宇多丸 ビズ・マーキーを追悼する

宇多丸 ビズ・マーキーを追悼する アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2021年7月19日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で亡くなったラッパーのビズ・マーキーさんを追悼していました。

(宇多丸)ということで、ちょっと……まあ「不快な」と言っていいでしょうね。話題から始まってあれなんですけども。続いてまたちょっと、訃報なんですよね。この間、磯部涼くんが来て。2021年上半期のヒップホップの話をした時に、割とアメリカではお亡くなりになる方が多いっていう話をして。あのリストの中で僕、この番組でも話していたのに、磯部くんとの話題の中でうっかりそこを忘れちゃっていたけども。ショック・Gというデジタル・アンダーグラウンドっていう2パックが所属していたことでも知られるクルーの。まあ、2パックも死んじゃいましたけども。ショック・Gも最近、亡くなられてという。ちょっとそこ、リストから落ちちゃっていて申し訳なかったけども。

宇多丸 Shock Gを追悼する
宇多丸さんが2021年4月23日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でデジタル・アンダーグラウンドのショック・Gさんを追悼していました。

(宇多丸)で、そういう……DMXとか結構ラッパーとしてビッグネームの方がお亡くなりになったという訃報が続く中、ちょっとこれは僕とか、RHYMESTERメンバーというか。我々世代のヒップホップ好きはもう……僕は正直、ちょっと泣いちゃいましたっていうぐらい。結構ガツンとショックなニュースがあって。ビズ・マーキーさんというラッパー、プロデューサー、DJとして活躍されていた方が7月16日、57歳という。お若いんですけどもね。亡くなったと。

ずっと糖尿病で闘病をされていたというのは伝わっていたんですけども。死因が直接どうだっていうのは聞こえてきてないんだけども。糖尿病で長年闘病をされていたというのは聞いていて。結構、ファットなというか、そういう感じの方だったんで。で、ビズ・マーキーがどういう人か?っていうと、彼が活躍していたのは80年代から90年代にかけて。でも、ずっとその後もヒップホップをしていて。キャラクターで言うとね、皆さんに一番わかりやすく言います。ジミー大西さんみたいな感じです。

(山本匠晃)はー! 愛されキャラクター?

(宇多丸)ヒップホップ界のジミー大西さんみたいな感じだと思ってください。そう。愛されキャラで、天真爛漫な感じで。ちょっとヘタウマ感というか。ラップもヘタウマ。でも、ビズ・マーキーにしか出せない味というものがあって。ある種の天才性もあって。まず、「愛され」という面がある。で、なんでビズ・マーキーがそんなにすごく愛されていたか?っていうと、そういう三枚目キャラというかおどけキャラ。たとえば代表曲で『Pickin’ Boogers』っていう曲があって。これは鼻クソほじりですから。

(山本匠晃)鼻クソほじりとは……?

(宇多丸)写真を撮る時にも鼻クソをほじるポーズを取るみたいな。そういう感じの愉快な人なんですけども。

(山本匠晃)ああ、そうなんですね(笑)。

ヒップホップ界屈指の愛されキャラ

(宇多丸)でも、僕の考えるヒップホップのイズムをものすごい体現している人でもあって。まあ、僕だけじゃないですけど。だからこそ、愛されている。ある意味、ヒップホップの象徴ぐらいの存在だから愛されている。どういうことか?っていうのをちょっと説明したいんですが。まず、1曲だけ軽くだけども。これは1986年とかかな? 87年かな? 『One Two』っていう曲なんだけども。

(宇多丸)これ、ヒューマンビートボックスと同時にラップをしているんだけども、ビートを口でやりながら、同時にラップをして。1人の人の同じ口でやっているんです。

(山本匠晃)ビートを口でやりながら?

(宇多丸)そのビートの合間でラップをする。その隙間隙間に入れてやっている。で、今でこそヒューマンビートボックスが上手い人はたくさん出てきて、技術も上がってきて。こういうことができる人はいますけど。当時は「すげえ!」ってなって。これ、ちなみにMummy-Dさんは2000年代の頭ぐらいかな? この技を完全にマスターして。一時期、RHYMESTERのライブでこれで自己紹介をしていました。めちゃくちゃかっこよかったんですけども。

(山本匠晃)今、聞いてもかっこいいですね。

(宇多丸)まあ、こんな感じですごいかっこいい曲もある人なんですけども。でね、いろんな愉快な曲があるんだけども、実はその愉快な曲の中で、たとえばあれは90年代かな? 4枚目のアルバムかな? 出した時に『Alone Again』っていうギルバート・オサリバンさんの超有名な曲をサンプリングして。「Alone Again♪」ってまたヘタウマな感じで歌うのがすごくいいんですけど。そういうラップのシングル曲を出したんですよ。


(宇多丸)ところが、80年代から90年代にかけてヒップホップのサンプリングによる音作りっていうのがすごく主流化して。みんなそれですごくヒップホップが進歩をしたんだけども、当時はやっぱり法的なクリアランス(許諾)をちゃんと取らずにやっていたんですね。わかります? 許可なしでやっていたの。で、それが慣例だったの。元々ヒップホップって小さいシーンだから。そんな、せいぜい100枚とか1000枚とかの単位だから、そんなに問題にはならなかったんだけど。

でも、だんだんだんだんヒップホップが大きくなる中でそれが問題視されるようになり、ついにこのビズ・マーキーが出したこの『Alone Again』がギルバート・オサリバンさんから裁判を起こされちゃって。で、出したアルバムが全回収になっちゃったの。つまり、その最初のヒップホップの人のレコードを使ってなんかやるっていうストリート文化ならではの体現者が、まさにそれゆえにつらい目にあっちゃったわけですね。

ギルバート・オサリバンとのサンプリング裁判

(宇多丸)ところが……ビズ・マーキーがその次のアルバムのシングルとして切ってきたのが、次にかけたい曲で。それが『Let Me Turn You On』っていう曲なんですけども。これは聞いていただければわかるんですけども。マクファデン&ホワイトヘッドの『Ain’t No Stoppin’ Us Now』っていう、いろいろな曲にサンプリングされて元ネタにもなったりしているディスコクラシック。その上に……これはクリアランスをちゃんと取っているわけです。しかも、そのビズ・マーキーのアルバム・タイトルも『All Samples Cleared!』。「全曲サンプリング許可を取っています」っていうタイトルなんですよ(笑)。

(山本匠晃)そのタイトルにしたんですね。すごい(笑)。

(宇多丸)で、その『Ain’t No Stoppin’ Us Now』っていう曲の上に乗せてビズ・マーキーが……もはやラップじゃないんです。ドヘタ……じゃなくて味のあるオリジナルの歌を勝手に乗っけて。いい湯加減で歌っているんです。つまり、それはまずひとつ。さっき言ったギルバート・オサリバンの裁判で明らかになったサンプリングにまつわる法的な問題に対して、ある意味超……「これ、完全に合法ですから!」っつって人の曲の上で歌った曲をバーンと出す。

なおかつ、こうやってディスコクラシックの上で歌っぽいものを乗っけるというものはヒップホップの黎明期にDJハリウッドという人がいて。その人がやっていたヒップホップ黎明期のスタイルへのオマージュでもあるんです。ということで、ラップは乗っていないけど、この曲こそヒップホップの精神の体現でもあって。しかも、めちゃめちゃハッピーで楽しい気持ちになる曲で。今でも、たぶんビズ・マーキーの訃報が流れて世界中のヒップホップ好きな人。あるいはクラブ、ラジオがこの曲を流して。そしてみんな、大合唱をしています。ということで、93年のアルバム『All Samples Cleared!』に収録されている曲です。ビズ・マーキーで『Let Me Turn You On』。

Biz Markie『Let Me Turn You On』


(宇多丸)はい。ビズ・マーキーの『Let Me Turn You On』、聞いていただいております。もうね、どの瞬間、どのダンスフロア、どの場所で聞いてもハッピーな気持ちにさせてくれる……でも、さっき言ったようにものすごいヒップホップ的な反骨精神。そしてヒップホップの歴史へのリスペクトも入っているという、まあ見事な1曲なんですよね。

(山本匠晃)またお声から人柄が伝わってきますよね。

(宇多丸)もう最高。大好きよ。ちなみに特に日本の怪獣物が大好きで。モスラのヒモを吐くラジコンとかプレゼントされて大喜びみたいな。だからビズ、『ゴジラvsコング』を見れたかな? とかね。うう、ビズ……もう本当、泣いちゃっていますけども。

(山本匠晃)僕も、聞きます。

(宇多丸)ということでぜひビズ・マーキー、素晴らしい作品の数々をいっぱい出していますので。皆さん、この機会に。ビデオとかも本当に素晴らしいんで。『Spring Again』とかも本当に素晴らしい曲なんで。聞いてくださいね。ビズ、ありがとう!

(中略)

(宇多丸)ちょっとビズ・マーキーが亡くなられたという話をしましたけども。改めて……だから先週月曜日にやったデュラン・デュラン的なかっこよさの真逆っていうか。

(山本匠晃)イケメン集団の真逆の。

(宇多丸)そう。なんというか……でも、僕はそこがヒップホップをものすごく好きになる、のめり込んでいったイズムのひとつで。要するに、その人のその人らしさのまんまを出していくだけですごく魅力的に……輝くし、かっこいい表現もできるしっていう。そのヒップホップの懐というか。「ああ、これなら俺も輝けるかも」って思った。だから、そういう意味でビズってものすごく体現をしているんですよ。そのイズムを。ということでビズ・マーキー、お疲れ様でした。

<書き起こしおわり>

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