宇多丸と宇垣美里 全米に広がる人種差別抗議デモを語る

宇多丸と宇垣美里 全米に広がる人種差別抗議デモを語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんと宇垣美里さんが2020年6月2日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でアメリカ中に拡大する人種差別抗議デモについて話していました。

(宇多丸)あとは、そうですね。ちょっとま駆け足になっちゃうけど。昨日もちらりと触れましたけどもね。おめでたくないことが世の中には当然ね、いっぱい進行中でして。今、アメリカは大変なことになっている。皆さん、ニュースでもご存知だと思いますが。ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドさんという男性が警察官にね、膝で抑えられて。「助けてくれ」なんて言っていたのに……。

(宇垣美里)殺されてしまったという。

(宇多丸)文字通り。しかもそれを今、我々はですね、かつてだったら闇に葬られていったようなことがやはり映像としてね、もう生の映像でまさに目の当たりにね。

(宇垣美里)世界中に一気に広がりますからね。

(宇多丸)それによってま怒りのあれが広がって。デモが……一部ではそのたとえば暴動や略奪なんてことも報道されがちですけど。まず、もうとにかくアメリカ社会に関してはやっぱりこの皆さんの怒りはごもっともっていうか。Black Lives Matter運動とかもありましたけども。要は「またか……」っていう。「まだ、こんなことが繰り返されるのか?」っていう。

(宇垣美里)ねえ。6年前にも同じことがあった。その前にも、その前にも……っていうね。

(宇多丸)たとえば、僕の世代だったらやっぱりロドニー・キング殴打事件なんていうのがあって。そこからの、いわゆる通称ロス暴動なんて言われてますけども、同じことですよね。やっぱり皆さんが「もう我慢ならん。この判決には!」っていうことで大暴れすることになっていった。

で、しかもその時に悲しいのは、ロス暴動の時におやっぱり略奪みたいなことが起こった中で、黒人コミュニティーの中でお店を開いていた韓国人のお店の方みたいなのが襲われちゃったりとかしていて。彼らは彼らで自衛しなきゃいけないから、銃で武装して。そこでやっぱり揉め事があったりとかっていう。まあ、それを歌ったラップの曲もあったりするんですけど。それはやっぱり悲しいことじゃないですか。何て言うのかな? 本来はそこが争うこともなかろところが……。

(宇垣美里)結局は実はそのお店って同じような方が開いていらっしゃるたりすることが多かったり?

(宇多丸)ただね、これはもちろんだから地元で一緒に暮らしている、本来は同胞であるはずなんだけど、難しいのはたとえばこれはまさにスパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』っていう作品でも描かれていたことですけども。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』

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地元でずっと仲良くやってきたお店。この『ドゥ・ザ・ライト・シング』という作品で言うとピザ屋さんなんですけどね。仲良くやってきたお店なんだけど、やっぱりその日々の中に、その「黒人コミュニティーで営業しているのに、あんたは全然黒人文化、このコミュニティーに還元もしてないし、リスペクトもないじゃないか」みたいな。日頃からのそういうちょっとした鬱憤みたいな。たとえばちょっとした差別的意識の発露……悪気はなくてもね。そういうものの蓄積があっての、みたいなのもあったりするので。

だから簡単には言えないところもあって。本当に僕は今回のこのジョージ・フロイドさんのこれを見ていて、映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』を本当にまさに連想しました。ぜひちょっと、こういうのってさ、私も含めですけども、日本にいるとなかなか、なぜそういった怒りがここまでになってしまうのかとか、ちょっと想像が付かない部分もあると思うんですけど。まさにそのためにこういう『ドゥ・ザ・ライト・シング』とか。

あとはやっぱりその暴力的なその警官による、「秩序の安寧を目指す」という美名のもとに何でもありにされていく中で行われる暴力。そしてそれにさらされる恐怖っていう意味では、やっぱり僕はキャスリン・ビグロー監督の『デトロイト』っていう、これも実際にあったデトロイト暴動という事件が元になってますけど。そういう意味で『デトロイト』とかも見ると、やっぱりその彼らがいかに恐怖の中に生きているのか。実際にそういう議論が作品の中に出てくるんです。

「なんでこういう時に黒人の人たちはそういう風に暴れてしまうんだ?」って白人の女性に言われた黒人側が「あのね、あなたそういう風に言いますけどね、黒人としてアメリカで生きることの恐怖っていうのはわかるか? 常に死の恐怖と背中合わせで生きているんだ」ということを言われて。そういう議論も含めて、たとえばそういう映画とかで学ぶことも僕らには……まあ、代替的なものですけどね、できますよね。

『デトロイト』

(宇垣美里)同じ気持ちにはなれなくても、思いを馳せるというか。

(宇多丸)「何も知らない」という状態からは少なくてもちょっとはね。で、そんな中でいろいろ、たとえばミュージシャンなんかも声明を出す中で、テイラー・スウィフトがね、ずっと「政治的発言はあまりしない」というようなスタンスだったのが、ここのところトランプ政権とかに対してそのスタンスを変えていて。

(宇多丸)で、ちょうど宇垣さんがまさに、そのテイラー・スウィフトのドキュメンタリーを見たんでしょう?

(宇垣美里)そうなんです。『ミス・アメリカーナ』というNetflixに上がってるドキュメンタリーを見たんですけれども。元々、カントリー音楽出身なのですごくファン層も保守的で。かつ、「いい子ちゃん」でいなきゃいけないし、「人に嫌われたくない、親切にしなきゃいけない」っていうような心情のもとでずっと生きてきたけれども、すごく叩かれたり。それこそ、あのカニエ・ウェストとのいざこざがあったりとか……。

(宇多丸)あれはもう本当にカニエの典型的なやらかし……(笑)。

(宇垣美里)「ひどい!」っていう感じなんですけども。その中で、「もう私は我慢ができない! 私はやっぱり正しい側に立ちたい。いつか、歴史を振り返った時に『あの時に動かなかった人』には私はなりたくない」って。それでその警護担当の人が「でも、これ(トランプ大統領に反対するような発言)を言ったら、殺されちゃうかもしれないよ。命の危険があるかもしれないよ。トランプに刃向かうって、そういうことだよ」って言われても、「それでも私はそうしたいの!」って泣きながら話すところがあって。

そこからやっぱりそのツイートを……「自分の住むテネシー州の上院議員候補マーシャ・ブラックバーンを自分たちの代表にはなってほしくない」っていうことを発言して。でも結局、マーシャ・ブラックバーンは当選してしまうんですけども。テイラー・スウィフトは負けた時に「曲ができた。私たちは若い。負けちゃったけど、次がある。私たちには次がある!」っていうことを歌った曲を作っていて。私、そういう内容の曲だとは知らなかったので、改めてそれを聞き返したりとか。

『ミス・アメリカーナ』

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なんか「もう、黙らない」っていう姿勢ってすごく、何て言うんでしょう? やっぱり勇気をもらいましたし、そんな中、そういう風な歌手がアメリカにはいる中で、日本ではいまだに、何て言うんだろう? 芸能人であるとか、歌手であるとか、そういう人はあんまり政治的な発言をしてはならないというか……。

(宇多丸)いや、最近はね、まさにこの間のさ、「#検察庁法改正案に抗議します」に関して、すごくね、そういうことで発言する人に対してさ……まあ、でもそれはアメリカにもあるとは思うんだよ。

(宇垣美里)もちろん。

(宇多丸)だからこれからはそういうのを、何て言うかな? 恐れずっていうか、だってね、意見を表明する商売でもあるわけですからね。

(宇垣美里)それとはもう無縁ではいられないと思うんですよね。きっとそういう方々ってね。

(宇多丸)そうです、そうです。だし、そういうメッセージを入れていくみたいな。別にずっとね、もちろん音楽、ポップミュージックがやってきたことでもありますし。今後はよりそこは日本のアーティストも全然増えてくると思いますよ、僕は。

(宇垣美里)すごく勇気がもらえるドキュメンタリーでした。

(宇多丸)僕ら世代なんかよりずっと本当にしっかり意識を持って勉強している人。そして発言している勇気ある若者たち世代、いっぱいいますしね。まあおじさんたちもね、それはね、おじさんたちだからダメなところもあるけど、もちろんそういうとこで自分なりに頑張っていこうかなというのあります。

(宇垣美里)よりよく変わっていかなければならないんですよ。

(宇多丸)Netflixの『ミス・アメリカーナ』。

(宇垣美里)そんなに長くもなかったですし。

(宇多丸)それ、見なきゃな。

(宇垣美里)音楽もいろいろ間に入っていて。やっぱり「ステージ、かっこいい!」ってなりますし。おすすめです。

(宇多丸)Netflixでこれを見たよ系で言いますと、先週ね、宇垣さんがおっしゃっていた『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』。これ、スタイリストの伊賀大介さんからも激推しされていて、ようやく見て。その話がいかに素晴らしかったとか。あと、ジェフリー・エプスタインのね、あのおぞましい事件のドキュメンタリー。それもNetflixにあって見たよとか、こういう話は今日はおそらく放課後ポッドキャストをスタッフ一同と録ったりしますので。宇垣さんもお時間があれば。よろしければよろしくお願いします。

(宇垣美里)もちろんです。『ハーフ・オブ・イット』について語りましょう!

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(宇多丸)ぜひぜひ。今、思い出してもちょっと鼻が……。

(宇垣美里)ウルッと来ますよね!

(宇多丸)思い出しても鼻をすすりそう。メッセージとしても素晴らしい作品でしたね。

<書き起こしおわり>

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