高橋芳朗 NewJeans『Ditto』のボルチモアクラブ・ジャージークラブ感を語る

高橋芳朗 NewJeans『Ditto』のボルチモアクラブ・ニュージャージークラブ感を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2023年1月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でニュージーンズについてトーク。『Ditto』のサウンド面の特徴、ボルチモアクラブ・ジャージークラブ感について話していました。

(高橋芳朗)で、こうやってゲームの流れを変える……さっき宇多丸さん言ったようにゲームチェンジャーとして強烈なインパクトをシーンに与えたニュージーンズにとって、最初のそのカムバですか。新作リリースになったのが、去年12月19日にリリースされた『Ditto』と年明けの1月2日にリリースされた『OMG』になるわけなんですけど。これがまたもう、デビューアルバムの余韻をバッサリ断ち切るぐらいの衝撃があってですね。リリースのタイミングが絶妙だったと思うんですよ。年を挟んだ年末と年始の新曲発表っていうのが、イニシアチブを取り来てるな!っていうか。今、誰がこのゲームを引っ張ってるのかを誇示しているようにも思えたりもして。

この2曲の新曲『Ditto』『OMG』の衝撃はですね、音楽はもちろんなんですけど。ミステリアスなミュージックビデオによるところも大きくて。むしろ当初はミュージックビデオの話題の方が先行していたようなところもあって。それぞれ、なんだろうな? ちょっとメタ的な描写を含んだ、連動した内容になっていて。ちょっとそのストーリーに込められたメッセージを巡って、たくさんの考察が飛び交ったんですけど。ご覧になられましたか?

(宇多丸)はい。すごいフィルムタッチで……たぶん8ミリかな? わかんないけど。あの粗いフィルムタッチで。すごい、言うてもさ、『Hype Boy』までは結構アメリカンなスタイルの学園みたいなものが……要するに、すごいフィクショナルな感じがしたけど。こっちは完全に本当に制服から何から、すごい生々しいというか。ヒップホップ用語で言うとロウ(RAW)な感じというか。そんなタッチで。あと、やっぱりちょっとノスタルジックなっていうか。ちょっと粗い粒子のフィルムのタッチも含めて、ちょっと全然今までのK-POPのモードと違う。なんなら、やっぱり日本の90年代インディー映画的な……。

(高橋芳朗)岩井俊二監督の作品を引き合いに出す人とかもいるみたいですね。

(宇多丸)岩井俊二監督、アジアでの影響、大きいですからね。まあ、たしかにそういう叙情性というか、リリシズムといいましょうか。

(高橋芳朗)あと、ノスタルジックですごいきれいで甘酸っぱくもあるんですけど。どこか不穏なんですよ。なんか。Jホラーっぽいような描写もあったりとかして。そうそう。で、たぶんその『Ditto』。サイドAとサイドBの2種類ある学園が舞台になっている『Ditto』のビデオはイマジナリーフレンドとしてのアイドルとか、アイドルとかの関係性の儚さみたいなのを描いているようにも受け取れたんですね。『Ditto』のビデオが公開なった翌日の12月20日にアトロクでアイドルの今と未来について考えてみるっていう特集をやっていたじゃないですか。その特集を聞きながらね、『Ditto』のビデオのことをずっと考えてました。

(宇多丸)へー!

(高橋芳朗)で、一方の『OMG』は『Ditto』からもう一歩踏み込んで、ステレオタイプなアイドル像に対する問題提起みたいなところもあるのかな、みたいな感じもしましたね。最後のくだりからすると、アイドルとファンの新しい関係性を示唆しているような印象もあったりとかして。ただ、とにかくその精神病院を舞台にした……。

(宇多丸)これは『OMG』の方ね。

(高橋芳朗)その映像がインパクト強すぎて。最初、曲が頭に入って来なかったですよね。正直、ちょっと戸惑いましたけれども。

(宇多丸)なんかでもすごいグリッターなこれまでのK-POPの世界観からすると、正反対っていうかね。

(高橋芳朗)そうですね。やっぱりそのミン・ヒジンのK-POPアイドルの固定概念を覆そうというその方針が反映されてるのは間違いないですよね。

(宇多丸)しかもこれ、映像作品のみならず、楽曲そのものも……。

(高橋芳朗)そうですね。だからさっき言ったみたいに2曲とも公開当初はそのミュージックビデオの解析が先行して。音楽そのものはあんまり語られる機会がなかったんで、ちょっとここでちゃんと解説しておきたいなと思う次第でございます。ニュージーンズ、音楽的にはさっきから話してるみたいに、そのY2Kがひとつのキーワードしてあったんですけど。『Ditto』と『OMG』に関してはそのイメージも維持しつつ、今の欧米ヒップホップ、R&B、ダンスミュージックのトレンドにちょっと寄せてきたって印象ですかね。

で、最初は『Ditto』のサウンド解説、サウンド解剖から行きたいんですけど。まず、ちょっとどんな曲か、ワンコーラス程度、聞いてもらいましょうか? はい。ニュージーンズで『Ditto』です。

(高橋芳朗)はい。ニュージーンズで『Ditto』。こんな感じの曲なんですけども。ちょっといろいろと参考音源を聞いてもらった後で改めてまた聞いてもらうので。まずはこのビート感、なんとなく頭に入れておいていただきたいんですけども。この『Ditto』っていう曲では、ボルチモアクラブだったり、ジャージークラブと呼ばれるダンスミュージックの要素を取り入れてるんですね。

で、まずボルチモアクラブっていうのは1980年代後半から1990年代前半にアメリカのメリーランド州ボルチモアで生まれた、超ざっくり言うとヒップホップとハウスを融合させたようなダンスミュージックで。2000年代半ばに本格的に流行して、日本のクラブでもそこそこ話題になったんですけど。

ボルチモアクラブの特徴

(高橋芳朗)で、ボルチモアクラブのサウンドの特徴としてはですね、ファンクの名曲。さっき、チラッとかかりましたけども。リン・コリンズの1972年の『Think』という曲のドラムブレイクがひとつのシグニチャーというか、テンプレートになってるんですね。ちょっとかけてもらえますか?

(高橋芳朗)ヒップホップリスナーにはおなじみの曲だと思うんですけど。ここですね。まさにここ。この部分ですね。

(宇多丸)まあ、クラシックブレイクですよ。まさに。

(高橋芳朗)で、このリン・コリンズの『Think』の今のビートの部分って、ヒップホップをはじめとするダンスミュージックにおいて定番中の定番になっていて。

(宇多丸)もう何人に使われたんだ?って感じですね。

(高橋芳朗)で、それを決定づけた曲が1988年にヒットしたロブ・ベース & DJ EZ・ロックの『It Takes Two』。ビートパターンがわかりやすいので、ちょっとインストゥルメンタルを用意しましたので、聞いてください。

(高橋芳朗)これ、聞いたことある方、結構多いと思うんですよね。

(宇多丸)まんま、このロブ・ベースじゃなくてもこのループはとにかく、もうどれだけこすられているんだ?っていうぐらいやっているから。

(高橋芳朗)で、この『Think』のビートを使ったボルチモアクラブの代表曲として、ボルチモアクラブのドンと呼ばれてますDJロッド・リーの2005年の『Dance My Pain Away』っていう曲を聞いてもらいたいんですけど。ある意味、ビートを解体して骨組みだけにしたような曲とも言えるのではないかなと思うんですけど。あ、今かかっている曲ですね。この『Think』感、『It Takes Two』感がちょっと伝わるかな?

(宇多丸)変な曲(笑)。

(高橋芳朗)かなりホゲてますけども。で、『Ditto』の疾走感を生んでいるその小気味良いビートはこのボルチモアクラブのテンプレの『Think』のドラムブレイクをモチーフにしてると思うんですよ。で、たぶん『Ditto』を聞き込んでいる人ならもう共通したものを聞き取れると思うんですけど。ちょっとまずこのビートを覚えておいてもらえますかね? で、そのボルチモアクラブから派生したのがジャージークラブなんですね。『Ditto』にはそのジャージクラブのエッセンスも含まれてるんですけど。ジャージークラブは2000年代後半にニュージャージー州ニューアークで誕生したダンスミュージックで。

去年ドレイクが最新アルバムの『Honestly, Nevermind』で取り入れたこともあって、ちょっとしたトレンドになっていたんですよ。で、特徴としては当然ボルチモアクラブに似ているんですけども。わかりやすいポイントとしては、さっき宇多丸さんが指摘した通りですね、1小節にバスドラム。キックが5回、入るんですよ。ドラムマシーンのTR808、ヤオヤのキックですね。ハウスミュージックの特徴としては、バススラムの4つ打ちがあるじゃないですか。1小節に……。

(宇多丸)4回、ドン、ドン、ドン、ドン……って。

(高橋芳朗)でもジャージークラブは5回なんですね。

(宇多丸)ドン、ドン、ドッドッドッ……ドン、ドン、ドッドッドッ……って。

ジャージークラブの特徴的なキック

(高橋芳朗)まさにその通り。で、『Ditto』のキックはモロにこのジャージークラブスタイルですね。ドン、ドン、ドッドッドッ……ドン、ドン、ドッドッドッ……って。ちょっとサンプルとしてドレイクの最新作から『Sticky』いう曲を聞いてもらえますか?

(高橋芳朗)これ、わかりやすいと思います。

(宇多丸)すごい立っているもんね。このドン、ドン、ドッドッドッ……って。

(高橋芳朗)これです。で、ダメ押しでもう1曲、ジャージークラブのバスドラムが聞き取りやすい曲としてロンドンのピンクパンサレスが去年11月にリリースした『Boy’s a liar』という曲をかけてもらえますでしょうか?

(高橋芳朗)これですね。

(宇多丸)宇内さん、おわかりいただけただろうか?

(宇内梨沙)わかりました。

(高橋芳朗)ジャージークラブの特徴みたいなのは、なんとなくつかめていただけたかと思うんですけども。

(宇多丸)ああ、でもベースがそうか。リン・コリンズループだったとは、あんまり思ってなかった。そうなんだね。

(高橋芳朗)リン・コリンズループは上のちょっとマーチっぽいドラムですね。というわけで、ここで改めて『Ditto』に行ってみましょうかね。始まって14秒ぐらいで、そのリン・コリンズ『Think』風のビートが出てくるんですね。で、30秒ぐらいからジャージークラブのバスドラム5つ打ちが入ってきて。で、1分10秒過ぎから両方が並走していくっていう感じです。そのあたり、意識して聞いてみてください。ニュージーンズで『Ditto』。

NewJeans『Ditto』

(高橋芳朗)はい。ニュージーンズで『Ditto』です。おわかりいただけただろうか?

(宇多丸)わかりました。わかりやすかったです。

(高橋芳朗)ありがとうございます。よかった! ちょっと、あえてもう一発ジャージークラブの曲を聞いてもらいたいんですけど。ニュージャージーのR&BシンガーのCookiee Kawaiiの2021年『Relax Your Mind』。これ、幻想的なイントロからビートが走り出す構成がちょっと似てるんですけど。

(宇多丸)こっちはかなり早いけどね。

(高橋芳朗)これでなんとなくボルチモアクラブとジャージークラブの要素を聞いて『Ditto』の構造がつかめていただけたかなと思うんですけども。

(宇多丸)じゃあ、かなりトレンドを意識した感じだったんですね?

(高橋芳朗)今、聞いてもらったドレイクとかピンクパンサレスの曲がまさにそうですけども。去年あたりから、そのジャージークラブのビートを使ったメロウな歌モノだったり、既存のR&Bの曲をジャージークラブ風にリミックスした曲が増えてきてるんですよ。だから『Ditto』のプロダクションっていうのは、たぶんそういう潮流を踏まえてるんじゃないかなと思います。

ただ、ボルチモアクラブとかジャージークラブの特徴的なビートを取り入れても、ちゃんと従来のニュージーンズの世界観がしっかり保たれてるのが素晴らしいし、まあ中毒性も高いなという感じだし。ちゃんと90年代R&B的な良さも維持してるなという感じですよね。やっぱりそのメロディーの切なさとか、透明感のあるボーカルによるところが大きいのかなと思いますけどね。

(宇多丸)あと、この『Ditto』っていうタイトルのなんていうか、「うん? なにそれ?」っていう感じの付け方の絶妙さっていうか。でも一度聞くと「ああ、こういうことか」みたいな感じで。やっぱり次から歌いたくなっちゃう感じとか。ナイスライミングも含めて。

(高橋芳朗)そう。ライミングも気持ちいいですよね。はいはい。

(宇多丸)そうそう。曲を聞くとライミングも含めて、答え合わせにちゃんとなっていて。「おお、なるほど。気持ちいい!」みたいな感じになるというかね。

(高橋芳朗)で、これ、プロデュースを務めてるのはデビュー作で『Attention』と『Hype Boy』を手がけていた250(イオゴ)っていうプロデューサーで。彼はミン・ヒジンがそのSMエンターテイメント時代に制作に携わったアーティストを手がけていたこともあるので。きっと彼女のお気に入りで、意思の疎通が取りやすいプロデューサーなのかなという感じもしています。じゃあ、続いて『OMG』に行ってみましょうか。

<書き起こしおわり>

高橋芳朗 NewJeansがK-POP界に与えた影響を語る
高橋芳朗さんが2023年1月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でニュージーンズについてトーク。その鮮烈なデビューと『Hype Boy』などの楽曲がK-POP界に与えた影響などについて話していました。
高橋芳朗 NewJeans『OMG』のアトランタベース感を語る
高橋芳朗さんが2023年1月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でニュージーンズについてトーク。『OMG』のサウンド面の特徴としてアトランタベース感を指摘していました。

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