町山智浩 ジョーダン・ピール監督作品『アス』を語る

町山智浩 ジョーダン・ピール監督作品『Us』を語る たまむすび

(町山智浩)だから富がものすごいお金持ちたちのところに集中するという形で、格差が異常に進んだんですね。その原因ははっきり言うと、その80年代からレーガン政権が始めたお金持ちに対する減税がずーっとその後も共和党政権になるたびに「金持ち減税、金持ち減税……」って続けてきているので、結果としてこうなってしまったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)あとは法人税の減税ですね。

(赤江珠緒)そっちばかりを優遇して。

(町山智浩)そう。そして福祉とかを減らしていったから。それで学校の学費がどんどんと上がっていったので、結果的にはこうなってしまった。そういう部分がこの『Us』という映画でははっきりと何もそれは言っていないんですけども、「Hands Across America」っていうイベントを出すことで、「あの頃はみんなで貧しい人を救おうとしたじゃないか。でもその後にどうなった? もっとひどくなったじゃないか!」って。

(赤江珠緒)ええっ! ホラー映画でそういうことが込められているんだ!

(町山智浩)この人はそういうことをやったんですね。ジョーダン・ピール監督。というのは、この人はもともとコメディアンで、お笑いの人なんですよ。それでキー&ピールっていう漫才コンビだったんですね。この人、コント番組をずっと作っていたんですよ。2人で。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)『マッドTV』っていう番組から『キー&ピール』っていう番組でずっと、コントのほとんどが人種問題だったんですよ。

キー&ピール

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)このジョーダン・ピールっていう人とキーガン=マイケル・キーっていう相棒はお父さんとお母さんが白人と黒人なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、白人と黒人のどっちにも入れないんで、ずっと両方から差別されて、いろいろと悩んできた男の子なんですよ。2人とも。だから道を歩いていると突然……まあ、彼らは結構いい家の子なんで、白人ばっかりの住宅街を夜、歩いていたりするじゃないですか。そうすると、「お前、なにしてんだ?」っていう感じで警察官に突然職質されて。「怪しいんじゃないか?」みたいにやられるわけですよ。すぐそこに自分の家があるのに。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)「そこは中産階級の住宅街だから、黒人がいてはおかしい。いるとすれば泥棒だろう」っていう風な考え方なんですね。警官は。それって、『ゲット・アウト』のいちばん最初に出てくるシーンなんですよ。『ゲット・アウト』のいちばん最初である黒人の青年が夜、白人ばっかりの高級な中産階級の住宅街を歩いている時に「しまった。こんなところを俺が歩いていたら、大変なことになる!」っていうところから始まるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)見ているとわからないんですよ。なぜ、彼がそんなに怖がっているのか。でも、黒人が1人で中産階級の住宅街を夜、歩いていたら泥棒扱いされて、撃たれるか逮捕されるんですよ。

(赤江珠緒)ひどいな……。

(町山智浩)でも実際、アメリカはそういうことが次々と起こっているわけじゃないですか。それが彼の恐怖だったんですね。ジョーダン・ピール監督は。そういったところから、そのホラー映画を作っていく人なので。非常に社会的な問題と恐怖がリンクをしているんですが。

(赤江珠緒)そういうことか。うん。

(町山智浩)ただ、この『Us』が怖いのは、この主人公のアデレードというお母さんが自分の家族を守るため、自分たちにそっくりな家族と血みどろの戦いをするわけですよ。ところが敵は自分の息子や娘とそっくりなんですよ。それをぶち殺すんですよ!

(山里亮太)うわあ、すげえな!

(赤江珠緒)そう言われたら、それ、やりづらいですね!

(町山智浩)地獄ですよ、これ。という、恐ろしい話になっているんですよ。

(赤江珠緒)うわっ、敵ってわかっていても、そうね。家族の姿をしているんだもんね。

(町山智浩)そう。だからこれ、そのホラー、モンスターっていうことですけども。誰でも、たとえば家の前に……僕なんかもそうですけど。「トントン」ってドアをノックされて、それでドアの外を見たらすごいボロボロの貧しい人がいて。「いれてくれ」って言ってきたら、どうしますか?

(赤江珠緒)いや、それは……。

(山里亮太)入れられないです。

(町山智浩)入れられないでしょう? 警察を呼ぶとかするじゃないですいか。でも、それでも入ってこようとしたら?

(山里亮太)いや、それはもう……戦うしかないのかな?

(町山智浩)ということになってくるじゃないですか。それであっちの方が暴力とか振るってきたりした場合にね。で、それが自分だったら?っていうことなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)怖っ!

(町山智浩)怖いんですよ、これ。ものすごく怖くて。で、じゃあこの場合、どっちがモンスターなのか?っていうことになってくるんですよね。自分の家族を守るために、他の人の家族を殺す主人公はモンスターじゃないの? 自分の幸せを守るため、他の家族の不幸に目をつぶるということは同じじゃないの?っていうことなんですよ。「そんなこと言われても、困るよ!」っていうような疑問を投げかけてくる、恐ろしい映画なんですよ。

(赤江珠緒)うーん!

(町山智浩)でも、みんなそうじゃないですか。アメリカだって本当にホームレスの人がいっぱいいて。子供と一緒に道に座っていたりするんですよね。その人の横を子供を連れて通り過ぎる時の感じって、ものすごい感じですよ。

(赤江珠緒)そうか。その心理的なね。

(町山智浩)そこで、まあお金は渡しますけども。ただ、そのちっちゃい男の子や女の子に対してなにもしてやれない親っていう姿をその瞬間、自分の子供に見せるわけですよ。

(赤江珠緒)そういうことですよね。

(町山智浩)その罪悪感というか、それがこの『Us』という映画の最大の恐怖になっているんですよ。どこにも行けない感じなんですよ。

(赤江珠緒)根源が今回、すごい難しいですね。

(町山智浩)そうなんですよ。しかも、ジョーダン・ピール監督はこう言うんですよ。「これはひとつの家の物語にしているけども、これと同じことが国家規模でも起こっているからね」って。

(赤江珠緒)それは思った。いま。本当に。

同じことが国家規模でも起こっている

(町山智浩)いま、アメリカだと前にも話しましたが、中米のギャングが大きな力を持った国家で、人々が殺されてしまってどうしようもないから子供を逃がすためにわざわざ難民となってアメリカに来る人たちというのがいるわけですよね。

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(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、ドナルド・トランプはその人たちを入れないわけですよ。国境に壁を作って、「あんなやつらは叩き出す! 入れない! それはアメリカの平和と富を守るためなんだ」って。でも、やっていることは貧しい男の子や女の子が家に入って来ようとして。「ご飯を食べさせて」って言っている子たちを叩き出しているのと同じことなんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ヨーロッパでも同じことが起こっていますよね。「シリアとかの難民を叩き出せ!」っていうような運動があったり。

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(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それをこのひとつの家族の血みどろのホラーで描いていくという。すごい映画でしたよ。

(赤江珠緒)血みどろか。そうかー。結末が本当、ちょっと読めないですね。いま、お話を聞いても。

(町山智浩)うん。結末はね、これは後半からあっと驚く展開になっていくんですけども。ただ、これがアメリカで大大大ヒットしたということは、これはやっぱりアメリカ人みんなの恐怖のツボをついていたんだと思うんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)というような映画で。もちろん日本も全然、格差社会も進んでいますしね。難民問題もこれからありますから。全然他人事ではないですよね。

(赤江珠緒)そうかー。深いし壮大なテーマのホラーだったんですね。『Us』。

(町山智浩)そうなんですよ。本当に嫌な嫌な嫌な気持ちになる映画ですけども。

(赤江珠緒)フフフ、3回言いましたね(笑)。

(町山智浩)はい。すっげー嫌な気持ちになりますよ! まあ、言えないですけども。

(赤江珠緒)へー! 『Us』は日本では夏ごろ公開予定だということだそうです。家の前に赤い服の自分が……怖い!

(町山智浩)そう。ちっちゃい子もいるんですよ。

(赤江珠緒)山ちゃんは赤い服の上に赤いメガネだからね(笑)。

(山里亮太)そうね(笑)。

(赤江珠緒)はい。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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