朝井リョウと山崎怜奈『正欲』を語る

朝井リョウと山崎玲奈『正欲』を語る 山崎怜奈の誰かに話したかったこと。

朝井リョウさんが2021年3月25日放送のTOKYOFM『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』に出演。山崎怜奈さんと最新作『正欲』について話していました。

(山崎怜奈)この時間のゲストは小説家の朝井リョウさんにお話を伺っています。引き続きよろしくお願いします。

(朝井リョウ)よろしくお願いしまーす。

(山崎怜奈)今回ですね、明日発売となる長編小説『正欲』についてたっぷり伺っていきたいのですが。

(朝井リョウ)助かります!

(山崎怜奈)私、朝井さんの本を他の本も含めて……『死にがいを求めて生きているの』とか。いろいろ小説を読んでいると、絶対そのあとに悩んじゃうんですよ。

(朝井リョウ)ああ、なるほど。

(山崎怜奈)でも怖いもの見たさで毎回、結局読むんですね。

(朝井リョウ)ああ、そういう食べ物とかもありますよね。

(山崎怜奈)あるある。あるんですよ。だから案の定、今回もこの『正欲』を読んで、いい意味で胃がやられたんですね。

(朝井リョウ)ああ、よかった。すごい。

「いい意味で胃がやられた」

(山崎怜奈)「いい意味で」っていう枕詞はすごい便利だから使っちゃうんですけども。

(朝井リョウ)便利。うん。

(山崎怜奈)でも、本当に胃が痛くなったんですね。

(朝井リョウ)でも、元々がすごいおきれいな胃だから。そのちょっと痛くなったぐらいでもちょうどいいかも。

(山崎怜奈)違う、違う。私、この間人間ドックでポリープ、要経過観察が見つかったんで。全然きれいじゃないんですけども。胃はね。

(朝井リョウ)あら、人間ドックの話、今度しましょう(笑)。

(山崎怜奈)そうですね(笑)。

朝井リョウ DJ松永と一緒に人間ドックに行った話
朝井リョウさんが2021年1月17日放送のニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』の中でDJ松永と一緒に人生初の人間ドックに行った話をしていました。
朝井リョウ 人間ドック・脂質異常症で再検査になった話
朝井リョウさんが2021年2月14日放送のニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』の中で人間ドックの結果についてトーク。脂質異常症で再検査になった話をしていました。

(山崎怜奈)そもそもでも、この本、作られるのにかなりの時間が……他の本もそうでしょうけども。かかったんだろうなっていう印象を受けていて。だからこそ、感想とか、どういう内容だったみたいなのを端的に言うのは無理な話だなとは思ってるんですよ。

(朝井リョウ)すいません、本当に。助かります。

(山崎怜奈)だから内容をあえて全然触れないでおくんですけど。「そもそも、こういう本ってどこから着想を得てるんですか?」っていう風に質問も届いているんですよ。まあ、言える範囲で……。

(朝井リョウ)「どういうところで」……そうなんですよね。なんか、今まですごい軽口を叩いていたのに、すごく小説家のような話をするのが急に恥ずかしいです、今。

(山崎怜奈)今日は小説家として呼んでいるんですよ(笑)。

(朝井リョウ)急に恥ずかしいんですけど……なんか、「小説を書く」っていうことをイメージすると、動作としてはたぶんノートに手を動かしたりとか、パソコンに向かってね、キーボードを叩いたりとかっていう。動作として、たぶんそういう動きを想像すると思うんですけど。でも、小説ができてるのって実はその電車に乗っていたりとか、本当に家の中でテレビを見たりとか、ご飯を食べたりとか。そういう時に実は小説って結構出来上がっていて。その、文章を書いている時っていうのは、割とそこに最も適切な言葉を探して、当てはめていくみたいな感じなんですよ。

それで言うと、今回のは私は……まあ、いろんな意見、いろんな感想が出る小説なんですけど。私の中で貫いているのは、やっぱりどんな人でもそのまま生きていけるためには、どうすればいいのか?っていうか。どんな自分で生まれても……または、どんな自分に変わるかもわからないじゃないですか。今後、自分が交通事故にあったら、それこそ普通に道路が歩けなくなったりとかするだろうし。どんな自分に生まれ変わるかもわからない中で、どんな自分で生まれても、どんな自分に生まれ変わることがあっても、自分のまま生きていけることというか。その自分として生きていける場所だっていう風にそもそも今のこの世界って思えるのかどうかっていうところから始まっているので。

(山崎怜奈)なんか朝井さんの考え方の根底に流れてるのが、その自分の考えとかに自信を持ったりとか、肯定をしたりとかっていうんじゃなくて、自分という存在をとりあえず、そういうものであるっていう風に肯定している感じがして。だからこそ、なんかすぐに切り離さないんですよね。どの作品を読んでも分断をしない感じがすごいある気がしてて。

(朝井リョウ)助かります。

(山崎怜奈)「助かります」?(笑)。

(朝井リョウ)助かります。そのように受け止めていただいて。

(山崎怜奈)でも、私は物を書く時とかに……まだ本なんて全然、出してないですし。おこがましいですけども。

(朝井リョウ)いや、でも幻冬舎の息がかかっていることはわかったから。もう近いよ、これは。

(山崎怜奈)いやいやいや(笑)。でもなんか、趣味で自分の思ったこととかを書き残している時は、よくよく考えたらなんか頑張れない時の自分のために書いてたり。頑張れない時の自分のために読んだりするんですよ。朝井さんが「あっ、これ書きたい」とか思う時って、何を考えてるんですか? 逆に、何も考えていない?

(朝井リョウ)でもたぶん、ご自身で書かれる時も、なんだろう? 「この感情とかだったら、まあ100枚以上かかるな」みたいな。その重量みたいなものがたぶんあると思うんですよ。

(山崎怜奈)ありますね。

(朝井リョウ)ありますよね? で、「今、自分の中にあるこの気持ちを書くんだったら、何十枚ぐらいかな?」みたいな。で、その中でたまにある「この気持ちを書くんだったら、300枚はいるわ」っていうのはやっぱり長編小説をテーマとして選ばれることが多いですよね。

(山崎怜奈)じゃあ逆に、短めに書けるものとかをエッセイに飛ばしたりとかはします?

(朝井リョウ)でもエッセイは私、やっぱり基本的にさくらももこさんイズムで。やっぱり笑ってもらえる話を書きたいっていうのがあるので。エッセイはとにかく人が読んで笑える話かどうか。

(山崎怜奈)面白いでしかないですもん。

山崎怜奈と朝井リョウ エッセイを語る
朝井リョウさんが2021年3月25日放送のTOKYOFM『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』に出演。山崎怜奈さんとエッセイについて話していました。

(朝井リョウ)いやいや、あれなんですけども。その小説の場合は本当、文字にした時にどれぐらいの分量になるかっていうのがなんとなく、測れるようになってきたというか。そういうのがあるかなと思っていて。今回のは本当に、「ものすごいかかるな」っていうのはもう分かっていたんですよね。「自分の中のこれを書こう」っていう時に。

(山崎怜奈)だって読む中で……あんまり内容について言えないけど。今、いただいているものの中で企画編集部の方のコメントがちょっと載っているんですね。で、読んでいてすごい居心地が悪くなったんですよ。でも、その居心地の悪さって感じておいた方がいい居心地の悪さなんだなっていうのは、少なくとも私は思ったんですね。でもなんか、そうじゃなかった人のことを頭の片隅における人がこういう本を書くって、すごいなんか世界線がゆがんでいる感じがする……。

(朝井リョウ)なるほどね。世界線……でも、世界線はもう歪ませてナンボよ(笑)。世界線は歪ませてナンボ。「どんな人なのか、わからないな」って思わせた方がよくないですか?

(山崎怜奈)たしかに。ミステリアスですね。

世界線は歪ませてナンボ

(朝井リョウ)本を読んだ時に「この人、どんな人かわからないな」っていう風になったら……でも、難しいですよね。こうやって自分の言葉で結局しゃべる場をいただけると、私もやっぱりラジオは好きだからこうしてしゃべらせていただくんですけど。それによってやっぱり読み方って狭まってしまったりすることもあると思うから。すぐ別の話をして逃げたりするんですよ。私は。

(山崎怜奈)でも、人に思いを伝えるっていうのが結局一番難しいことだけど、それを諦めきれないのも人間だなっていうのは思うんですよね。だからたぶん、そのしゃべりたいことと口から出てる言葉のスピード感が合わないっていうのは、そこから来てるのかな、なんていうことはなんとなく思っていて。それも含め……でも、その競り合いの中でうまく調整しつつ、でも詰め込んだっていうのが今回の本なのかなという風に思いました。

(朝井リョウ)そうですね。やっぱり「伝える」って、今すごい本当に小説の世界でもそうですけど。「当事者性」みたいなものがすごく重要視されているような気がしていて。「その立場の人が語るからすごく力がある」っていう言葉も当然あるし。それってすごいやっぱり伝わるんですけど。小説でできるいいことって、いろんな立場の人の言葉を書けるというか。で、それがまあ正解かどうかもわからないし。それが読む人にとったらすごくつらいことかもしれないけど。いろんな立場の人の言葉が出てくることで、より伝わる。その人本人がしゃべるんじゃなくて、いろんな立場の人がしゃべるから伝わるってこともあるのかなと思っていて。

(山崎怜奈)そうですね。何かしらに照らし合わせたりとか。想像力を超えるもの。現実を超えるものだったりするのかな、なんて思いました。

正欲
新潮社

<書き起こしおわり>

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