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町山智浩『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』を語る

町山智浩『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』を語る たまむすび
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町山智浩さんが2020年5月12日放送のTBSラジオ『たまむすび』TBSラジオ『たまむすび』の中でネットフリックスで配信されている映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』を紹介していました。

(町山智浩)で、今日は『日の名残り』から始まる映画を紹介します。はい。ちゃんとつながってます。前振りでした。

(外山惠理)はい。

町山智浩 著名人の「政治的発言」日本とアメリカの違いを語る
町山智浩さんが2020年5月12日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でTwitter上で広がった「#検察庁法改正案に抗議します」についてトーク。著名人の「政治的発言」について日本とアメリカの違いを話していました。

(町山智浩)今日はネットフリックスで配信され始めたた『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』というタイトルで。これは「その半分」っていう意味なんですね。で、これは高校のラブコメなんですよ。

(山里亮太)ラブコメ。はい。

(町山智浩)で、田舎の高校が舞台なんですけども。もう全然、アジア人がいない、白人しかいない田舎の高校がありまして。そこでたった1人の中国人の女の子が主人公です。その子はエリー・チューちゃんっていう子なんですけども。その子は周りにアジア人が1人もいないし、差別されてるから、友達も誰もいないんですね。ただ、勉強がものすごくできて、本がすごく大好きなので、本を一生懸命読んでいて。それで論文とかを書くのが得意なんですよ。

で、お父さんはですね、鉄道で働いてるんですけど、お母さんが交通事故で死んでしまったショックで完全に引きこもりになっちゃって、家からほとんど出ないで映画ばっかり見てるんですよ。アジア人で映画ばっかり見てるなんて、お父さんは俺みたいな人なんですけども。年齢も同じぐらいなんですが。で、その娘はお父さんがあまりにも収入がないのもあって、レポートの代行をやっているんですね。友達からお金をもらって代わりにレポートを書いているんですよ。それ以外では友達とは何の付き合いもないんですけども。

その時、あるスポーツマンというか、まあちょっとねどんくさい男がやってくるんですね。ポールっていう。で、「俺は頭悪くてさ、文章とか書けないんだけど……ただ、好きな子がいるんでラブレターを書いてほしいんだよね。俺は書けないから。君、勉強できるじゃん?」って言って。それで「アスターっていう女の子が好きなんだけど、その子へのラブレターを代わりに書いてくれない? お金、あげるから」っていう風にそのポールに言われるんですよ。で、で最初は断るんですよ。なぜかというと、そのアスターという女の子はクラスで一番の美人なんですけども、その子のことをこのエリー・チューちゃんは好きなんですよ。

(山里亮太)ああ、なるほど。

(町山智浩)彼女は女性が好きな女の人なんですよ。で、これね、監督はアリス・ウーという中国系の女性の監督で、この話は彼女に実際にあったことです。

(外山惠理)へー!

(町山智浩)で、断るんですけど。私は「アスターさんが好きだから、そんなことはできないわ」と思うんですけど、お金がないので家を立ち退かなきゃならないみたいなことになってくるんですね。で、仕方なくそのラブレターの代筆をやるんですよ。そういう話がこの『ハーフ・オブ・イット』っていう話なんですね。

(山里亮太)うんうん。

ラブレターを代筆

(町山智浩)ところが、いつも彼女が読んでるのがそのカズオ・イシグロの『日の名残り』なんですよ。で、その主人公の執事というのはその政治的発言をすることをずっと自分に禁じていたんですけど、もうひとつ、彼が禁じていたことは「愛」なんですよ。「誰も愛してはいけない」と思って、好きな人がいても絶対にそれを言わないで生きてきた人がその執事なんですよ。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)だからそれはこの主人公のエリーちゃんとダブっているんですね。『日の名残り』はご存知ないですか? 見てないですか?

(山里亮太)いや、見てないです。

(外山惠理)見てないです。

(町山智浩)そうか。これ、ものすごくいい映画なんですよ。ぜひご覧になっていただきたいですけども。「自分の気持ちを出さない」ってことがどれだけ自分の人生をダメにするかっていうことの映画なんですよね。でも主人公の彼女はそういう人なんですね。まず、田舎だからレスビアンであることが知られたら、もういられないんですよ。で、そこはカトリックの土地なんですね。周りはみんなカトリックだったりするんですよ。そうすると、同性愛は禁じられてるから言えないっていうことで、絶対にその自分の気持ちは言わないでいるんですけども。で、ラブレターを代わりに書いていくんですけど、カズオ・イシグロの『日の名残り』を読んでるのをその街一番の美女のアスターが見て「ああ、これ『日の名残り』ね」って言うんですよ。

(外山惠理)へー!

(町山智浩)アスターはわかっている人……たぶん、その街で1人だけその『日の名残り』を読んでいる人なんですよ。おそらくね。だから「このラブレター、ちょっといい感じのものにしなきゃいけない。彼女は本を読んでる人だから……」っていうことで一生懸命、エリーちゃんが書くんですけども。で、その時にお父さんがテレビで『ベルリン・天使の詩』を見ているんですね。で、この『ベルリン・天使の詩』っていうのもすごいいい映画なんですよ。これね、天使が主人公なんですよ。おっさんなんですけど。

天使は人を助けることはできるけど、人を愛することはできないんですよ。でも彼はずっと人が人を愛したりしているのを見ていて、どうしても人を愛してみたくて、人間になるんですよ。地上に降りて。その時に好きな人ができて、「僕はずっと愛という気持ちが心の中に満ち溢れてくるということを待ち望んできたんだ」っていう風にその天使が言うんですよ。で、そのセリフを聞いて「これがいい!」っていうことでラブレターに書いちゃうんですよ。エリーちゃんが代筆しているアスター宛のラブレターにね。

そうすると、返事が返ってくるんですけども。「私もヴィム・ヴェンダース、好きよ。でも、パクらないでね」っていう。「バレた!」っていう手紙なんですよ。『ベルリン・天使の詩』はヴィム・ヴェンダースの作品だから、彼女も見ているわけですよ。で、このエリーちゃんは「彼女、すごい! 私と同じものを見て、同じものを読んでいる!」って想うんですよ。で、そこからどんどんラブレターにやり取りをしていくと、お互いに好きなものが同じだから、どんどんどんどんラブレターが盛り上がっていくんですよ。

(山里亮太)わあ! でもね、本当はポールが……。

(町山智浩)だからポールが出したことになっているんですよ。ポールは本当にね、気のいい男なんですけども、貧しくてあんまり勉強とか本とかに触れてこなかった人なんですね。まあスポーツばっかりやっていて。で、ただ彼女のことが好きだから、そういうラブレターをやり取りさせてるんですけども。ここからがすごくて。そのポールの手伝いをエリーちゃんがしているうちに、ポールはバカじゃなくてすげえいいやつだっていうことがわかってきちゃうんですよ。

(外山惠理)へー!

すげえいいやつ、ポール

(町山智浩)そのエリーちゃんは要するに中国人だから、街の人がいじめたりするわけですよ。名前をからかって「チュー、チュー」とかって言って。1人しかいないチャイニーズだから。そうすると「なんだよ、バカヤロー! お前ら、差別するんじゃねえよ!」ってポールはやってくれるんですよ。

(山里亮太)ああ、いいやつ!

(町山智浩)いいやつなんですよ。で、最初はバカにしていたんだけれども、2人でラブアタック大作戦をするわけですよ。古いですけども。そのアスターちゃんをモノにするためにね。で、そうしているうちにポールがどんどんいいやつだっていうことがエリーにもわかってきちゃうんですよ。それで、彼女はレスビアンだから、男性を好きになったりすることはないんだけれども、親友になっていくんですよ。本当に。

(外山惠理)いい話!

(町山智浩)いい話なんだけど、ものすごく困ったことになってきますよ。これ、どんどん。すごい困ったことになりますよ、これ。あのね、この監督は実際に男性の親友がいたんですね。で、男性の親友がいて、一緒にいたらその男性に彼女ができて。そしたら彼女があまりにもその監督のアリスさんと彼氏が仲良くしてるから、すごい嫉妬をしたんで。それで3人共がバラバラになっちゃったっていうことを経験したんですって。で、それを何とか映画にしようとしてこの話を書いたんですけれども……ただ、それだけだと悲しいだけの話なんですよ。

(外山惠理)そうですね。

(町山智浩)ところが、彼女が拾ってきた話っていうのがあって、これを物語してまとめるために別の話を持ってきてるんですよ。それは、ヨーロッパの古典なんですけど、フランスの『シラノ・ド・ベルジュラック』っていう話をご存知ですか? 日本でもいっぱいお芝居になってますよね。宝塚とか。

(外山惠理)鼻が特徴的な。

(町山智浩)その通り。鼻がとても大きいシラノという剣豪がいたんですね。これ、基本的に話はチャンバラなんですよ。で、彼はとにかく剣の腕も立つし、勇気もあって。しかも文学の才能、詩の才能がある。ただ、鼻がものすごく大きかったので恥ずかしくて、恋をしないで来た人なんですね。ところがそこにクリスチャンという若い騎士が来て。「あなたの文才を私の好きな彼女に対するラブレターとして書いてくれないか?」と代筆を頼まれるんですよ。ところがそのクリスチャンの好きな彼女というのがシラノがずっと片想いをしていたロクサーヌという人だったんですよ。

(山里亮太)はー、なるほどね。

(町山智浩)だからシラノはクリスチャンのふりをしてそのラブレターを書くんですけど、それは自分自身のロクサーヌに対する本当の気持ちを書いていくんですよ。だからものすごく心がこもっているからロクサーヌはどんどんそのラブレターを読んでクリスチャンの方が好きになっちゃうっていう話なんですよ。で、この話もどんどんどんどん、一生懸命ラブレターを書いていくとアスターはどんどんどんどんこのラブレターを書いた人を好きになっていくんですけど、それはポールなんですよ。だからどんどんと困ったことになっていくんですよ。で、そのポールがもう彼女のために勉強しようっていうことになるですね。

(外山惠理)それしかないですよね。

(町山智浩)そう。で、サルトルの勉強をするんですよ。フランスの哲学者サルトルの。それで『出口なし』という戯曲について、彼女が好きだからそれを研究するということになるんですね。そうすると、ポールはものすごくスポーツマンで根性はあるから。スポ根の人だから「勉強する!」となると一生懸命、勉強をするんですよ。「がんばるぞ!」とかってやるんですよ。「サルトルをマスターするぞ!」「おーっ!」ってやるんですよ。

(外山惠理)うんうん。

(町山智浩)ところが、そのサルトルの『出口なし』という曲は人間関係についての話で。3人が閉鎖されたところに閉じ込められるっていう話なんですね。で、そこで本音をぶつけ合っているうちにどんどんと辛くなっていくっていう話なんですよ。そこで出てくる言葉が「地獄というものは他人なんだ」っていうセリフなんですね。人はわかりあえなくて、コミュニケーションとか人間関係っていうものは地獄なんだとという言葉が出てくるんですけど、それを読んだポールが「これって君だよね?」ってエリーに言うんですよ。

「君、そうやって自分の心を閉じて、人に対して心を開かないでずっと来てるけども、それってどうなの?」っていう話をしだすんですよ。だからエリーはポールをインテリジェンスにね、知的に育てようとしてたのに、逆に彼によって一種、教育されていくんですよ。心を開くということを。いい話なんですよ。すごいいい話なんですよ。で、ところがそれをやっていくうちに、今度はポールがエリーを好きになっちゃうんですよ!

(山里亮太)はー!

(外山惠理)そこまで言っちゃっていいんですか?(笑)。

『出口なし』状態に……

(町山智浩)「どうしたらいいの?」っていう。だからもうどこにも行き場がない、出口なしになっていくんですよ。『出口なし』っていうのは3人のどこにも行き場のない話なんですよ。サルトルの。その状況になってくるんですよ。

(外山惠理)好きになっちゃうかー!

(町山智浩)もうそういう、「どうしたらいいの?」っていうね、話なんですよ。

(山里亮太)これ、映画ということは、ちゃんと映画の中で結末はあるわけですね。

(町山智浩)でね、このタイトル『ハーフ・オブ・イット』は「その半分」という意味なんですけども。これもね、ギリシャの哲学者のプラトンが言った言葉なんですね。人はなぜ、一目惚れするのか?っていうのは、誰にも解明をされていないんですよ。はじめて会った人をいきなり好きになっちゃうことってあるでしょう? その人について、何も知らないのに。それがきれいだからとか、美男子だからとか、そういう理由じゃない時が多いですよね。容姿を越えて、いきなり好きになることがある。それはなぜかというと、その昔、その人とあなたはひとつの生き物だったんだっていう説なんですよ。

(外山惠理)素敵! ベター・ハーフ。

(町山智浩)そうなんです。ところが、前世でそれが切り離されてしまった。だから自分の足りない半分を見つけたからいきなり好きになるんだっていう。

(外山惠理)山ちゃん、今本当にグッと来ているでしょう?

(山里亮太)そうですね。そういうのがわかるようなハートを持てるようになったよ!

(町山智浩)山ちゃん、見つけた?

(山里亮太)『ハーフ・オブ・イット』を!(笑)。

(町山智浩)もうね、これは高校生の話なんですけど。これ、監督自身が50歳の人なんでね。すごく年齢を超えた全ての人に届くようなね、いいドラマで。しかも笑わせるし。

(外山惠理)本当。ただのラブコメディじゃないっていう感じがする。

(町山智浩)でもこれ、コメディっていうのは困った状況に置かれるのが一番の笑いですからね。「これ、どうするの?」っていう話でめちゃくちゃ面白いんでね。ぜひ見ていただきたいと思います。『ハーフ・オブ・イット』でした。

『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』予告編

(外山惠理)現在ネットフリックスで配信中ということで。もう毎週、町山さんがご紹介されるのがすごい興味があって。どんどん見ちゃう。町山さん、ありがとうございます。

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

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