モーリー・ロバートソンと鈴木一人 2018年・中間選挙後のアメリカを語る

モーリー・ロバートソンと鈴木一人 2018年・中間選挙後のアメリカを語る 水曜日のニュース・ロバートソン

(モーリー)あとはアメリカの、長期的には日本も関わってくる部分でね、アメリカの国際的な舞台における存在感の縮小。ディミニッシング・プレゼンスっていうやつですよね。もうこの大騒ぎや茶番が日々続いている分だけ、長期的にはアメリカって自分の墓穴を掘っているように思えるんですけども。

(鈴木一人)そうですね。アメリカ自身もとにかくアメリカファースト。自分たちだけ良ければいいっていう風になってるので。これまでアメリカが果たしてきた役割ってのはもう世界的にも大きく変わってきているだろうと。ただ、これからじゃあアメリカがいない世界秩序っていうのはどういう世界なんだ?っていうことになると、まだ形がわからない。

(モーリー)アメリカがいないTPPとか。日本はじゃあさしあたって、ここから2年。トランプさんがフル選挙モードでなんでも派手に、全てパフォーマンス化してやった時、日本は当然その煽りを食らう立場にいるんですけど。どうやっていなしたり、対応すればいいと思いますか?

(鈴木一人)それはでも今回、あのたとえばアメリカと日本の間でやっているTAG(物品貿易協定)。これなんかひとつのいい例だと思うんですけども。トランプはとにかく見た目も成果がほしい。だからトランプは「日本を交渉の場に引きずり出した!」っていう、こういうことが言えばいいわけです。中身はどうでもいいわけです。だから、そういう「Optics」ってよく言いますけども、「見た目」ですね。見た目さえアメリカにとって整っていればいいわけで。要は、「名を捨てて実を取る」っていうパターンですね。日本はたぶんそれを……今回のTAGの時にはそれをやったんですよね。とにかく、いままでは「FTAはやらない、FTAはやらない」と言って予防線を張っておきながら、それでも二国間交渉をやりました。これはアメリカから見れば「ほれ、見ろ! 俺たちが圧力をかけたからだ!」みたいにトランプは言えるわけです。

(モーリー)なるほど。

「名を捨てて実を取る」戦略

(鈴木一人)それでその「名」はトランプにあげたんですけど、「実」の部分。つまり「自動車関税はやらない」とか、それから「農業はTPPのレベルを超えない」とか。

(モーリー)聖域をもうける。

(鈴木一人)こういう、まあ取引をしたわけですね。だから名を捨てて実を取るというのは結構重要なポイントだと思いますね。

(モーリー)大統領選の予備選の段階からトランプさんが時々、本当に本気かどうかわからないけど口走るのは「何でアメリカ兵が韓国や日本人の命を守って日本や韓国の兵士はアメリカ人の命を守らないんだ?」っていうので「日米安保? そんなものいらない。警備会社みたいにお金を取れ!」みたいな言い方をしてますよね? ああいうのってただのふりなんですか? それとももうちょっと深刻な何かの可能性はあるんでしょうか?

(鈴木一人)かなりの部分が本気だと思います。で、アメリカのやっぱりこれまでのグローバルな役割っていうのは、アメリカが覇権国であって、アメリカが国際公共財……つまり軍ですとか安全とか、自由貿易とか通貨ですね。ドル。こういうものを世界に提供することによって、アメリカが言ってしまえば持ち出しをしていたわけですよね。

(モーリー)基軸であるための威厳を金と人材で買っていたわけですよね?

(鈴木一人)買っていたわけですね。それを言うなれば我々は当たり前だと思って受け入れていた部分がある。

(モーリー)パックス・アメリカーナ。アメリカの平和として受け入れていた。

(鈴木一人)ところが、トランプは「いや、もうアメリカだってお前らと同じ普通の国だろ? なんでアメリカだけがこんな持ち出しをしなきゃいけないんだ?」と。要するに、偉い親分が自分たち子分の面倒を見るっていうのをずっとこれまではやってきたわけですけど、その子分にやる金が惜しくなってきたわけですね。で、「そんなのはもうやめよう。俺の金は俺のもんだ」っていう風に言い出したのがいまのトランプなので。それを要するに我々は「でも、いままではくれてたじゃん!」って言っても、「じゃあなんで俺が渡さなきゃいけないの?」っていうのがいまのアメリカで。

(モーリー)でもそれだと、夢が醒めると……パックス・アメリカーナっていうのもひとつの夢だったわけですよ。アメリカを基軸とした平和が維持されている西側世界。それを、その幻想の側面もあったんだけど、自らそのスイッチを下ろして、「普通の女の子に戻ります」っていうキャンディーズ宣言みたいなことをやっちゃって。キャンディーズ解散。その後のアメリカ・ロスはどうなるの? 結局、じゃあ日本という社会や国は自立しなきゃいけない。本当に安全保障でもアメリカはあてにならないってなった時、これは日本に図らずも、外圧としての改憲機運をもたらしているじゃないかと思うんですけど。

(鈴木一人)ああ、その可能性というか危険はあります。要は外圧と言うか、アメリカが生み出した真空を誰が埋めるのか?っていうことですよね。で、アメリカがいなくなって空白になったところを中国が埋めるっていうことになると、これはこれで日本にとってもいろいろと問題がありますし。じゃあ日本が独自でそこを埋めるってなれば、また改憲っていう話にもなっていきますし。まあ、アメリカが抜けていくことによって、いままで我々が当たり前のように「日米同盟でアメリカが守ってくれる」っていう前提で、「じゃあ、だから九条がある。自衛隊は専守防衛である」っていう風に……。

(モーリー)そうそう。アメリカという存在があってこその専守防衛、九条。そしていまの辺野古の紛糾の仕方も言ってみれば「アメリカがある」という状態に賛成も反対も双方とも甘えているんですよ。そのハシゴがなくなっちゃった瞬間、どうなっちゃうんでしょうね?

(鈴木一人)いや、だからいままでの議論の基軸が大きく変わっていくと思いますし、下手をすればもう、「やっぱりなんとか自分たちでやるしかないよね」っていう、そういう話になると思うんですよ。

(モーリー)そうですよね。外的な要因で。

(森山みなみ)さらにTwitterが来ております。「対中姿勢は党派を超えて支持されているのでは?」という。

(モーリー)アメリカで。対中姿勢。そこはどうですか?

(プチ鹿島)ああ、貿易のね。

(鈴木一人)いや、これは完全に違いはないというか、むしろ対中姿勢の中でも民主党、共和党の中でも穏健派と強硬派という風に分かれるので。党派では分かれていないですね。党派で分かれるのは基本的には内政の問題なので。対外政策は基本的にはそんなに大きな違いはありません。イランに対してもそうですし。ヨーロッパはちょっと特殊ですけど、イランとか……。

(モーリー)たとえば、「米中貿易赤字を縮めること=アメリカの繁栄っていうのは経済学的には稚拙だ」っていう声も結構出てくるんですけど。そこは両党派とも問題はないんですか?

(鈴木一人)もともとだから保護貿易を主張していたのはこれまでは民主党だったんですよね。

(モーリー)ああ、TPPに反対していたもんね。

(鈴木一人)TPPにも反対していましたし。まあちょっとヒラリーは賛成をしていましたけども。あれはいろんな経緯があってのことで。基本的に民主党っていうのは保護貿易を進める。自分たち労働者の権利を守れみたいなことを伝統的に言ってきた、そういう政党なので。むしろトランプと実はそこは合っちゃってるんですよね。トランプはむしろ民主党の主張を取り込んでるんですよ。なので……。

(モーリー)イデオロギーとしての共和党ではないということですよね。トランプは。

(鈴木一人)はい。トランプは完全にトランプ派っていう、共和党の中でも異端なので。

(モーリー)なのに共和党はトランプにいま従わざるをえない、いろんな構造的な理由があると。まあ、乗っ取っている人ですよ。要は外から来て。

(プチ鹿島)共和党を。

(鈴木一人)そうですね。トランプ派っていうのは本当に自分たちのこれまで共和党が出してこなかった醜い部分、アグリーネスな部分をとにかく出すことによって、これまでの合理的な理性で利益のことを考えた共和党の政策っていうのを全部ふっ飛ばして。で、その本音の政治をやろうみたいなことで。

(モーリー)情道。情緒の政治なんですよ。そこには危険さもあるということです。

(森山みなみ)はい。ありがとうございます。

<書き起こしおわり>

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