マサチューセッツ工科大学の教授のイアン・コンドリーさんがTBSラジオ『タマフル』にゲスト出演。ドナルド・トランプ大統領誕生後のアメリカ・ボストンの状況について宇多丸さんと話していました。
Political mega-donors found themselves sidelined as Donald Trump marched to victory. https://t.co/2mtwZRgn2Z pic.twitter.com/got0OkRtHo
— CNN (@CNN) 2016年11月12日
(宇多丸)さあ、ということで世の中はですね、時事ネタというとアメリカ大統領選。基本的にね、日本ではアメリカ大統領選はそんなに、そこまで自分たちの問題として心配するみたいなことでは、本来いままでのニュースの比重からするとそこまでじゃなかったと思うんだけど……やっぱりさすがに今回の大統領は良くも悪くもと言うか、悪い意味でですかね? とにかく盛り上がってしまいました。で、結果はみなさんご存知の通りということで。まさかのドナルド・トランプ大統領というね、本当に『Idiocracy(26世紀青年)』みたいな、ディストピアみたいなのが本当に起こってしまうんだなという現実。アメリカでは反対デモなんかも大きくなっていくばかりみたいな報道もされていますが。ということで、先週のこの番組は町山智浩さんを招いての「映画の中のナンバーワン大統領は誰だ? 総選挙」をお送りしました。
ですが、それに引き続きというか、トランプの勝利で今回は終わりました。町山さんのおっしゃっていた予想とは違っていましたが、これ、町山さんだけじゃなくて報道とかを見ていればわかる通り、誰もがこんな結果になるとは思わなかった。本当に大番狂わせだったという今回の大統領選でございますが。この予想外の結果について、アメリカのいまの空気はいったいどうなっているのか? というあたり。格好のタイミングでちょうどいま、私の友人でMIT(マサチューセッツ工科大学)教授の文化人類学者、イアン・コンドリーがノコノコとスタジオに見学に来ているので、ちょっとアメリカの最高頭脳にお話をうかがってみたいと思います。イアン、どうもいらっしゃいませ~。
(イアン)どうも。よろしくお願いします。
(宇多丸)イアンと言えばこの番組ではもっぱら東京のVisionというクラブでバズ・ラーマンという監督に絡まれたというあの話でおなじみの……
酔ったバズ・ラーマンに絡まれたイアン・コンドリー
(イアン)ありましたね(笑)。
(宇多丸)バズ・ラーマンのね、『ゲットダウン』というドラマなんか素晴らしかったりしましたけども。それはいいんですよ。イアン、トランプです。
(イアン)トランプですよね。びっくりですよ。
(宇多丸)びっくりですか。やっぱり事前の予想みたいな部分では、当然ヒラリーという?
(イアン)そう。ヒラリーでギリギリ大丈夫かな? と思ったんですけど……負けるわけないと思ったんですけど、負けました。
(宇多丸)で、ですね、結果が出ましたよ。その時、イアンは結果が出たあたりはどちらにいらっしゃいましたか?
(イアン)ヒラリーの方をサポートしていて、ボストンにいて。
(宇多丸)MITに?
(イアン)MITにいて。
(宇多丸)学内にいたんですか?
(イアン)学内にはいなかったんですけど。研究だけの地域ですけども。いや、大変ですよ。大ショックで。ボストンで本当にびっくりして驚いて。こういうことになって「大丈夫かな? アメリカ」って……
(宇多丸)ボストンの雰囲気はやっぱり基本的にはリベラルな雰囲気というか。やっぱりヒラリーの方を応援するという空気が強かったわけで。
(イアン)はい。
(宇多丸)周りに学生さんとかもいてっていうことですよね。学生の反応とか、どうなんですか?
(イアン)大変ですよ。なんか、心配しているし。だって、大学の学長からメールが来て。それが、「学生が大変だから、試験をちょっとやめよう。宿題も許してください」とか……
(宇多丸)ああ、そんな感じ?(笑)。
(イアン)そうそう。あとロビーでお通夜みたいな……「ああ、アメリカが死んだな」というようなイベントもありましたよ。
(宇多丸)なんかお通夜的なイベントをやったなんてね。最初ね、イアンが去年とかに来た時とかに個人的に話していた時は、当時はまだ(バーニー・)サンダースとかも候補にいて。で、サンダースがやっぱりMITあたりの雰囲気だとサンダース推しだったりと。
(イアン)そうですね。大学生はそういう人が多いんじゃないですかね。
(宇多丸)だったんだけど……サンダースからトランプじゃあ、これはすごい差ですからね。
(イアン)そう。いま考えると、エネルギーの違いかなと。ひとつは、クリントンは得票数では勝っていたんですが、でも(投票人数という)システムではトランプが勝った。だからそのギリギリの部分はあるんですけどね。
支持者たちのエネルギーの違い
(宇多丸)ああ、票数はヒラリーの方が多かったということですよね。(アル・)ゴア以来、票数は勝っているんだけど……っていう。当時もブッシュが勝って。
(イアン)ゴア・ブッシュの時と同じように。
(宇多丸)そういう意味では、拮抗はしていたんだけどもということで。で、日本でも報道されているんですけども、反トランプのデモや抗議活動が若い人を中心に起っているという。これ、ボストンではどうなんでしょうね?
(イアン)ありますよ。たぶん毎日やっていると思うけども。ありましたよ。選挙の次の日もそれ、あったんですけども。ラテン系の人とか女性の人とか黒人も、心配している人が多くて。
(宇多丸)正直、「怖い」と思っている人が多いでしょうね。
(イアン)多いですよ。どうなるかな? だってポリシーはどうだとか、あんまりわかっていないし。
(宇多丸)そうね。実際のところはなにをね。
(イアン)なにをするとか。たとえば、壁とか。
(宇多丸)メキシコ国境に壁を作るとか、あれは現実的には、そんなの無理だしね。
(イアン)オバマケアもなくならないし。と、思っているんですけども。いちばん怖いのは、やっぱり戦争になるかどうかね。という気持ちはあるんですけども。
(宇多丸)でもなんか、トランプの場合は国内政策に集中して……じゃないけども。内向き政策っていうことでしょうから、あんまり外に向けてグイグイというのの逆ではあるんじゃないの?
(イアン)そうそうそう。それもまあ、希望はちょっとありますね。
(宇多丸)あと、どんな大統領であろうと、4年たてば選び直しという、ここがまだいいっていうところはある気がしますけども。
(イアン)いま本当に心配な時期ですよ。どうなるかな?ってみんな思っているんですが。
(宇多丸)選挙の直後にね、イアンと……ここに(構成作家の)古川耕さんもいますけども。メールのやり取りを。「どうですか? トランプが通って」なんて言ったらね、「頭が痛い」って言われてましたもんね。
(イアン)そうそうそう(笑)。「気持ち悪い」とか。
(宇多丸)文面が普段より乱暴だったよ。「冗談じゃねえよ」とか言ってましたもんね。
(イアン)冗談じゃないですよ。
(古川耕)イアンさん、日本だとトランプさんの記者会見とかを見ていて、「この人、本当は大統領になる気なかったんじゃないの?」みたいなのを言っている人もいましたけども。アメリカでそういう風な捉えられ方、している方はいますか?
(イアン)最近、そういうのもよくありますけどね。こういう仕事は、たぶん好きじゃないんじゃないですか? トランプは。あんまり。だって、本とかも読みたくないし、勉強もしないし。大統領の仕事って大変じゃないですか。だから、どうなるかな?っていう話もよくありますよね。
(宇多丸)本人も、まさかここまで来て、しかも大統領になっちゃうところまで思っていなかった説。
(イアン)そうそうそう! すごく、スターになりたい人ですけども。仕事をしたい人っていうのは、どうかな?っていう問題もあるかな。
(宇多丸)これから、どうですか? まだなにもわからないと思いますけども。アメリカ、どうなっていくか? みたいなのは。
(イアン)ねえ。本当にわからないですよ。でも、ひとつは私たちがクリントンのサポーターとしてそのエネルギーが出ていないということがすごくあると思うんですけど。トランプのサポートがすごくエネルギーがあって。熱狂的で、「じゃあ、こうしよう」という、変化がほしい人たちがいっぱいいるし。
(宇多丸)うんうんうん。
(イアン)クリントンの場合は、普通に同じように行こうっていう問題があって。まあ、反省の時間と言ってもいいかもしれないですけどね。
(宇多丸)なるほど。でもトランプ自体もどう出てくるか、ちょっとわからないところがありますよね。先週も町山智浩さんというアメリカ在住の映画評論家の方にうかがって。放送が終わった後も延々と話していて。「本当はなにがしたいんだ?」っていうところで。でも、実際のところいま資産が、お金がほとんどなくて。借金も大変で。だから話題を作ってお金を儲けてトンズラするはずなのに……っていうあたりなのかな?っていうのは感じますけどもね。
(イアン)ねえ。たしかに、ビジネスマンがどんな政治家になるか。本当に不明ですね。
(宇多丸)政治家経験も軍隊経験もないっていうのは初めてらしいですもんね。
(イアン)たしかに。でもね、やっぱりアメリカがどの方向に行くか、みんな考えているし。目覚め時というか、新しい方向が大切ですし。民主党が新しい方向に行かなくちゃいけないんじゃないかなと思いますし。共和党もそういう問題もあると思うんですけども。これは共和党のプロフェッショナルな政治家がサポートしていない人で。だから、アメリカの政府が、新しいスタイルが必要じゃないかなと思いますし。
(宇多丸)それこそ、そんだけ経験がなくて、本人もヤバげな人だったら、サポートっていうか周りがきっちり固めて監視しなくちゃいけないっていうのもないですか? まともな人が、逆に。離れちゃうよりは。
(イアン)でも、とにかく変化がほしいのかな? たぶんね、なんでもいいから。
(宇多丸)「なんでもいいから、変化」ね(笑)。
(イアン)クリントンだと(いままでと)同じですから、じゃあ変化だったらトランプにしようという気持ちが多かったんじゃないかな?っていう気がしますけども。
(古川耕)イアンに聞いたんですけど、「トランプ支持者」って見えるけども、そうじゃなくて「共和党支持者」っていう人がまずそもそもたくさんいるので。「トランプだから」っていうよりは、共和党にただ単に入れたという人が多いいんだという?
トランプ支持ではなく共和党支持の人々
(イアン)そう。自分の家族もずーっと前から共和党だけで。友達もみんな共和党とか。だから、トランプはどうでもいいけど、共和党をサポートしようという人が少なくないと思いますけどね。
(宇多丸)あとね、とりあえずトランプみたいな人がなると、エンターテインメント的にはさ、やりやすいっていうか。ある意味。トップが変な人だと、いろいろとこっちは文句がいいやすいっていうのはありますよね。
(イアン)だからマスメディアの反省の時間もあると思います。だって、ニューヨーク・タイムズ紙とかリベラルなメディアでもすごくトランプが報道されて。いろいろありましたよね。だから、これからどうなるかな? という話になるんですけどね。
(宇多丸)はい。ということで一時日本に避難してきているイアンでございます。
(イアン)(笑)
(宇多丸)まあ、息抜きしていってください。急に呼んですいませんでした。
(イアン)こちらこそ、ありがとうございました。
(宇多丸)MIT教授のイアン・コンドリーさんでした。ありがとうございました。
(イアン)ありがとうございました。
(宇多丸)はい、イアンでございます(笑)。普通に考えるとね、なんでMIT教授が知人なのか?っていうのが不思議な……改めて説明しておくと彼は日本のポップカルチャー、サブカルチャーの研究をずっとしていて、アニメとかそういうのの研究をしていたんだけど、最初の研究が日本のラップ、ヒップホップだったということで日本のヒップホップの現場に、もう誰よりもどの現場にもいたという。「誰なんだ、あの人は?」という間もなく、みんなだんだん仲良くなってという。で、気がついたらいろいろ観察されて出世の踏み台にされたというね(笑)。そういうイアン・コンドリーでございました。ありがとうございます。
<書き起こしおわり>