高橋芳朗さんがTBSラジオ『ザ・トップ5』の洋楽紹介コーナーの中で2016年のアメリカ大統領選挙のキャンペーンソングを特集。有力候補者3人(トランプ、クリントン、サンダース)の曲を解説していました。
(高橋芳朗)じゃあちょっと、洋楽選曲コーナーに行ってみたいと思います。今回はですね、アメリカ大統領選挙がいよいよ本格化してきたということで。現状、注目度の高い、支持率の高い上位3人。民主党のヒラリー・クリントンとバーニー・サンダース。そして共和党のドナルド・トランプ。この3人の候補がキャンペーンソングとしてどんな曲を使っているのかを紹介したいと思います。
(熊崎風斗)知りたいですね。
(高橋芳朗)まずは共和党候補。先日のニューハンプシャーの予備選で圧勝したドナルド・トランプから行ってみたいと思います。ドナルド・トランプさんは数々の過激な発言もあってですね。
(熊崎風斗)かなり日本でも報道されてますよね。
(高橋芳朗)そう。だから集会とかで何かしらの曲を使うたびに、各ミュージシャンから使用の中止を求める抗議を受けているわけですよ。
(熊崎風斗)(笑)
(高橋芳朗)まあこれ、ミュージシャンにリベラルが多いせいもあるとは思いますけども。そんな中ですね、現状唯一ドナルド・トランプが使用許可をもらえた曲が、こちらになります。トゥイステッド・シスター(Twisted Sister)の『We’re Not Gonna Take It』。1984年の作品です。
Twisted Sister『We’re Not Gonna Take It』
(高橋芳朗)はい。トゥイステッド・シスターはですね、1980年代に人気を博したヘビーメタルとかハードロックバンドで。結構けばけばしい風貌とポップな曲調で子供たちに人気があったバンドなんですけど。で、この曲も本来は子供たちの、キッズのフラストレーションを代弁した曲で。歌詞はですね、『そんなことは受け入れられない。そんなことはもうたくさんだ。俺たちにだって選ぶ権利はある。権力とは真っ向から戦ってやる。俺たちの運命を勝手に決められてたまるか!』みたいな。そういう内容になっています。だから、民衆をこうアジテートするにはもってこいの曲かな?とは思うんですけども。
(熊崎風斗)たしかに、革新的なトランプさんらしいっちゃらしいってことですよね?
(高橋芳朗)ただ、トゥイステッド・シスターもドナルド・トランプの曲の使用に関してOKを出したとは言え、かならずしも彼の共和党を支持というわけではないんですね。そのバンドのリーダーのディー・スナイダーはこんなコメントを残しています。『ドナルド・トランプは俺の良き友人で素晴らしい男だ。俺は彼が政治のシステムをひっくり返すのをサポートしている。そして「We’re Not Gonna Take It」は反逆についての歌だ。ドナルド・トランプがいまやっていることは反逆以外のなにものでもない。だから民主党のバーニー・サンダースに使ってもらっても構わないんだ。彼も同じように状況をひっくり返そうとしてるからな』と言ってるんですね。
(熊崎風斗)うん。
(高橋芳朗)さらに、こんなコメントも残しています。『ドナルド・トランプの言うことすべてに賛同しているわけじゃない。でも、俺は彼のスピリット、態度を支援する。人々はもう我慢の限界を超えていて、うんざりしてるんだ。「We’re Not Gonna Take It」はそんな民衆の声を代弁するのにパーフェクトな曲だ』というコメントを残してます。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)で、ちなみにですね、ドナルド・トランプがこれまでに集会などで使ってNGを出された曲をざっと紹介しますと、まずエアロスミス(Aerosmith)の『Dream On』。これ、『夢を追い続けよう』みたいな。エアロスミスの最初の大きなヒットですかね。
(熊崎風斗)うん。
(高橋芳朗)あと、R.E.M.の『It’s The End Of The World As We Know It (And I Feel Fine)』っていう。これ、タイトルは『知っての通り、これが世界の終焉(でも、とてもいい気分)』っていう、ちょっと屈折したタイトルの曲なんですけども。これ、R.E.M.のボーカル、フロントマンのマイケル・スタイプ(Michael Stipe)っていう人が自分たちの曲を使ったことにもう激怒して。『恥を知れ!この哀れで目立ちたがりで強欲な小心野郎!何をしやがるんだ!俺たちの音楽や俺の声をお前らの間抜けな選挙キャンペーンに使うんじゃねえ!』って。
(熊崎風斗)結構言いますね。
(高橋芳朗)むっちゃくちゃ怒ってます。はい。他にも、ドナルド・トランプさん。アデル(Adele)の『Rolling In The Deep』とか『Skyfall』も使っているし。あと、ローリング・ストーンズ(Rolling Stones)の『Brown Sugar』とか『Sympathy for the Devil』なども使って、きっちりクレームを受けてます。
(熊崎風斗)許可をもらって使うというよりは、使ってから怒られるっていうパターンなんですね?
(高橋芳朗)そうですね。で、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズ(Keith Richards)は『ドナルド・トランプが大統領になったら最悪の悪夢』とコメントをしています。そんなね、ドナルド・トランプがキャンペーンで使って抗議された曲の中で、ちょっと面白かったのが、ニール・ヤング(Neil Young)の『Rockin’ In The Free World』という曲です。ちょっとかけてください。
Neil Young『Rockin’ In The Free World』
(高橋芳朗)で、ニール・ヤングっていう人は、カナダの人なんですけど。『俺は大統領選候補の連中ではなく、人々のために曲を作っているんだ』というコメントを残して使用禁止を訴えて。『自分はバーニー・サンダースを支持する』ということを表明してるんですね。で、そもそもこの『Rockin’ In The Free World』は1989年にリリースされた曲なんですけど。もともとニール・ヤングはね、共和党政権を批判した曲になるんですよ。ブッシュ政権。パパ・ブッシュの頃ですね。
(熊崎風斗)へー。
(高橋芳朗)お父さんブッシュの頃。だから、共和党を批判した曲を共和党候補のドナルド・トランプがキャンペーンソングとして使うという、よくわからない事態になっているんですけど。まあ、あの人のスタンスの曖昧さがこういうところによく出てるかな?という気もするんですけど。
(熊崎風斗)トランプさんはそれを知りながら使ってるのか、どうなのか・・・
(高橋芳朗)そう。だから深読みをすると、『Rockin’ In The Free World』は当時のブッシュ政権を批判した曲だから。同じ共和党候補のライバルのジェブ・ブッシュを牽制する意味で使ったところもあるかもしれないけど、たぶん考えすぎだと思います。
(熊崎風斗)何も考えずっていう可能性もある?
(高橋芳朗)そうですね(笑)。こんな感じでドナルド・トランプさん、ネタ多すぎるんですけども。続いて、民主党候補、ヒラリー・クリントンのキャンペーンソングを紹介したいと思います。彼女が使っているのは、ケイティ・ペリー(Katy Perry)の『Roar』。これ、2013年。最近の作品ですね。全米一位になった大ヒット曲です。『Roar』は猛獣が吠えるとか、猛獣の唸り声。『ガオーッ!』みたいな意味で。歌詞はこんな感じです。『私は虎の目を持っている。燃える炎の中で踊るファイター。だって私はチャンピオンだから。私は吠える。もっと大きく、ライオンより大きな声で』みたいな。結構勇ましい内容になっています。
Katy Perry『Roar』
(熊崎風斗)ああー。
(高橋芳朗)で、ケイティ・ペリー自身、『これは自分のために立ち上がることを歌った曲なんです』っていう風に説明しています。で、ケイティ・ペリーはもうヒラリーのね、自伝のサイン会とか集会にも積極的に参加してるような、かなり熱心なヒラリー支持者なんですよ。
(熊崎風斗)じゃあもう、使うべくして使っているという感じですか?
(高橋芳朗)そう。だからこの『Roar』についても、ケイティ自ら『応援ソングを作らせてほしい』って名乗り出たんですよ。したらヒラリーが、『もうすでにあなたは素晴らしい曲を作っているじゃない。あなたの「Roar」を聞かせてちょうだいよ』っていう風にレスポンスしたことによって、この曲がキャンペーンソングになったという経緯があります。
(熊崎風斗)トランプさんとは大違い。
(高橋芳朗)しかもこれ、Twitter上でやり取りしてるから、まだ残ってますよ。
(熊崎風斗)おおー。じゃあ、見ることができるんですか。我々でも。
(高橋芳朗)できます。で、今日、これから聞いていただきたいのはそのヒラリー・クリントンに肉薄している、先日のニューハンプシャーの予備選ではヒラリーに勝利しました、民主党候補バーニー・サンダースのキャンペーンソングを紹介したいと思います。ミュージシャンの中では結構左派のサンダース支持者が圧倒的に多いんですけど。そんな彼がどんな曲を使っているのか?というとですね、サイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)の『America』っていう曲。1968年の作品なんです。これね、サンダースが1月21日に公開したテレビ用の新しいキャンペーンCM。もうタイトルがそのまま『America』っていうCMで流れている曲で。
(熊崎風斗)へー。
(高橋芳朗)これ、You Tubeにも上がっているんで。興味のある方はチェックしてみてください。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)で、このサイモン&ガーファンクルの『America』っていう曲はサビで『I’ve come to look for America(僕はアメリカを探すためにやって来た)』っていう歌詞があるんですね。で、これ全体的にどういうことを歌っているか?っていうと、若い恋人同士がアメリカとは何なのか?アメリカの真の意味を求めて長距離バスに乗ってアメリカ横断旅行をするみたいな、そういう内容になっているんですね。だから、1968年当時っていうと、ベトナム戦争だったり公民権運動だったりとかで、アメリカがまあ激動の年だった時期だということが背景にあると思うんですけども。
(熊崎風斗)うん。
(高橋芳朗)で、この曲を聞くと、きっとね、多くの方はある映画のあるシーンを思い出すと思うんですよ。それは、熊崎くんも見ている映画で、キャメロン・クロウ監督の『あの頃ペニー・レインと』。僕が貸しましたよね?以前。
(熊崎風斗)ああー!はい。
(高橋芳朗)あの劇中で、主人公のウィリアム少年のお姉さん。『(500)日のサマー』のズーイ・デシャネルが演じたあのお姉さんが超保守的な母親に辟易して、自由を求めて家を出て行く場面。ありますよね?
(熊崎風斗)あります。覚えてます。覚えてます。
(高橋芳朗)あのシーンで流れるのが、このサイモン&ガーファンクルの『America』なんです。だからサンダースがそこまで視野に入れてこれを選曲したかどうかはわかんないんですけど。まあ、彼が打ち出しているリベラルなイメージを補強する上ではすごい見事な選曲だと思いますし。少なくとも、ノリで選んだような選曲ではないかな?という気がしますね。
(熊崎風斗)しっかり考えて。
(高橋芳朗)ちゃんと吟味された選曲という気がしますね。で、これはちなみにサイモン&ガーファンクルの2人。ポール・サイモン(Paul Simon)とアート・ガーファンクル(Art Garfunkel)。両者ともにバーニー・サンダースに使用許可。OKを出しています。
(熊崎風斗)基本的にOKを出すパターンが(笑)。1人目の方以外は(笑)。
(高橋芳朗)(笑)。まあね。そうですね。じゃあ、聞いてもらいましょう。サイモン&ガーファンクルで『America』です。
Simon & Garfunkel『America』
(高橋芳朗)サイモン&ガーファンクルで『America』、聞いていただきました。あの、まあドナルド・トランプのトゥイステッド・シスター。ヒラリー・クリントンのケイティ・ペリー。で、バーニー・サンダースのサイモン&ガーファンクル。もうまさに三者三様といった感じで面白いですね。
(熊崎風斗)大統領選って音楽でも結構こうやって個性って出るんですね。
(高橋芳朗)そうね。まあ、他にもいろんな曲を使っているので。そのへんもちょっとチェックしてみると面白いと思います。で、今日ね、この後、22時。10時からはTBSラジオ『荻上チキ Session22』で特集がアメリカ大統領選挙観戦完全ガイド。小西克哉さんと町山智浩さん。これ、ぜったいに面白いと思うので。必聴です!
(熊崎風斗)はい。ありがとうございます。
<書き起こしおわり>
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