(宇多丸)はい。ブーツィーの雄叫びから始まりました。
(丸屋九兵衛)本家ブーツィーの雄叫びです。
(宇多丸)やっぱ全然違いますね(笑)。時刻は11時34分に向かっているところです。『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』、今夜はみんな大好きPファンク特集をお送りしております。教えてくれるのは音楽サイト『bmr』編集長で『ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝(サーガ) バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』の監修も務めた丸屋九兵衛さんです。よろしくお願いします。
(丸屋九兵衛)よろしくお願いします。
(宇多丸)ということで先ほどからね、名前が何度も出ていますPファンクの中心人物。ある意味、この男のビジョンこそがPファンクというジョージ・クリントンなんですが、この人についてもうちょっと詳しくうかがっていきたいんですが。いろんな、大所帯グループじゃないですか。パーラメントにしろ、ファンカデリックにしろ。で、いろんな腕利きミュージシャン。それこそブーツィー・コリンズ。さっきの雄叫びの。ブーツィーは腕利きベーシスト。
(丸屋九兵衛)まあ、16、7にしてね、JBのバックを務めていたという。
(宇多丸)ジェームズ・ブラウンのバックですから。それこそ、ジェームズ・ブラウン特集の時も見事なベースラインでグイグイ引き込まれる素晴らしいミュージシャン。他にもいっぱいいるわけですよね。で、じゃあ肝心のジョージ・クリントン先生は、なにをしている人なんですか? という。
(丸屋九兵衛)ねえ。
(宇多丸)ねえ(笑)。
(丸屋九兵衛)まず、歌が下手なんですよね。
(宇多丸)もともと歌手なんですよね?
(丸屋九兵衛)もともと、The Parliamentsというドゥーワップグループをやっていたぐらいで。歌が歌いたくてああいうことを始めたんですけど、そもそも歌が上手くない。で、コーラス理論をわかっていないので、ハーモニーがつけられない。
(宇多丸)(笑)。そうなんすか?
(丸屋九兵衛)5人いるんだけど、バリトンベースとそれ以外しかないんです。
(宇多丸)雑な(笑)。「上と下」みたいな。
(丸屋九兵衛)上と下しかない。だから、真ん中と下しかないみたいな感じですね。
(宇多丸)はいはい。じゃあ、歌はダメ。
(丸屋九兵衛)ダメ。で、楽器が弾けない。で、まず間違いなく楽譜は書けない。まあ、それを言ったらプリンスだって楽譜は書けないし読めないからいいんですけども。
(宇多丸)おおー。まあ、全然ね、ミュージシャンでそれはいるんだけれども、でも歌えないし、楽器弾けないし、曲作りも怪しい?
(丸屋九兵衛)いや、曲はできます。
(宇多丸)曲はどうやって作っているんですか?
(丸屋九兵衛)口ずさむ。
(宇多丸)「ラララ、イラララ、ララララ……♪」って。あとフックのね、「すげーフックができたぜ! バウバウワウ、イピエ、イピエ……♪」って。
(丸屋九兵衛)で、歌詞は……「よし、今度はサー・ノーズを水攻めにするぞ。これで行こう! ほら、いま『ジョーズ』が流行っているし!」って。
(宇多丸)「『Aqua Boogie』だ!」っつって(笑)。
(丸屋九兵衛)そう。で、「サイコ、アルファ、ディスコ、ベータ、バイオ、アクア、ドゥループだ! (Psychoalphadiscobetabioaquadoloop)」とか。そう。単語を作る能力はありますね。
(宇多丸)造語。
(丸屋九兵衛)「Promentalshitback Wash Psychosis Squad」とか。
(宇多丸)すごい! よくスラスラ出ますね。
(丸屋九兵衛)あ、これはジョージ・クリントンに褒められました。「よくそれを覚えたね。スーパー○×△※×△○……(聞き取れず)とか」って(笑)。
(宇多丸)(笑)。まあ、その長くて言いづらいこともギャグみたいな感じのネーミングで。でも、そういうのはできる。とにかくコンセプターであるけども……
(丸屋九兵衛)まあ、本当に手に一芸がなにかあるとしたら、それと、ストレートパーマぐらい?
(宇多丸)えっ?
(丸屋九兵衛)ああ、元理髪師、元バーバーなんで。だから、「バーバーショップから」っていうのは本当にバーバーなんで。
(宇多丸)まあ、黒人コミュニティーにおけるバーバーショップっていうのは本当に……
(丸屋九兵衛)教会か、バーバーショップかっていう。
(宇多丸)人々が集って。
(丸屋九兵衛)コミュニティーの中心部。
(宇多丸)それはわかるんだけど、そのバーバーショップで……「ヘアのスタイリングはいまだにできる」なんて言ってますけども。ヘアスタイリングのスキルはあると。
(丸屋九兵衛)そうそう。「ニュージャージーで最も危険なストレートパーマ屋」と言われていたと。
(宇多丸)危険(笑)。
(丸屋九兵衛)いや、「危険なぐらいまっすぐ」っていう。ギリギリまでまっすぐ。
(宇多丸)ギューッと引っ張っちゃう。
(丸屋九兵衛)だからまっすぐにしすぎて、たとえばファーストの頃のトニ・ブラクストンなんかはあれ、たぶん切れたんでしょ。髪の毛。だから、短髪だったっていう……
♪?♪ #Playing: #Toni Braxton's "#Another Sad Love Song" http://t.co/mGh6FGvIh2 ♪?♪ pic.twitter.com/tHO02QSw4j
— Joe Maristela (@JoeMari38218325) 2015年8月17日
(宇多丸)(笑)
(丸屋九兵衛)あれはクリントンがやったわけじゃないですけど。
(宇多丸)話が拡散しすぎてあれですけど(笑)。
(丸屋九兵衛)で、結論を言うと、ジョージ・クリントンとは『項羽と劉邦』における劉邦なんじゃないか? と。
小学生のときにはすでに横山光輝の項羽と劉邦も読んでるし、大分わいは病んでる。 pic.twitter.com/an09IQT1nZ
— たこ (@takoyakanai) 2016年3月13日
(宇多丸)はい。三国志たとえですね、これね。
(丸屋九兵衛)いや、三国志より400年前ですが。
(宇多丸)あ、項羽と劉邦か。そうか。
(丸屋九兵衛)前漢を作る話ですね。だから、項羽っていうのはなんでもできるんですよ。戦ってよし、指揮してよし。個人戦もできるし、戦場においていろいろ指揮する能力もあるっていう。
(宇多丸)要は本当に尊敬されて当然のオールマイティープレイヤーと。
(丸屋九兵衛)プリンスみたいなもんですね。だけど、ジョージ・クリントンは基本的に一芸はなにもないんですよ。だけど、みんなを指揮する能力っていうか、みんながつい、慕ってしまう不思議な人徳があるがゆえに、いい人材が集まってくる。
(宇多丸)ここぞという時での、演説力とか。
(丸屋九兵衛)そうそうそう! まさに劉邦ですよね。まあいま、ちょっとファンタジー界では『蒲公英(ダンデライオン)王朝記』っていう明らかに『項羽と劉邦』を模したファンタジーがありまして。
(宇多丸)へー。それはだから対照的な?
(丸屋九兵衛)対照的な2人のヒーローが暴政を敷いていた帝国を倒すっていう。これは秦の始皇帝ですね。っていうファンタジーがありまして、ちょっとしたファンタジー界で静かな『項羽と劉邦』ブームが。
【編集部ピックアップ】Wings to fly さんのケンリュウ『蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ』の書評
"遥か古代の歴史物語が幻想的な群像劇に生まれ変わった。ケン・リュウ版「項羽と劉邦」、開幕編。”https://t.co/f4BtRpkOF2— 本が好き! (@honzuki_jp) 2016年7月31日
(宇多丸)そうなんだ。
(丸屋九兵衛)いま、この時こそジョージ・クリントンを見直したいと思って私は……
(宇多丸)劉邦イズムとして考えるとわかりやすいよと。まあ要は、とかく「なにもできないじゃないか!」みたいなことを簡単にいう人が多いから。日本人は専門職が好きだから、こういう人のことを理解できないっていうのはあるけど。
(丸屋九兵衛)とにかく、なんか不思議な人徳ですよね。たぶん金遣いも荒いし、パッと見、人格者でも人徳者でもないんだけど……っていうところも含めて、劉邦そっくりだな!っていう。
(宇多丸)あと、やっぱりトータルでビジョンっていうか。やっぱりPファンクのいろんな作品でも、ジョージ・クリントンが関わったのとそうでないのとだと、やっぱり違うでしょう?
(丸屋九兵衛)やっぱりね、最後まで詰めている感がありますよ。
(宇多丸)なんかね、他のは寂しいの。なんか。なんか。
(丸屋九兵衛)なにかが足りない。
(宇多丸)なんか、ちゃんとしすぎているのかわかんないけど。なーんか足りないんですよね。もうちょっと過剰な……
(丸屋九兵衛)ああ、過剰なんですよね。たぶん。
(宇多丸)なんですかね? だから、ステージとかを見るとわかるけど、ステージ上でとにかくゆさゆさこうやって……
(丸屋九兵衛)でもね、最近はもっと。更生してからは。
(宇多丸)クラックをやめてから。
(丸屋九兵衛)クラックをやめてから、かなりちゃんと動いてますよ。
(宇多丸)動いてる(笑)。でも、動いてるだけじゃダメでしょ(笑)。
(丸屋九兵衛)クラックをやっている頃よりも声が出ているから。
(宇多丸)ああー。じゃあ、コーラスとかはやっているけども、ということですかね。
(丸屋九兵衛)基本的にリード、取れないですからね。ほとんどね。
(宇多丸)でも、そう考えると不思議ですね。JBはもうシンガーとしても圧倒的だし。
(丸屋九兵衛)ただ、でもたとえばテンプテーションズで長年リーダーをやっていたのって、リードを取れないやつだったから。そういう、黒人ボーカルグループにおけるリーダーのあり方というのは、歌えないやつなのかもしれない。
(宇多丸)実はね、客観的に見る目があるのかもしれない。なるほど、なるほど。といったあたりでまた、Pファンクを1曲聞きましょうか。
(丸屋九兵衛)これだけね、ジョージ・クリントンは歌えない、歌えないって。だって、ネルソン・ジョージにジョージ・クリントンは「歌えないから」ってお墨付きをもらったぐらいの。
(宇多丸)言わなくてもわかっているわ!っていう感じですね。
(丸屋九兵衛)(笑)。だからそんなジョージ・クリントンのシンガーとしてのベストが出ている曲。ファンカデリック名義の『Holly Wants to Go to California』を聞いてください。
Funkadelic『Holly Wants to Go to California』
(宇多丸)はい。クリントンおじさんがいい湯加減でね、気持ちよさそうに歌っている。
(丸屋九兵衛)で、この朗らかに歌っている時の彼がシンガーとしてのベストであるという。
(宇多丸)うーん……まあでも、「ようやく俺、ソロで歌えてる!」みたいな感じがあるのかもしれないですけどね。後ろで歓声みたいなのが聞こえるけど、これはライブ?
(丸屋九兵衛)ライブ仕立てですね。
(宇多丸)仕立てか。まるで、客が退屈して騒いでいるように聞こえるあたりがすごいなっていう……
(丸屋九兵衛)まあね、さっき『Flash Light』っていうかっこいいもんを聞いた後で、これっていう……
(宇多丸)これ、だっておかしいですよ。Pファンク特集で1時間もないのに。『Flash Light』はわかりますけど。みなさん、これ、全然Pファンク的音楽像でもなんでもないですからね、これね(笑)。
(丸屋九兵衛)(笑)
(宇多丸)ジョージ・クリントンのね、気持ちいいところを聞いてもらったっていうだけのことですからね。まあまあ、こんな曲もあるということですね。