町山智浩 テイラー・スウィフト『ミス・アメリカーナ』を語る

町山智浩 テイラー・スウィフト『ミス・アメリカーナ』を語る たまむすび

町山智浩さんが2020年5月19日放送のTBSラジオ『たまむすび』TBSラジオ『たまむすび』の中でNetflixで配信されているテイラー・スウィフトを描いたドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』を紹介していました。

(町山智浩)でも、今日はそれ(『テラスハウス』)と関係があるんですけども。Netflixで1月からすでに配信されているドキュメンタリーです。

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町山智浩さんが2020年5月19日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でNetflixで配信されている『テラスハウス』のアメリカでの評判についてトーク。アメリカ人が新鮮だと感じているポイントについて話していました。 (町山智浩)相変わらずの...

(山里亮太)(曲を聞いて)あれ? この曲は……?

(町山智浩)これね、『テラスハウス』の主題歌ですよね。

(山里亮太)はい。本当の頃の主題歌ですね。街中でこれを聞くと何か照れちゃうっていう(笑)。

(町山智浩)ねえ。これはテイラー・スウィフトっていう歌手の人が歌ってるんですけども。彼女の歌は何回も主題歌に使われてますよね。『テラスハウス』でね。でね、彼女のドキュメンタリー映画で『ミス・アメリカーナ』という映画の紹介を今日はするんですけど。彼女は1989年生まれのアメリカのシンガーソングライターで全部、作詞・作曲をしてるんですけどね。彼女、最初はこの歌みたいな感じの女の子の恋を歌った歌が多かったんですよ。それですごく人気だったんです。今の歌は8年ぐらい前の曲なんですけども。いわゆる「ガーリー」な感じだったんですよね。

でもね、彼女はもともと「カントリーミュージック」の出身なんですね。それでテネシーっていう南部で育って、12歳の頃からカントリー音楽を自分で作詞・作曲していったんですけど。カントリーっていうのはね、アメリカの演歌みたいなものなんですよ。すごく保守的な男女観が基盤にあって。男は飲んだくれで、その喧嘩をして、ちょっと女たらしだけど彼女はいつもそれを待ってるみたいな、そういう歌詞の歌が多かったんですよね。

で、彼女はそこから出てきたんですけど、どんどん音楽が変わっていって。今、最新のテイラー・スウィフトのヒット曲はね、『The Man』っていうんですけども。これをちょっと聞いてもらえますか?

Taylor Swift『The Man』

(町山智浩)これ、音楽は全然カントリーじゃないんですけどね。で、このミュージックビデオ、見ました?

(山里亮太)先ほどね、1回見てみました。

(町山智浩)ヒゲ面の男性が出てきて。職場でパワハラして。酔っ払って帰りに立ち小便して。女の子をたくさんはべらかして女遊びしてやりたい放題、その男がするんですけども。それ、テイラー・スウィフト自身がやっているんですよ。

(外山惠理)ねえ。びっくりしましたよ。

(山里亮太)最後の最後でわかりましたけどね。あれ。

(町山智浩)ねえ。だって最後の数秒しかテイラー・スウィフト自身が顔を出さないんですよ。ずっとヒゲ面のおっさんの格好をしてセクハラしたり……女体盛りまでやっていましたね。これね、歌詞は「私が男だったらこんなことをいくらやっても怒られないのに。『生意気だ』とか言われたり、叩かれたりしたりしないのに、おかしいじゃない?」っていう歌詞なんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)それで実は彼女はずっとそういう風に叩かれてきたんですよ。あのね、彼女はものすごいモテるんでね。恋人がかなりたくさんいたんですね。ジェイク・ジレンホールとかジョン・メイヤーとかハリー・スタイルズ、トム・ヒドルストンとかカルヴィン・ハリスとか……もう数え切れないほど彼氏がいて。で、彼女はそのことをかならず歌に歌うんで。自分の彼氏との関係を。だから「男をとっかえひっかえにしている」みたいに言われたんですよ。

それでこれをね、英語で「slut-shame」っていうんですね。「b*tch-shame」とか。そういう女の人のことを「slut」とか「bi*ch」とか、そういう非常によくない言葉で言う。いわゆる「売女」というような言葉ですごく嫌うような人が男にも女にもいっぱいいて。すごくそういう人たちによる攻撃の対象になったんですよ。彼女は。「でも、もしそれが男だったら逆に『モテモテ、プレーボーイ』って言われるだけじゃないの?」っていうことなんですよね。それと、このビデオですごく面白かったのは、男になった彼女が日曜日に公園で子供の相手をしていると、それを見ていた他の人たちが「すごい! イクメンだわ!」みたいな感じで絶賛されるっていうシーンがあったじゃないですか。

これ、女の人は朝から晩まで子供の世話してても誰も褒めないのに、男が日曜日にちょこっと子供と遊んだだけで「イクメン」って言われて褒められる。それはおかしいじゃないの?っていう歌なんですよ。そういう歌を歌うようになっちゃったんですよ。彼女はね。

(山里亮太)全く真逆の歌ですよね。スタート地点と。

(町山智浩)そうそう。最初の頃の歌で有名なのは『You Belong With Me』という歌で。すごくイケメンの男に……ああ、この曲なんですけども。

(町山智浩)これ、初期の頃のヒット曲ですけど。これはすごく地味で……服とかもきれいではないし、勉強ばっかりしてる女の子が実は隣のイケメンの子が好きで。だけどその男の子は派手なチアガールが好きで……っていう、そういう歌なんですね。で、これ、ミュージックビデオだとその派手なチアガール役もテイラー・スウィフトがやっていたりするんですけども。そういう恋心みたいなものを淡く歌っていた子なんですけどもね。元々はね。それで今、そういう「ざまぁ!」みたいな歌で立ち小便しちゃったり女体盛りをしちゃったりしているんですけども(笑)。

で、この『ミス・アメリカーナ』っていうのはその彼女はどんな風に成長していったか?っていうドキュメンタリーなんですよ。で、彼女自身、自分にあったことを全部歌っていくので、その自分の成長が日記みたいにして歌に綴られていくんですね。だからその歌を追いながら、彼女の成長を見ていくっていうドキュメンタリーなんですけど。まず彼女がすごく大きな壁にぶつかったのは2009年に最年少でグラミー賞を取ったり、いろいろした時にですね、カニエ・ウェストというラッパーがいまして。彼が彼女がMTVのミュージックビデオの賞を受賞した時にステージに上がっていって。「お前の曲よりもビヨンセの曲の方が賞にふさわしい!」っていうことを言ったんですよ。

(外山惠理)ひどい……。

(町山智浩)「ビヨンセのビデオの方がいい!」って言って彼女に恥をかかせて。その後もそれが話題になったのでカニエ・ウェストは別の歌(『Famous』・2016年)で「俺が絡んだおかげでお前は有名になったんだから、お前は俺とセックスして借りを返すべきだ」っていうような歌を歌ったんですよ。

(町山智浩)もう人間のクズなんですけども。ただ、それに対してもテイラー・スウィフトは涙を浮かべるだけであんまり反論ができなかったんですよね。

(外山惠理)あんまり言えないか。まだ若くて……ねえ。

(町山智浩)だってその当時は19、20歳ぐらいですから、こんなおっさん(カニエ・ウェストは当時32歳)にいきなり……。

(外山惠理)びっくりしちゃいますよね。いきなりそんなラッパーが出てきて「お前の曲より……」なんて言われても。なんなんだろう?

カニエ・ウェストとの10年戦争

(町山智浩)それでテイラー・スウィフトが「私はもう消えてしまいたいぐらいの気持ちだった」っていう風にその当時、言っている映像とかも出てくるんですけど。それでね、もうひとつ、彼女はセクハラをされるんですよ。2013年、コンサートのバックステージでそこにラジオDJが来て、彼女のスカートの中に手を入れて、お尻を触ったんですよ。

(外山惠理)ええっ? スカートの中に!?

(町山智浩)そう。それはね、証拠写真まであるんですよ。

(外山惠理)なに? その人……?

(町山智浩)ところが、彼女は結局それを訴えたんですけど、それが事件が起きてから2年後だったんですよ。だから「2年間、お前は黙っていたじゃないか」っていうことで逆に彼女は叩かれたんですよ。

(外山惠理)ええーっ!?

(町山智浩)でもこれってよくあるじゃないですか。日本でもほら、伊藤詩織さんがレイプされた後に裁判とかに訴えるのが遅れたから「インチキじゃないか!」っていう風に叩かれたじゃないですか。でも、普通そういうのって実際に訴えるまで、自分の勇気を奮い起こすまで時間はかかるものなんですよね。

(外山惠理)たしかに。

(町山智浩)でも、テイラー・スウィフトはものすごく叩かれて。「その時、すぐに訴えればよかったじゃないか!」みたいなことを言われて。それで彼女はだんだん、「これはおかしいぞ」と思ってきたわけですよ。で、結局その裁判自体は勝つんですけども。それで、まず2014年に彼女は『Shake It Off』を曲を出して。これが大ヒットするわけですね。

Taylor Swift『Shake It Off』

(町山智浩)この歌はいきなり、歌い出しがすごいんですよ。「人はみんな私のことを毎晩遊んでばかりで頭が空っぽと言っている(I stay out too late Got nothing in my brain That’s what people say)」っていう。「男をとっかえひっかえにして、長続きをしないって言われてきた(I go on too many dates But I can’t make them stay At least that’s what people say)」っていう。

で、「Shake it oft」って「ふるい落とす」みたいな感じなんで、「そんなそんなくだらないことなんかふるい落としてやるわ(Baby, I’m just gonna shake, shake, shake, shake, shake I shake it off, I shake it off)」っていう歌なんですよ。で、このあたりからだんだんと彼女は戦い始めるんですね。

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