのない方がいたら『殺人の追憶』はポン・ジュノ作品の入門としても最良だと私は思ってますので。ぜひこの機会に見てみてください。

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ということで、お知らせの後はポン・ジュノ監督、そして主演のソン・ガンホさんの『パラサイト 半地下の家族』本編についてのダブルインタビューをお届けします!

宇多丸、ポン・ジュノ、ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』を語る
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<書き起こしおわり>

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