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磯部涼と宇多丸 田島ハルコ『ちふれGANG』『¥70 rings』を語る

磯部涼と宇多丸 田島ハルコ『ちふれGANG』『¥70 rings』を語る アフター6ジャンクション
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音楽ライターの磯部涼さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さん、宇内梨沙さんに田島ハルコ『ちふれGANG』と『¥70 rings』を紹介していました。

(宇多丸)今夜は音楽ライターの磯部涼さんをお呼びしてお送りしている不定期音楽企画、日本語ラップの最前線レポート・秋をお送りしております。ということでさっそくね、どんどん曲を行ってみましょう。

(磯部涼)まず1曲目は feat. ワッショイサンバで『ちふれGANG』。

田島ハルコ『ちふれGANG feat.ワッショイサンバ』

(宇多丸)お聞きいただいているのは田島ハルコ『ちふれGANG feat.ワッショイサンバ』ということなんですけどもこの「ちふれ」というワードに宇内さんがものすごく反応してて。

(宇内梨沙)まさかタイトルにそんな「ちふれ」が入っているとは……。

(宇多丸)ちふれとは?

(宇内梨沙)いわゆる、とっても安く買える化粧品なんですよね。このいまの歌詞の中に「ちふれ、キャンメイク、セザンヌ」ってあったんですけど、この三つは特に500円以下でリップだったり、眉をを書くやつだったり、アイライナー、目の際に引くやつだったり。そういう物が安く買える……だから女子高生の時とかでも手を出しやすい感じのもので。

(宇多丸)そういう安い化粧品でも、自分が心地よくかわいく着飾ってられるっていう。

(磯部涼)「300円のリップで何にでもなれる」っていう。ワープアとか非正規みたいなワードも出てきたりしますけども。あえて、その安いもので何にでもなれるみたいな話で。順番に僕が知ってる範囲で説明していくと……田島ハルコさんはストレートなヒップホップアーティストとはまたちょっと違う感じじゃないなとは思うんですが。元々バンドをやってたりとか、いまもそういうポストパンク? シャンプーハッツっていうバンドでボーカルとギターを担当されていたみたいなんですが。あとはアートをやったりとか。それで、ビートも自分で作っていて、アートワークもやって。ビデオもいま、見ていただいたんですけども。

(宇多丸)僕ら、見ていたんですけども。ちょっとやっぱりヴェイパーウェイヴ的センスと言いましょうか。チープさがまたかわいい、かっこいいというようなね。

(磯部涼)あとはこの色使い、ビビッドな感じもなかなか独特ですけど。で、これは7月に出たアルバムの『kawaiiresist』っていうアルバムに入ってる曲だったりとかするんですけど。『kawaiiresist』ってタイトルも象徴的かなと思うんですけど。割といまの新しいフェミニズムみたいなのともリンクしている感じもあるというか。この曲のテーマもそうですけど、女性をエンパワーメントするようなテーマっていうのが多くて。

田島ハルコ『kawaiiresist』

(宇多丸)うんうん。

(磯部涼)元々、だがそういうニューウェイブ的な方向性でやってたのかもしれないけど、このアルバム『kawaiiresist』に関しては完全にそのいまのラップミュージックに影響を受けていると言うか。あるいはその型の中で表現するということで。

(宇多丸)フォーマットをすごく上手く使ってるなっていう感じがしましたけど。

(磯部涼)あるいはそれっていまの日本のラップに足りなかったもの、欠けていたものを埋めているみたいな。翻って言うと、そう言うこともできるなっていう風に感じたんですよね。

(宇多丸)なるほど、なるほど。

(磯部涼)その、いわゆる「フィメールラップ」みたいな歴史があるんじゃないすか。女性ラッパーのことをなぜか「フィメールラッパー」って言う伝統ってありますよね?

(宇多丸)「フィメールMC」とかね。まあ、要するにあんまり数が多くなかったからなんだけども。

(磯部涼)そうそう。そのいわゆる「女性ラッパー」っていうくくられ方をしちゃうみたいな。

(宇多丸)いまはもう、最近はちょっとあれかもしれないけども。

(磯部涼)まさにそうなんですよね。アメリカだったらカーディ・Bっていうラッパーがもう結構頂点になっちゃったりとか。

(磯部涼)ものすごい数の女性ラッパーたちが活躍してるし。最近でもラプソディっていうラッパーのアルバムとかすごいよかったりしますけども。

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(宇多丸)だからもうサブジャンルではなくなったから。で、そのマチズモ的なものもだいぶマシになってきてるみたいなのもあるんですかね?

(磯部涼)そうそう。それで日本もあっこゴリラだったりとかちゃんみなだったりAwichだったり……やっぱりアメリカに比べて数という意味では少ないのかもしれないけど、どんどんと、いわゆるフィメールラッパーという形でくくらなくても多様な表現が出てきてっていう。その中で田島ハルコさんもわざわざフィメールラッパーっていう風にくくらなくても、本当にコンシャスラッパーだなっていう風にこの歌詞とか見てると思うんですよね。

(宇多丸)いまはもう昔みたいな、そのプロパーのラッパーなのかそうじゃないのかみたいな線引きなんてできないから。だし、特にトラップ以降はある種のフォーマットがはっきりある分、それを利用して伝えたいことをやるみたいなのがいろんな方向に開放されたのかなっていうのがあって。

(磯部涼)だからある種、ここで言われてる「ちふれ」っていうのが「トラップ」に置き換えられるっていうか。誰でも使える、ある種安っぽいビートって言われるようなものなんだけど、何かに変わることができるものみたいな、そういう置き換えにもできるなっていう風に感じたりしたんですけども。でも、田島ハルコさんの世界観って全部を自分でやっているからこそ。彼女のが書いたnoteっていうブログみたいのがあるですけど。「ニューウェーブギャル」っていうのをコンセプトにしているということで。

ニューウェーブギャルというコンセプト

(宇多丸)うんうん。

(磯部涼)「ギャル」っていうのはそもそもそメイクアップによって人種も超えちゃうし、自分自身をも超えちゃうみたいな。そういう「ネオギャル」っていうムーブメントがあったらしいんですけども。それにすごく影響を受けて。ただ、自分はそのネオギャルにはなりきれないっていうところでニューウェーブの……ニューウェイヴっていう音楽ジャンルが昔、あるんですけども。それって素人っぽさみたいな、誰にでもできるみたいな。

(宇多丸)一種の偽物っぽさ込みのかっこよさみたいな。

(磯部涼)そうそう。パンクの延長線上で、みたいな。そういう意味で「ニューウェーブギャル」みたいなのをコンセプトにしていたりとかするんだけど。とにかく、ほとんど自分自身でやられているので、世界観っていうのがかなり打ち出された……実は曲も素晴らしいんですけど、ビデオを見てもらうとね、すごいわかったりとかして。そういう意味でも、その田島ハルコの世界観みたいなのを分かってもらうためにもう1曲、聞いてみたいなと思うんですが。それはYouTubeにアップされているのだとアリアナ・グランデの『7 rings』っていう曲の日本語カバーっていう形で紹介されてるんですが。それはそのテイであって、もうほぼオリジナルの田島ハルコ世界になってるんですよ。

(宇多丸)元のアリアナ・グランデも、でもまさにその女性をエンパワーメントするための曲じゃないですか。

(磯部涼)そう。だから僕が当時、Twitterでその曲について紹介したのは、「これはカバーというよりもアンサーソングだな」みたいなことを書いた気がするんですけども。

(宇多丸)一応アリアナ・グランデの『7 rings』がどんな曲かっていうのは説明しておいた方がいいのかな? セルフボーストな曲なんですよね。「誰もがお金が解決しないなんて言うけども、解決するのに十分なお金がなかったじゃないの? みんな『どれが欲しい?』とか聞いてくるけど、私はいつもこう答えてる。『いや、全部自分で買うから』」「かわいい髪って言ったよね? これ買っただけだから」とかっていう感じで。これは恋人のピート・デヴィッドソンとの婚約解消後、女友達6人とティファニーに行って自分の分も含めて7つの指輪を買ったという体験から生まれた曲ということで。

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(宇内梨沙)へー!

(宇多丸)「私は私で全然やってるんで!」っていうね。

(宇内梨沙)「大丈夫なんで!」っていう。

(磯部涼)それこそ、アリアナ・グランデはラッパーという感じではない、ポップアーティストだとは思うんですけど。でも、アティテュードは完全にヒップホップのアティテュード、ラップミュージックのスタイルに則っている曲だったりもしますよね。じゃあ、それの田島ハルコ版。『¥70 rings』です。

田島ハルコ『¥70 rings』

(宇多丸)はい。ということでこれは田島ハルコさんの『¥70 rings』。

(磯部涼)『My Favorite Things』のメロディーがなんか演歌的に聞こえてくるというか。

(宇多丸)ねえ。それで次々と日本のファストフードチェーンの名前が「日高屋 松屋 吉野家 なか卯 すき家」っていう風に並んでいて。まあ、『7 rings』とは対照的に非常に庶民的と言いましょうか。地を這うような……(笑)。

(磯部涼)徹夜で遊んだ後でお金もなくなって。ATMでお金をおろしづらい時間帯みたいな(笑)。そういうあるあるな感じもありますよね。

(宇多丸)ああ、そうか。「一番迷う時間帯 朝になれば手数料 無料になるATM machine」っていう(笑)。

(磯部涼)それで酔っ払った勢いで小田急線に乗って江ノ島に行って安い駄菓子屋で買った70円の指輪っていうね。

(宇多丸)でも、「欲しいものはなんでも買う てか手に入るしもう持ってる 幸せは案外安い」っていう。このいまの時代の生活実感というか。デフレ時代だけど、ことは足りているという感じ。でもそこでさ、「でもたまには焼肉したい(七輪)」ってさ、これは例のアリアナ・グランデさんが『7 rings』と出した時に漢字で「七輪」ってタトゥーを入れちゃって。

(宇内梨沙)ああ、入れてましたね! 話題になっていた!

(宇多丸)その話題になったのを……。

(磯部涼)そこから完全に連想して、逆算的に焼肉の話になってるだろう?っていうね(笑)。そういう思考回路がうかがえますけども。

(宇内梨沙)「お金ほしいお金ほしい」とか「お金くれ お金くれ」とか言うのがまたちょっとおもしろい。

(磯部涼)でも、アリアナはアリアナでああいう風なボーストがあるけども、なんだろうな? 庶民からのボーストなんて言ったら田島さんに怒られそうだけども。でも、日本の普通の女の子からの生活実感を伴ったアンサーみたいな感じかな?って。

(宇多丸)アリアナはお金持っていて超偉いんだけど、苦労も会って大変だよ、応援しているよみたいなのが……フハハハハハッ! 下々からの応援も。これ、でも面白いよね。かつてヒップホップとか、R&Bとかもそうだけども。要するに「アメリカのゲットーのハードな現実があって、それを向こうは歌っている。それに対して日本は豊かな国で、それを歌うようなリアリティーがない」みたいなことを言っていたのが、いまでは逆転していて。アメリカのそういう世界はさ、本当のガチの金持ちの話してて。なんなら「もう共感できないわ、金持ちすぎて」っていう。

(磯部涼)まあファンタジー的なものに見えるわけですね。

(宇多丸)で、こっちはどっちかって言うと貧乏気分になっていて。なんかリアリティーな気分になってるっていう。なんか気がついたらすんげー180度、逆転してるんだけど……っていうさ。

(磯部涼)ただ、アリアナももちろんエンパワーメントしているわけだけども、それをさらに自分たちの生活レベルに引き落として、自分たちのリアリティーの中でまた作り変えるみたいな。

(宇多丸)こっちがリアリティーミュージックになってきているのが面白いなって思って。

(宇内梨沙)だって婚約解消してティファニーで7つの指輪、買えないですもん。飛び乗った小田急で江ノ島には行けても。

(宇多丸)でも、十分楽しそうっていうかさ。なんか全然貧乏くさくないっていうか、悲しくはないっていうかさ。なんか、元気出てくる感じ。「全然いいじゃん。小田急乗って行こうぜ! 70円のリング、楽しいじゃん!」ってさ。

(磯部涼)それはその彼女の生活の中での楽しいことであるっていうね。いいですよね。

(宇多丸)なんかこの日本の風景の元気な読み替えっていうか。そういう意味で、ヒップホップとしてもすごく優れていると思います。

(磯部涼)そうですね。カバーっていうよりは本当にアンサーソング的な。

(宇多丸)超面白い。さすがですね。田島ハルコさん、なかなかやるな!

(磯部涼)田島ハルコさん、『kawaiiresist』というアルバム、すごいいいんで。ぜひ。

(宇多丸)はい。聞いてみます。

<書き起こしおわり>

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