宇多丸と井出草平 香川県ネット・ゲーム依存症対策条例の問題点を語る

佐久間宣行 香川県議会ネット・ゲーム依存症対策条例成立を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2020年3月19日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で香川県議会で成立したネット・ゲーム依存症対策条例について、井出草平さんとその問題点などについて話していました。

(宇多丸)はい。そのことは置いておいてですね、ちょっと重要なニュースがございまして。報道といいますか。こちら、宇内さん、読んでいただけますか?

(宇内梨沙)はい。香川県議会では昨日、ゲームの利用時間を1日60分などと定めた全国初の条例「県ネット・ゲーム依存症対策条例」を賛成多数で可決、成立しました。この条例は18歳未満のゲーム利用を1日60分、休日は90分に制限するというものです。またスマートフォンとゲームは中学生以下は午後9時まで。それ以外は午後10時までに止めるのを目安に、家庭でルールを作って守るよう義務づけています。しかし条例の素案が非公開の検討委員会で議論され、議事録も取られていない密室で決められたことに批判の声が上がっているほか、条例の素案に対するパブリックコメントについては「賛成のための動員があったのでは?」という疑惑も指摘されています。多くの反発を受ける中、条例は4月1日に施行されます。

(宇多丸)ということで、まあ端的に私……私の所感を申すならば、「なにを言ってやがるんだ?」っていう。「なんて馬鹿げた法律を作るんだ」というのが私の所感でございます。その、何を根拠に……何がどのぐらい害で、みたいなことが科学的にそこまで証明されているわけでもないというか。むしろそんなことは関係ないというような結果もいろいろと出ている中、やっぱり端的にまずその人権を制限するようなことというのは一番最後に……最終手段。

(宇内梨沙)最後の選択肢として。

(宇多丸)うん。最後の最後の最後の……でも、そんなことは基本的にはやっちゃダメですよ。

(宇内梨沙)本当に今のコロナウィルスの感染拡大レベルでではないと……。

人権を制限する条例

(宇多丸)それだって「要請」だったりするわけじゃないですか。これ、「義務付ける」って言っているけど、罰則とかも特に規定はないみたいなので、まあザル法なのかもしれないけれども。でも、やっぱりお上が決めて、制限をするというもので。そんなこと、簡単に言わないでくれる?っていう。まあ、とにかく非常に重大なことをおっしゃっているにも関わらず、その根拠が非常に薄弱だし。

どういうことなのか……まあ、ひょっとしたら何らかの偏見に基づいているのではないか?っていう風に思ってしまうんですね。成り立ちの不透明さから言っても。といったあたりで、ちょっと私どもでブース化言っていてもしょうがないので、専門家のお話をうかがってみましょうということで。本日は『ひきこもりの社会学』の著者で社会学と精神医学が専門の井出草平さんとお電話がつながっております。もしもし?

(井出草平)はい、もしもし。

(宇多丸)はい。よろしくお願いします。

(井出草平)よろしくお願いします。

(宇多丸)ということで、井手さんは大阪府のひきこもり支援事業にも関わっていらっしゃるということで。そういう活動もされているようなんですが。ということで、まずは今回の香川県議会の条例に関して、井手さんの率直なご意見をうかがっていいですか?

(井出草平)そうですね。率直な意見と言えば、宇多丸さんとほぼ同じになるんですけれども。僕は一応科学者ですので、条例に科学的根拠があるのか?っていうのがやっぱり一番の注目点ではあります。で、結論から申し上げると、残念ながら科学的な根拠がない結論でして。ゲームやインターネットへの依存というのは現実には存在することなんですけれども、研究でも不十分ながら……まあ最近の出来事ですので不十分ながらもわかってきていることはあります。

(宇多丸)はい。

(井出草平)で、その香川県の条例っていうのは「時間制限をして依存症の予防しよう」とか、「治療をしよう」という、そういう発想に基づいているんですけど。

(宇多丸)たしかに、言っていることは「時間の制限」ですね。

(井出草平)そうなんですけども、「依存と利用時間というのは関係がない」ということが少ない研究の中からでも分かっていることなんですね。

(宇多丸)ああ、ここはむしろわかっているところなんですね。

依存と利用時間は関係がない

(井出草平)そうなんですよ。それをむしろ持ち出してるというところに矛盾があるんじゃないかなと思っているわけですね。

(宇多丸)条例の前提となっているロジックがそもそも間違いであるということが。まだ研究が十分でない中でも最初に分かってきたことだよっていう?

(井出草平)そうですね。まあ、皆さんのご興味があることなので研究者も調べるわけですけれども。「関係がない」ということはほぼ確実に言えることかなと思います。

(宇多丸)これ、法律を決めるにあたって、決めている政治家の皆さんはその程度の勉強もしていないんですか?

(井出草平)ええと……まあ、そうですね。していないんだろうと思います。県議会で今回、ゲームとかの依存の予防の対策を主導的に進めた大山一郎という議員の人がいるんですけれども。彼、大山さんは2000年代からゲーム依存の問題をたびたび取り上げてきてまして。早くからゲームの害に関して興味を持たれていた方ではあるんですね。

(宇多丸)問題意識として持たれている方ではあったという?

香川県議会・大山一郎氏の考え

(井出草平)そうなんですよ。ですけれども、県議会での答弁なんかを見ていると、たとえばその「ゲームと覚醒剤は同じ」という発言があったりとかですね。

(宇多丸)え、ええ……端的に言って「違います」としか言えない……。うん。

(井出草平)あとは「学習障害とかADHD(注意欠如多動性)といった発達障害はゲームが原因だ」っていうのを議会で言っていたりとか。

(宇内梨沙)ええっ! 何を根拠に?

(宇多丸)でもそれは、はっきりとかなり問題がある発言ではないでしょうか?

(井出草平)そうですね。はい。

(井出草平)まだありまして。フリーター、ニートといった就労問題。これもゲームをやった人、ネットをやった人は前頭葉機能が低下してそういう風になっているという……。

(宇多丸)ええっ! ひどい! ちょっと待ってくださいよ……。

(宇内梨沙)えっ、根拠は? 全て納得ができる根拠は提示されての上でなんですか?

(井出草平)いや、根拠はなくて。大山さんが思うところを述べていらっしゃるという。

(宇多丸)いや、でもかなり昨今のというか、普通に人権意識に照らしてもかなり問題がありすぎな発言ですし。政治家というその社会の構造を構築する人たちがフリーター・ニート問題をそういう認識で捉えてるってのはかなり、ちょっと絶望的な……。

(宇内梨沙)それらの問題はゲームを規制すれば解決すると思ってらっしゃるんですか?

(井出草平)そういうことだと思います。

(宇多丸)本気で思ってらっしゃるんですかね?

(井出草平)はい。おそらく本気で思われていて。本人は至って真面目で。「社会に貢献しよう」という意志をお持ちですので。

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