朝井リョウと高橋みなみ『テラスハウス』問題を語る

朝井リョウと高橋みなみ『テラスハウス』問題を語る 高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと

朝井リョウさんと高橋みなみさんが2020年5月31日放送のニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』の中で『テラスハウス』問題について話していました。

(高橋みなみ)前回の収録からおよそ2週間が経ちましたけども。まあ、いろんなことがね、起きたりしていましたよね。

(朝井リョウ)いろんなことが……こうやってリモートじゃなくて実際に対面して収録できるようになったという変化もありの、今日はちょっと私は本当に『テラスハウス』の話がかなり……もうこれは報道があってから3日目とかの収録なんですけど。本当にずっと頭の中にあるんですよね。

(高橋みなみ)私もあのニュースを見た時に、頑なに『テラスハウス』見たい派だったので。でもやっぱり「あっ……!」って衝撃も受けたし。どこか遠くに朝井さんの顔を思い出した。

(朝井リョウ)私はこの番組で『テラスハウス』講座ということをやったぐらい……で、それが『テラスハウス』のスタッフの人にも伝わっているぐらいのことなので。ずっとそれから3日ぐらい、いろんなことを考えて。

(朝井リョウ)しかも私の中では勝手にすごい……そのコロナのことであったりとか、なんていうの? 本当に広いところに繋がる話として、私の中にずっと今、あるので。今日はその話をしてみたい。

(高橋みなみ)やってみましょう。

(朝井リョウ)やってみましょう。

(CM明け)

(高橋みなみ)何かちょっとね、気が引き締まってます。今。

(朝井リョウ)こういう回があってもいいかなっていう感じ、なんですが。先週、前半で私がコロナで気づいたことのひとつで「誰にも迷惑をかけずに生きることはできないんだ」っていう話をしたじゃないですか。

(朝井リョウ)「病院の人に迷惑にならないようにできるだけ家にいよう」って言ったけど、そしたら別のところに迷惑はかかるんだ。何をしても誰かに迷惑がかかるんだなっていう話をしたんですけど。なんかそれってちょっと言葉を言い換えると、何をしてても何かに影響を与えているし。逆に言うと、自分も何かから影響を受けているんだなっていう。本当なんか常に何かと何かに挟まれた状態で自分は生きているんだな、みたいなことを感じたわけですよね。

で、今回のその『テラスハウス』の木村花さんの話も、いろんな言説がありますけど。何て言うのかな? やっぱり本当にその最後の一滴みたいなものを木村花さんに振り掛けたのは、その直接の誹謗中傷の言葉であったりとかを書き込んだ人たちかもしれないなっていうことは思うんですよ。で、それがひとつあるですが……でも、それって最後の一滴でさ、それまでにすごい、もう何万滴もたまって最後の一滴が本人に直接をかけられてしまったっていう形だと思っていて。

やっぱり私はもうすごい無邪気に『テラスハウス』を見ながら、一緒に見ている友達とかと感想を述べ合ったりとかしながら。その本人に直接感想であったりとかを届ける立場ではなくとも、やっぱり「ああ、自分がその木村さんの中に作る泉の中の一滴には間違いなくなってたな」っていうのはすごい考えていて。

(高橋みなみ)そうだよね。なんか皆さんね、見ていらっしゃった方々、いろんな角度からきっと楽しんで見ていらっしゃったと思いますけど。その最後の一滴がどうだっていうことよりも、そのたまった何万滴に自分も入ってたじゃないかな?っていう風に今、思ってる方は多いんじゃないかな?って。

自分も何万滴の中の一滴だった?

(朝井リョウ)そう。で、そのたまった何万滴にはたぶんね、いろんな要素があって。たとえば、私のように楽しんでた視聴者っていうのももちろんあるし。その木村さんに浴びせられていた言葉の中には、すごくやっぱりその女性差別に基づいた言葉も多かったし。あと、今は「ミックス」とか「ダブル」っていう言葉を使いますが。その「前はハーフって呼ばれていたけどもミックス、ダブルっていう風に今は言い替えていきましょう」っていうのとかありますけども。そのミックス、ダブルの方々へのひどい言葉であったりとか、それもやっぱりすごくあったんですよ。

で、私自身は『ASAYAN』が大好きで。それからいろんな……『PRODUCE 101』もそうだし、『テラスハウス』もそうなんですけど。とにかくその芸能人の作られた番組っていうよりは、素人の人たちが……まあ『ASAYAN』だったら本当に「有名になりたい、デビューしたい」っていう。で、『PRODUCE 101』も「デビューしたい」という。で、『テラスハウス』の場合は「恋愛をしたい」っていうのもありつつ、「自分がやってきたことを広めたい」であったりとかっていうその、なにか願望を持った半芸能人・半素人みたいな人たちが集まって。で、それを観察する番組みたいなものが本当に子供の頃から好きだったんだけど。なんか、それを好きだっていうことの奥にある、本当に何を見たがっていたんだろう、とか……だからやっぱり「心をコンテンツ化してるものが好きだったんだな」と思ったの。

(高橋みなみ)心をコンテンツ?

(朝井リョウ)そう。「デビューしたい」とか「恋したい」とか。その人が持つ切実な思いとか願いとかっていうものを整えずに、そのまま剥き出しにされているようなものを見るっていうことが子供の頃から好きだったってことがなんか怖くなってきたの。どんどん。今回のことがあって。

(高橋みなみ)でも、なんか人って本当の自分の人生しか生きられないけど、そういう剥き出しのものも見せてもらえると、「ああ、この人は生きるんだ」とか。まさに、いろんな人の生き方が見えるから、それが面白買ったり、コンテンツとして需要があるっていうのはすごくわかるんだよね。

(朝井リョウ)そう。なんかそのドキュメンタリーとかもそうかもしれないけどさ。やっぱりその本当に泣いてる人とかさ、本当に頑張って血ヘドを吐きながら努力してる人とかっていう姿から受けるプラスの影響ももちろんあったし。で、そのドラマを見てる時には感じられないような種類のプラスの影響みたいなものもあったから。だからやっぱり好んで見ていたっていうところがあるんだけど……やっぱりね、私はその昔、ちょっとこのラジオでも話したことがありますけど。そのプロレスのデスマッチを見に行くことにハマっていた時期があって。

でもね、この話はそのデスマッチを今、やられている方とか、デスマッチが好きで見に行っている方々に何か言いたくてこの話をしてるわけじゃないということはちょっとわかっていただきたいです。私がデスマッチを見てる時に、やっぱり一番初めに見に行ってすごい感動したというか、興奮をして。本当に血が流れるしね、本当に釘とか刺すし。で、やっぱり日常生活ではそういう姿って見ないじゃん? でも、戦う姿みたいなものにすごい感激して結構通ってたんですけど。

なんかある時から……まあ、デスマッチって全部で2時間ぐらいあるんだけど。その刃物が出てくるまでに1時間ぐらいあるのよ。それまでも結構肉弾戦だったりとか、ちょっとコミカルな試合みたいなものがあって、3試合目、4試合目ぐらいからどんどん刃物で人を傷つける試合になっていくんだけど。どんどん、その刃物が出てくるまで待てなくなってきたりとか。やっぱり慣れちゃって。で、刃物が出てきてからも「ああ、前に見たやつだな」とか「前に見た時よりも血が出てないな」とか、どんどんとそういうことを思うようになってきていたわけ。その時に「ああ、私は人が死ぬところを最終的に見ようとするんじゃないかな?」みたいなことを思って。それで自分が怖くなっちゃって、この1年ぐらい行ってないですよ。

でもそれを今、見に行っている人がそういう思いを持って見に行っているわけではないと思うんですけど。私は自分の中に眠る、その「一番悪いことが起きてほしい」みたいな芽があるなと思って。ちょっと怖いなと思ってたんだけど。なんかそれを『テラスハウス』とか見てる時には気付けなかったなっていうことはすごい思いつつ……「子供の頃から見ていたいろんなリアリティー番組を見ている時に、本当は自分は何を見たくて見てたんだろう?」とか考えるわけですよね。

(高橋みなみ)これ、でもどうなんだろね? なんか私、AKB48の時ってドキュメンタリー映画をやっていたんですよ。

(朝井リョウ)そう。あれもさ、やっぱり2のさ、すごい過酷なやつが一番反響がありましたよね?

(高橋みなみ)そうなんです。でも、本人たちからしたら、何かどう皆さんの心をそんなに刺激したのか、分からない部分があって。たとえばメンバーが過呼吸になったりとか、本気で怒鳴っていたり、泣いたりとか。で、結構そのAKBのファンじゃない人も「見ました」って言ってくださる方がすごく多くて。

(朝井リョウ)2は映画ファンがすごく見ていた印象があります。

(高橋みなみ)とてもびっくりしたんですけど。でも、それだけなんかリアルに生きるということが人の心に刺さるだなっていうのも分かったし、それがAKBの魅力なのかなとか思ったけど、なんか結果、本人はその時にマジで傷ついてたりするわけじゃん?

(朝井リョウ)そう。マジで息苦しくて過呼吸になって。でも、そこにカメラが入って……っていうのを求めて見に行ってっていうのがある中でさ、これもその特定の番組のことを言ってるわけじゃなくてね。その、どんどんやっぱり刺激的というか……剥き出しの人間性がテレビとかスクリーンとかに映るっていうことただすごく刺激的っていうことはみんな知ってるからさ、そういう番組がやっぱり増えるじゃない?

リアリティー番組もそうだし、たとえば芸人さんのドッキリとかでもさ、どんどんと「ドッキリでした!」っていうよりは、なんか本当に瞳孔が開いて、人としてすごい反応を見せてるっていうところが放映されるようになっていく感じとかは、なんか友達同士でちょっと話してたりとかもしたんですよね。ここ最近。なんか、それを楽しんでいいのかどうかがわからないというか。

(高橋みなみ)これ、でもいつかなんだろうなとも思うの。

どんどん刺激を求めてしまう

(朝井リョウ)やっぱり刺激がどんどん……っていうことなのかなと思いました。私は自分の人生だけに照らし合わせて考えると。そう。今回のことがあって、私は本当いろんなことが原因にあると思ったんです。マジで。直接……その最後の一滴の人がとりあえず目に見える犯人っぽくなってしまうところがありますけど。その人もそういうことをしたのは、もしかしたら何の理由もないかもしれないけど。本当にその遠くには、ずっと不景気が続いていることとか、雇用が安定しないことだったりとかからの影響でそういう行動に出ている可能性もあるし。

自分の実生活の方でもいろんなことがあって。ずっとその考えることをなんかちょっと放棄してたというか、やめてきたものが30代に入り、こういう状況になり。今まで先延ばしにしてきた考えるべきことがすごい今、目の前に積もっているっていう感じがあります。私の中で。本当にね、木村さんへのコメントには、絶対そうなんだよね。女性差別とミックス、ダブル差別もあったしね。そう。

(高橋みなみ)なんかね、掘り返していくといろんなことがきっと奥の奥で繋がっていて。なにかきっかけ……たとえばコロナが全てではないけど、コロナで家にいてさ、鬱憤がたまっていてさ。そのタイミングで見てさ、どんどんどんどん過熱していったという人ももしかしたら中にはいるだろうし。

(朝井リョウ)そう。それでいろんな事件が起きたじゃないですか。海外でも駅のスタッフの方にツバを吐いて、その方が亡くなっちゃうみたいな事もあったし。そういう事件もたくさん見てるとさ、結構犯人が男性で被害者が女性だったりするわけなんだよね。やっぱり、その体力的に抵抗できない人に行くっていうのとか、いろいろと見て「ああ、考えるのをやめようとしていたことが全部……」って。なんか大変革。コロナですごいいろんなことが変わった時に、人の心も変わって。それで今まで、ちょっと考えないようにしてたことが表に出てきたっていうか。

(高橋みなみ)そうね。本当に人のなんか「膿」じゃないけど。禍々しい部分とか……。

(朝井リョウ)そう。なんか頑張って見えないようにしてきたものがブワーッと出てきたっていう感じがして。で、それがその木村花さんのことですごい明確に私の中で出てきて。

(高橋みなみ)人の命が失われてからでは遅いけど、本当に今、ちゃんと向き合って考えなきゃいけないことがたくさんあるね。

(朝井リョウ)でも、本当に全部繋がってるんですよね。私の頭の中で、ここ最近起きたいろんなことが。そう。大きいところに原因があるなっていう感じがすごい……あるなというところなんですよね。うん……。

タイトルとURLをコピーしました