宇多丸さんが2021年12月24日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の映画評コーナーで2021年に扱った49本の映画の中からベスト10本を選び、そのランキングを発表していました。
(山本匠晃)今夜の『アフター6ジャンクション』は特別企画シネマランキング2021をお送りしております。
(宇多丸)先ほどのね、くどいほどの部門賞でお分かりいただけましたでしょうか? つまり「映画に順位などつけるべきではない!」という私の熱いメッセージ。ねえ(笑)。
(山本匠晃)さあ、ここからはいよいよ大トリです。宇多丸さんのシネマランキング・ベストテンを発表してもらうわけですけれども。準備はよろしいでしょうか?
(宇多丸)はい。「映画に順位などつけるべきではない」という前提はございますが。私の気分というか、まあ結構今年はですね、個人的なチョイスだなって思ってたんですけど。そのリスナーチョイスとかぶるところがあるのかどうかというあたり、ちょっと注目していただきたいと思います。ということで、まずは第10位から第4位までを一気に発表いたします。
(山本匠晃)お願いします。
(宇多丸)ライムスター宇多丸のシネマランキング。
今年2021年、第10位は……『街の上で』!
第9位、『RUN/ラン』。
第8位、『空白』。
第7位、『Swallow/スワロウ』。
第6位、『MONOS 猿と呼ばれし者たち』。
第5位、『最後の決闘裁判』。
そして第4位は、『あのこは貴族』。
以上、10位から4位までを発表させていただきました!
すいませんね、本当にね。結構、リスナーランキングと重なるところもあるし、そうでもないところもある。
第10位『街の上で』
(宇多丸)『街の上で』はね、リスナーにも大人気でございました。リスナーランキングは5位ですね。『街の上で』、大好きっていうのはまあ先ほど、語りました。
第9位『RUN/ラン』
(宇多丸)そして第9位、『RUN/ラン』なんですよね。『RUN/ラン』はさ、なんていうのは? まあ「ヒッチコック規定演技で100点満点中200点」みたいなことを言いましたけど。なんていうのかな? 娯楽映画として……もう最高じゃん? もうこんな映画ばっかりだったら最高なんだけどな、みたいな感じで。アニーシュ・チャガンティ監督。『search サーチ』っていう、デスクトップ上だけで展開するっていうか。あれで注目されましたけど。あれがちょっと変化球だったから、どういう実力なのかわからなかったから。これはもう実力は本物ですよね。本当にね。
そして、なんと言ってもあの主人公・クロエさんを演じるキーラ・アレンさん。本当に素晴らしかったですね! キーラ・アレンさん、クロエが部屋から部屋に移動するあのアクションというか、サスペンスというか。あれもすごかったし。そしてある、どんどん真相していく……たとえばね、薬の色が何色かをたしかめて、本当は何色だって知った時にパッと映るあの色のショック演出。あれもすごかったしね。
そしていろいろ知った挙句に「あれ? 私……」って。喜びと、でも悔しみと悲しみと、心強さと、みたいな。あれが全部入り混じったあれとかも本当にすごかった。そして最後のひねりもまあ、好みとしては評価は分かれたところですけど。あの最後のひとひねりも「ありがとう! サービス満点!」って感じで。まあ、その画づくり、演技、そしてそのアイデア。全て取っても、これだけ定番的な雰囲気がする作品なのにちゃんとフレッシュなアイデアが全場面に込められていた。素晴らしい作品だと思います。『RUN/ラン』、大好き! 9位!
第8位『空白』
(宇多丸)8位、『空白』ですよ。吉田恵輔さん、僕はね、ずっとファンだということもありますけど。特にもうここに来て……まあ当然、好き嫌いも分かれるところだとは思いますが。なんて言うんですかね? まあ、『茜色に焼かれる』とかね、こういう本当に取り返しがつかないことが起こっちゃったりとか、折り合いが付かないとか。要するにこの世の闇に飲み込まれてしまいそうになるというか。そういうのをやっぱり日本的に扱ったもので良作はいっぱいありますけど。中でもやっぱり『空白』の、何て言うかな? 突き詰めた結果の突き詰めなさ加減。
突き詰め切れられない感じっていうか。そこまで含めて、ちゃんとやってるのかな? その感じが本当、とにかく全ての役者さん、名バイプレーヤーたち。全員素晴らしかったですし。僕がよく言う「後悔とは過去に向けて開かれた希望だ」っていうかね。後悔をしたりするっていうことだけが人間のこの社会のひょっとしたらギリギリの、希望とは言わないけど、救いとも言わないけど。なんかこう、人間の輝きみたいなものはひょっとしたら後悔の中にしかないのかな、とかね。というようなエンディングであり、作品でもありました。
(山本匠晃)みんなが懸命に……なんだよな。
(宇多丸)はい。もう吉田恵輔さん、さらにすごい作品作ってしまいました。『空白』を挙げさせていただきます。
第7位『Swallow/スワロウ』
(宇多丸)そして『Swallow/スワロウ』。まあ、これは山本さんもお好きだったという。これ、今年の結構頭の方で扱ったんですけど。カーロ・ミラベラ=デイビスさん、すごい才能だと思います。演出のすごく緊密さみたいなことに関しては評の中でも言いましたけど。なんと言ってもこの作品、僕は決定的に……まあその「異物を飲み込む」というね、そこのところのセンセーショナリズムというよりはやっぱり、あのクライマックスの……。
(山本匠晃)ああ、もう、わかる! 宇多丸さん……。
(宇多丸)まあ、ある意味すごくなんというか、世の闇というかな? それの結晶みたいな場面だけど、でも同時にさっき言ったその後悔こそが人のギリの輝きみたいなことともちょっと通じるっていうか。人生の深淵っていうか。本当に。
(山本匠晃)もうね、終盤。最後。
(宇多丸)すごい場面でしょう? あれ。ちょっと、いいとか悪いとか、単純に言えないんだけど。すごい場面。『Swallow/スワロウ』、選ばせていただきました。
第6位『MONOS 猿と呼ばれし者たち』
(宇多丸)そして6位、『MONOS 猿と呼ばれし者たち』。これね、アレハンドロ・ランデスさん。これはさっきのカーロ・ミラベラ=デイビスさんと並んで、たぶんこれからこのまま映画を作れば……建築家としてもね、すごい人なんでね。すごい映画をこれからも撮っていくんじゃないかという。『MONOS』がやっぱりすごいのは、アート映画として、そして社会派映画としてすごくレベルが高いのに、同時にエンタメ性も高いっていうか。ちゃんとサスペンスフルだし、なんならアクションもすごい。見たことない。あと、僕はやっぱりなんと言ってもあの逃げる人質の女性のあの人心地ついていたら……のあのショット。すごいワンショットですね。
(山本匠晃)忘れられない、あれは。
(宇多丸)あれ、忘れられないよね? もう忘れられない景色、忘れられない顔、忘れられない場面。そういうのが溢れている。これはとにかくね、小難しい映画じゃないです。すごい、でも多義的にも取れる『MONOS 猿と呼ばれし者たち』。すごい作品だと思います。
第5位『最後の決闘裁判』
(宇多丸)そして第5位。『最後の決闘裁判』です。これもね、もう評ですごく言い尽くしたんでね。とにかくリドリー・スコットが皆さんの先ほどのメールにもありました。ここに来て、またすごい作品を撮ったというすごさ。これはまあ、評を読んでください。
第4位『あのこは貴族』
(宇多丸)第4位、『あのこは貴族』です。岨手由貴子さん。長編2本目。まず岨手由貴子さん、素晴らしい監督がまた出てきましたね。まあ、いわゆるシスターフッド物と言っていいと思うけども。立場も違う、育ちも違う……まあ2人であったり、もっと言えるかもしれない。石橋静さん演じるあの友人であったりとか、山下リオさん演じるあの友人であるとかも含めて。あと、道の向こう側にいるあの子たちも含めた、もっとシスターフッド物かもしれないけど。それと、やっぱりその山内マリコさんの原作も素晴らしいんだけど、高良健吾さんが演じる、悪役っちゃ悪役なんだけど。彼側の、やっぱりその彼も人生を選べない立場であるという意味では通じてるんだっていうあの中華料理屋の一連の場面。「僕は雨男なんだ」って言ってね。
(山本匠晃)そこにね、いろんなことが詰まっているんだよ……。
(宇多丸)詰まっているよね。
(山本匠晃)本当にあの空間、空気、シチュエーション……。
(宇多丸)なんかすごくフェアな視点だなというか。優しいという言い方もできるし、フェアだなとすごく思ったし。すごくなんかレベルが世界に勝負できる日本映画だという風に思います。『あのこは貴族』、最高です!
(宇多丸)さあ、ということで残り3位を発表して終わりにしたいと思います。週刊映画時評ムービーウォッチメン、今年49本を扱った中でベストスリーが何なのか? 発表いたします。
まず第3位は、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』。
ということは……第2位は、これはね、もうしょうがないの。しょうがないの。『花束みたいな恋をした』。
そして第1位は、こちら! 『プロミシング・ヤング・ウーマン』。
はい、ということです!(拍手)。
第3位『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
(宇多丸)まあ、『スーサイド・スクワッド』がどれだけ最高かっていうのはリスナーランキングの時にもお話ししました。最高の作品でございます。ジェームズ・ガン、やっぱり素晴らしいですね。もちろん、自分のそれまでのキャリア、一旦ちょっとねキャリア的にストップがかかっちゃいましたけど。ストップがかかったこともある種、メタ的に読み込んでいるという点からも、したたかだし、真っ当だし。それでこんな魅力的な作品を……これがね、興行的にいまいちだったっていうのはね、お前ら、なんもわかってねえな! 見てないやつらは全員、マジで……本当に最高なんだから、見に行ってよ!
(山本匠晃)そう。これはもう、成功してほしいよ。
(宇多丸)いや、『ヴェノム』もいいけどさ、どう考えてもさ、どう考えたってさっ!
第2位『花束みたいな恋をした』
(宇多丸)そして、第2位。『花束みたいな恋をした』。もう散々、この番組でも語ってきました。あのね、実は僕、ちょっとかっこつけて。もうちょっと下に置いてたのよ。ベストテンには入れたけど。「まあね、『花束』もね……」みたいなぐらいの感じだったんだけど。昨日、いろんな作品のいい場面を見返すっていうテイでいろいろ見てて。『花束みたいな恋をした』をブルーレイで見直しだしたが最後、これが運の尽きでした。もうダメです。全ての感情が蘇ってきてしまって。
(山本匠晃)無理ですか(笑)。
(宇多丸)もちろんね、坂元裕二脚本ありきということで。まあ、とかくなんかセリフ劇であるというようなことがちょっと批判的に語られたりすることもあるけど。見てもらえば分かると思うんだけど、本当に肝心なことは全然言葉にしてないんですよ。全然。見返すと分かるけど、やっぱりあの2人の繊細な表象であるとか、ちょっとした何か。ちょっとした何かっていうところで多くを語るというか。で、あともうひとつ言っておきたいのは、いろんなサブカルチャーが出てくる。でもそのサブカルチャーというのはこれ、記号であって。これ、全然時代によって、人によって置き換えていいもの。
だからこそ、最後の若いカップルは「そこは置き換えて、次々と変わっていくけども……」っていう話なんだから。関係ないんですよ、これ。実は。すごい普遍的な……恋愛というものの本質を特に大きなトラブルとか病気とか、そういうのではなく描いて、本当に純恋愛映画だと思うし。そして私が大好物倦怠カップル物、倦怠夫婦物。そのまた新たな傑作で。俺、昨日ソフトを探していて。「見つからないな。あれ? どこにやったんだっけ?」と思ったらね、倦怠カップル物の枠に入れてました。『レボリューショナリー・ロード』とか『いつも2人で』の並びで。そういう枠を自分で作ったのを忘れていて。歴代の中にもしっかり入ると思います。
第1位『プロミシング・ヤング・ウーマン』
(宇多丸)そして1位。『プロミシング・ヤング・ウーマン』。エメラルド・フェネル、俳優としても活躍されておりますが。長編監督デビュー。まずね、当然非常に鋭いフェミニズムメッセージを持った作品です。今まで、それこそ『ラストナイト・イン・ソーホー』にも通じますね。「よくあること」とか「自業自得」なんてことにされて、女性たちが一方的に搾取されて、それが当然だと思えてきた社会に対する痛烈な一撃でもある。
だからすごく鋭いメッセージ性で持っているのは当然なんですけど。でも、なんというか、めちゃくちゃ面白くない? 俺、要するに単純に今年見た映画の中で一番面白かったですよ。ちょっと、なんというか、やっぱりその主人公が何を目的に動いてるか、最初はわかんないっていうところもそうだし。目的がわかってからの、そのどういう作戦で何をするのか、とかもそうだし。あと、やっぱりすごくエキセントリックなこの『Toxic』が流れてね。
(宇多丸)あれでこう、行くところもよかったですし。あの車のさ、ガラスをガーン!って割って。あのくだりとか、もうぶっ飛んだ演出もすごいし。あの字幕演出とかもすごいイケてるじゃない? もちろん、あのキャリー・マリガンの演技も素晴らしい。あとボー・バーナムのまあ、こんな役をよく受けたよ。みたいなのも素晴らしいし。とにかく面白いわ、鋭いわで「最高」以外の言葉が見つかんないですね。そして、この映画を見ると、もういろんな映画が殺されてます。そして、俺たちの過去もいろいろ殺されるのかもしれない。「あんたたち、これからこの社会をどうしていくの?」っていう、そういう話でもある。最高の映画でした。2021年の第1位は文句なし。『プロミシング・ヤング・ウーマン』でした!
(宇多丸)ということで、宇多丸のシネマランキング2021、これにて終了です! 飲みまーす。踊りまーす。飲んで、踊りまーす。『アナザーラウンド』風に(笑)。
<書き起こしおわり>