町山智浩 2021年アカデミー賞を語る

町山智浩 2021年アカデミー賞を語る たまむすび

町山智浩さんが2021年4月27日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で前日に授賞式が行われた第93回アカデミー賞の結果について話していました。

(町山智浩)今日は昨日になるんですけれども、アカデミー賞の授賞式がありまして。僕はまた中継番組で解説をさせていただいたんですが。その時に話せなかったことを話しますね。

(赤江珠緒)楽しみです!

(町山智浩)というのは、僕らが話せるのは現地の、つまりアメリカでのその放送でコマーシャルが入る時だけなんですよ。その間、WOWOWはコマーシャルがないから、それを僕らの話で埋めるっていう番組なんですね。で、だから時間が限られているんで、話せなかったことがいっぱいあるので、今日、ここで。

(赤江珠緒)いいですね。そもそも町山さん、今回のアカデミー賞はちょっといつもと場所も違ったってことですよね?

(町山智浩)はい。いつもはドルビー・シアターっていう劇場でやっていたんですけども、感染の問題があるので、会場に人をびっしり入れないで、ノミネートされた人だけ集めて。ロサンゼルスにあるユニオンステーションっていう駅でやったんですよ。

(赤江珠緒)駅で?

(町山智浩)はい。駅でやったんです。天井がすごく高いところなんですよ。大きいところで。昔の礼拝堂みたいな形式で作られてるんで、そこでやって。それで、みんなテーブルについたんですけど、飲み物とかを飲んじゃいけなかったみたいで。終わった後、その出席者の人たちは「お腹すいた」とか言ってましたね。飲食禁止だったみたいですね。

(山里亮太)ああ、飲食ができないんだ。

(赤江珠緒)結構長い時間なのに。

(町山智浩)3時間ぐらいですね。でも最初から、レッドカーペットの時からはもう6時間ぐらいあるんで。まあ、大変だったですけども。僕は自宅からリモートで出演したので、食べ物とか飲み物を隠し持っていたので申し訳なかったですけども(笑)。ジョン・カビラさんとか中島健人くんとかは食べられなくて、結構大変だったみたいですけども。

(赤江珠緒)そうだったんですね。

(町山智浩)自宅からで申し訳なかったですね。僕、一応タキシードを着てたんですけど、下はジャージでしたからね(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ! リモートだとね、それができますからね。

(町山智浩)非常に申し訳なかったですね。まあ、履いていただけよかったですね、はい(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、そうですね。パンイチじゃなくて(笑)。

(町山智浩)それで、受賞した人たちがいコメントをするわけですね。それに対して、ツッコミを上手く入れるっていうことを結構しそこなったんですよ。というのは、次の話をしなきゃいけないんでね。次の受賞について。で、いろいろ面白かったんで、その話をしたいんですが。一番面白かったのはですね、『Judas and the Black Messiah』という、このたまむすびでも紹介した、暗殺されたブラックパンサーの活動家についての映画なんですけども。

町山智浩『マ・レイニーのブラックボトム』『あの夜、マイアミで』『Judas and the Black Messiah』を語る
町山智浩さんが2021年3月23日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でアカデミー賞にノミネートされている3本の映画『マ・レイニーのブラックボトム』『あの夜、マイアミで』『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』を紹介していました。

(町山智浩)それでフレッド・ハンプトンという天才的な演説家の役をやったダニエル・カルーヤという人がですね、助演男優賞を受賞したんですけど。その時に彼、ウガンダ系の人なんですね。イギリス人だけどウガンダから来たお父さん、お母さんの間に生まれたんですけども。授賞式の会場にお母さんを呼んでまして。「ママ、感謝するよ! ママがパパとセックスしてくれたおかげで僕がいるんだ!」って言ったんですよ(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

(町山智浩)そしたらお母さん、ちょっと怒ったような、困ったような、笑ったようなね。「どういう風に反応したらいいのか、わからない」っていう感じでおかしかったですね(笑)。

(赤江珠緒)まあ、間違ってはいないけども(笑)。

アフリカ系の受賞やノミネートが目立つ

(町山智浩)はい。浮かれちゃったのかなんなのか、よくわからないですけども(笑)。で、今回はやっぱり黒人の人たちの受賞やノミネートがすごく多かったですね。こんなに多かったのは初めてぐらいだと思います。で、最初に出てきたプレゼンターの人はレジーナ・キングという人で、この人は『ウォッチメン』のテレビシリーズでスーパーヒーローをやっていた人なんですけども。この人、実はここでも紹介した『あの夜、マイアミで』という映画……モハメド・アリとかサム・クックとかが出会った夜を描いた映画の監督なんですよ。この人。

で、今回、彼女が監督賞にノミネートされていないんで「これはおかしい」って言われていたら、アカデミー賞の演出側が「じゃあ、彼女をプレゼンターとしてトップで出せ!」っていうことで。それで出てきて。最初はそのアカデミー賞のトロフィーのオスカーを掴んで、ズンズンズンズン歩いてきて。怒ったような顔で歩いてくるっていうね。「なんで私はこれをもらえなくて、あげる側なのよ?」っていう感じで出てくるっていう(笑)。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)いいなー(笑)。

(町山智浩)そういうことを結構やっていて面白かったんですよ。ただ、レジーナ・キングさんの最初の挨拶は先週の火曜日のミネアポリスでの評決……黒人男性、ジョージ・フロイドさんを殺した警官に対する評決について、「変な評決が出ていたら私はこんなところでハイヒールなんか履いてないからね!」って言ってましたね。「戦闘用ブーツを履いてデモに出ているから」って言っていましたね。

(赤江珠緒)そうか。先週、その話もしていましたもんね。警官が有罪になりましたね。

町山智浩 ジョージ・フロイド殺害事件裁判で緊張感が高まるミネアポリスを語る
町山智浩さんが2021年4月20日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でジョージ・フロイドさん殺害事件の裁判の判決を目前に控えたアメリカ・ミネソタ州のミネアポリスの状況を現地から紹介。関連してアカデミー賞候補作品の『愛してるって言っておくね』『隔たる2人の世界』を紹介していました。

(町山智浩)そうなんです。「こういうことを言うと『ハイウッドの芸能人が自分は金持ちで安全なくせに人に説教をしている』なんて言われるかもしれないけども、私は息子が2人いるからね!」って言っていましたね。「黒人の息子が2人いるということは、別に金持ちだろうとなんだろうと、その子たちが自動車を運転している時に警察官に撃ち殺される可能性があるということなんだから」って言っていまして。

(赤江珠緒)たしかに。この間、町山さんが紹介してくださった『隔たる世界の2人』。あれも見ました。あれも見ると、あんなことが普通に……って思うと、とんでもないですよね。

(町山智浩)そうなんです。だから犯罪を犯してなくても、しかもそれこそ金持ちでも殺されちゃうかもしれないっていう話なんで。まあ実際にそういう人もいるので。で、あれはアカデミー賞で短編実写映画賞を取りましたね。あと、紹介した映画で、夫婦2人の間で会話がなくなっていて。その理由は……という『愛してるって言っておくね』。あれも短編アニメーション賞を受賞しましたね。だからすごく、今起こっていることに対しての映画が次々と受賞したわけですけども。それと全然違う映画も取りまして。長編ドキュメンタリー賞がですね、『オクトパスの神秘』という映画が取ったんですよ。

(赤江珠緒)これはね、知らなかったですね。町山さんにも紹介していただいてない作品ですもんね。

(町山智浩)はい。これ、ネットフリックスなんですけれども。これね、すごい変な映画でね。1人のドキュメンタリーカメラマンの中年の男性がですね、なんか仕事に行き詰まって。それで自分の自宅のある南アフリカの突端にある海辺の家に帰ってくるんですね。自分が子供の頃に育った家に。そこで海に潜っているうちにですね、1匹のタコと出会って恋に落ちるんですよ。

(山里亮太)恋?

(町山智浩)恋なんです。タコはメスなんです。で、他のタコと見分けがつくみたいで。「このタコが好き」っていうことになるんですね。そのおじさんが。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、毎日毎日、彼女のところに会いに行くという1年間の物語なんですよ。

(赤江珠緒)ドキュメンタリー?

(町山智浩)ドキュメンタリーで。で、ずっと彼女と会っているうちにそのタコちゃんが、たぶん漢字で「多幸」とか書くんだと思うんですけども(笑)。そのタコちゃんが迫ってきて、握手してくれるんですよ。

(赤江珠緒)えっ、タコの方も?

(町山智浩)そう。握手してくれるんですよ。

(山里亮太)タコ、めっちゃ頭いいって聞くけど。

(町山智浩)そう。タコはめっちゃ頭が良くて。敵から身を守るためとか、エサをとるためにありとあらゆる演技とか擬態とか、いろんなことをするんですね。いろんな動物の形に変わったり、色も変わったりして。だからそれを見ているうちに「なんて頭がいいんだろう!」って惚れちゃうんですよ。このおっさんが。で、またサメに襲われてタコちゃんが片腕を失ったりするのをなんとか助けてあげようとしたり。そういう、ラブストーリーなんですよ。

(山里亮太)えっ、どうなっていくの? そのラブストーリーは。だって、いろんな壁がありますよ?

(町山智浩)そう。いろんな壁があるんですよ。種族の壁とかね。いろんな壁があるんですけども。で、またそのタコちゃんに別の男ができたりするんですよ。タコの!

(赤江珠緒)ああーっ!

(山里亮太)圧倒的有利よ!

(町山智浩)そう(笑)。というね、「なんだろう、この映画?」って思うような映画で。しかも、ものすごく美しいんですよね。水中撮影が素晴らしくて。

(山里亮太)ドキュメンタリー?

(町山智浩)ドキュメンタリーですよ。

(赤江珠緒)ああ、タコも思ったよりも大きいタコですね。

(町山智浩)最初はちっちゃいんですよ。少女なんです。

(赤江珠緒)ああ、それが大きくなってくるの?

(町山智浩)そう。だからこのおっさんはね、少女に惚れたりしてちょっと危ないおっさんなんですよ。でも、相手がタコだからたぶんロリコンとかにならないんですね。タコだけにね。で、1年ぐらいしか寿命はないんでね。彼女が年齢的にその彼を追い越していくんですよ。これが人間だったらすごいですよ。1年しか寿命のない少女と出会って、彼女は自分を追い越してお婆さんになっていくんですよ。俺も何を言っているのか、よく分からないですけど(笑)。

(赤江珠緒)本当ですね(笑)。

(町山智浩)それがこの『オクトパスの神秘』でアカデミー賞を取りましたが。

(山里亮太)これ、見てみよう!

(町山智浩)素晴らしい映画なんですよ。

(赤江珠緒)日本でもネットフリックスで見られるという。

(町山智浩)これ、監督は女性なんですよね。ピッパ・エアリックさんという女性なんですが。今回、女性の受賞もすごい多かったんですよ。で、監督賞にノミネートされた人がですね、クロエ・ジャオさんとエメラルド・フェネルさんの2人、女性がいるってことになったわけですけど。エメラルド・フェネルさんはこの人は脚本賞を取りましたね。それ以外にもドキュメンタリー部門とか、いろんな短編部門とかで女性監督の作品が今回、すごく多いですよね。それもすごく画期的でしたね。

女性の受賞が増加

(赤江珠緒)そうですか。『ノマドランド』のクロエ・ジャオさん。『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェネルさんという。

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町山智浩『プロミシング・ヤング・ウーマン』を語る
町山智浩さんが2021年2月9日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』を紹介していました。

(町山智浩)そうなんですよ。2人ともアカデミー賞を取りました。またクロエ・ジャオさんが『ノマドランド』で監督賞を取って。でも、なんか中国は全く彼女を無視してるみたいですね。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)普通、喜んで報じるべきじゃないですか。でもなんか中国の悪口を言ったからっていうことで、もう無視してるみたいですけどね。まあ、そういうのはどうしようもないですけどね。だから一番盛り上がったのは、その『ミナリ』のお婆ちゃんを演じたユン・ヨジョンさんの受賞でしたね。

(赤江珠緒)助演女優賞ですね。

(町山智浩)これ、ご覧になりましたか?

(赤江珠緒)ごめんなさい。『ミナリ』はまだ見てないですけど。

町山智浩『ミナリ』を語る
町山智浩さんが2021年2月23日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ミナリ』を紹介していました。

(町山智浩)これは本当に素晴らしい映画なんで。本当にご覧いただきたいんですが、韓国系の人たちが80年代に移民して。これは監督自身なんですね。リー・アイザック・チョン監督。で、お父さんが農業をやろうとするんですが、失敗ばかりでですね、苦労をしてるんですが。子供の面倒を見てもらおうとして韓国からお婆ちゃんを呼び寄せると、そのお婆ちゃんがなんというか、気まぐれで、変なことばっかり言うし。その主人公の男の子がおねしょが止まらないと、「おちんちんが壊れちゃった」とか言ったりね。非常に困らせるお婆ちゃんなんですよ。いろいろと。おちゃめなんですけども。

で、それを演じたそのユン・ヨジョンさんっていう人は1971年からずっと女優をやっていて、女優歴50年っていうすごい人なんですね。で、同じ年齢のグレン・クローズさんもノミネートされていたんですけど。彼女は今まで何回も何回もアカデミー賞にノミネートされて、1回も取れてないんですよ。だから同じ年のそのユン・ヨジョンさんが韓国から来て取っちゃって、申し訳ないみたいな感じで。受賞をした時にね、「私はラッキーだっただけだから、ごめんなさい」とか言ってましたけども。あとね、ブラッド・ピットがね、オスカーをあげてましたね。ブラッド・ピットはこの『ミナリ』という映画のプロデューサーなんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)それなのに、その時に初めて会ったんだそうです。

(山里亮太)えっ、そうなんだ。プロデューサーってそんなもんなんだ。

(町山智浩)だからユン・ヨジョンさんが「あんた、プロデューサーなのに初めて会ったわね」って言ってましたね(笑)。

(赤江珠緒)フハハハハハハハハッ!

(町山智浩)「どうなっているの?」っていう感じで。そのへんも面白かったですね。

(町山智浩)まあ、ユン・ヨジョンさんの受賞で韓国は大喜びなんですけども。今度、彼女は『パチンコ』というドラマ作品で在日韓国人の女性を演じるですよ。これは『パチンコ』っていう、ベストセラーになった本で、日本でも売れてますけど。大阪を舞台にパチンコ屋をま経営したりしている韓国人家族の話ですが。そのヒロインで主演をすることになってるのかな? ドラマ版は息子たちの話なんですけどね。

(赤江珠緒)それもハリウッドで撮られているんですか?

(町山智浩)これはApple TVで。日本が舞台なんですけど、カナダで撮影してたみたいですよ。韓国ですらないというね。

(赤江珠緒)ああ、そうなんだ。ふーん!

(町山智浩)完全にその、こっちサイドで撮っていて。ただ、日本が舞台なんで日本人の女優さんとか出てますね。南果歩さんとかね。ちょっとこれは楽しみなんですけど。『パチンコ』はね。で、たぶん日本語をしゃべるんじゃないかな? このユン・ヨジョンさんが、その中では。おそらく。まあ今、日本で撮影できないという問題もありますけどね。コロナでね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)これはすごく楽しみですよ。で、『パチンコ』は出演が韓国版『花男』の彼(イ・ミンホ)なんでね。すごい日本の人たちも注目をしていますね。あと、受賞ですごく印象的だったのは、この番組で紹介した酔っぱらいの映画『アナザーラウンド』の監督が受賞をしまして。国際映画賞というのを取りました。トマス・ヴィンターベア監督という人なんですが。この番組でも話しましたが、この『アナザーラウンド』っていう映画を企画をしたのは、彼の19歳の娘さんなんですね。「高校での酔っ払い問題についてシナリオを書いたら?」みたいな話で、その彼女も出演をするはずで。主人公の娘役で。それで撮影に入って4日後に交通事故で亡くなったんですが。この監督、ヴィンターベアさんが授賞式で言ってたのは、ぶつかってきた車の運転手はスマホを見ていたらしいんですよ。運転中に。携帯を見て、ぶつかってきたらしいんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんだ……。わき見運転。完全に。

(町山智浩)わき見運転で。それはぞっとしたんですけどもね。それでも、この映画を作らなければならなかったんだ。娘のために。娘が企画したものだからっていうことで。まあ、悲痛な……でも、やっぱりアカデミー賞を取れてよかったなって思いましたね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ヴィンターベアさんとかユン・ヨジョンさんはアカデミー賞を取りに来るためにですね、2週間前からハリウッドに入って、ずっと事故隔離をしていたそうですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)だから、その甲斐があったと思いますね。

(赤江珠緒)でも本当にアカデミー賞の選ばれる感じがすごく変わりましたよね。町山さん。

(町山智浩)ものすごく変わりました。女性も多くなったし、非白人。白人じゃない人たち。アジア人とかね、黒人の人たち、ヒスパニック。アジア系の人たちは今回、ユン・ヨジョンさんも取りましたけども。3人、取ったのかな? クロエ・ジャオさんも取りましたね。

(町山智浩)あともう1人、取っているんですけども。これは、主題歌を歌った人でH.E.R.さんという人なんですよ。ちょっと曲を今、かけてもらいますけども。『Judas and the Black Messiah』の主題歌の『Fight For You』っていう。「あなたのために戦う」という素晴らしい歌をこのH.E.R.さんが歌ったんですが。

アジア系の受賞者たち

(町山智浩)この人はお母さんがフィリピン系の人なんですよ。だからこの人もアジア系なんで、アジア系が3人受賞っていう、これは歴史に残ることですね。彼女はね、うちの近所の出身なんですね。だから、うちの近所のスーパーヒーローなんですよ。

(赤江珠緒)ああ、いいですねえ!

(町山智浩)はい。9歳の頃からテレビに出ているんです。この子。一種の天才でピアノ、ギター、ドラム、何でもできるんですね。で、作詞・作曲して、絵も書いちゃうんですよ。超天才なんですけども。で、すごくかわいらしい童顔なんで、全然もうそういう感じに見えないと困るってことで、なんかすごいいつもサングラスしてるんですけど。デカい眼鏡とか。アジア系として3人が受賞したっていうのはこれ、大変なことですね。

(町山智浩)それで去年、『パラサイト』が作品賞を取りましたけど。なぜ、こういうことが起こったかというと、実は2015年ですね、ノミネートされた人が白人ばかりで。しかも男ばかりという事態になっちゃったんですよ。アカデミー賞が。それでものすごく叩かれて。「一体、どうしてこんなひどいことになっているんだ?」っていうことで調べてみたら、その時のアカデミー会員がなんと76パーセントが男性。94パーセントが白人。平均年齢が60歳ぐらいっていう、そういうすごい構成になっていたんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。偏りがあったんだ。

(町山智浩)で、「これはなんとかしなければ」っていうことで、アカデミー協会が一生懸命、会員になってくれる人を募集していったんですよ。招待していったんです。で、日本の人もかなり入りました。これで。ビートたけしさんはアカデミー会員ですよ。投票してるかどうかはわからないですけど。作品を全部見るのは面倒くさいから、見ていないと思うんですが。日本の方もすごくたくさん会員がいますよ。今は。で、世界中の人たちに会員を増やしていったんですよ。それでどうなったかというと、現在会員の40パーセントぐらいが非白人なんです。すごい改善されたんですよ。5年かけて。

(赤江珠緒)そうなんだ。

(町山智浩)で、女性の比率が45パーセントを超えました。半数近く、行きました。これはすごいことなんですよ。変えようと思えば、変わるんですよ。で、変わったからこそ、こういう受賞結果になったんですね。

(赤江珠緒)そういうことか!

(町山智浩)現在、会員数は1万人ぐらいなんですけども。2015年の時には6000人ぐらいしかいなかったんですよ。4000人も増やすって、すごいことですよ。

(山里亮太)それはガラッと変わりますね。

アカデミー賞改革の結果

(町山智浩)すごい変わったし。あと、そのハリウッドの働く労働組合の人たちが主な投票者だったんですね。でも、そうやってハリウッド以外の日本とかで韓国とかアフリカまで入ってますから。イスラム教国とか。もう全世界の人たちを会員にしていったんで、もうすでにアカデミー賞はそのハリウッドの内輪の賞ではないんですよ。世界を代表する映画人たちの投票によって決まる賞になっちゃったんですよ。だから『パラサイト』が去年、受賞したんですね。

(山里亮太)なるほど!

(町山智浩)これはものすごく大きい改革なんですよね。それはやっぱり意志を持って、その会員の人口比、人種比、国籍比みたいなのを変えていくということを示したからなんですよ。で、今回、主演女優賞でフランシス・マクドーマンドさんが3回目の主演女優賞を『ノマドランド』で獲得したんですが。彼女が2回目に『スリー・ビルボード』で取った時、彼女は受賞の言葉で「Inclusion Rider」って言ったんですね。で、この「Inclusion Rider」っていうのはどういうことか?っていうと俳優たち、特にスターたちが映画に出る時に、かならずスタッフの中でマイノリティーや女性の比率を増やすよう努力をするという条件を作品のプロデューサーに飲ませるっていうことなんですよ。「Inclusion Rider」っていうのは「付加項目を契約条項に入れる」っていうことなんですね。で、それをみんなにやらせていったんですよ。

(赤江珠緒)へー! うんうん。

(町山智浩)そういうことから、ハリウッドとか、ハリウッドだけじゃなくてアメリカ映画、世界が変わっていくという状況が現在、あるんですね。それは、そのハリウッドという一職場だけじゃなくて、どこの職場でもできることですよね。

(赤江珠緒)そうですね。で、絶対にこうやって結果も変わってきているんですね。

(町山智浩)結果も変わってくるんですよ。内容が変わってくるんですよ。映画の内容も。無理やり、「ポリティカリー・コレクトだ」っていうことで映画の内容を変えているんじゃなくて、まずそれを作る人たちを変えちゃったんですよ。

(山里亮太)なるほど!

(町山智浩)そうしたら、作品も変わってくるんですよね。それは、それこそ政治とか議会とか全ての職場でもできることなので。すごくそういうところが勉強になるアカデミー賞だと思いました。

(赤江珠緒)うん。そうですね。そうか。今日の話ではその『オクトパスの神秘』だけがいまいち、なんか不思議な感じが残っていますけども(笑)。これは見た方がいいですね?

(町山智浩)嘘はついてませんから(笑)。

(山里亮太)ドキュメンタリーなんだから!

(赤江珠緒)そうですね。わかりました。はい。町山さん、アカデミー賞のいろいろな舞台裏、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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