朝井リョウ 瑛人と『エヴァンゲリオン』を語る

朝井リョウ 瑛人と『エヴァンゲリオン』を語る 高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと

朝井リョウさんが2021年2月7日放送のニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』の中で瑛人さんについてトーク。さらに最近、初めて見た『エヴァンゲリオン』についても合わせて語っていました。

(朝井リョウ)でも私、あれからまた瑛人のことをすごく考えて。やっぱり言葉が足りなかった。今回、「瑛人の思い出」ということで送ってもらったメールもとってもよかったんですけども。あの私たちが瑛人について話した放送もハッシュタグでざっと見たところ、ちょっと私が言葉足らずで伝わっていない部分があったので。そのあたりをちょっとまた話したいと思います。

(高橋みなみ)また話すのね。瑛人について?

(中略)

(朝井リョウ)発すタグで追っていたらさ、すごいいい言葉があって。今回、瑛人との思い出とか、概念としての瑛人みたいなことを言ってましたけれども。すごくいい表現をされている方があって、ちょっと拝借させていただきたいですが。その方が言っていたのが「イマジナリー瑛人」っていう。

(高橋みなみ)「イマジナリー瑛人」?

(朝井リョウ)ピンと来ていない? 「イマジナリーフレンド」っていう言葉が割と有名で。

(高橋みなみ)イマジナリー?

(朝井リョウ)はあ……間違えたかな。この番組の相手。

(高橋みなみ)ちょっと待って? イマジナリーってなに?

(朝井リョウ)4年半、間違えてたのかな? 「イマジナリーフレンド」っていう言葉があって。なんて言うのかな? 自分の頭の中でずっと話しかけているような、自分の内面に存在するなにかというものがあるんですけども。

(高橋みなみ)はじめて聞いたわ。

(朝井リョウ)そのイマジナリー瑛人という言葉を見た時に「そうだ!」と思って。概念とかいろいろ言ってましたけども。私が言いたかったのはイマジナリー瑛人というものだったんだなというのはこの人から教えていただいたんですね。で、「ピュア」という……「素直」という話から瑛人の話に繋がりましたし。その後、「ピュア界のさかなクンが瑛人なのではないか」という話をして、それをもって瑛人のことを表現するという風なのがメインに今、なっていたんですが。「自分のすごく良くないところを瑛人によって映し出されているな」という風に思っていたので。「だからピュアというだけではないな」と思っていたの。

(高橋みなみ)じゃあ、何になるんだろう?

(朝井リョウ)だからあれから家に帰ってすごく考えてたんですけど。一言で言うと、瑛人は……その私から見た瑛人。だからもう、もはや瑛人ではないかもしれない。なにを言っているのか……(笑)。

(高橋みなみ)ちょっと待って? 迷子、迷子!(笑)。

(朝井リョウ)だから、瑛人が誕生しました。瑛人が活躍しています。私はテレビを見て瑛人と出会いました。いろんな場面を見ました。瑛人が私を映し出してくれました。瑛人が私を映し出してくれた。つまり、今からしゃべるのは瑛人ではなくて、私を映し出したもの。

(高橋みなみ)マジで向き合いすぎていて全然わかんないよ(笑)。ちょっと待って? だから、視聴者として瑛人を見て、ちょっと心打たれる、何か考えさせられた部分があったんだけども?

(朝井リョウ)あったんだけど。でも、それは実は瑛人がどうのこうのっていう話でもなくて。私の中にある、すごい内在化している問題点が出てきた。つまり、瑛人を媒介にして映し出された。

瑛人を媒介にして自分の問題点が映し出される

(高橋みなみ)だから「瑛人は鏡だった」っていうことね?

(朝井リョウ)そう。私の中のものが映った時点で瑛人ではなくなったんですが……。

(高橋みなみ)フハハハハハハハハッ! めちゃくちゃムズいよ!(笑)。

(朝井リョウ)本当、この2週間で人生で初めて『エヴァンゲリオン』を見たから、たぶんこういう感覚に……。

(高橋みなみ)アハハハハハハハハッ!

(朝井リョウ)「何かを媒介にして」とか。エヴァの影響を今、すごく感じた。

(高橋みなみ)めっちゃ影響を受けてるじゃん!

(朝井リョウ)すごい……今、初めて「こんなにエヴァに影響をされていたんだ」って思いました。瑛人は媒介です。

(高橋みなみ)びっくりしたー(笑)。

(CM明け)

(高橋みなみ)ちょっと待って? 今、エヴァになっちゃってるから。

(朝井リョウ)(葛城ミサト的な口調で)「ミナミさん、行くわよ?」。

(高橋みなみ)違う違う! だからエヴァに影響を受けているのよ!(笑)。

(朝井リョウ)フフフ(笑)。恥ずかしい……今、エヴァのしゃべり方の影響を受けてるやつ、いる?(笑)。

(高橋みなみ)フハハハハハハハハッ! 大暴走(笑)。今でも、ごめんなさい。『エヴァンゲリオン』は?

(朝井リョウ)全く。というか、私たちの世代ってエヴァって自然と浴びることはできなかったでしょう? 世代的に。自分で何かで見ないと、見なかったじゃないですか。

(高橋みなみ)うん。私のだから、見たことない世代。

(朝井リョウ)そうですよね? でもなんか30代以上というか、今アラフォーぐらいの人としゃべってると、「義務教育だったの?」っていうぐらい。

(高橋みなみ)当たり前に知ってるよね。

(朝井リョウ)そう。当たり前に知ってるし、なんかもう哲学を持ってるじゃん? それぞれが。「エヴァとはこういう物語で……」っていうのが人それぞれ違うんだけど。なんかこっちが言ったら厳しいみたいな。私も今、映画版が金曜ロードショーでやってるから。Netflixでアニメを全部見たんですよ。で、最新の映画が延期したじゃない? だからネトフリのアニメ版と旧劇場版と言われている映画版と、今やってる新劇場版を見て追いつこうと思って。

(高橋みなみ)待って? 結構ちゃんとハマってない?

(朝井リョウ)私、いつかちゃんと見たいと思っていたから。その「ハマる、ハマらない」は置いておいて、履修したかったの。ひとつの教科として履修したくて。それで、言ったんですよね。「ネトフリにもあるし、金曜ロードショーでもやっているから追いつけるんで。映画がやったら、一緒に見に行きましょうね」みたいな話をしていたらやっぱり厳しくて。「いや、金曜ロードショー版は何シーンかカットされているから、それを見たからと言って『新劇場版を見た』とはみなしません」って言われたの。

(高橋みなみ)ええっ? 厳しい!

(朝井リョウ)「きっびー!」って思って。でも、エヴァが好きな人って全員、それぐらい厳しくない?(笑)。

(高橋みなみ)なんだろうね? 自分の中のものがあるんだろうね。

(朝井リョウ)だから媒介として……。

(高橋みなみ)出たよ。媒介の話が出ましたよ。瑛人、媒介だよ(笑)。

(朝井リョウ)映し出されていると思うんですが。私は瑛人を通して何を見たかっていうと、自分の中にある本当に醜い……「勝ち負けの尺度で物事を見ている」という部分を私は瑛人に映し出されてしまったの。だから、「やめてーっ!」って。もうエヴァの中にいる時のシンジくんみたいに。痛みを……「やめてーっ!」って。

(高橋みなみ)エヴァと瑛人が交互に来るんだよ、なんか(笑)。

(朝井リョウ)だから、瑛人は使徒でした。私にとって。

(高橋みなみ)エヴァだから! それはもう……もうエヴァなんだよ、それは(笑)。

使徒・瑛人がやってきた

(朝井リョウ)瑛人は2020年、使徒としてやってきた。私にとって。で、どういうことか?っていうと、瑛人ってテレビを見ていて思うのは、それこそ『情熱大陸』とかで昔、バイトをしていたハンバーガー屋さんに行ったりとか。レコード大賞だったり、紅白だったり、いろんな大きい祭典にも出たりとかしているのを見て、「どの1日も瑛人にとっては同じ1日」っていう風に見えたんですね。私から見たら。違うかもしれないよ? もう今から瑛人から離れていくけれども。だから「今日は紅白だから気合を入れよう」とかじゃなくて。同じカロリーで挑んでいるように見えたんです。

(高橋みなみ)それはすごいことよ。

(朝井リョウ)そう。だから「この人だからすごくちゃんとしよう」とか「この場所だから」とか「これぐらいの人が見てるからちゃんとしよう」ではなくて、すべてフラットに……そうじゃないかもしれないから。今、私はそういう人への憧れを言ってます。でも、私はそういう風に見えたんです。「私がもし瑛人だったら、もしかしたらハンバーガー屋さんで勤めていたことを恥ずかしがったりとかするんじゃないかな? その部分を隠したかったりするんじゃないかな?」とか思うぐらい、おそらく私は勝ち負けで見ているなということを瑛人に見せつけられたんですけど。瑛人はもし次の曲が全然ヒットしなくても……「元々勤めていたハンバーガー屋さんの二号店を作るのが夢で」ってって話してるインタビューも読んで。

(高橋みなみ)ええっ、すごい!

(朝井リョウ)だから、なんていうの? ある曲がさすごい売れてしまったらさ、「一発屋と言われてしまうんじゃないか?」とか「周りからこういう風に、『落ちたな』って思われるんじゃないか?」とか。私だったらたぶん気にすると思うんですけど。そういうのもなさそうなの。つまり、その「『落ちたな』とか思われたらかっこ悪いな」とかがない。そういう風に見えたんですよ。で、本当にこれが素晴らしいなと思っていて。

私はすごく、たとえば「直木賞とかをいただいた時もすぐに『この年齢もらってしまっていいのだろうか?』とかを考えてしまう」っていう話をいろんなインタビューでもしてきたんですけども。それはつまり、「勝ち負けで見ている」というか。「その後、活躍できなくなってしまったらあの人は『若い時だけだったね』って言われるんじゃないか」ということを気にしてるわけじゃない?

だから「結局、その場所にいる自分はすごく負けているように見られるんじゃないか?っていうことをひたすら気にしてるんだな」っていうことをすごく実感して。でもそれをいい言葉に置き換えよと思ったの。なんかヤバかったから。

(高橋みなみ)ヤバかった?

(朝井リョウ)ヤバかったから。

(高橋みなみ)向き合いすぎていて?

(朝井リョウ)向き合いすぎて。で、「いい言葉に変えよう」と思った結果、「瑛人ができていることは今、そこにある幸せを今そこにある幸せとして受け止めることなんだ」って思ったんですね。これ、伝わります?

(高橋みなみ)これはすごく伝わるよ。

(朝井リョウ)ちょっと前にさ、野呂佳代さんが有吉さんに相談するみたいな番組があって。で、野呂さんが……私、AKBの2期生だったから、佳代が……。

(高橋みなみ)フフフ、定期的に出てくるんだよな。この2期生設定(笑)。

(朝井リョウ)佳代が有吉さんに相談した内容が「AKBを卒業した後で、SDNも卒業した後でその当時、来る仕事がまパチンコの番組とかばっかりなんです。どうすればいいでしょうか?」っていう感じの相談をされていて。有吉さんの答えが「そのパチンコの仕事を100点で精一杯やればいいじゃん」という答えだったんですよ。本当その通りだなと思って。でも、たぶんあんまりちゃんと意味が分かってなかったの。でも、その「今、ここにある幸せを今、ここにある幸せとして受け止める」っていう風に瑛人のこと言い換えた時に、それがすごい蘇ってきて。

「今、ここにある幸せを今、ここにある幸せとして受け止める」

(朝井リョウ)私もあるんですよ。対談の依頼とが来た時に「この人のいる相手として自分に対談の依頼が来るってことは自分も今、この人と対談して大丈夫な位置にいる人間って思われてるんだ」とかって喜んだりするんですけど。でも「浅はかだ……」と思って。「対談の依頼が来たこと自体を喜びなさい」っていうことじゃない? でも、それをすごい思った。「『この人との対談の依頼が来た。嬉しい』って思ってた。ごめんね、瑛人……」と思って。

(高橋みなみ)目の前の幸せに感謝しろと。

(朝井リョウ)そう。その前後の文脈ですごいいろいろと判断しちゃう自分というのが今まで、ずっといたんだなということをすごく使徒・瑛人によって。

(高橋みなみ)またエヴァだよ……。

(朝井リョウ)でも、たぶんエヴァのファンの人からすると「瑛人は使徒なんじゃないか」という観点でもたぶん、ひとつの論を組み立てられるよ。

(高橋みなみ)マジで?

(朝井リョウ)本当に、ほんのちょっと情報から……「ああ、このシーンはこういう意味があるから。じゃあ、これはこうで繋がる」とかをやってくれるから。たぶん私がそのガチ勢の人に「瑛人って使徒だと思うんですよね」って言ったら「瑛人……8……8番目の使徒……」とか。本来の第8使徒と比べたりして。共通点とかを探してくれて。たぶん瑛人を使徒にしてくれると思う(笑)。

(高橋みなみ)マジかー。私、見たことがないから。今、なにもわかっていないもん。

(朝井リョウ)でもね、私も初めて見て。内容正直、今でも死ぬほどいろんな人が考察してる作品だから。私も全然分かってないんですけど。でもよかったことは、世の中で使われているたくさんの名ゼリフの出典元がまず、まず分かったことで。「笑えばいいと思うよ」とか聞いたこと、ありません? 「どんな顔をしていいか、わからない」「笑えばいいと思うよ」とか。私もそれをいろんな人が使ってるのは聞いたことがあったりとか。

(高橋みなみ)「逃げちゃダメだ」とか。

(朝井リョウ)そう。「逃げちゃダメだ」とか。「これはたぶんエヴァのセリフなんだろうな」って思っていたんだけども、その大元を知ることができて。あと、『シン・ゴジラ』とかも、みんながなんでそんな……。

(高橋みなみ)『シン・ゴジラ』にもつながるの?

名ゼリフ、演出の出典元がわかる

(朝井リョウ)だって同じ庵野秀明監督だから。で、『シン・ゴジラ』を見た後で私の周りの人たちもすごい沸いていたんですよ。演出ですごく沸いていて。それから、最近予告編が公開された『シン・ウルトラマン』も庵野秀明さんが企画・脚本だからすごく盛り上がっていましたけども。

(朝井リョウ)その何で盛り上がっていたのか?っていうのもわかったし。3.11の時に日本中で「節電をしましょう」ってなった時、みんな「ヤシマ作戦」って言っていて。それも全然わからなかったんだけど。

(高橋みなみ)言ってたよね。わからなかった。

(朝井リョウ)でもそれが、わかったんです!

(高橋みなみ)うわっ、なんか見なきゃいけない雰囲気じゃーん! マジで?

(朝井リョウ)そして、瑛人が使徒だということもわかって。いろんなことがつながりました。

(高橋みなみ)瑛人は使徒なの?(笑)。

(朝井リョウ)でも、本当に「今、そこにある幸せを今、そこにある幸せとして受け止める」っていうことを私はこの30年、できなさすぎていた。

(高橋みなみ)これはでも、とても大事なことですね。

(朝井リョウ)そうです。でも、この話をしたことによってたぶん、この「瑛人との思い出」のコーナーは終わったかもしれない(笑)。

(高橋みなみ)ちょっと締まった感じはしたね。

(朝井リョウ)だって今まで送ってきたもらったエピソードとちょっと方向性が違うから(笑)。

(高橋みなみ)違うね(笑)。

<書き起こしおわり>

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