丸屋九兵衛と宇多丸 Pファンクを語る

丸屋九兵衛と宇多丸 Pファンクを語る 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

(宇多丸)で、ジョージ・クリントン、そんな感じでいろんなミュージシャンを束ねていく様みたいなのが今回の自伝(サーガ)に書いてあるわけですけど。これ、でもいろいろ面白いことが書いてあって。

(丸屋九兵衛)まあね、これ面白い話が500ページぐらい書いてありますからね。

(宇多丸)もう、しかもなんて言うの? 小話として完成されているのがめちゃめちゃいっぱい入っているみたいな感じで。「すべらんなー!」っていう感じじゃないですか。俺、びっくりしたのは『Get Off Your Ass And Jam』ってさ。「シット、ガッデーム! Get Off Your Ass And Jam♪」っていう。

(丸屋九兵衛)ねえ。

(宇多丸)あの曲のレコーディングの時にエディ・ヘイゼルっていうギタリストがいなくて。ギターほしいなっていうところに謎の白人男性がふらりとやって来て、「金がほしいから、25ドルくれればギター弾くよ」って。で、見事なギターソロを入れて去っていって、その男は誰だかわからないっていう。

(丸屋九兵衛)いまでもわからない。

(宇多丸)わからないっていう。クレジットを入れたいんだけど、もうその後どこに行ったかわからなくて……って、そんなこと、あり得る?

(丸屋九兵衛)っていうのと、それをちゃんと書いてあげちゃうジョージ・クリントンっていうね。

(宇多丸)そうですね。ある意味ね。だって、名乗り上げてね、「俺に金をよこせ!」っていう。

(丸屋九兵衛)っていうやつが100人や200人いてもおかしくはないですよ。

(宇多丸)本当ですよ、本当ですよ。

(丸屋九兵衛)これは『Get Off Your Ass And Jam』だからまだいいですけど。『Flash Light』でこんなことがあったら……

(宇多丸)ああっ、どえらい! どえらい!

(丸屋九兵衛)でしょう? 数万人出てくるじゃないですか。

(宇多丸)本当ですよね。とかね、こんな話とか。あと、この番組のファンの人が喜びそうな話で言うと、ツアー中に田舎道を車で移動中に……

(丸屋九兵衛)ねえ。ジョージ・クリントンは免許を持っていないっていうね。で、免許を持っていないジョージ・クリントンが寝てしまって、ハッて起きるとえらいところを走っていて。「お前、なんてところを走ってるんだよ?」って言っていたら……周りに死者が歩いていたと。

(宇多丸)ヨタヨタ周りを歩いていて。「ゾンビだ! 怖い!」って思って。したら、後にそれがジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の撮影中だとわかったっていうんだけど……本当かよ、それ!(笑)。そんなだって、普通の車が通りかかるところで、そんなのやっているわけないじゃないですか。

(丸屋九兵衛)だからね、これ、士郎さん。ほら、信頼できない語り手っていう……アンリライアブル・ナレーター(Unreliable Narrator)ね。日本だと、極端なところだと、『ドグラ・マグラ』ですかね?

(宇多丸)ああー、まあ、『羅生門』ですよね。『藪の中』。

(丸屋九兵衛)『藪の中』。a.k.a 映画の『羅生門』。だから『羅生門』エフェクトとしてね、ウィキペディアで項目があったりするぐらいですから。そういう、物語を語っている人物を信用していいのか? 問題。

(宇多丸)そこも込みでの……

(丸屋九兵衛)そう。面白さっていう。

(宇多丸)って言うと、聞こえはいいが……(笑)。

(丸屋九兵衛)いや、でもたとえばR.ケリーの自伝だって、ねえ。

(宇多丸)自分の都合の悪い話は書いていない。

(丸屋九兵衛)都合の悪い話。15才ぐらいの女の子シンガーのことは全く出てこない。

(宇多丸)それ、すごい話ですよね。アリーヤの話が出てこない。おかしな話ですよ。

(丸屋九兵衛)そう。っていう。でもね、都合の悪いところを隠しているというよりは……

(宇多丸)そんなことないよね。だってドラッグに耽溺している話も全部出てくるし、金のトラブルの話、めっちゃ出てくるじゃないですか。

(丸屋九兵衛)めっちゃ出てくる。だけど、本当にこれを全部信用していいのかどうかがわからない。

(宇多丸)なんかね、その盛り方が自分をきれいに見せるとか、よく見せるとか、削ぎ落としてこうじゃなくて、やっぱり盛る方なんですよ。

(丸屋九兵衛)で、面白くなるんだったら、嘘をついてもよいっていう。まあまあ、その哲学はよくわかる。

(宇多丸)でもさ、通りかかったところに『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の撮影って、やっぱり嘘でも思いつかないから。やっぱりその近くに、「あっ、あれ撮影なんじゃね?」みたいなぐらいはあったのかもしれない。

(丸屋九兵衛)かもしれない。だけど、たとえば『Chocolate City』っていうアルバム、さっき一瞬かかった『Ride On』っていう曲が入っている『Chocolate City』っていうアルバムを1974年に出したことをいいことに、「私は40年前にオバマ大統領の出現を予言していたのじゃ!」みたいな(笑)。これ、ちょっと盛り方が変じゃない?って(笑)。

(宇多丸)順番、なんかおかしいだろ?っていうのはありますけどね。ただ、ビッグマウスぶりっていうかね、そこも合っていますしね。「彼が言うなら許せるか」っていう。

(丸屋九兵衛)許せるんだけど、なんか2010年に会った時に聞いた話とだいぶ違うなっていう……

(宇多丸)話が変わっている。あと、まさに丸屋さんがインタビューした時には「知らない」って言っていた……

(丸屋九兵衛)そう。「サミュエル・R・ディレイニー? なんか聞いたことがあるけど……」みたいなことを言っていたんだけど、文章の中だと、「サミュエル・R・ディレイニーのようなSFが……」って書いてあって。

(宇多丸)SF作家ですね。

(丸屋九兵衛)そうです。黒人のSF作家で、60年代にデビューした。

(宇多丸)それを、要するに丸屋さんが質問で出した時には「知らない」って言っていたのに、この自伝では……

(丸屋九兵衛)ばっちり書いてある。

(宇多丸)要は、「インスピレーションを受けました」ぐらいのことが書いてあると。だから、ひょっとしたら……

(丸屋九兵衛)あっ、ワシがインスパイアした?

(宇多丸)そうですよ。丸屋さんがジョージ・クリントンのインスパイア元のひとつになったわけですよ!

(丸屋九兵衛)ああー、なったわけですか。

(宇多丸)だからPファンクの一部ですよ、あなたは。

(丸屋九兵衛)(笑)。それを断言した宇多丸さんもだいぶ盛ってますね。

(宇多丸)イズムに乗っていますね。はい。このね、大らかな感じがいいですよね。ということで、もうちょっと曲をかけましょう。もうちょっとPファンクっぽい曲を。

(丸屋九兵衛)じゃあ、ちゃんと宇宙をテーマに、UFO……ここで言うPファンク用語の「UFO」っていうのは「Universal Funk Object」なんですが。「Universal Funk Object」なのに、アンファンキーだと。そんなかわいそうなUFOの話を歌った、『Unfunky UFO』。

Parliament『Unfunky UFO』

(宇多丸)はい。『Unfunky UFO』。だから、そういうSF的ストーリーとユーモアとみたいなのが常にひねった感じで語られているというか。

(丸屋九兵衛)だから、「お前にはこのファンクなしで死につつある、ファンクレスで死につつある惑星を救う素質がある!」って。

(宇多丸)(笑)。「素質がある」って言われても、なんの話をしているんだ?っていう(笑)。

(丸屋九兵衛)っていう歌ですわね。

(宇多丸)でも、なんかこう、歌ってやっぱりなにを歌ってもいいし、どんな世界を広げてもいいし。なんかそういうところで、やっぱり勇気が出ますけどね。Pファンクは。なんだっていいんだ!っていう感じで。

(丸屋九兵衛)なんだっていいんだ!っていう気はしますよね。

(宇多丸)ということで、最後になんですが丸屋九兵衛さん。先ほどね、驚くべきジョージ・クリントンに影響を与えた男という認定もされましたが。丸屋さん自身、Pファンクから得たものというか。影響というか。どんな感じなんでしょうか?

(丸屋九兵衛)ああー、そうですね。さっきも言及してくださったように映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』の字幕監修なんかもやったりましたけど、基本的に英語はPファンクで学びました。

(宇多丸)ほう!

(丸屋九兵衛)Pファンクってラップより遅いが、歌でない語りの部分がやたらと多いじゃないですか。「Micro biologically speaking, When I start churnin’, burnin’ and turnin’」みたいな。

(宇多丸)おおー、すごいなー!

(丸屋九兵衛)あれとか、さっき言った「Promentalshitback Wash Psychosis Squad」とか。

(宇多丸)変な映画ばっかり覚えるんじゃないですか?

(丸屋九兵衛)それで、ラテン語とかギリシャ語系の接尾辞、接頭辞とかを覚えていって、いまに至ると。

(宇多丸)へー。英語はPファンクで学んだ。

(丸屋九兵衛)本当、Pファンクのおかげですね。英語塾に行ったわけでもなんでもないので。とか、あとはそれが高じて90年前後はコスプレをしていたわけですよ。

(宇多丸)Pファンクの?

(丸屋九兵衛)Pファンク系の。まあ、同時に『指輪物語』系のコスプレもやっていましたけど。同時進行で。

(宇多丸)うーん……困った人だ。

(丸屋九兵衛)(笑)。で、Pファンク系のスパンコールコスプレなんかで会場に行っていたら、ミュージックマガジンの人に声をかけられたっていう。

(宇多丸)えっ? 「そこのPファンクコスプレの君。うちで原稿を書かないかい?」って?

(丸屋九兵衛)そうは言われなかったですけど。「君、すごいね」ぐらいだったんですよ。で、そのちょっと後に、ブーツィー・コリンズに文章を提出したんですよね。

(宇多丸)それはどういうことでしょうか?

(丸屋九兵衛)英語の文章ですね。ブーツィーもブーツィーでストーリーがあるので。ブーツィーが自分をアーサー王に模して、岩に刺さっていたベースを引き抜いて王になったみたいな話があって。それをアーサー王の最初の部分なんで、アーサー王の最後の部分に自分を当てはめたファンクストーリーみたいなのを書いたわけですよ。私が。

(宇多丸)ああ、もうオリジナルストーリーを作って?

(丸屋九兵衛)オリジナルストーリーを英語で書いて、それをブーツィーに渡したら、翌日またブーツィーと会って。「いやー、君のライティング、よかったよ」って言われて。なぜかそこで文章に自信を持ってしまい、そうこうしている間にPファンクコミックの関西弁翻訳を添付して送ったら、『bmr』編集部に採用されたっていう。

(宇多丸)ああ、もうPファンクづくしだ。

(丸屋九兵衛)そうそう。これがなかったら、本当にいまここにいないっていうね。

(宇多丸)っていうかすっごい変なことばっかりやっていますね!

(丸屋九兵衛)(笑)

(宇多丸)ブラックミュージックに入るきっかけとしても、おかしいですもん。

(丸屋九兵衛)いやー(笑)。

(宇多丸)っていうかさ、仕事する前になんでそんなブーツィーに会えるんですか?

(丸屋九兵衛)あまりにもいつもいるからですね。

(宇多丸)その格好でいるから。

(丸屋九兵衛)いつも最前列に。

(宇多丸)で、扮装も目立つし。じゃあ、ジャパニーズ・サイコボーイとしてバックステージに呼ばれて。

(丸屋九兵衛)ファンカティーアとして。

(宇多丸)へー! あ、そう。すっごいですね!

(丸屋九兵衛)ブーツィーの初来日の時、ステージに上げてもらいましたね。そういえば。

(宇多丸)へー! まだお若い時でしょう?

(丸屋九兵衛)まだ若い時。10代ですよ。

(宇多丸)でも、それでPファンクってやっぱりさ、いろんなことがフィクショナルなメタファーというか、あれで書かれている分、ちゃんと掘らないとっていうか。僕らは違う文化圏にいる分、調べ甲斐はありますよね。

(丸屋九兵衛)そうなんですよ。だから、ジョージ・クリントン先生がこうやってご自身で自伝を出したけど、もうちょっと軽めの文章を私が書いてみようかな? と思っている今日この頃でもあるというね。

(宇多丸)ああー、これはちょっとあまりにもね、大著で。こんなにしおり用の紐。こんなについている本、はじめて見ましたけどね。

(丸屋九兵衛)4本ね(笑)。

(宇多丸)4本ついているからね(笑)。

(丸屋九兵衛)まあまあ、1本つけるのも2本つけるのも……2本と4本は値段が違ったらしいんですけど。この際だから4本つけてみようっていう。で、ジョージ・クリントンの割と最近までつけていた極彩色のカツラを意識して……

(宇多丸)ああー、エクステンションのこの感じだ。なるほど、なるほど。

(丸屋九兵衛)で、色を選んだのは私っていう。実は監修ってそこだけじゃないか?って言われている。

(宇多丸)しおりがこんなにいっぱいついていて、「いやー、便利!」って一瞬思ったんだけど、そんなに便利じゃない(笑)。好きすぎて……

(丸屋九兵衛)そこまで分散して読む人もそうそういないでしょうからね。

(宇多丸)あと、分散しすぎていて、しおりの役目をあまり果たしていないっていう(笑)。まあいいや、ということで、そんなジョージ・クリントン自伝。翻訳監修を務められたこの本を改めまして紹介させてください。『ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝(サーガ) バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』はDU BOOKSから税込み3240円で発売中。そして、ここでプレゼントのお知らせです。

ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝 バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録
Posted with Amakuri
ジョージ・クリントン
DU BOOKS
販売価格 ¥3,240(2018年3月25日8時40分時点の価格)

(中略)

(宇多丸)最後に丸屋さん、告知事項などありましたら、お願いします。

(丸屋九兵衛)明日は明日でね、『観ずに死ねるか!傑作音楽シネマ88』上映会の『ブルースブラザーズ』編でトークするんですけども、その後に9月21日(水)に丸屋九兵衛トークライブシリーズ『【Q-B-CONTINUED vol.12】with サンキュータツオ』っていうのがありまして。これが『戦え、ご長寿戦隊シルバーズ! 高齢化社会を翔ける老人英雄列伝』。ちょうど、シルバーウィークなんですね。で、敬老の日の直後なんで、こういうジョージ・クリントン先生みたいにですよ、70才になってクラックをやめて更生できるという。そういうところも含めて……

(宇多丸)はいはい。映画監督なんか、歳取ってキレッキレの人、いっぱいいますからね。

(丸屋九兵衛)と、言いながら私、『マイティ・ソー』のオーディンの話とかをしたりするわけですけども。

(宇多丸)(笑)

(丸屋九兵衛)いや、おじいさんと言えば、オーディン、ガンダルフ、ワイナミョイネン……

(宇多丸)ああ、なるほど。おじいさん流れ、ありますよね。

(丸屋九兵衛)太公望、水戸黄門。あとは、パパ・レグバとか。

(宇多丸)わかんない……

(丸屋九兵衛)パパ・レグバってブードゥー教の神なんですけど。で、実はジョージ・クリントンはパパ・レグバに影響を受けてるっぽい。

(宇多丸)その感じを出そうとしているっていう?

(丸屋九兵衛)っていうっぽいですね。『マンボ・ジャンボ』っていうイシュメール・リードのカルト小説があるんですけど、そこにヒントを得ている……

(宇多丸)あのー、「もうやめてくれ」っていう……ええー、ということで、丸屋九兵衛さん。話は尽きないということなんですが、とりあえずPファンク特集、序説ぐらいの感じなんでね。ぜひ、この自伝と作品を聞いてください。丸屋さん、ありがとうございます! 次回は、ビン様特集、お願いいたします。

(丸屋九兵衛)よろしくお願いします。

<書き起こしおわり>

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