渡辺範明と宇多丸『ドラゴンクエスト8』を語る

渡辺範明と宇多丸『ドラゴンクエスト8』を語る アフター6ジャンクション

渡辺範明さんが2021年4月22日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でプレイステーション2時代のドラゴンクエストとファイナルファンタジーについてトーク。『ドラゴンクエスト8』について話していました。

(宇多丸)12は2006年に出たPS2用ソフトでございます。さあ、ということで『ファイナルファンタジー』。すごい完成度の高い10と、そしてそれとはまた全然違う方向に挑戦した12があってからのFFなんですが。続きましてでは、ドラクエは一方どうなのかということで行ってみましょう。

(宇内梨沙)3Dドラクエの金字塔『ドラクエ8』誕生。

(宇多丸)はい。ということでドラクエ、前回はプレイステーション時代で、なんか時間もかかっちゃったし。いろいろ大変だったっていうか、ちょっと難しい時期だったっていうことが前回まで、ありましたけど。今回はどんな感じになったんでしょうか?

(渡辺範明)はい。ドラクエがですね、7でいろいろ苦労したのはなんでかっていうと、プレイステーション1を3Dマシンとして使うというよりは、CD-ROMの大容量マシンという方向で使ったのがひとつのドラクエのFFとは違う選択をした部分だったんですけど。今回のPS2での『ドラクエ8』は、逆にそのグラフィック性能をちゃんと使って、ドラクエの世界を3Dで表現しようという方向。割と素直な方向に舵を切ったのがひとつの勝因だと思います。

(宇多丸)ちゃんとプレステの強みを生かしているというか。

難しかった鳥山明イラストの3D化

(渡辺範明)そうですね。それを生かしていくという。で、やっぱりプレステ1の時点だと『ドラゴンクエスト』はあの鳥山明絵というか、鳥山明イラストの雰囲気とかタッチとかを3Dで表現するっていうのがかなり難しかったんですよね。だから「これは無理だ。ならばドット絵でいきましょう」というのが、その時点での賢明な判断としてあったと思うんですけど。PS2に入るとですね、実はその初期の名作で『ダーククロニクル』というRPGがありまして。この『ダーククロニクル』がですね、トゥーンシェイドという技術を導入したんですよ。

で、このトゥーンシェイドというのは3Dポリゴンのキャラクターの輪郭線を強調したグラフィックになっていて。逆にそのそれ以外の部分はベタっとした塗りにすることで、3Dポリゴンなんだけどセル画みたいな、アニメっぽいノリにするという技術で。今はよく使われるから、そんなに驚きもないと思うんですけど。たとえばドリームキャストの『ジェットセットラジオ』とかが出てきた時は、まあ宇多丸さんも結構、衝撃があったんじゃないかなと思うんですけども。

(宇多丸)なるほど。たしかに!

(渡辺範明)まあ、ああいう技法でRPGを作ってみたというのが『ダーククロニクル』だったんですね。

(宇多丸)あの、本当に漫画が動いてるっていうか。

(渡辺範明)そうです。まさにそういう感じ。で、それを見たとエニックスのプロデューサーが……もうスクエニになっていたか。プロデューサーがこれを作った福岡の新進気鋭の開発会社レベルファイブにですね、「一緒にドラクエ作りましょう!」という風に話をしに行ったわけです。

(宇多丸)へー! まだ全然、そういうあれなんだ。若者たちっていうか。フックアップっていうか。

(渡辺範明)そうですね。レベルファイブは98年に設立されたばっかりで。しかも福岡なので。まだそんなに代表作っていうものが、それこそこの『ダーククロニクル』ぐらいしかなかったんですけど。そこでこのドラクエを作ったことでレベルファイブ自体もちょっとステップアップしたと思いますし。ドラクエの方としてはこのトゥーンシェイドの技術を使ったことで、鳥山明イラストがそのまんま動くキャラクターたちっていうのも手に入れたわけなんですね。で、そうすると3Dドラクエのひとつのフォーマットをちゃんと示すことができて、これがその後のドラクエの基本になっていくということで。非常にドラクエとしてはすごく大きなメリットがあったんですけど。さらに、実はこの路線を取ったことで副産物がありまして。

(宇多丸)副産物?

(渡辺範明)この『ドラクエ8』はですね、初めてドラクエが海外で売れたんですよ。

(宇多丸)今まではそんなにドラクエってやっぱり?

(渡辺範明)そうですね。7までは正直、あんまり売れてなかったです。

(宇多丸)売られてはいたけど、人気がなかった?

初めてドラクエが海外で売れた

(渡辺範明)発売はしてたんですけど、そんなに本数に繋がってなかった。で、それがこの8の時には、スクウェアとエニックスが合併した効果によってスクウェアの欧米の販路を使うことができたっていうのもあるんですけど。もう1個、すごく大きいのはですね、実はドラッグを海外に売っていく時に何が突破口になるか?っていう話なんですけど。実はですね、「鳥山明のキャラクター」っていうのものが一番デカいんですよ。

(宇内梨沙)『ドラゴンボール』人気で。

(渡辺範明)そう。『ドラゴンボール』が北米でも今でもすごい人気、ありますから。そこのところを生かせるようになったっていうのは、この3Dキャラクターを使い始めたということの実はすごいデカいメリットで。7までのドラクエって、画面の中に出てくる鳥山明キャラクターって、モンスターしか出てこないわけですよ。だけど、海外のお客さんと別にスライムとかドラキーとかが好きなわけじゃないので。悟空が好きなわけじゃないですか。だから、そういう感じのキャラクターが出てくるってなると途端にすごくキャッチーになって。

で、この件を示す1個の出来事として、僕が先輩のドラクエのプロデューサーに呼ばれて。「渡辺、ちょっとこれ、見てよ」って自慢げに見せられたのが、『ドラクエ8』の海外版の新仕様というのの開発しているのを見せてもらったんですけど。『ドラクエ8』って、戦闘中にあのパワーを溜めていくと、テンションというのが上がってきて。最終的にスーパーハイテンションという状態なってくると、すごい強くなるっていう仕様が元々あるんですけど。このスーパーハイテンションになった時に、海外版だけは主人公のバンダナが取れて髪の毛が逆立つっていう演出が入るんですよ(笑)。

(宇内梨沙)サイヤ人になるんだ(笑)。

(渡辺範明)そう。これによって海外のお客さんは「なんかスーパーサイヤ人みたい!」ってなって、すごくキャッチーなっていうのがあったということで。こういうことから象徴されるように、海外で成功するためにこの鳥山明キャラクターというのの元々持っているオフィシャルイメージをうまく使えたっていうのが8のひとつの勝因だと思います。

(宇多丸)元々ね、鳥山明キャラではあったわけだから。ようやくそのコンテンツが持つポテンシャルを発揮できる技術的ブレークスルーがあったというか。

(渡辺範明)そうですね。画面の中にそれが表現できたというか。

(宇多丸)やっぱり世の中にはね、「パッケージと違う」っていうことがありますからね。これはね(笑)。

(渡辺範明)元々はだから、それをみんなが想像力で補っていたわけですけども。

(宇多丸)忖度力がね。でも、その忖度力が全く働かない人もいっぱいいますからね。これはね。

(渡辺範明)そうですね。それを画面の中にちゃんと出せたっていうのがすごいデカいっていうね。

(宇多丸)しかし、となると当初、福岡だったレベルファイブチームの功績、めっちゃデカいじゃないですか。

(渡辺範明)これ、だからお互いにすごく幸せな出会いだったんじゃないかと思いますね。

(宇多丸)トゥーンシェイド技術。というあたりでプレイステーション2時代、ひとまずお時間となってしまいました。ということで渡辺さん、今回のまとめをお願いします。

(渡辺範明)はい。プレイステーション1時代はやっぱりですね、3Dで大作RPGを作るってこと自体がチャレンジだったし、その中でできること自体がすごいという感じだったので。その中である意味では妥協的に仕様を作っていたところがあったと思うんですけど。逆にPS2になったら、そこはマシンスペック的にはだいぶ余裕が出てきたので。作ること自体は割と可能になったところで、逆に何をどう語るか?っていう段階に入ったのがプレイステーション2時代のRPGだと思います。

なので、何をどう語るか?っていう表現のレベルにようやく入ったので。FFの中でも10と12では全然路線が違ったりとか。で、ドラクエはドラクエで鳥山明世界観の表現っていう方向に行ったりとかして、テイストがはっきりしていくので。逆に言うとハマる人にはめちゃくちゃハマるし、好みがわかれる世界になったとも言えます。

何をどう語るかという表現のレベルに入ったPS2時代

(宇多丸)なるほどね。あと、そのゲーム全体のスペック上がることで、ゲームの遊び方……種類もどんどん増えていって。本当に3Dオープンワールドも出てくるし。だからそういう意味では、なんていうかすごく完成度が高まった爛熟期ではあるけど。この先、だから僕、じゃあどうするんだ?っていう感じがね。

(渡辺範明)そうですね。だから誰もが100点を付けるRPGみたいなのはもう本当にファミコン、スーファミの頃はあったんですけど。ここから先は成立しないだろうなという感じもしますよね。

(宇多丸)今日、でもお話を伺っていたら、だからRPGをやりたいならやっぱり『FF10』なんだって思いましたね。なんかね。ひとつの完成形として。

(渡辺範明)いや、でもそこも含めて好みのわかれる時代というか。

(宇多丸)そうかそうか。

(宇内梨沙)そうですね。たしかに。初期のFFとかドラクエを好きだった人はいきなり10に触れるとたぶん「これはRPGじゃないだろう」って思う方もいるでしょうしね。

(渡辺範明)『FF10』はある意味で『FF10』味がすごい濃いので。だから、刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる分、拒否反応を示す人は全然いるだろうなっていう感じでしょうね。

(宇多丸)渡辺さん、このシリーズは今後はまだまだ続いていくんですね。しばらくはね。

(渡辺範明)はい。次回はプレイステーション3で『FF13』と『13-2』、『13-3』とかが出るんですけど。まあ、こういう1本のFFで何作も出していくっていう、ちょっと二毛作、三毛作的なやり方っていうのが出てくるので。そこでちょっと『FF10-2』の話とかもできるかなというのと、実はプレゼンテーション3ではもうドラクエは出ていないので。ニンテンドーDS編っていうのも一緒にやれればなと思っております。

(宇多丸)はい。といったあたりで今後ね、JRPG大河ドラマ第5弾も楽しみにしております。

<書き起こしおわり>

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