ライムスター宇多丸さんがTBSラジオ『ウィークエンドシャッフル』の中で、本当に上手いラッパーについて、その要素や条件を話していました。
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— SPACE SHOWER TV (@spaceshowertv) 2013, 8月 30
上手い人が考える『ラップの上手さ』とは何か?
(宇多丸)でね、今日11時台。特集コーナーサタデーナイトラボでさかいゆうくんを招いて、『歌が上手いって本当はどういうこと?特集』。これを予定しているわけなんですけど。これは、◯◯シリーズ。『宇多丸よ!シリーズ』みたいにサタデーナイトラボ、ついているけど。『神々の視点シリーズ』っていう新シリーズをちょっと始めてみたんですよ。これ、どういうことかって言うと、要は『この人、歌上手いね』って僕らもね、普通に言ったりしますけど。その歌が上手い人たちから見た、歌が上手い人たちね。つまり、専門でやっている人だからわかる凄さとか、違いみたいなものがあるだろう。それを、『神々の視点』と言っているわけですよ。
要するに上空彼方で。で、『◯◯が凄い』って言われても、僕らは『あ、そうなんですか・・・』みたいな。この感じ(笑)。『えっ?そういうもんなんすか?』。この感じですよ。これを神々の視点シリーズ。だから今後いろんなジャンルでもできると思うんですね。もちろんたとえば映画監督もできるでしょうし。脚本でもなんでも。どのジャンルでもできる。で、当然ラップの世界にもね。私の本業であるラップの世界にも神々の視点。やっぱりあるわけですね。で、まあね、じゃあお前、宇多丸はライムスター。言うてもライムスターは日本のラップをね、日本のラップ史上に残ると言わないとこれは嘘になるという(笑)。
まわりくどい言い方してますけど。日本のラップ史上でも、まあトップクラスに入れとかないとそれは嘘になるというぐらいのグループだけど。じゃあお前は神々なのか?っていうと、僕はやっぱり神々っていうのには、ちょっとラッパーとしてはおこがましいですと。つまり、自分では僕は、いま特に若い子がババーッと出る中で、上手い方ではないと思ってるんですね。やっぱりね、ラップの。で、上手さって何か?っていろんな上手さがあるんですけど。たとえば、『引き出しの多さ』みたいなところで言うとね。僕はやっぱり攻撃的なタイプのラップなんですよ。声も高いですし、早口だったり。ラップ自体も詰め込んでガーッて。まあ、ガーッと攻めていくタイプは得意なんだけど、さっき言ったようにちょっとレイドバックしてたりとか、スローだったり。静かだったり。
要するに静かにラップしないとフィットしないような感じの曲になると、途端にちょっと困っちゃうところがある。ここをどうするか?っていうと、そこは手練のテクニックで。ちょっとしたボーカルのアレンジだったり、もちろんバックトラックとかのあれもあるんですけど、とにかく様々な手管を使ってですね、なんとなくフィットさせていくというか。なんだけど、引き出しの多さで言うと、低いのも・・・特にやっぱり、あんまり声を張らないで、ボソボソやるようにやってもちゃんと持つような人は、僕はやっぱり僕の中では上手い。その上で、張る系のラップもできるみたいな感じで、引き出しが多いと上手い人っていう風になりますし。
あとはやっぱり持って生まれた楽器の良さ問題っていうのもあってね。もちろん僕も、それなりの楽器だとは思うんですけど。もっとたとえば倍音要素が多いみたいな。低いところもちゃんと響いてるとか、それ故にちょっと落ち着いてやってもいいみたいな。要するに『あの人、いい楽器持ってるな』と。俺、楽器はあんまりいいもの持ってないから。演奏テクももっと上手い人が出てきちゃってるから、俺の場合はまず、俺の声が映えるような曲作りからする、みたいな感じですよね。曲作りと、曲のアレンジというか。ラップ自体もラップアレンジありますから。そこでなんとか持っていくみたいな。要は頭使ってなんとか、決して上手くないし楽器も良くないところをカバーしていくみたいなところでトップグループに入るんだから、本当に大したものですよね(笑)。
というのがあったりとかして。だからラッパーに置きかえると・・・でも、たしかに僕だと『張るのが得意だ』って言ったけど、やっぱり武器をね、2個も3個も持っている人ってそんなにいないんですよ。やっぱり低いのが得意な人は張るのはやっぱり得意じゃなかったりすることもあるしね。だから、やっぱり持っていて必殺の武器はせいぜい1個なんですよ。で、2個あると結構多いってなって。3個あると、もう天才的なレベルになってくるみたいなね、のがあったりとか。あといまどきだと、最近のラップのテクニックだと、途中で歌心というかさ。ちょっとメロディックなフロウを挟んでくると。そこのメロディーセンスみたいなのも実はいま問われるようになってる。
よくラップね、僕も『ラップは敷居が低い歌唱法で、キーも何もねえ』みたいなことを歌詞で言ってるけど、いや、キーはあるんです。実はね。ただ、僕みたいに90年代までのラップテクニックみたいなところだと、1個の自分のキーラインを守り通すと、そこそこ上手く聞こえるみたいなところなんだけど。いまはもうちょっとメロディックな、音楽センスみたいなのがあった方が、いいんでしょうね。というあたりで、ちょっと1曲目いこうと思うんですけど。最近、若手というか、いろんな僕らよりさらに。先週来てもらったロマンクルー。ロマンクルーが出てきた時も、やっぱりスゲー!って思ったけど。
ロマンクルーからさらにどんどん下の若い世代もいっぱい出てきてですね。その若い世代というには、もう結構・・・ある意味シーンのトップクラスというか、NO.1級でしょうね。PUNPEEという男がおりまして。自分でもラップもしますし、トラックも作るしという非常に才人でございまして。なおかつ、非常にサブカルチャーとかにも通じている。たとえば、無類のウォッチメン狂なんですね。この男ね。僕なんかよりもはるかに早く、アラン・ムーア『ウォッチメン』をね、おさえてたりなんかしてね。というPUNPEEなんですけど。
そのPUNPEEが参加してる曲で、この間ザ・トップ5でもかけたらしいですけど。一十三十一さんというね、これまた非常に才女というかですね。自分で曲も作って、おしゃれ。まさにこの番組ストライクゾーンの曲をずっと作り続けている一十三十一さんという方。その方のニューアルバムで『Snowbank Social Club』という。これの夏版がね、この前ありましたが。今回は冬版ときた。これ、要するに80’s感というか。それのアップデート版。いまで言う、ブギーとかね、そういうような流れ。踏まえたようなアルバムで。コンセプトとしてもばっちりこの番組にハマるんですが。そこにフィーチャリングでPUNPEEの曲があって。
このまたPUNPEEのね、フィーチャリングっぷりっていうか。一緒に曲も作っているのか、PUNPEE。もうね・・・ジェラシーっすよね。これ、上手いな、こいつ!だから俺からすると、これやっぱり上手い。ものすげー上手い人のうちに入るというね、感じでございます。ということでね、ちょっとジェラス混じりでかけ・・・かけなくてもいいか?これ。かけるか?(笑)。聞いていただきましょうかね。一十三十一さんニューアルバム『Snowbank Social Club』より、『Night Flight Telephone Call feat. PUNPEE』。
一十三十一『Night Flight Telephone Call feat. PUNPEE』
(宇多丸)くっそー!PUNPEEめー!PUNPEEめー!かっこいいなー!はい、ということで、『Night Flight Telephone Call』、一十三十一さん、フィーチャリングPUNPEE。トラックは一十三十一さんとPUNPEEとgrooveman Spotというね。ENBULLという仙台のグループ、Jazzy Sportというチームでやっておりますが。この3者が作っている。そりゃあかっこいいに決まってるけどもさ。あの、途中の漏れ笑いみたいな。ああいうのもね、なかなかかっこよくやるの、難しいのよ。ああいうの、なかなか。心に伊達男がいないと無理ね。あれね。俺みたいなの、漏れ笑いみたいなのしたら『ヒヒヒヒ・・・』みたいなのしか(笑)。途中でラブソングみたいなので、『フフーン』みたいなのやろうとしても、『ウヘヘヘヘ・・・』みたいになっちゃって。ダメなんですよね。
まあただ、さっきの話をちょっと補足しておくなら、僕の場合はやっぱりコンビなんで。Mummy-Dさんと声を重ねた時のマジックみたいなのもちょっと1つ、武器にあって。それはやっぱり、マジックでしょうね。Mummy-D単体とも違う、僕単体とも違うマジック。それは大きな武器で。そういうあたりがやっぱり日本のHIPHOP史に、トップグループとして入れないとそれは嘘になるだろうというグループ、ライムスター・・・まあ、俺らの話はいいんだけどさ。一十三十一さんのアルバム、『Snowbank Social Club』非常に素晴らしいのでみなさん聞いていただきたいと思います!
<書き起こしおわり>