宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』の中で番組の映画評コーナーで扱った50本の映画の中からベスト10本とチャンピオン1本を選び、発表していました。
(宇多丸)今夜は年末恒例の特別企画『ライムスター宇多丸のシネマランキング2016をお届けしております。さあ、ということで私の2016年度のランキング上位10位、これから発表させていただきます。もう言うとね、確定しちゃうから。シュレディンガー的な、その。言わなければこれ、もうね、わかんないですからね。もうね。「あー……」っていうね(笑)。量子力学! 違うっていう(笑)。ということでもうギリギリまでね、要は10位を選ぶっていうことは、逆に言えば漏れてしまうものがあって。今年は本当に邦画は大豊作って言ってますけども、もちろん海外映画も素晴らしいのをいっぱい扱わせていただいて。もうね、ぶっちゃけ去年はたしか「10位以内は全部1位だ」って言ったけど、今年はもうね、20位圏内は全部1位ですよ! 本当に。そんぐらいの勢いですね。
なので、まあ入ってこない作品があったらね……後ほど、ちょっとそのへんの言い訳もさせていただきますが、行きましょうかね。10位から6位までの発表です!
第10位:『デッドプール』
第9位 :『シン・ゴジラ』
第8位 :『アイアムアヒーロー』
第7位 :『クリーピー 偽りの隣人』
第6位 :『ドント・ブリーズ』
さっきからこの『ドント・ブリーズ』の位置で、もう大騒ぎしていたんですけどね。まあちょっとね……ということで、順を追って軽く触れさせていただきましょうね。まあ、ちょっといわゆる次点以下というか10位以下もあるんですけど。それは全部発表してからというか。そっちの方がよろしいんでしょうかね?
第10位:『デッドプール』(2016年6月18日)
まず、『デッドプール』。いろいろとその下と悩んでいたラインで当確のところをグラグラしていたんですけど、まず言えるのは今年のアメコミヒーロー映画では僕はぶっちぎりで『デッドプール』派です。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』とかも楽しかったですけど、ぶっちぎりでもう『デッドプール』派です。
特にやっぱりデッドプールというメタ的な視点がいっぱい入ってくる、僕は「ワーナーアニメ風だ」って言ってますけども。そういう、一種斜に構えているキャラクター。映画の作り自体も斜に構えたような作りでいるように見えて、実はこれ、評の中でも言いましたけどド直球の物語というかエンターテイメントとして芯がある感じがとっても大好きですね。まあ、(デッドプール=ライアン・レイノルズを)ベストガイにも選びましたからね。とにかくベストガイ、ライアン・レイノルズというね。劇中の様々な面白いセリフもライアン・レイノルズのアドリブだなんていうのも含めて、非常にライアン・レイノルズが株を上げた一作ではないでしょうか? 非常に僕は、小ぶりにまとまっているところも含めて本当に『デッドプール』、大好きな作品でございます。詳しくは評を聞いていただきたいと思います。
http://www.tbsradio.jp/46672
第9位 :『シン・ゴジラ』(2016年8月13日)
続いて9位。8月13日に扱いました『シン・ゴジラ』。『シン・ゴジラ』は見た直後は「うわっ、これはちょっと……」って。当時まだ”チャンピオン”っていう枠がなかったですけど、「これはちょっと1位の上、来たかな?」っていう。結構ドカンと来たなというか。要は、ある意味怪獣映画というかそういうものの究極形というか、最も見たかった形みたいなものが出てきちゃって。僕はすごく感動もしましたし、すごく楽しんだんですけど。ちょっと冷静になってきたところもございまして。こんぐらいの位置に、一応落ち着かせていただきましたが。
あと、まあ『シン・ゴジラ』はみんな好きだから。みんな、友達いっぱいいるじゃん? あのね、「こいつ、みんな友達いっぱいいるじゃん?」っていうんで入れてない人、いるんですよ。これ、あとで言いますけども。『シン・ゴジラ』は相当友達がいる方だとは思うんで。ただ僕の周りの映画がすごい詳しい人の中には批判的な人もいたりするというところで、割と賛否が分かれる部分はあったりするということで。まあ僕は支持派ということでございます。最大級にショックを受け、楽しんだ一作なのは間違いないということで。「こんなやり方はあるのか! こんな日本映画の作り方があるのか!」ということでございました。
http://www.tbsradio.jp/64600
第8位 :『アイアムアヒーロー』(2016年5月21日)
そして第8位。5月21日に扱わせていただきました『アイアムアヒーロー』。まあ「日本製のゾンビ映画にしては……」というカッコ付きなしで、本当にもう非常にレベルの高い、普通に娯楽映画として、アクションエンターテイメントとして非常にレベルが高いと思いましたし。なんと言っても前半部。どんどんどんどん被害が拡大していく様をまあ、長回しとかも使いながら見せる前半のあのたたみかけるような逃走劇。どんどんどんどんフェイズが変わっていく見せ方。ああいうのが好きなんですよね。僕ね。どんどんどんどんフェイズが重なっていくみたいな逃走劇とか。
あと、やっぱりなんといってもあのクライマックス手前のロッカー内での煩悶シーンですよね。あれは本当に名シーンじゃないですかね。もう思い出すだけで涙ぐんできちゃいますね。大泉洋さんの本当、名演もありましたし。あのロッカー内のシーン1個だけ取っても、僕はもうベストテン入り間違いなし! という。もう大好きな作品でございます。本当にクライマックスの盛り上がり方も含めて見事な。漫画の実写化という意味でもレベルが高いですし、『アイアムアヒーロー』。堂々たる一作ではないでしょうか。
http://www.tbsradio.jp/38244
第7位 :『クリーピー 偽りの隣人』(2016年6月25日)
そして7位。6月25日に扱いました『クリーピー 偽りの隣人』。まあ、たとえば『ディストラクション・ベイビーズ』とか一連の、高橋洋二さんが挙げてくれた流れ。ちょっとノワールっぽいというかバイオレントな流れのなんかにもつながるところがあると思うんですけども。黒沢清監督は、もともと黒沢さんの作品はどれも私は好きで。『映画秘宝』とかのベストテンにも入れたりすることも多いんですけど。特に今回の『クリーピー 偽りの隣人』は黒沢清さんのすごい……まあ彼が実際に目指しているところとは別に、作品として表出する非常に癖のある独特の作家性と、言っちゃえばジャンル映画的な娯楽性っていうか。普通に面白いっていう部分が久々にすごい高いレベルでちゃんと一致しているっていうか。
割りと人にすすめやすい黒沢清映画と言うかですね。本当に楽しかった。怖い! 気持ち悪い! 楽しい!っていうね。最終的にはもうアガってくるっていうね。「どんどん行くぞ~!」っていうね、名ゼリフもいっぱいありましたしね。とっても好きな、これからも見返すことが多い作品になるかと思います。『クリーピー 偽りの隣人』でございました。
http://www.tbsradio.jp/49136
第6位 :『ドント・ブリーズ』(2016年12月24日)
そして第6位にぶっ込ませていただきました。つい先ほど評したばかり。『ドント・ブリーズ』ということですね。これね、『ドント・ブリーズ』は気持ち的には僕、さっきの評論の勢いで言っても、見た直後で。要するに、その週に扱った作品はいちばん恋愛真っ最中の、いちばんいま付き合っている最中の彼女みたいな感じで。割と、アガってるんすよね。めっちゃ気持ちはアガってるんで。そういうのもあるんだけど、僕的には、気持ち的にはもっと上でもいいぐらいな感じなんですよ。『ドント・ブリーズ』は。本当に大好きですね。もうね。
ちなみに、『クリーピー』といいね、『ドント・ブリーズ』といい、そしてこの後に出てくるとある映画といい、『悪魔のいけにえ』オマージュが入っている作品が並ぶなっていうのはあるかもしれませんけどね。まあ『ドント・ブリーズ』……ただ、『ドント・ブリーズ』はみなさん、いいですか? これを5位以内に入れたとしましょうか? みなさん、僕のことを責めますよね? 「当たるわけがねえだろ!」と(笑)。「その日に扱った映画をベスト5に入れるとは思わないだろ!」とね。まあ、その日に扱ってその日に1位にした『007 スカイフォール』なんていうのもありましたけどね。ということでね、まあある意味落ち着いて順位をつけるという意味で、まあ6位ぐらい……それでも6位ということでね、『ドント・ブリーズ』。この位置に置かせていただきました。ということで、10位から6位まで発表させていただきました。
さあ、ということで、問題の皆さんのね、予想もしていただいて。(賞金)8万円を誰がね、手にするのか? というベスト5の発表、行きたいと思います。いいですか? いいですか? もう変えられないもんな。もう6位まで発表しちゃったからな。下から持ってくるわけにはいかないもんな。よーし! じゃあ5位から1位まで。そしてチャンピオン枠。なんだろうな? まったく想像がつかないね! チャンピオンは何が来るか、まったく想像がつかないね……ということで、第5位から1位、そしてチャンピオン、発表いたします!
第5位:『ヒメアノ~ル』
第4位:『何者』
第3位:『シング・ストリート 未来へのうた』
第2位:『葛城事件』
第1位:『この世界の片隅に』
チャンピオン枠:『クリード チャンプを継ぐ男』
(スタッフ)(笑)
(宇多丸)いやいやいや! 笑うところじゃないから! 笑うところじゃないから! 大傑作だから!これ、違うんだよ。最後の試合のところで流れるところで、いきなりここから聞くからバカっぽいことになるけど……
さあ、ということで以上5位から1位まで、そしてチャンピオンを発表させていただきました。みなさんね、どれだけ正解者がいるんでしょうね? 正解者の発表は後ほど、エンディングでやりますね。じゃあ、1個1個触れさせていただきたいと思います。
まず、その前に結局10位まで入っていない作品。非常に迷った作品というのを次点以下、ざっくりと名前だけ挙げさせて。やっぱり『ヘイトフル・エイト』『オデッセイ』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』。このあたりは全然、全然いいでしょう! 入江悠さんの『太陽』、大好きですよ! いいでしょう! 『溺れるナイフ』、いいでしょう! 『ちはやふる 上の句・下の句』、いいでしょう! 『サウルの息子』、いいでしょう! 『ズートピア』……でもお前は友達いっぱいいるでしょう(笑)。『スティーブ・ジョブズ』、よかった。『マジカル・ガール』、よかった。『ルーム ROOM』、よかった。『日本で一番悪い奴ら』、よかった。 『ハドソン川の奇跡』、よかった。『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』も大好きだ! みたいなのがありますけどね、こんな感じで選ばせていただきました。はい、すいませんね。くどくてね(笑)。
第5位 :『ヒメアノ~ル』(2016年6月11日)
第5位『ヒメアノ~ル』。これ本当に悩みました。要するに、一連の先ほど高橋洋二さんが挙げたような作品、悩みました。本当にどれが入ってもおかしくない。『デストラクション・ベイビーズ』とかも素晴らしかったんだけど。やっぱりその、番組の特集まで組ませてしまった……つまり、番組っていうのは私の考えていることみたいなのとのシンクロ率。で、やっぱり一生あの「森田」っていうキャラクターのことをやっぱり切なく思い出すだろうなっていう。
本当に、「あいつ、なんであんなことになっちゃったんだろう?」っていう、昔の友達を思い出すみたいに絶対に思い出すだろうな、みたいな。そんなことも含めてですね、やっぱり『ヒメアノ~ル』は忘れがたい、僕にとっての今年を代表する一作でもあるかなということで、選ばせていただきました。
http://www.tbsradio.jp/44389
第4位 :『何者』(2016年10月22日)
第4位、『何者』。これね、『何者』は……ああ、もうこの音楽(中田ヤスタカ『NANIMONO feat. 米津玄師』)も素晴らしいですね。映画として完成度云々っていうところじゃないんですよ。評の中でも言いましたけど、「ちょっと作りとしてここはどうなんだ?」みたいに思うところもなくはなかったんですけど……そういうレベルではないところで本当に魂を揺さぶられるというか。特にこれもベストエンディング(部門)と言ってもいいかもしれませんけどね。終わりに、もうやられましたね。ガクガクガクッ!って体が震えるぐらい感動が来るというような作品。これも本当に忘れがたい作品でございました。
ねえ。あそこに出てきたやつ、みんながんばってほしいな。がんばって! みんな、がんばって!
http://www.tbsradio.jp/86021
第3位 :『シング・ストリート 未来へのうた』(2016年7月23日)
そして、みんながんばってほしいと言えば、やはリ3位の『シング・ストリート 未来へのうた』。ねえ。これはもういいでしょう。とにかく「好き」の一語です。これに関して別に……『シング・ストリート』は僕みたいなテンションの人か、別にそうでもない人と分かれると思うんですけど。とにかく、まあ好きな人の1人です。要するに兄弟の1人っていうことですね。監督のジョン・カーニーさんがおっしゃるようにね。
実は結構悲しい話かも? と考えさせる厚みがしっかりあるというか。このあたりもすごく素晴らしい作品じゃないかな? という風に思いました。
http://www.tbsradio.jp/57853
第2位 :『葛城事件』(2016年7月30日)
2位、『葛城事件』。見終わった直後、本当に私、ちょっと精神のバランスを崩すぐらい相当食らって、心底嫌な気持ちになる映画でした。本当に嫌な気持ちになる映画なのは間違いないんだけど、時間がたつほどにやっぱり登場人物とかこの映画が描こうとしている……あるいは、ちょっと評の中でも言いましたけど、とはいえやっぱりちょっと笑っちゃうところとかも含めて、やっぱりこの作品全体に対する愛おしさというかですね。すごく強まってきてですね。「ベストであり、ワースト」みたいなことを言いましたけど、どんどんその「ベスト」の気持ちが高まってきて……というか。2位にぶっ込ませていただきました。
あのこれ、実は1位がなければもう僕、1位にする勢いで『葛城事件』をスタンバイしていたところなんですけどね。
http://www.tbsradio.jp/59942
第1位 :『この世界の片隅に』(2016年11月26日)
ということで、1位。『この世界の片隅に』ということなんですけども。これはもう、11月26日の僕の評で結構自分なりには出し切ったつもりなんで。ただまあ、とにかくテーマと手法の完全な一致というか。先ほど、高橋洋二さんもおっしゃったように、このやり方でしか描けないなにかっていうのをもう考えうる限り最高の形で出してみせたというところでもう……評で言った通りです。本当に日本映画史に残る傑作になったんじゃないかと思っております。
http://www.tbsradio.jp/95715
チャンピオン枠:『クリード チャンプを継ぐ男』(2016年11月26日)
そして、今年特別に作ったチャンピオン枠は『クリード チャンプを継ぐ男』でございます。さすがに去年公開の作品なんで、これ『クリード』を1位にしてもあまり上がらないかな? と思って。なんとなくみんなのチャート的に。なので、チャンピオン枠とかにしましたけど、ぶっちゃけ、僕この『クリード』っていう作品に関しては個人的にはもはや、『ヤング・ゼネレーション』っていう、いつも生涯ベスト級っていうのに挙げていますけど。僕、もはや『クリード』は『ヤング・ゼネレーション』級です。はっきり言って。
とにかくあらゆる若き世代へのエールであり、あらゆる老いて去りゆくものたちへの最高の贈り物みたいな1本であって。とにかく全ての演技、全ての演出が僕、パーフェクトだと思いますね。見返すたびに、「この映画、完璧じゃないかな?」って思いますね。本当に見返すほどに感動が増す、正真正銘の名作だと思います。僕、全然『ロッキー』を超えていると思います。本当に。という大傑作。今度、1月22日に福山で上映会とトークショーがありますので。ぜひちょっとよろしければ。東京から来たっていいぐらいじゃない?って思っています。はい。
ということで、私のシネマランキング2016、一気に発表させていただきました。今年のワーストとシネマランキング予想ウォーズの結果はエンディングで行います! 以上、シネマランキング2016でした! 決まっちゃった!
(中略)
さあ、ということで『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』、いかがだったでしょか? 今年のシネマランキング2016、最後にワースト部門、発表させていただきたいと思います。今年は本当にそんなにぶっちぎりでワーストみたいな作品がなくて、該当作なしにしようかと思ったんですけど、それも何なんで……あえて言えばといことで、こちらを選ばせていただきました。今年のワーストは……『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』!
でも、これは名誉のワーストだと思ってください。僕はちなみに『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』のズッコケぶりはもう大好きです! あのクイーンが猛然とスクールバスを追いかけだした時、今度見たらたぶん拍手すると思います(笑)。ということで、大好きなワーストぐらいの感じだと思っていてください。
そして冒頭から募集してきたシネマランキング予想ウォーズ、私のシネマランキングベスト5とチャンピオン、ピタリと当てた人はいたのか? 発表いたします。当てた方は……今年もいませんでした~(笑)。ええ~~~っ!? 『ドント・ブリーズ』を下げたのが裏目に出たのか? どうなんだろうね? ちょっと後ほど、確認したいと思いますので。8万円は持ち越しとなりました。
<書き起こしおわり>