宇多丸さんが2021年3月16日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でNetflixで配信中のドキュメンタリー『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』とドラマ『POSE/ポーズ』について話していました。
(宇多丸)それで私ね、いろいろ今週末……基本的にはね、やっぱり家でおとなしくしていますよ。なんかね、町の人出が多いなんていうけど、まだ油断禁物ですからね。基本的にはステイホームでいろいろやっていくという中で、配信トークイベントみたいなのを……この間もカメラマンの桑島智輝さんとやらせていただきましたけども。ちょいちょい、これからも入っていて。
僕、すごく楽しみにしてるのがですね、4月3日(土)に鈴木みのりさんというライターの方と一緒にトークショーというか。これ、すごく大きなトークライブ配信イベント『プンクトゥム:乱反射のフェミニズム』という、NEW ERA Ladiesというチームがやっていらっしゃるイベントで。NEW ERA LadiesというのはZINEとかいろいろ出されているようなチームですけども。
その、現代のフェミニズムに関わるいろんなお話を、いろんな、本当にそうそうたるメンツがやる中で、ちょっと俺ね、その並びを見ておののいたんですけども。「俺、ここにいて、ちょっと大丈夫?」みたいな。「『えっ、こいつ?』って感じに思う人、絶対いると思うんだけど?」みたいな。
(宇垣美里)そんなことないですよ。
鈴木みのりさんとのトークショー
Organized by NEW ERA Ladiesプンクトゥム:乱反射のフェミニズムhttps://t.co/Hfo2ujNa5A #bookandbeer
⑥4/3 Sat 19:00〜21:00
鈴木みのり(ライター・ジェンダークィア)×ライムスター宇多丸(ラッパー・ラジオパーソナリティ)
『クィア~マイノリティの政治とポップカルチャーや表象(仮)』— みやーんZZ (@miyearnzz) March 16, 2021
(宇多丸)まあ、そこに入れていただいて。これは鈴木みのりさんにご指名をいただいて。本当にありがたいなと思ってお受けしたんですけど。で、その4月3日に向けてどういうことを話そうか、みたいなので。いろいろとメールでやり取りをしながら、鈴木みのりさんが「じゃあ、たとえばこの作品についてお話しするのはどうでしょうか?」みたいにいろいろと提案をしていただいたりとか。とにかく僕は特にそのクィアというかね。
たとえば、トランスジェンダーの皆さんお話であるとかっていうのがエンターテイメント中でどう表象されてきたか、みたいなことの話とか。と、思ってたんですけど……やっぱりね、改めてやろうとすると俺は全然……ある意味今回、鈴木さんからいろいろ教わろうっていうような魂胆もあってお受けしようっていうことで。要は、わかってねえなっていう。で、鈴木さんにおすすめいただいて、いろいろなものを見ていくうちに本当にその「わかっていないことがわかりました」っていう……まあ、それはある意味、進歩だとも思うんだけども。
目からウロコと言うのかな? まあ、情けない話なんだけど。今更のように。特にやっぱり、その性差別の問題であるとか、人種差別……もちろんね、それもすごく絡んでくる話なんです。これは。トランスジェンダーの話も。絡んでくることなんだけど、特にやっぱりトランスジェンダーの皆さんが受けている差別的な視線であったり、構造であったり。あるいは、全然放置されている社会の問題みたいなものを全然わかってなくて。やっぱり。それをね、すごく思い知らされた。それで、ちょっとぜひ、宇垣さんにもおすすめしたくて。
あのね、Netflixで見れるドキュメンタリーで『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』。原題は『Disclosure』……まあ「暴露」みたいなことですかね。『トランスジェンダーとハリウッド』っていうドキュメンタリー。これ、めっちゃオススメです。
その描き方は、人を傷つけていますか?
メディアでトランスジェンダーがどのように描かれてきたかに迫るドキュメンタリー。
当事者の声を通じて、描写一つが社会に与え得る影響や、今後どうあるべきかを紐解く―。
『#トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』配信中!#ネトフリ pic.twitter.com/slKL8L7Ns1
— Netflix Japan | ネットフリックス (@NetflixJP) June 24, 2020
(宇多丸)これ、要はハリウッド映画でそういうトランスジェンダーの皆さんがこれまでどういう風に描かれてきたか。それを見て、当事者たちはどう感じてきたかとか。あるいは、その演者の皆さんですね。その本当にトランスジェンダーとして俳優をされてる方が「でも、これに出た時にこういう場面を演じさせられてすごく嫌だった」みたいな話とか。
あるいは「普通に演じたつもりだったのに、いざテレビのオンエアーを見てみたら愕然とした。すごく楽しみにして、みんな友達を集めて『初オンエアー、第1回よ!』って見てたら、愕然とするある仕掛けをされてた」っていう件であるとか。あと、やっぱりこの間もね、たとえば「そういうジェンダーのバランスをどう描くか、みたいなことで。今の目で見るとちょっと前の作品でもギョッとする」なんてことを言ってましたけど。まさにその例がいっぱい出てくるんですね。
で、僕らもですね、「かつてはこれをよしとしちゃっていた。たとえば、ここのこんなギャグで笑っちゃっていた」とか。あるいは、当時としてはそういうトランスジェンダーの人たちの描き方を進んでると思っていたこの作品が、実際にはそのトランスジェンダーの皆さんを非常におとしめることになってしまっていたとか、そういう問題。あるいは、最近すごく問題になっている、そういうトランスジェンダーの役柄をそうではない、シスジェンダーな役者が演じる問題みたいな。僕、ちょっとそこもやっぱり、実はその問題の本質を分かってなかった。ちゃんとは分かっていなかった。
これを見て、ようやく分かった。理解をしました。なぜ、そうすべきなのか。当事者がやるべきなのかっていうのも、これも全てですね、この『トランスジェンダーとハリウッド』。あとはそこにBlack Lives Matterの問題というか。黒人差別とかね、あるいは性差別の問題なども全て、この中に構造として入っていて。めちゃくちゃこれ、ためになりましたし。ハリウッド史の、当然その古い作品。ハリウッドに限らず、エンタテーテメントは常に見直していくべきなんだけども。すごく大きな視座をいただいたっていうか。これを見る前と後だと完全に世界の見方がちょっと変わるぐらいで。
僕も、本当にこれはよかったです。なので『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』。原題『Disclosure』っていうこの作品、4月3日にもこの作品の話を当然、すると思うんですが。ぜひ皆さんもですね、そのトークショーを見ていただく、聞いていただくかは別として、この作品はめちゃくちゃおすすめしたいです。本当に。
(宇垣美里)見ます。Netflixですね。
『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』予告
(宇多丸)はい。Netflixドキュメンタリー、いいのがいっぱいありますけど。その中でも、今までで見た中でもトップだというぐらい、これはよかったです。すごく勉強になりました。あと、フィクションの方で言うと、おなじみ。みんな大好きライアン・マーフィー。『glee/グリー』からなにから、いろんなのやっていて。この間もね、『ザ・プロム』っていう長編の作品なんかもあったりしましたけど。ライアン・マーフィーの2018年のドラマで、これはやっぱりトランスジェンダーの皆さん、1980年代後半のニューヨークのトランスジェンダーのシーンというか。ドラァグクイーンのシーンというか。そういったものを描いた『POSE/ポーズ』という作品があって。
(宇垣美里)『POSE/ポーズ』。
『POSE/ポーズ』Netflixにきてるよ~! [S1配信中]
1987年のNY。LGBTQのボールにすべてをささげるブランカは、自分のハウスを作り、エリート客に恋をした風俗"嬢"や才能あふれるダンサーのマザーとして歩み始める。 https://t.co/CScX5UZBCJ
— LChannel (@lchannel_) April 1, 2020
(宇多丸)2018年に別の、ケーブルテレビかな? FXっていう局で作られたドラマで。それが今、Netflixとかで見やすくなっていて。たぶんNetflixは結構最近で。実はシーズン3とかまであるらしいんだけど。Netflixには今のところ、シーズン1しか入っていないんだけども。これもね、あっという間に見切ってしまいました。あまりにも素晴らしくて。で、これ、ちなみにその『トランスジェンダーとハリウッド』の中に『POSE/ポーズ』の巨大なネタバレが出てくるんですよ(笑)。シーズン1だと「あれっ?」っていう。まあ、でもこういう風になるのはもちろんシーズン1から示唆されてるし、わかってたけども。「あっ、ああっ……やっぱり、こうなるんですね」っていうのがちょっと出てくるんで。ここは要注意だったりするんですけども(笑)。
(宇垣美里)じゃあ、見てからの方がいいかもしれないですね。
(宇多丸)いや、でも、まあまあまあ……そんなに「おいっ!」っていうようなあれっていうよりは「ああ、やっぱり。そりゃそうですよね。そこに行きますよね」みたいなのが出てきて。まあ、それは置いておいて。この『POSE/ポーズ』はね、その1987年とかのニューヨークを舞台にしていて。ドラァグクイーンの皆さんが着飾って、いわゆるボールルームっていう、まあディスコっていうかな? そういう空間の中でみんな……これ、いろんなドキュメンタリーとかでも描かれておりますけど。
ボールっていう、要は着飾って。ワンテーマで……たとえば「貴婦人」とか、「めちゃくちゃ男らしい男」とか。なんかワンテーマを設けて、そのテーマにそって着飾って、ウォーキングをして。それをみんながはやし立てて。「ウェーイ!」ってなって。音楽に乗せて動いて。それで審査員がそれを採点して勝ち負けを競うというようなボールルーム文化っていうのがあって。そこから、いろんなダンスカルチャーであるとか、いろんなものも生まれていたりして。
そういうのも僕はあんまりよく分かってるようで分かってなかったから、それの実態もすごくこの『POSE/ポーズ』では描かれているし。なによりやっぱり、本当にちゃんとトランスジェンダーの皆さんが演じていらっしゃって。何て言うのかな? たとえば、ゲイバーに行って。その男性同士のそういう方々が行くゲイバーに行って、そこで差別を受ける話とか。いろんな、そういう構造が浮かび上がってきて。
あとは80年代後半なんで、やっぱりエイズっていうものがすごく重くのしかかってくるんですね。当時はエイズっていうものがあたかも同性愛者特有の病であるかのように言われていた時期でもあって。で、やっぱりその登場人物の中にはHIVに感染している方もいて。それで今みたいにある種、治療法みたいなものもそこまで確立されてない中で……というような話も重なってきたりもして。
でも一方では、その80年代の、僕はヒップホップに夢中でしたけれども。同時に進行していたそのハウスカルチャー、ガレージカルチャーみたいな、そっちの文化で育まれたダンスミュージックのカルチャーみたいなものもガンガンに出てきていて。それはもう完全に時代だし。そういう音楽が大好きだから。当時、僕は日本でもクラブですごく聞いてめちゃくちゃ踊ってた音楽たちが「ああ、リアルタイムではこんな感じだったんだ」とか。そういうのも味わえて。音楽劇としても素晴らしいので。
クライマックスとかはやっぱりそのボールのシーンで。こうやってみんな着飾って「フゥーッ!」ってやる場面だったりして。素晴らしいので。この『POSE/ポーズ』も本当に合わせておすすめしたい。だからまあ、全ては鈴木みのりさんに「とりあえずこれ、見ておいて」って。
『POSE/ポーズ』予告
(宇垣美里)おすすめされたんですね。
(宇多丸)そうなんです。だから鈴木さん。俺がおすすめしていますけども、鈴木さんにおすすめしていただいたのを又推し……俺、お得意の又推ししているだけなんですけども。とにかく、4月3日にその鈴木みのりさんとイベントをするにあたっての準備としてだったので。まあ、こんなに1から、なにもわかってない状態から向かうのは本当に申し訳ない。私ごときでいいのかというのはありつつ。でも、だからこそ。こんな昭和のおじさんが1個1個勉強してくとか、そういうことも含めて、そこにも意義があるということにしていただけますかね、というか。
(宇垣美里)それはそうですよ。
(宇多丸)みたいな感じで。私に限らず、この話をもっといろいろな人としたくて。『POSE/ポーズ』の話とかも。
(宇垣美里)見てきます! 次までに。これ、『POSE/ポーズ』はNetflixで見られるんですね。
(宇多丸)見られます。シーズン1ですけどね。でも、まずはその『トランスジェンダーとハリウッド』という、こちらを見ていただくと本当にいろいろな作品の見方が変わりますし。それこそ、たとえばひるがえって日本のテレビでね、そういうトランスジェンダーの皆さんがどういう風に扱われているのか? あるいは、扱われているのか?っていうところの……。
(宇垣美里)笑えないところがたくさんある……。
(宇多丸)そうです、そうです。そのリテラシーみたいなところもすごく養われるし。それを超えて、さらに現実に……たとえば町にいて皆さんが見かけることも全然あったり。あるいは、政治参加をされる方もどんどんと出てきていますけども。あと、それとは別にアジアンドキュメンタリーズでフィリピンのLGBTQ政党の話のドキュメンタリーも見たりして。そうそう。だから急激に勉強をさせていただいているんですけども。とにかく、その現実を見る目も変わるということで。すいません。長々と。
(宇垣美里)いえ、見ます!
(宇多丸)めっちゃおすすめでございます。そんなこんなで、だから『クイーンズ・ギャンビット』が止まっちゃっていて。すいません。
(宇垣美里)ああっ! いや、でもじゃあ寝かせて、寝かせて。最後にグッと刺さってきますから。
(宇多丸)ちょっと間が空いちゃったから。最初から見直すべきかなとか、いろいろと思っていますけどもね。はい。
<書き起こしおわり>