町山智浩『被害者が容疑者となるとき』を語る

町山智浩『被害者が容疑者となるとき』を語る こねくと

町山智浩さんが2024年1月9日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『被害者が容疑者となるとき』を紹介していました。

(町山智浩)それでもうひとつ、『コンクリート・ユートピア』と同様に人が怖いっていうか、SNSが怖いと思うんですけど。週刊文春がですね、ダウンタウンの松本人志さんの性的強要について報道したんですが。その事実関係とは別に、今回一斉に起きたのが告発をした女性に対するSNSでのすさまじい誹謗中傷ですね。そのほとんどが「合意したんだろう」とか「金目当てだろう」とか、もうすさまじい攻撃があったわけですけども。その中でも一番大きかったのは、それこそかなり名の知れた人たちが言ってたことで。「なんでその時に警察に行かなかったんだ? 警察に言えばよかったじゃないか」っていう。そういう風に言ってるんですが。

次に紹介する映画は『被害者が容疑者となるとき』というアメリカのドキュメンタリー作品で。これはアメリカの話なんですけど。なぜ、性的被害を受けた人が警察に行けないのか? 行っても意味がないのか?ってことはよくわかる作品なんですね。要するに、性的な被害を受けた人の場合、警察に行っても多くの場合、警察は被害者の訴えを取り下げさせちゃうんですよ。で、どういった形でそれが起きているのか?っていうことを、アメリカの調査ジャーナリズムの人たちが調べて。そうすると恐ろしいことに、性的な被害を受けた人たちが逆に虚偽告訴罪で訴えられて。そして下手をすると有罪になってしまうというケースがものすごい数、あるということがわかったんですね。

(でか美ちゃん)それで『被害者が容疑者となるとき』ってことなのか。

性被害を訴えた被害者への取り調べビデオを検証

(町山智浩)そうなんですよ。で、こういうケースをたくさん調べて。50件以上調べて。アメリカで3年間に50件、あって。それを全部、徹底的に調べて。で、アメリカでは警察での取り調べ中の、その取り調べを録画したビデオテープを手に入れて……それは、公式の手続きで手に入れられるんですね。開示請求というものをしまして。アメリカでは取り調べ中の様子を全て、ビデオで記録してるんですよ。で、請求するとそれを見ることができるんですが。それを見るとですね、まず被害者を警察の取り調べを受けていると「その時にどのぐらい抵抗をしたんだ?」とか「悲鳴は上げなかったのか?」とか「なぜ逃げなかったんだ?」とか聞かれて。もうこれ、おかしいんですよね? 警察は被害者に「あんたが悪いんだろう?」って言っているんですよ。

(石山蓮華)ええっ?

(町山智浩)どうしてそうなっちゃうのか? ねえ。で、警察はどんどんそうやって「あなたが悪いんだ」っていう方向にしていくんですね。「悲鳴をあげなかったお前が悪い」「そこに行ったのが悪い」「逃げてなかったのが悪い」「抵抗が弱かった」とかね。そんなことを被害者に対してずっと言っているんですよ。そうすると、そのうちに被害者は「すいません」って謝るんですよ。でも、なんで謝るの?

(石山蓮華)だって、警察に被害を訴えてその結果、自分が責められるとは思わないですもんね。

(でか美ちゃん)助けを求めているんだからね。

(町山智浩)そうなんですよ。これは恐ろしい映画で。この映画に出てくるのは全部、本当の取調室での模様のテープなんですね。で、ずっと調べていくうちに本当に有罪になって。禁固刑を受けたりしてる人までいるんですよ。女性で。

(石山蓮華)ええっ!?

(町山智浩)ただね、これはアメリカだから取り調べのビデオというものが存在するんですけど。日本はそんなビデオ、ないんですよ。だから、日本はもっとひどいことが起こっているかもしれない。でも、わからないんですよ。もう、これはわからない。でも、よく考えると警察に来たから、要するに「合意があったか、なかったか?」が争点になるんで。それは「どのぐらい抵抗したんだ?」っていうのをやりますよね? でも、実際には女性の方は抵抗ができないわけですよね。状況的にも、体力的にもね。で、「抵抗しなければ合意していた」ってされちゃうんだったら、これは警察に行ってもムダですよね。だから、警察に行かないですよ。

(でか美ちゃん)ねえ。そこと向き合うしんどさみたいなのもありますしね。自分の口で全てを説明しなきゃいけないとか。そういうのもあるから。

(町山智浩)そうなんですよ。で、それを実際に、どうしてそれが起こるのか? そういうものがどういう風に行われてるのか?っていうことを具体的な映像で見せてくれているのがこの『被害者が容疑者となるとき』というドキュメンタリーなんですね。で、僕はこういうことってもう常識なのかなと思ってたんすよ。こういうひどい状況っていうのがアメリカでも日本でもあるっていうことが。性的被害者がなかなか警察に行けない状況。そして行ったとしても、ほとんど被害の訴えを取り下げさせられる状況っていうものが。ただ、全然そうでもないらしくて。かなりちゃんとした人までが「今回の被害者はなんで警察に行かなかったんだ?」ってSNSとかで書いているんですよね。あと、ちゃんとしたメディアとかでも。びっくりしましたよ!

(石山蓮華)性被害を受けた人がどういう気持ちの動きになって。なぜ、ちゃんと抵抗できないのか。そしてなぜ2次被害に遭うのか。そういう流れって、ちゃんと1冊本を読めば、もうたくさん書いてあることなのにそれがまだまだ知られてないなというのは私も感じます。

(でか美ちゃん)そうですね。なにが真実かなんて、わからないから。今、いろんなことが……「活動を休止します」であったりとか、いろんな記事を出し合ってたりするわけじゃないですか。週刊誌同士でも。なんか、そもそも擁護も批判もわかるまで、しなきゃいいって私は思うんですけど。その「加害をしてたんだろう」って断定するのも今の段階では違うなって思うし。だからと言って「被害を受けました」って言ってる方に「お前、金目当てだろう? 8年前のことを今さら……」みたいな、セカンドレイプみたいなことを言うのも絶対に違うなって思うから。あまりにも、なんだろうな? なんかみんながワーッとやりすぎて、問題がずれてきてるのが嫌ですよね。これって、アメリカのドキュメンタリーですけど。「こういうこともあるんだ」っていうのを知りさえしてたら、自分の心の中で「どっちが本当なんだろう?」っていう風に思っちゃう人間の心はあるけど。でも、口には出ないと思うんだよなっていうのはすごい思いましたね。

(町山智浩)はい。で、このドキュメンタリーで一番大事なのはとにかく、アメリカの警察っていうのはひどいところもあるんですけど。取り調べをちゃんとビデオで記録をしてるにも関わらず、被害者を問い詰めて。で、「あなたは虚偽告訴をしたんだぞ」っていう風に追及をして。それで被害者に「はい」とまで言わせちゃうんですよ。

(でか美ちゃん)なんか追い詰めていくと心が折れちゃうというのは想像ができるじゃないですか。普通の感覚で考えたら。でもやっぱり「お前、『はい』って言ったじゃないか!」って言われたらおしまいというかね。

(町山智浩)そうなっちゃうんですよ。だって被害者の人も警察が怖いから、言っちゃうんですよ。で、「ごめんなさい」って途中で言っちゃうんですね。「お前、『ごめんなさい』っつっただろ! お前は自分の過ちを認めたんだ!」みたいなことになっちゃうんですけど。ただ、これは証拠になる取り調べのビデオが撮られているにもかかわらず、アメリカの警察はここまでやってるんで。じゃあその取り調べのビデオ撮られてない日本では実際に何が起こってるか、わからないですよね。もう。完全な密室だから。何もわからないんだもん。

取り調べビデオがない日本では……?

(でか美ちゃん)この被害者側の扱いのひどさっていうのをすごくつらいものがあるんですけど。その容疑者側の扱いっていうのはどんな感じなんですか?

(町山智浩)これも映ってるんですよ。ちゃんと。するとね、その容疑者の人が呼び出されるじゃないか。すると警察はね、全く態度が違って。「いやー、忙しいところをすいませんね」って言うんですよ。

(でか美ちゃん)ええっ? なんで?

(町山智浩)「おたくも大変ですね」とか言うんですよ。

(でか美ちゃん)それは、作戦的にそういうのがあるからなのか……その方がポロッとしゃべっちゃうからとかなのか。もうそもそも、ちょっとそっち側に立ってあげちゃってるのか。

(町山智浩)でしょうね。おそらくね。

(でか美ちゃん)そうですよね。本当にガツンと追求されるべきは、第1段階では容疑者側なわけじゃないですか。本来は。

(町山智浩)そうなんですよ。でも、そういう風にはいかないんですよね。これはちょっと怖いドキュメンタリーなんで、ぜひ見ていただきたいんですが。

Netflix『被害者が容疑者となるとき』予告

<書き起こしおわり>

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