高橋芳朗 NewJeansがK-POP界に与えた影響を語る

高橋芳朗 NewJeans『Hype Boy』がK-POP界に与えた影響を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2023年1月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でニュージーンズについてトーク。その鮮烈なデビューと『Hype Boy』などの楽曲がK-POP界に与えた影響などについて話していました。

(宇多丸)さて、今回はどんなテーマでいきましょうか?

(高橋芳朗)今日は去年7月にデビューして、もう一大センセーションを巻き起こしていますK-POPの5人組ガールグループ、ニュージーンズ特集したいと思います。

(宇多丸)1回、曲はかけましたよね?

(高橋芳朗)はい、そうですね。去年の9月かな?

(宇多丸)9月27日の時にLE SSERAFIMとかと並びで。

(高橋芳朗)BLACKPINKの特集の時ですね。今、K-POPはガールグループ戦国時代の様相を呈していて。さらにサウンドも多様化を迎えて、すごい面白い状況になってるよっていう話をして。で、ニュージーンズがそういう動向の中心にいる存在なんです、みたいな。そういう話をしたと思うんですけど。彼女たちね、K-POPのガールグループのデビューセールス記録を次々と塗り替えていてですね。去年8月のデビューアルバム、セルフタイトルの『NewJeans』の初動セールス。最初の1週間の売り上げがK-POPのガールグループ歴代最高の31万枚だったんですね。

で、今月に出た新作の『OMG』は初動で70万枚なんですよ。もう倍以上の売り上げで自分たちが打ち立てた記録を更新してるんですけど。もうこの数字が今のニュージーンズを取り巻く熱狂ぶりを象徴してると思うんですけど。この年末年始にリリースした新曲があるんですよね。『Ditto』と『OMG』。これがともに全米シングルチャートにランクインしたんですよ。順位は『Ditto』が96位で『OMG』が91位。「ちょっと低いな」って思うかもしれないけど、デビューから6ヶ月全米チャート100位圏内へのランクインは、K-POPアーティストとして史上最速です。

(宇多丸)ああ、そうだよね。だってそれはBTSだって時間をかけてあそこまでいってるわけだから。

(高橋芳朗)で、2016年9月以降にデビューしたK-POPアーティストとしては初の100位圏内のランクインでもあるという。要はだからBLACKPINK以降にデビューしたK-POPアーティストでシングル全米チャート100位圏内にランクインさせた人はいなかったという。

(宇内梨沙)へー! TWICEとかも入ってないってことですか?

(高橋芳朗)TWICEはBLACKPINKよりもデビューが前ですね。でもそのTWICEも2年前ですからね。初めてシングルを全米シングルチャートにランクインさせたのは。だからK-POPアーティストのアルバムが全米チャートの上位に入るのはもう今は珍しいことじゃなくなってきましたけど。やっぱりシングルはまだまだ大きな壁があるんだよね。

(宇多丸)ファンがガッと買うのがアルバムだとしたら、シングルはもうちょっと不特定多数じゃない? だから、ファンダムを超えて支持されるっていうところに行くかどうかっていうか。

(高橋芳朗)ラジオのオンエアとかも効いてくるから。

(宇多丸)そこでニュージーンズがちょっと頭ひとつ?

(高橋芳朗)これは非常に大きな価値がある成果なんじゃないかなと思うんですよね。

(宇多丸)しかもその『Hype boy』の時もちょっとその片鱗があったけど。ちょっと流れを変える、ゲームチェンジャーかな?ってところもあるわけでしょう?

ゲームチェンジャー・NewJeans

(高橋芳朗)めっちゃゲームチェンジャーですね。で、今年も本当にもっとさらに世界的に大きく飛躍していくことになると思うんで。なので今回の特集としてはまず入門編的にこれまでの流れとかニュージーンズの革新性を一旦、整理しておきたいなと。その上で今、ヒット中の新曲の『Ditto』と『OMG』のサウンドを洋楽的な観点から、例によって解説したいと思っております。

(中略)

(宇内梨沙)今夜は月刊ミュージックコメンタリー、K-POPの新時代を告げるニュージーンズ編です。ゲストは番組月1レギュラー、音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんです。よろしくお願いします。

(高橋芳朗)よろしくお願いします。

(宇多丸)ちなみに宇内さんってK-POPは?

(宇内梨沙)うーん。サブスクでおすすめの曲に入ってたら、そのまま聞くぐらいで。正直、特定のこのアーティストを聞いてるとか、そういった感じではないので。今日はニュージーンズについて、その魅力を……。

(高橋芳朗)ニュージーンズ、ご存知でした?

(宇内梨沙)いや、知らなかったですね。

(宇多丸)でもさ、なんとなくだけど、ニュージーンズって聞きやすいと思うんだけど。

(高橋芳朗)めちゃくちゃ聞きやすいと思います。

(宇多丸)入りやすいと思うんだよね。たぶんね。なのでちょっと今日は……。

(高橋芳朗)そういう話をしていくことになると思います。

(宇多丸)じゃあ、ヨシくん、よろしくお願いします。ニュージーンズ、どんなグループなんでしょうか?

(高橋芳朗)まず基本情報をお伝えしておきますと、ニュージーンズは韓国の5人組ガールグループです。BTSが所属していることでおなじみの事務所、ハイブに新たに立ち上げられた「ADOR」というレーベル。これ、「All Doors One Room」の略なんですけど。そのADORの第1弾アーティストですね。で、メンバーは韓国出身のミンジ、ヘリン、ヘインとオーストラリア生まれ韓国出身のダニエル。あとはベトナム生まれでオーストラリア出身のハニ。で、メンバー全員が10代です。平均年齢は17歳。

(宇多丸)下はだって14?

(高橋芳朗)14歳です。上が18歳。下が14歳。で、ここが重要なポイントなんですけど、ニュージーンズの総合プロデューサーはですね、その新レーベルADORの代表のミン・ヒジンという人が務めているんですね。で、彼女はK-POPの大手事務所のSMエンターテイメントのクリエイティブディレクターとして少女時代とか、f(x)とか、数々のK-POPアイドルを手がけてきた敏腕で。彼女のファンも結構いるみたいなんですよ。

(宇多丸)へー! 「ミン・ヒジンさんのやってるものは間違いない」みたいな?

(高橋芳朗)そうです。で、ニュージーンズはそんなミン・ヒジンがメンバー選抜から企画、音楽制作、振り付けまで全過程を指揮している。そういうところでも話題になっているんですね。

(宇多丸)肝いりだ。

(高橋芳朗)そうそう。で、そのニュージーンズ、どこが新鮮だったか? 画期的だったか?っていうと、めちゃくちゃ端的に言うとですね、K-POPっぽくないんですよね。

(宇多丸)まあ、そのK-POPっぽさとは何か? だけども。割とビッキビキのというか……。すいません。擬音で(笑)。

(高橋芳朗)K-POP特有のケレン味がないといいますか。そこのケレン味こそが、K-POPの愛すべきところでもあると思うんですけれども。

(宇多丸)もう要するに、EDMとかそういう現代エレクトロダンスミュージックの味を濃くして味を濃くして、ビッキビキ、ビリビリにした感じ。で、踊りもカッチカチにして。もうとにかく、全部の味が濃いみたいな。

(高橋芳朗)圧みたいな感じじゃないですか。

(宇多丸)でも、それが魅力。もちろんそうですよね。

(高橋芳朗)でも、そういうK-POPアイドルの定石みたいなのをことごとく外してきているんですね。で、これはグループ名に込められたそのニュージーンズのコンセプトからもうかがえると思うんですけど。ニュージーンズの名前って「時代を問わずあらゆる世代に愛されてきたジーンズと同じように、毎日求められても飽きがこない時代のアイコンになること」っていう意味が託されているんですね。

(宇多丸)「ジーンズ」ってワードにはオーセンティックが入っていて。だから「新しいオーセンティック」っていうか。

(高橋芳朗)だからここにほのめかされてると思うんですけど。やっぱり一般的なK-POPのガールグループと比べると、もう圧倒的に等身大、自然体ですね。

(宇多丸)それはファッションとか、そういうルックスだけじゃなくて、楽曲とかがそうだっていう?

(高橋芳朗)そうですね。で、そのニュージーンズを語る時に必ず用いられるキーワードが、ここ数年世界的なトレンドにもなってますけど「Y2K」ですね。

(宇多丸)出ました! Y2Kバー、パシオン・アカサカとかね。

(高橋芳朗)で、音楽的には90年代から2000年前後ぐらいまでのメロウでメロディアスなアメリカのR&Bをひとつのモチーフにしてるのではないかと思われます。まあ、その影響を受けて作られたジャパニーズR&Bを彷彿とさせるという声も結構ありますね。で、同様にファッションもかつてのTLCだったり、アリーヤみたいな90年代に活躍したR&Bアーティストを連想させるところが……。

(宇多丸)ダボッとしたジーンズをずり下げめに履いて、おへそを見せて……みたいな。

(高橋芳朗)そうへそ出しルックがちょっとシンボルなところもあるのかな? あとニュージーンズのビジュアルイメージに関してはオリーブっぽいとかね、エムシーシスターっぽいみたいな声もちらほら上がってましたね。

(宇多丸)それは要するに80年代後半から90年代の日本のおしゃれな少女たちが読んでいた雑誌。

(高橋芳朗)で、合わせてソフィア・コッポラ監督の『ヴァージン・スーサイズ』感みたいなことを言ってる人もいて。要は、彼女たちの佇まいからガーリーカルチャーとの親和性の高さみたいなのを感じ取っている人が多いのかな?って思ったりもしましたね。

(宇多丸)ちょっとでも、今までのK-POPのイメージに比べるとシックっていうか。

(高橋芳朗)そうですね。で、その総合プロデューサーのミン・ヒジンはそのニュージーンズの音楽的方向性に関して「私が選んだ楽曲は既存のK-POPアイドルの音楽スタイルと違っていた」ってもうはっきり、コメントしてるんですよ。で、実際にデビュー直後には「ニュージーンズの音楽はK-POPらしくない」みたいな声が多く寄せられてたみたいで。で、デビュー前に社内で行ったヒアリングでも「薄っぺらい」とか「大衆性に欠ける」とか。あと「既存のK-POPアイドルのセオリーを踏んでないから、ヒットは難しいんじゃないか?」みたいな意見があったんですって。

それに対してもミン・ヒジンは「自分は固定されたやり方を嫌うタイプで。K-POPのヒットのセオリーを打破したいという反骨心があった」って話してるんですよ。あと「約束された成功のために誰もが同じスタイルを目指すことはこの業界に携わる者として残念に思っていた。何か新しい方法を提案したかったし、従来のやり方が自分が求めているものにそぐわなかった」ともコメントしたりしてますね。

で、ニュージーンズはプロモーションにおいても既存のやり方を踏襲してないんですよ。通常、新しいグループがデビューに向けてのプロセスとしては、まずグループ名やメンバーのプロフィールを公開して。その後にティーザーを重ねて、断片的な情報を小出しにして、期待感が膨張しきったタイミングで満を持してが曲を発表するっていうセオリー。そういう流れがあると思うんですけど。ニュージーンズはグループ名もメンバーも一切、伏せたまま、いきなりサプライズでミュージックビデオを公開したんですよ。

事前情報はたぶん「ミン・ヒジンが手がけるガールグループがデビューするらしい」ぐらいの感じだったのかな? ミュージックビデオの公開で初めてグループ名やメンバーが明らかになったんですよ。だからミン・ヒジン曰く、「従来のK-POPアイドルと音楽スタイルが違うだけに、より戦略的にならなくてはいけなかった」っていう風に話していますね。

(宇多丸)あの事前にちょい出しして、見切った気にされるのもよくないし……っていう感じだよね。

(高橋芳朗)そうですね。かなり大胆なアプローチだと思うんですけど。で、ニュージーンズがその一般的なK-POPアイドルのイメージからちょっと距離を置いてるっていうのは、その楽曲を聞くだけでもわかると思うので。改めてデビューアルバムから1曲、紹介したいと思います。できればね、ミュージックビデオも併せて見てもらいたいなと思うんですけれども。じゃあ、聞いてくださいニュージーンズで『Hype Boy』です。

NewJeans『Hype Boy』

(宇多丸)はい。ニュージーンズで『Hype Boy』を聞いていただいております。ヨシくん、これ、前にも1回、かけましたけども。

(高橋芳朗)『Hype Boy』のミュージックビデオって、メンバー別に4バージョン作られてるんですよ。で、ニュージーンズはデビュー前に、さっきも言ったようにメンバー名を明かさなかったんですけど。最初に公開した、さっきCM明けに流した『Attention』に続くこの『Hype Boy』のミュージックビデオで初めてメンバーの名前が明らかになったんですよね。だからこのミュージックビデオがメンバー紹介として機能してるっていうところですかね。ちなみに『Hype Boy』はですね、アメリカの老舗カルチャー誌のローリングストーンが選んだ2022年ベストソング100選で24位。

(宇多丸)それ、すごくない?

(高橋芳朗)すごいです。K-POPの楽曲、トータル13曲、選ばれてるんですけど。『Hype Boy』が最高位でした。だから結構エポックな曲になっていくのかなとは思うんですけど。

(宇多丸)これ、曲としての特徴というか、位置づけ、ヨシくん的にするならどんな感じ?

(高橋芳朗)やっぱりその90’s R&Bの香りはしますよね。

(宇多丸)やっぱりTLCみとか。

(高橋芳朗)SWVとかね。

(宇多丸)ちょっとBPM落としめで、メロウで……っていう感じかな?

(高橋芳朗)そこに今のちょっとアンビエントっぽいっていうか。フワフワした浮遊感のあるプロダクションが加わってるような感じですかね。

(宇多丸)アップデート版というかね。たしかに。でもこの曲、気持ちいいよね。僕も紹介していただいてから、「うわっ、気持ちいい!」と思って、めちゃくちゃ聞いてました。

(高橋芳朗)宇内さん、これ、聞きやすくないですか?

(宇内梨沙)そうですね。あとやっぱりミュージックビデオにすごく釘付けになっちゃう。そのY2Kって、途中でダンスシーンで急にダボダボのパンツに、髪の毛もちょっとだけツインテールにさせる感じ。ぴょこんとさせる感じ、昔のモー娘。とかもミュージックビデオでそういう感じだったし。やっぱり懐かしさというか。でも、今になっても「あれ? 全然ダサくないじゃん。かっこいいわ!」って思えるというか。

(高橋芳朗)そうっすね。時代が巡ってきたというか。

(宇多丸)ひと回りしたのもあるのかな? ちょっとこれ、ひと回りした感は後ほど、僕なりの証言があるので。もうちょっと曲を聞いてから、それは言います。

(高橋芳朗)わかりました(笑)。で、やっぱりニュージーンズの登場と成功のインパクトはめちゃくちゃ大きかったみたいで。既にニュージーンズ以降といえるような楽曲がK-POPのガールグループからちらほら出てきてるので、紹介したいんですけど。今、来日中の5人組、LE SSERAFIMが去年10月にリリースしたEP『ANTIFRAGILE』から『Impurities』っていう曲を聞いてもらいたいと思います。

これね、ニュージーンズと同じ事務所のハイブ所属のLE SSERAFIMがニュージーンズ的なサウンドを打ち出してるのが面白いんですけど。これね、90年代のメロウなR&Bのオマージュとして、めちゃくちゃ完成度が高いっすね。じゃあ、聞いてください。LE SSERAFIMで『Impurities』です。

LE SSERAFIM『Impurities』

(高橋芳朗)はい。LE SSERAFIMで『Impurities』を聞いていただいております。

(宇多丸)これはパッと聞きの印象はですね、ジャム&ルイスみと言いましょうか。ジャネット・ジャクソンの一連の曲とか、そういう感じですね。まあ、最高ですね。

(高橋芳朗)素晴らしいですね。

(宇多丸)それのアップデート版っていうか。メロとかも本当に美しいし、気持ちいい。

(高橋芳朗)こういう90年代R&Bタイプの曲はシングルとして採用されるようになるかはともかくとして、ここ数年のディスコサウンドがそうだったみたいに、そのアルバムを作る際の新しい選択肢になってくる可能性は大いにあるんじゃないかなと思いますね。

(宇多丸)なるほど。

(高橋芳朗)で、こうやってゲームの流れを変える……さっき宇多丸さん言ったようにゲームチェンジャーとして強烈なインパクトをシーンに与えたニュージーンズにとって、最初のそのカムバですか。新作リリースになったのが、去年12月19日にリリースされた『Ditto』と年明けの1月2日にリリースされた『OMG』になるわけなんですけど。

これがまたもう、デビューアルバムの余韻をバッサリ断ち切るぐらいの衝撃があってですね。リリースのタイミングが絶妙だったと思うんですよ。年を挟んだ年末と年始の新曲発表っていうのが、イニシアチブを取り来てるな!っていうか。今、誰がこのゲームを引っ張ってるのかを誇示しているようにも思えたりもして。

で、こうやってゲームの流れを変える……さっき宇多丸さん言ったようにゲームチェンジャーとして強烈なインパクトをシーンに与えたニュージーンズにとって、最初のそのカムバですか。新作リリースになったのが、去年12月19日にリリースされた『Ditto』と年明けの1月2日にリリースされた『OMG』になるわけなんですけど……。

<書き起こしおわり>

高橋芳朗 NewJeans『Ditto』のボルチモアクラブ・ジャージークラブ感を語る
高橋芳朗さんが2023年1月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でニュージーンズについてトーク。『Ditto』のサウンド面の特徴、ボルチモアクラブ・ジャージークラブ感について話していました。
高橋芳朗 NewJeans『OMG』のアトランタベース感を語る
高橋芳朗さんが2023年1月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でニュージーンズについてトーク。『OMG』のサウンド面の特徴としてアトランタベース感を指摘していました。

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