モーリー・ロバートソンと陳暁夏代「日本すごい」系テレビ番組を語る

モーリー・ロバートソンと陳暁夏代「日本すごい」系テレビ番組を語る 水曜日のニュース・ロバートソン

陳暁夏代さんがBSスカパー!『水曜日のニュース・ロバートソン』に出演。モーリー・ロバートソンさん、プチ鹿島さんと日本・中国のメディアを比較しつつ、「日本すごい」系のテレビ番組などについて話していました。

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2018年 5/15 号 [『日本すごい』に異議あり! ]

(モーリー)あとですね、日本のテレビは外国人に日本を褒めてもらう番組が結構増えている気がして。その番組で私は食べているんですね……(笑)。

(陳暁夏代)フフフ(笑)。

(モーリー)週に少なくとも2回、「日本最高です!」ってカンペで見せられて。「えっ、これ読むの何十回目?」って言っているけど、「読んでください」って。お金もらっているんで、真心をこめて「日本の言葉、最高に面白いですね」って。

(プチ鹿島)大元がここにいましたよ(笑)。

(モーリー)そしたらそれが小学生の間で広がって。小学生が「日本を褒めてくれる外国人のリーダーだ!」って私に握手を求めてくるんですね。小学生の愛国心の源流はこの俺! みたいな。

(プチ鹿島)で、東大。日本の中でいちばんいいとされている大学にも受かっているって言ったら、そりゃあ……。

(モーリー)「東大にも通って、アメリカのハーバードも卒業したすごい人が日本に来て日本を褒めてくれている!」って……麻薬ですよ!

(陳暁夏代)フフフ(笑)。

(プチ鹿島)麻薬です。「モーリー解禁」みたいな感じですよね。

(モーリー)そうですよね。それを見ている人たちは私のこのおもてなしに酔って。「ああ、今日も日本人でよかったなー!」って思うわけですよ。

(プチ鹿島)もう中国じゃあ、いないですか? こういうモーリーさんみたいなのは?

(モーリー)外国人で中国をひたすら褒めまくるみたいな(笑)。

(陳暁夏代)いわゆる外国人タレントとして活躍している人はいますけど、なんか日本ほど量は多くないですね。

(モーリー)それは中国語が難しいとか、そういうことですか?

(陳暁夏代)全然そんなことはないです。おそらく中国語を扱える外国人の方が母数的には多いんですけど。テレビに出ている数で言うと。ただ、なんかモーリーさんの活躍もしかり、やっぱり外見とか……私もバックグラウンド的にそうなんですけども。日本のメディアに出ると「外国人枠」ということでそこの席に座らされてしまう。だから何を言っても「まあ外国人が話しているんだな」とか、そういう風になるので。それは若干違和感があるなと思いますね。一意見として聞き入れられないというか。

(プチ鹿島)一対一じゃなくてね。

(陳暁夏代)もうすでにカテゴライズされた席から発言している視点としか分析されないので。

(プチ鹿島)むしろ、「日本人同士だと言えないことをどんどん言っちゃてください」みたいな。そういうのを期待されている感じもあるんじゃないですか?

(陳暁夏代)そうですね。でもそれも変じゃないですか。みんなで議論をした方が絶対にいいのに。で、結局それで熱く議論をしたところで「外国人はああ言ってましたね」っていう感じで終わってしまうんですよ。それがすごいもったいないなって。

(プチ鹿島)予防線を張っているんだね。

(モーリー)そうすると、外国人っていうのは日本人が言えない意見を言わせるガス抜きではあるんだけども、番組全体の方針として価値観を変えようという意志はまったくなく、それで「また来週!」っていうことで繰り返したいと。

(プチ鹿島)だからある程度ガス抜きして、耳心地の悪いことは言わせるんだけども、最後は「日本、いいよね」っていうので決着するんじゃないですか?

(陳暁夏代)そう。

(モーリー)右翼、左翼、外国人、ワーッ! あ、最後の30秒……みんなで「日本、いいよね。また来週!」って(笑)。

(プチ鹿島)最後はいろいろ言いましたけども、「日本、いいよね!」って言ってもらうっていう。

(陳暁夏代)フフフ(笑)。

(モーリー)昔、ドリフターズっていうコメディーグループがいて。『8時だョ!全員集合』でみんなで最後に歌を歌うんですけども。それがね、「歯、磨けよ!」って。それで加トちゃんが「日本、いい国だよ!」「日本、バンザイ!」って。最後に日の丸振って終わりみたいな。「また来週!」って。

(陳暁夏代)だからそういうオファーは受けたくないんですよ。めちゃめちゃ。

(プチ鹿島)この人、バンバン受けてますよ(笑)。

(陳暁夏代)アハハハハハッ! ごめんなさい、そうでした(笑)。

モーリーの生活の知恵

(モーリー)本当だね(笑)。だけど、これは私の生活の知恵的に言わせてもらうと、そこで「そんなのはウソだから受けない!」って言うと、どんどんと「使いづらい」「かわいげがない」ということで、オファーが少なくなっていって、最後は右翼と左翼の討論番組しかなくなるんですよ。そうすると、私は絶対に勝ちようがない。つまり、人々の意見は変わらないから。で、むしろ人々の意見に影響を与えたり、印象を変えるんだったらその奥の奥、意識の裏の方に入った方がいいから。まずは日本を褒めちぎって。あれよ。楊貴妃。傾国の美女。年老いた皇帝が寵愛して。「モーリーはどこだ? モーリーはどこだ?」ってテレビ局の役員クラスが言ってくれることで、私がなぜかいつもそこに出ているっていう。

(陳暁夏代)いや、素晴らしいです(笑)。

(モーリー)ありがとうございます!(笑)。

(プチ鹿島)いま、ある意味恐ろしいことをモーリーさん、やっているわけですよ。どんどんと自然に、無意識に刷り込んでいるわけでしょう?

(陳暁夏代)入っているわけですね。

(モーリー)そしてテレビ自体はいま言ったいろんなことの片鱗にも見られるように、物事の思考を促すのではなく、思考を停止させる方向に。認知症製造マシーンとしてのテレビがあるんですよ。

(陳暁夏代)いいワード!

(モーリー)よっしゃー!

(陳暁夏代)すごいです!

(プチ鹿島)だからモーリーさんのやっていること、そうは言ってもご自分では言わないけど、そうやって刷り込んでじゃあ大きなぬいぐるみなのかっていえば、大麻問題とかでキレのあるところをブワッと突いてくるわけですよ。そうすると、最初からそのキレキレの人が言うと「これ、使っていいの? どうなの?」って絶対に地上波の人、迷うわけじゃないですか。

(モーリー)ところがそれをたとえば和田アキ子さんのアッコにおまかせ!で「過去にコカインをやりました……」って言ったんですよ。

(陳暁夏代)あの、見ました(笑)。

(プチ鹿島)そんな表情でやった?(笑)。

(陳暁夏代)それ、有名な回ですよね(笑)。

(モーリー)それで「もうモーリーはテレビやバラエティーから呼ばれなくなる」って言われていたのに、2週間後にもう1回呼ばれ。そして先週末の日曜日にも。だから5週間で3回、出ているんですよ。つまり、ヒットコンテンツになっちゃった。出川さんと同じぐらい出ている。ということは、やっぱり足をドアの間に入れて、ドアを閉まらないようにすると、言ってはいけないことでもちょっとずつなら言えるようになるんですね。まずは愛されること。かわいがられること。

(陳暁夏代)フフフ、すごい参考になります(笑)。

(モーリー)そのためには日本をひたすらしばらくは褒め続けるということになるな。

(プチ鹿島)だからさっきの地方を乗っ取る政党みたいなもんですよね。モーリーさんの戦略ってね。

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(モーリー)そうですね。ですから極右とか危険な思想の人たちがどうやって民主主義を乗っ取るのか? あるいはトランプ現象をきちんと理解していればいるほど、それをそのまま流用して自分は地上波のテレビを侵食していくということなんですね。

(プチ鹿島)さあ、そんな最中なんですが、「メディアは国民を情弱化させている」って……。

(モーリー)あっ! 同じこと書いている!

(陳暁夏代)さっき「認知症製造マシーン」って。

(プチ鹿島)これは改めて、夏代さんの言葉で言っていただくと?

(陳暁夏代)これは私がかなり普段から違和感を持っていることなんですけど。まあ、先ほど言ったように中国と日本のメディアを割と半々ぐらいの頻度で見ているんですね。テレビもSNSもそういうニュースのプラットフォームも含めてなんですけど。そうなってくると、日本のニュースはかなりバラエティーニュースが占める割合が8、9割ぐらいになっていて。民放を見ると……NHKはそんなことないですけども。民放のほとんどがそうなっていて。

で、テレビをオンタイムで見ている人なんて、なかなかいないじゃないですか。みなさん、忙しいから。で、つけた時にやっているのが、いつでもバラエティーニュースっていう風になっているということがすごい気になっているのと、その表現手法で私がすごい嫌いなやり方として、たとえばナレーターがいます。ネガティブかもしれないニュースをすごく劇的にネガティブに読む。ポジティブかもしれないニュースをすごく楽しく読む。

そういう表現をしている時点でもう、視聴者は冷静な判断ができなくなっているんですよ。アニメを見ているのと一緒ですよね。「この人は悪役です」「この人は善人です」っていう風にメディアが最初からパッケージングして出しているので。それはもうニュースではないなって思うんですよね。

(プチ鹿島)具体的にどんな番組ですか? 覚えている番組とか、ありますか?

(陳暁夏代)もうほとんどです。ナレーター、声優さんを起用している番組はほとんどだと思います。

(モーリー)まあ、トランプさんの発言をよく声優がしゃべったりっていうのはありますよね。

(陳暁夏代)そうですね。あれとかも意味分かんないですよね。

(プチ鹿島)あとはBGMでね、どういう音楽をかけるかでもそのニュースは……。

(陳暁夏代)本当に、まだ犯罪と確定していない方々に対してもホラーみたいなBGMをつけたり。それって結構思考の洗脳じゃないですか。それをニュースがするというのは、たとえバラエティーニュースであったとしても、扱っているニュースは同じなので、よくないなってすごい思っていて。中国ではそういうことはほぼないんですよ。淡々と紹介されているので。そこはすごくいいなと私は思っていて。

(プチ鹿島)そこはものすごい違いを感じる?

バラエティーニュースが支配する日本

(陳暁夏代)ものすごい違いを感じます。もちろん中国にもバラエティーニュースだったりWEBニュースっていうものもあって、そこでは日本と近い表現もされているんですけども。テレビとか民放でやっているニュースはほとんどそういう脚色の仕方はしていなくて。で、アナウンサーの人も結構芸能人が助言したり、タレントさんが助言したり、アイドルの子が発言したり。あとは女子アナがいろんな段取りを取ったりっていうのが日本のやり方ですけど、中国はBBCとかCNNに似ていて。

結構「アナウンサー」っていう役職の人が淡々と事実だけを述べている。台本だけを読んでいるということが一般的ですね。なのでニュース自体が炎上する。ニュース自体がエンタメ化してTwitterとかに流れてくる……中国はウェイボーですけど。というような現象はほぼなくて。1年に1、2度ぐらいはありますけど、あまりなくて。日本では逆にそれがニュースになって二次拡散、三次拡散っていう風になっていくので。よくないなって思いますね。

(モーリー)そうすると、いちばん最初からそもそもの報道の仕方に対する政府からの強い指導を受けている……要は言論が統制されている側の中国では、ある種もちろんそこには当局の思惑やプロパガンダも入り込むのね。歴史感とか。

(陳暁夏代)うん。入っていると思います。

(モーリー)だけども、ニュースのやり方はあくまでも客観的にやる。で、日本の場合は言論の自由がありすぎるぐらいあるのに、それを専門家じゃない人とかちょっとウケのいい人、素人にコメントさせる。さっき、番組の冒頭でプチさんと話していた「(政治家も)素人に賭ける」っていうのはそこから来ているのかもしれないですね。

(プチ鹿島)そうですね。もう素人しか信じないみたいな。

(モーリー)素人目線とか主婦目線とか。

(陳暁夏代)街頭インタビューとかね、絶対にしなくていいだろ?って思っているんですけども。あとは、順番とかもすごく気になっていて。日本のニュースって、たとえばピエール瀧さんがいろいろとあった時も、ピエール瀧さんのニュースを最初にやるじゃないですか。私、あの順番がもう意味がわかんないんですよ。ニュース全体で重要度ってあると思っていて。その重要度順に放送するべきなんですけども。

その重要度が、バラエティー要素が強いものっていうのが絶対に頭に来るんですね。視聴率をもし考慮して全てやっているのであれば、それこそニュースとしては間違っていると思っているんですけど。で、バラエティーニュースがあって、日本のニュースがあって。最後にいろいろと事件があって。国際ニュースはほぼゼロで終わるみたいなパターンもすごく多くて。

(モーリー)うんうん。

(陳暁夏代)中国では割とカテゴライズされていて。そんななんか、中国を褒めちぎっているっていうわけでもないんですけども。客観的に見て、本当に中国の国内ニュース。省別、そして中国の国レベルのニュースっていうのと海外ニュース。政治・経済、スポーツ。いちばん最後にエンタメが入るか入らないかなんですよ。基本的には入らないですね。入るとしても、その人たちが何かしらの犯罪を起こしたり、国から賞をもらったりとか、そういうことでしか入らない。基本的にはニュース枠の中では芸能系の話って見ないですね。

(モーリー)だからニュースをエンタメ化するっていうことが80年代ぐらいから次第に日本の地上波では普通にやるようになっていったんですけども。それがだんだんと、固いパンを食べられなくなっていって。最後にはパン自体が無理で、流動食しか食べられなくなっちゃったみたいな。そういうひとつのトレンドは民営化とでも言うのか、マーケットですね。商業主義にちょっと侵されちゃったのかな?

(陳暁夏代)商業ですよね。すごく。

(プチ鹿島)どうですか? いま80年代で思い出したんですけども。ちょうど今年、天安門事件で30年ぐらいでしたっけ? あれって中国の若者の中ではどういう風に……語られているんですか? まず、知っているんですか?

(陳暁夏代)うーん、特に語られていないと思います。

(モーリー)特に知らされていないみたいな?

(陳暁夏代)そこまで話題になっていないです。

(プチ鹿島)「知らない」っていうわけではない?

(陳暁夏代)うーん……特に語られてはいないですね。

(プチ鹿島)やっぱりこれ、お互いの国で「そうか。あれから30年か」って。逆に日本も「えっ、それが語られてないの?」とか思われているかもしれないですね。

(モーリー)そうですね。だからそれぞれの国が報道をしないことがあるけども。まあ日本の場合には言論の自由があるのに、忖度して報道をしないとか。妙なものがあるんですよ。そんなこと言ったら、あんまり蒸し返したくないけど、10年前の日本は中国政府の出先機関ですか?っていうぐらい、中国に不都合なニュースは報じてなかった。北京オリンピックの時。成功をさせたいから。

(陳暁夏代)ふーん!

(プチ鹿島)ああ、そのしがらみがあるから。

(モーリー)その時にあったチベット問題とか、さまざまな人道問題、本当に消極的にしか報道しなかったですね。とりあえずオリンピックが終わるまでは仲良くしておこうって。

(プチ鹿島)それはだって公正中立に見えて、全然そうじゃないっていうことですね?

(モーリー)だからそういう意味では、言論の自由は戦後、勝ち取ったはずなんだけど、その背景にある政治とメディアの関係がやっぱり不透明なブラックボックスで。なんかいろんな細かい取引がされているうちにマニュアルができあがってしまい。知らされていないことを感じなくなるぐらいチャラチャラしているとも言えるかもしれないね。だから実は、中国のメディアと同じぐらい日本の視聴者っていうのは知らされていないのかもしれない。

(陳暁夏代)いや、そうだと思いますよ。それに加えて、情弱化をどんどんしていっているので。固いパンが食べられない状態っていうか。

(モーリー)で、自分の国をひたすら褒めてもらって、甘いものを……。

(陳暁夏代)だから、今後がすごい怖いですね。

<書き起こしおわり>

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