宇多丸 LGBT理解増進法案・自民党会合での了承見送りを語る

星野源『トランスジェンダーとハリウッド 過去、現在、そして』を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2021年5月21日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でLGBT理解増進法案に対する自民党内の会合で了承が見送られた件について話していました。

(宇多丸)ということでね(自身の誕生日を祝ってもらった後で)こんな嬉しい気持ちに若干水をかけるような話題になって申し訳ないんですけども。ちょっとどうしても、この番組でも言及しておきたくて。いろいろなところで、すでに報道もされて大問題になってますね。LGBTに理解を広げようという法案、「LGBT理解増進法案」に対する自民党の会合で非常にその法案に対する反対が多くて。で、了承が見送りになった。その反対が多いというのはともかく、その中でどういう理由で反対をされたのか?っていうので出てきた理由。漏れ伝わっている理由というものがまあ、ひどくて。この番組は報道番組ではないし、ここで口にも出したくないレベルの、本当にひどいレベルの……ただ、そういうことを言っている方々、皆さんは悪意なく言っているんだっていうところがむしろ驚きで。

(山本匠晃)そう。驚きというか、危険というか。危うさを感じるんですよ。

(宇多丸)そう。危うい。その意識でこの21世紀の世界の日本として、そんな意識の政治家の方が自民党という多数派政党を中で普通なんだっていうのは非常にこれ、日本という国にとって、まさにおっしゃる通り。危機的な状況だなっていう風に思うし。あと、やっぱり呆れてしまったというか。思った以上にその認識のレベルが低い。もちろん、様々なお考えというものはあってもいいけど、これははっきり、国民の多様性というものに……要するに「人権問題」なわけですよね。すべての国民が自分が望むような形で生きる。望むような形で生きて、不利益を被らないという公平性をちゃんと担保した上で、世の中のシステムを整えていくべきという。

人権の問題

(宇多丸)で、要するにそのことに対する理解が進んでいないから、その理解を促進しましょうっていう、比較的異論が出ようがないような話だと思うんですけど。それに対して、そもそも性の多様性というものに対するゴリゴリの偏見。その偏見を剥き出しにされていて。これに関してはもう報道もされていますし、いろんなところから非難の声が上がっているんですけども。どうしてもこの番組で僕自身も言及したかったのは、単純にもうあまりのことに驚き、怒り……昨日、そういうことがあったらしいっていうのはなんとなくチラチラとは知っていたんだけども。ちゃんとは知らなくて、ニュースでニュースでちゃんと見て、驚きと怒りのあまりも横にあった椅子をガンッ!ってぶっちゃって。「あいたたた!」みたいになっちゃった。そのぐらい、驚いたし、呆れたし。

で、なんでこの番組で改めて話したいかというと、この番組は「カルチャーキュレーション番組」っていうことで、さまざまな映画であるとか本であるとか漫画、アニメだとかを紹介しますよね。で、そういう中でやっぱり当然、LGBTQの皆さんも登場していて。それが作品の中でどう扱われてるか?っていう話で。この番組でもその話、ちょいちょいしていますよね? で、今後もたぶん、さらにそういうところの描写が進歩しているとか、非常にテーマの扱い方がいいとか、そういうことを当然出てくるわけですよね。で、そういう話をすると思うんですけど。

やっぱり日本という国の前提がこの前時代的という……こんな時代があったのか?っていうか。まあ、とかくひどい状態のままでいるのが本当に恥ずかしいなと思っていて。せめて、この番組のリスナーの皆さんで文化というものに興味を持つという時に、やっぱり今回のこれは人権問題……つまり、他者の人権であるとか、他者の人生、他者の権利というものを軽視する考え方だと思うんですよ。そんな考え方では、文化もクソもないわけですよね。たとえば「認知症の老人のことなんか知ったことじゃない」なんていう人は映画『ファーザー』を見てもしょうがないわけです。それは。

やっぱり、ありとあらゆる文化っていうものに触れる、要するに人類の文明の豊かさを享受しようという時に、その「豊かさ」というところにやっぱり他者の人権というものが入っていないということはあり得ないわけで。なので、その「カルチャーの理解」という時に当然のことながら、たとえばLGBTQも……もちろん、僕もまだまだ勉強中ですし。まだまだわかっていなかったり、非常に無理解な部分というものを晒すことは今後もあり得ます。それは。勉強の途中なので。なんですが、それを学んで。もちろん間違いがあれば正していただき、謝り……ということを繰り返して先に進んでいこうという意志の下にこの番組をやっていきたいと思っているので。

なので……とにかく、「無関係じゃないよ」ということが言いたいわけです。それでもし、この番組を聞いていらっしゃる方で、もちろんいろんな方がいらっしゃるから。たとえば万が一ですよ、その自民党の政治家の皆さんが仰っているようなことを「えっ、なにが悪いのか、ちょっとわからないんだけど」っていうような方がいらっしゃるとしたら、それはこの場で私が事細かにレクチャーをするほどの時間はないんだけれども。

たとえば僕、この番組で前にも紹介しました。ライターの鈴木みのりさんから教わって、その鈴木みのりさんとのトークショーのために勉強したんですが。ネットフリックスの『トランスジェンダーとハリウッド』というドキュメンタリーがありまして。これ、改めて僕、今回の一件で思ったんですが、この番組を発信する側はもちろん、聞いていただくにあたってもちょっと結構プライオリティが高い、必須参考作品だと思っていただいた方がいいかも……と思いました。

『トランスジェンダーとハリウッド』

なので、ネットフリックスで見られますので。ネットフリックスに入っていらっしゃらない方もいるかもしれませんが。まあ今、無料お試しとかってあるんだっけ? ないのかな? まあ、でもお金を出して、映画館に行ったりするような感覚で見る価値は絶対にありますから! とにかく、保証します。これからのいろいろな作品を見る目とか、もっといえばこの世界を見る目が変わる非常に重要な作品として、改めてやっぱりたとえばそのLGBTQの問題の中における「T」と「Q」にあたるところですね。トランスジェンダーとクィアにあたる部分に関して、この『トランスジェンダーとハリウッド』というドキュメンタリー作品、これを見ていただいて。

僕もやっぱりそこで「ああ、全然自分はわかってなかった」って。宇垣美里さんもね、僕が勧めて見て、「ああ、自分はわかっていなかった」って。みんな、言うんです。だから、まだまだ勉強中っていう意味では同じなんです。だからぜひ、たとえばそちらを見ていただいて。「ああ、そういうことか」というところまでは来ていただくとか。

宇多丸『トランスジェンダーとハリウッド』『POSE/ポーズ』を語る
宇多丸さんが2021年3月16日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でNetflixで配信中のドキュメンタリー『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』とドラマ『POSE/ポーズ』について話していました。

(宇多丸)とにかくこの番組、「カルチャーキュレーション」というところでできることをしていかないと、これは……それで僕はね、「ああ、本当に意識でオリンピックをしようとしていたんだ」って思ったら、ちょっと薄ら寒くなりまして。だって、世界中のアスリートの方でLGBTQの方、普通にいっぱいいますよ?

(山本匠晃)本当に。もう、オリンピックを開く以前の問題っていうか。開くとかじゃなくて、もうその手前でずっこけている。この人たちがこの国の政治をして。「どうぞ、いらっしゃい。オリンピック!」っていう……ちょっとそれはもう、まずその前段階で脳みその中をあれしないと。「えっ?」っていう。

(宇多丸)「えっ?」ですよね。だから、そうなんですよ。でも、残念ながら選挙に行って……僕はまあ、違うところには入れていますけども。でも、結果として自民党が圧勝するような結果の選挙をする国に我々は生きていて。この状態はまあ、我々の責任でもあるわけです。なので……。

(山本匠晃)「LGBTQ理解増進法案」っていうことで話をしていて、こんな言葉が出ますか?

(宇多丸)本当です。

(山本匠晃)というか、こんなことを言う……ああ、すいません。はい。

(宇多丸)本当です。僕も感情的になりますよ。

(山本匠晃)すいません。私、アナウンサーの立場で……。

(宇多丸)でもね、僕はアナウンサーとしても、たとえば「報道は中立」って言いますけども。その「中立」というものは、いろんな人の人権を認める、許容する、守る。当然ながら、そういうスタンスの中での多様性なので。それで、これはメディアの側ももちろんで、そういうところでちゃんとはっきり「NO」という部分に線引きができるメディアじゃないと、今後は同じことになる。だから、森喜朗元首相がああいう発言があって、非常に叩かれてオリンピックの組織委員会会長を降りましたけども。

はっきり言って、今回の発言のひどさはあれの比じゃないと思うんですね。だから、みんなもう雁首揃えてっていうぐらいのことだと思うんだけど。それは同じことで。要するにメディアで発信する側はもう今後は……僕もだから、これまでにも多々、至らない発言であるとか、無配慮の発言とかも長い人生、この52年生きてきた中で、当然いっぱい恥の多い人生というか。今、振り返ればもう本当にあり得ないことも。

(山本匠晃)まあ、人間、生きていれば当然……。

(宇多丸)まあ、あるわけです。で、せめて21世紀に学んだからこそ、そこから先は本当にそれぞれが襟を正していかないとその人たちがマズいっていう時代になっているし。だから、山本さんがそういうことに感情的な憤りを感じるっていうのはとてもいいことだと思います。当たり前だと思います。というか、そういうものを感じる人でないと、人の前に立って何かを発信するっていういうことは……先ほど、「前提として」とおっしゃいましたけども。前提として、「それはないよね」という時代になってると思います。本当に。なので……いや、本当にこれ、ギョギョギョッとして。それで昨日、「SDガンダム特集、面白かったな」みたいなことを思って家に帰ってそれを見て。椅子をガーン!ってやって手はケガするし。もう、本当に踏んだり蹴ったりだなって。

(山本匠晃)だから、もうこの文言を目にするのも嫌ですし、嫌悪感というか、口にするのももう今はしたくないですし。なんかもう、そのレベルだし……。

(宇多丸)そういう気持ちはありますよね。

(山本匠晃)脱力するし、怒るし。

カルチャー番組も無縁ではない

(宇多丸)この問題のちゃんとした問題点やその指摘はまた別の……もちろん『荻上チキSession』であるとか、報道を扱う番組でもっときっちり。同じTBSラジオでもやると思いますので。『アシタノカレッジ』とかでもやるのかな? だから、もちろんそちらを聞いていただきたいんですが。これ、もちろんカルチャー番組というところとも全くもって無縁ではないですよということで、お話をさせていただき。そして、こういうしょうもないレベルであることに愕然とするという、こんな話でまた、『ミッチェル家とマシンの反乱』の話ができないという。

(山本匠晃)なるほど。ネットフリックス配信の。

(宇多丸)おすすめアニメーションがありまして。これ、しかも面白いだけじゃなくて、私はやっぱりさすがフィル・ロード&クリストファー・ミラーコンビの製作作品だけあって、やっぱりコメディとしての文法からして1歩、進んでるところがあるという風に思っていて。

(山本匠晃)へー! これはチェックですね。

(宇多丸)でも、この話もする時間がない!っていうことでね。山本さんだって、『ファーザー』の話もしたい。だから、『ミッチェル家とマシンの反乱』は来週に回しますので……。

(山本匠晃)もう……こんなところにも影響があるし。もう全部ですわ。もう、嫌だ……嫌になっちゃう。「もういいよ」っていう諦めの感情さえわいてきちゃう。

(宇多丸)ダメ! それはダメなの。

(山本匠晃)そうそう。そこがよくないなと僕、思ったんですよ。まず一瞬、無力感を感じて。

(宇多丸)でも、我々は無力ではない。だってなにしろ、こうやって放送をさせていただく場を持っているわけですから。ということで、まあ、そういうような姿勢を持ってカルチャーキュレーションもしていきたいと思います。

(山本匠晃)そうですね。カルチャーに触れていきたいと思いますね。

<書き起こしおわり>

星野源『トランスジェンダーとハリウッド 過去、現在、そして』を語る
星野源さんが2021年1月26日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でNetflix『トランスジェンダーとハリウッド 過去、現在、そして』についてトーク。ジェンダーやセクシャリティーについて話していました。

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