高橋芳朗 NewJeans『OMG』のアトランタベース感を語る

高橋芳朗 NewJeans『OMG』のアトランタベース感を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2023年1月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でニュージーンズについてトーク。『OMG』のサウンド面の特徴としてアトランタベース感を指摘していました。

(高橋芳朗)じゃあ、続いて『OMG』に行ってみましょうか。この曲はですね、歌い出しからサビに入るまでのパートがちょっとテンポが速くて。サビのパートが遅いテンポで構成されているんですね。ちょっと、そのくらいだけ頭に入れて、意識して。触りだけ聞いてみましょうか? ニュージーンズで『OMG』です。

(宇多丸)はい。ニュージーンズ『OMG』を聞いていただいております。

(高橋芳朗)これも参考音源を聞いてもらった上で、改めてちゃんと聞いてもらいますので。ぼんやりとでも頭に入れておいてください。この『OMG』がリリースされた時、最初に上がった海外のレビューでは速いテンポのパートを「UKガラージ、2ステップ的」っていう風に指摘していたんですね。UKガラージっていうのはジャングルとかドラムベースとかハウスミュージックを融合させた90年半ばにイギリスで生まれたアンダーグラウンドのダンスミュージックで。

そのUKガラージでのサブジャンルとして2000年前後に人気を博したのは2ステップですね。日本だとm-floの『come again』ビートとして知られていますけども。この2ステップの代表的な曲としてクレイグ・デイヴィッドの2000年の『Fill Me In』っていう曲を聞いてもらいましょうか。始まってね、15秒ぐらいからビートが早くなります。

(宇多丸)スローな曲なのかな?って思っているとね。

(高橋芳朗)はい。こういう感じですね。2ステップ。で、2ステップってここ数年、ちょっとリバイバルしつつあるんですね。で、その象徴的なアーティストの楽曲として再び、ロンドンのピンクパンサレスの『Where you are』という曲を聞いてもらいましょうか?

(高橋芳朗)はい。その『OMG』の速い部分、たしかに2ステップ的でもあると思うんですけど。個人的な印象としてはですね、ドラムマシーンのTR808のカウベルの入り方からして、マイアミベース。

(宇多丸)おおっ、一気にそこまで行くか。

(高橋芳朗)はい。そこから発生したアトランタベースの影響が強いんじゃないかなと思っていて。マイアミベースっていうのは、1980年以降にフロリダ州マイアミで生まれたヒップホップのサブジャンルで。速いテンポとドラマシーンのその808の重低音が特徴なんですけど。

(宇多丸)あと、下品な歌詞と。

(高橋芳朗)そうですね(笑)。ツー・ライヴ・クルーに象徴される下品な歌詞(笑)。で、アトランタベースはマイアミベースのアトランタ版で。基本的にマイアミベースと大差ないんですけど。でもR&Bの要素を取り入れて、よりポップ化を図ったのがアトランタベースっていうのが自分の解釈ですかね。

(宇多丸)一時期まで、でも売れてるヒップホップって大体マイアミベースチックなね。

(高橋芳朗)そうですね。本当に90年代に入ってからもありましたね。

(宇多丸)そんな時代が長かったけどな。

(高橋芳朗)で、そのアトランタベースを代表するヒット曲がゴーストタウン・DJズの1996年にヒット曲『My Boo』っていう曲で。あ、今、かかっていますね。これ、本当に大勢のシンガーにリメイク、サンプリングされている名曲で。マイアミベースの速いビートに甘いメロディーを乗せたのが当時、新鮮だったんですね。ちょっと聞いてみましょうか?

アトランタベースの代表曲・Ghost Town DJs『My Boo』

(高橋芳朗)この感じが僕は近いのかな?って思っています。で、このアトランタベースもここ数年、リバイバルの傾向にあってですね。今年のグラミー賞……再来週ですか。最優秀新人賞にノミネートされてるR&Bシンガーのマニー・ロングが去年、このゴーストタウン・DJズの『My Boo』をリメイクした『Baby Boo』っていう曲をリリースしてるんですよ。あ、これですね。

(高橋芳朗)こっちの方がビートがはっきりしていてわかりやすいかな? まあ、こんな感じで……。

(宇多丸)でもすごいY2Kっぽいですね。

(高橋芳朗)本当にそうなんですよ。こんな感じで『OMG』、テンポの速い部分はたぶんアトランタベースにインスパイアされているかなと。で、一方サビのテンポの遅い部分。ここはどんなサウンドか?っていうと、ここ10年のヒップホップだったりR&Bの主流となっているヒップホップのサブジャンルのトラップですね。ちょっとオーソドックスなトラップとして、ビヨンセの『7/11』って曲をかけてもらえますかね?

(高橋芳朗)ちょっとややこしくなってきたかもしれませんが……。

(宇多丸)でも、3つの要素というか。

(高橋芳朗)まあ、2つですかね。

(宇多丸)2.5ぐらいか。

(高橋芳朗)そう。2.5な感じかもしれないです。だから『OMG』はテンポの速い部分がアトランタベース、あるいは2ステップ。で、テンポの遅いのがトラップで構成されてるとざっくり考えていただいていいかなと思うんですね。で、これを踏まえて改めて、聞いてみましょうか? ニュージーンズで『OMG』です。

NewJeans『OMG』

(宇多丸)はい。ニュージーンズ『OMG』を聞いていただいております。おわかりいただけただろうか?

(高橋芳朗)おわかりいただけただろうか?(笑)。どうですかね?

(宇多丸)でも、そのサビのトラップ感とか、ある意味定番的なっていうか。最近の感じに戻って。それにY2K感っていうか。2ステップなのか、アトランタベースなのか。どっちにしろY2K感みたいなものをまぶしてみせて、全体としてはやっぱり今っぽい感じにしているというか。

(高橋芳朗)見事ですよね。

(宇多丸)僕ね、だからさっき言おうとしたのはニュージーンズの今のこのゲームチェンジャーぶりっていうのは、すごく80’s的なるものから90’s的なるものへの転換によく似た、ちょっと前のモードを古くする何かっていう。つまりギラギラ、グリッター、超バブリー、ビキビキ、フィクショナル、作り込みみたいなものに対して自然体、シリアス、問題提起もするし……みたいな。で、レイド・バックしていて。もっともっと生々しい表現だったりとか。その方向、どっちに今後、行くのかわかんないけど。そういう転換に近いゲームチェンジ感かな?って思っていて。

(高橋芳朗)なるほど。ずっと続いていた80’sリバイバルのカウンターみたいな?

(宇多丸)なぞらえるなら、そうだね。とにかく豪華、ビッキビキ、贅沢みたいなものに対して、そのさっきのフィルム感とか。ちょっと生身に近い感じとか。あと、やっぱりシリアスな問題提起とか。

(高橋芳朗)それはまさに90年代ですよね。

(宇多丸)そうそう。だからスタジアムロックからグランジへ、だし。いわゆるポップミュージックからヒップホップへ、みたいな、そういう感じに近い流れを感じるな。まあ、それがどれだけこの本当に大きな流れになるのかは、ちょっとわかんないけど。

(高橋芳朗)で、実はそのマイアミベース、アトランタベースは『Ditto』で取り入れられているボルチモアクラブとかジャージークラブのルーツにあたる音楽なんですよ。で、『Ditto』と『OMG』はミュージックビデオが連動してるように、音楽的にも関連性を持たせてあるっていうところですね。で、どっちも808の音色が効果的に良いアクセントになっているなっていうところですね。

(宇多丸)星野源さんの『おんがくこうろん』でも808、やっていましたよね。

(高橋芳朗)ありがとうございます(笑)。

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(高橋芳朗)だからこんなにビデオにしても、楽曲にしても細部にわたっていちいち完成度が高くて。

(宇多丸)あのさ、でも本当にBTSがさ、そのシックモードをうまく因数分解して『Dynamite』、そして『Butter』という流れを作ったように、なんかうまく過去の音楽を本当に因数分解して、換骨奪胎してアップデートみたいな。狙い所がすごい絶妙で。「うわっ、めっちゃセンスいい!」と思いました。

(高橋芳朗)この練りに練った作り込み具合からすると、たぶんミン・ヒジンの頭の中には既にかなり先まで明確なビジョンがあるんじゃないかな?っていう気がしますね。

(宇多丸)そうかもしれない。カードの切り方がね、あるのやもね。

(高橋芳朗)このデビューから最初の新作リリースへのこの怒涛の展開はちょっと、びっくりしています。この先、どうなっちゃうんだろうな?っていうのはありますね。で、最後にちょっともうひとつ、これは次回のミュージックコメンタリーの予告も兼ねて1曲、聞いてもらいたいんですけど。K-POPのガールグループのTWICEが先週末、1月20日に新曲を出したんですよ。『MOONLIGHT SUNRISE』っていう。これがね、アトランタベースなんですよ。

(宇多丸)ああ、本当? 奇しくもまた?

(高橋芳朗)はい。ちょっと聞いてください。TWICEで『MOONLIGHT SUNRISE』です。

TWICE『MOONLIGHT SUNRISE』

(高橋芳朗)はい。TWICEで『MOONLIGHT SUNRISE』。さっきの『My Boo』を彷彿とさせる……。

(宇多丸)やっぱりビートのそのボンッ、ボンッ、ボッボッボッ……って、この808感の強調がものすごいね。

(高橋芳朗)で、この曲ってTWICEにとって2021年の『The Feels』に続く2曲目の全編英語詞なんですよ。つまりアメリカのマーケットを視野に入れた曲になるわけなんですけど。そんな重要な曲でアトランタベースを取り入れているという。このアプローチですよね。だからさっき触れたみたいに今、K-POPだけじゃなくアメリカのR&Bでもマイアミベースっていうか、アトランタベースがリバイバルしてるんで。

(宇多丸)でも、もう本当にそれこそトラップとかに繋がる、ある種のサウンド感のルーツっていうかね。そういう感じもあるもんね。

(高橋芳朗)そうですよね。やっぱりずっとクランクとかスナップとかトラップとか、808ですからね。

(宇多丸)そういうことだよね。

(高橋芳朗)だからこれがね、アメリカのチャートでどう評価されるか、すごい楽しみなんですね。なので、それを踏まえて来月、アメリカとK-POPのマイアミベース、アトランタベース再評価の動きをお伝えできたらなと思って。アメリカでもね、結構なビッグネームが続々とこれ系の音を取り入れてるんで。

(宇多丸)この、なんつーんだろうな? ドクターペッパー感っていうか。ケミカルな味感っていうのかな?

(高橋芳朗)でも、昔のヒップホップリスナーからすると、こういう時代が来るとは……。

(宇多丸)まあね。でもやっぱり実はさっき言ったように、脈々と一番売れる音楽としてあるのは、そっちの方っていうイメージがあるから。売れるのは別にニューヨークヒップホップじゃないから。

(高橋芳朗)その通りだ(笑)。

(宇多丸)だからなんか、1本通っている感じがするかな?

<書き起こしおわり>

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