町山智浩『M3GAN/ミーガン』を語る

町山智浩『M3GAN/ミーガン』を語る たまむすび

町山智浩さんが2023年2月7日放送のTBSラジオ『たまむすび』で映画『M3GAN/ミーガン』を紹介していました。

(町山智浩)で、今日紹介する映画もそういう映画なんですね。今日、ご紹介する映画は『M3GAN/ミーガン』というタイトルの映画なんですが。これ、今ネットでものすごいバズってるんですよ。日本でも。で、アメリカでは大ヒットしました。これ、ロボットについての映画なんですね。ミーガンというのは8歳か9歳ぐらいの女の子の形をしたロボットです。で、これはある1人の女の子が事故で両親を失ってしまうんですね。ケイディという女の子が。

で、そのお母さんの妹が、自分の姪っ子になるから、彼女のことを引き取るんですよ。なので、そのお母さんの妹……おばさんが主人公なんですけども。その人が実はロボット工学を研究してる人なんですね。で、その自分のかわいそうな姪っ子のために、ロボットを作ってあげるっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)その主人公はジェマっていう名前の女の人なんですけども。ところが、そのロボットはですね、最初にこう言われるわけですね。「あなたの至上命令、一番大事なことはこのケイディっていう子を守ってあげることなのよ」って言われるんですよ。で、そこからどんどん怖いことになっていくんですよ。

(赤江珠緒)うん?

(町山智浩)つまり、このケイディっていう女の子の周りで、次々と人が死んでいくんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)っていうホラー映画なんですよ。これが大ヒットしているのは、このミーガンというロボットが踊ったりするんですけど。その姿がものすごく気持ちが悪いんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。なんかちょっとポスターの写真みたいなのがありますけど。精巧な人形のようなロボットなんですね?

(町山智浩)まあ人形って、怖いじゃないですか。怖くない?

(赤江珠緒)きれいな顔をした人形だけど……金髪の女の子みたいな人形ですもんね。

(町山智浩)そう。で、フランス人形とかもそうだし。日本人形とかもそうだけども。家の中に置いてあって、夜に見るとそれで怖いじゃないですか。めちゃくちゃ怖いんだよね。で、なんで怖いのかっていうと、やっぱりなにか魂があるみたいに感じるから、みんな怖いんだと思うんですけど。だから人形ホラーって結構多くて。昔、『チャイルド・プレイ』ってあったじゃないですか。

(山里亮太)ああ、チャッキーの。

(町山智浩)チャッキーね(笑)。チャッキーっていう悪魔の人形がね、魂を宿して。いろいろ襲ってくるやつとかさ。あと、日本だとタイトルが『死霊館』ってなっているけども。アナベルシリーズっていうのがあるんですよね。ホラー映画で。それはフランス人形みたいな人形が襲ってくる、オカルトホラーなんですけど。これはSFなんで、全くオカルト的な要素……幽霊とか、そういうのは一切出てこないのがこの『M3GAN/ミーガン』なんですね。

(赤江珠緒)そうか。

(町山智浩)非常によくできていて。本当に今の科学技術の延長線上にある話になってるんですよ。というのは、たとえば今ロボットって何が問題か? どうして、要するにみんなが考えるようなロボットがなかなか作れない理由って何だと思いますか? ガンダムみたいのが。

(赤江珠緒)ええっ? なんでなんだろう? 作れない理由……。

(町山智浩)今、すごくギリギリまで来てるのに、すごく難しくて。そこのところで立ち往生してることっていうのは、まずひとつは電池の問題ですよね。エネルギーの問題ね。どうしても重くなっちゃうし。電池切れを起こしやすいじゃないですか。エネルギーの問題。もうひとつは、倒れると立てないんですよ。自力で立てないんです。ロボットは。

(赤江珠緒)あら。意外にそんなところが?

(町山智浩)それを今、ものすごく研究しているんですよ。いろんなところで。倒れないようにすることはできるらしいんです。今、ロボットの研究ってすごく進んでいて。ジャンプしたり、階段を上がったりとか。そういうことは結構できるんですけども。でも、それをわざと蹴っ飛ばしたりするっていうビデオもあるんですよね。見たことあると思うんですけども。

(山里亮太)あります、あります。

(町山智浩)ねえ。すると、倒れないようによろよろとよろめきながらもバランスを取るっていうことぐらいまではロボットはできるんですよ。でも、一旦倒れた立ち上がれないんですよ。

(山里亮太)ああ、そうなんだ。

(町山智浩)2本足で歩いていると。で、だからすごくでこぼこのところとかは、ロボットはまだ走れないんですよ。2本足では。

(赤江珠緒)2本足では。あの、人間っぽい形ではね。

現実のロボット技術の延長線上にいるミーガン

(町山智浩)だからミーガンはその技術の延長線上にあって。すごくありえないことをやってないんで。この映画は。だから、走って追っかける時は、四つん這いになって走ってくるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、怖い、怖い!

(町山智浩)これ、めちゃくちゃ怖いんですよ(笑)。で、四つ脚ロボットはすごく今、成功してるんですよ。ものすごく早く走れるやつがあるんで。で、四つん這いで走って追っかけてくるんでめちゃくちゃ怖いんですけど。あとね、今までロボットにするようなものすごく高度なコンピュータをロボットの中に組み込もうとすると、重すぎるっていう問題がずっとあったんですよ。だって、スーパーコンピューターとかを見てもm巨大じゃないですか。で、それを解決手段っていうのがかなり出てきていて、ひとつはmクラウドを使うんです。つまり、記憶装置とかは内部になくていいんですよ。

(赤江珠緒)情報は全部飛ばして?

(町山智浩)そう。Wi-Fiとかからオンラインで取ればいいんですよ。だから、このミーガンというロボットは常にWi-Fiでオンラインと繋がっている状態なんですよ。で、どんどんどんどんこれ、要するにAIで学習型なんで。どんどんどんどんこまっしゃくれた口を聞きやがるようになるわけですよ。

(山里亮太)ああーっ!

(町山智浩)ものすごい、いろんなことを知っていて。歌とかもバンバン歌うし。で、皮肉とかもどんどん言えるようになってくるんですよ。で、これね、わかりますかね? 今、AIのお絵かきってすごく進んでいるのを、ご存知ですか?

(山里亮太)ああ、なんかよくSNSで上がってますね。

(町山智浩)上がってるでしょう? あれ、実は1年か2年ぐらい前は、ものすごく下手くそで。ちゃんとした人間の絵とか、AIは書けなかったんですよ。ぐにゃぐにゃの、それこそフランシス・ベーコンっていう画家が書いたみたいな歪んだ人間とか。ダリの絵のようなものになっちゃったんですけど。わずか1年か2年前は。で、それが……要するに「それはダメだよ」って教えてあげるわけですね。「こうだよ、こうだよ。こんな感じで、こんな感じで……」って言葉とかで教えているんです。みんな、世界中の人がAIに対して絵の書き方を。それで今、めっちゃくちゃAI、絵がうまいんですよ。

(赤江珠緒)そうか……。

(町山智浩)で、しかもその人間が好むものを、インタラクティブで、コンピューターと人間はやり取りをすることで、AIは人間が好むものっていうのをすごくわかってきてるから。今、要するに「かわいい絵」を書けるようになってるんですよ。AIは。

(赤江珠緒)そこまで、学習をしていってる?

(町山智浩)ご覧なると、びっくりしますよ。本当に。うまい絵だったら、コンピューターにも書けそうな気がするじゃないですか。リアルな絵だったら。でも、すごくかわいい絵っていうのは、難しそうな気がするじゃないですか。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)「かわいい」という感覚は非常に人間だけの持ってるような気持ちだとみんな、思っているから。でも、そんなことはないんです。勉強すれば、覚えるんですよ。AIは。かわいいとか。今のAIが書いてる絵は、ものすごくかわいいですよ。びっくりしますよ。日本のアニメの絵とかも、チャラチャラ書いてますよ。AIは。だから、どんどん学習していく。すごいスピードで。だって、1年かそこらなんだもん。AIが人間の形を書けなかった状態から、リアルな絵が書けるようになって。今では、人間が「かわいい」と思う絵を書けるようになるまで1年か2年しかかからなかったんですよ。これが、組み込まれちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。そう考えたら、怖いな。

(町山智浩)ものすごく、危険な状態なんですよ。で、この映画は「だったらそういうロボットが襲ってくる映画って、いっぱいあるじゃん。人間を襲ってくる映画、いっぱいあるじゃん? 何が新しいの?」っていう気がしませんか?

(赤江珠緒)ロボットの反乱みたいなのとかね、暴走とかっていうのはね。

(町山智浩)そんなの、もう100万個ぐらいあるじゃん、みたいな。これ、まずこのジェマっていうロボットを開発する女の人は、ロボットオタクで。おもちゃ会社で働いていて、そのロボットを開発することばっかり考えているんですよ。研究者で。で、そのお姉ちゃんが死んじゃったんで、姪っ子を預かるんだけども、全くその姪っ子には興味がないんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、どうしたらいいか、わからないんですよ。それで最初にタブレットを渡して。「これで遊んでいて」みたいな感じなんですよ。で、「えっ?」「それでいつまで遊んでいてもいいよ。いつまででも、好きなだけ遊んでいて」って言うんですよ。このジェマっていう人は。子供に対して。彼女は、子育てがわかっていないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。

(町山智浩)面倒くさいからね。それで、このミーガンを作って与えちゃうでしょう? で、もうべったりさせちゃうんですけど。ミーガンはこの女の子……要するに、お父さんとお母さんが死んでしまって、傷ついた女の子がいて。まず、このケイディっていう女の子を……自分の両親が死ぬと、人ってどうなると思います? 親が死ぬと。

(赤江珠緒)ええっ? 親が死ぬと? でも、不安ですよね。

(町山智浩)まず、不安でしょう? 非常に不安じゃないですか。「世の中は危険なんだ」と思うじゃないですか。それで「世の中は敵だ」と思うようになるんですよ。で、もうひとつは神とかも信じられないんですよ。道徳とかも信じられない。なぜならば、いい人も死ぬっていうことを知ってしまうから。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)いい人が死ぬんだったら、世の中のことなんか、信じられないですよ。で、世の中は自分に対して非常に攻撃をしてくるし、自分を不幸にする敵だと思うようになるわけですよね。それに対して、このミーガンは「守ってあげるわ」ってなるんですよ。で、2人で24時間、ずっと一緒にいて。それでこのケイディっていう女の子が求めるものを全部与えるんですよ。このミーガンというロボットは。これ、要するにミーガンってスマホなんですよ。

子供にスマホを与えちゃって、「何してもいいよ」っていう風にした状態のことを言ってるんですね。この映画は。これ、わからないかもしれないですけど。ものすごく危険なんですよ。だからミーガンを彼女から離そうとすると、ものすごく怒って癇癪を起こして大暴れをするんですね。この女の子は。それは、子供にスマホをずっと与えておいて、子供からスマホを取り上げたらどうなるか? パニックになりますよね。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。うん。もうそれなくしては生きていけないと。

ミーガンはスマホの象徴

(町山智浩)なしでは生きていけないじゃないですか。どうしてかっていうと、スマホとかこのミーガンもそうなんですけど。これは、他者と繋がってるわけじゃないんで。ミーガンっていうのは、他者じゃないんですよ。この女の子にとって、全て受け入れてくれる存在なんですよ。鏡なんですよ。

(赤江珠緒)はー! 鏡?

(町山智浩)つまり、自分自分自身のエコーを聞いてるだけの状態になっているんですよ。だって、何でもいいことしか言わないんだもん。でも、それって子供は育ちますか? この子、学校にも行っていないんですよ。ショックを受けて、家にいて。で、全てを受け入れて、自分を100%、わがままを全て聞いてくれるロボットと一緒にいるわけですよ。で、その「自分以外のものは全て敵だ」と思ってる2人の共同体を作るんだけれども、そのミーガン自体は他者ではなくて、自分の鏡なんですよ。フィードバックしてるだけなんですよ。

(赤江珠緒)そうか。自分の殻の外には一歩も出てないっていうことか。

(町山智浩)出てないんですよ。それで、大変な事態になるよっていう映画なんですよ。ロボットの話に見せていますけども、そうじゃないんですよ。子供がインターネットの中に入って中毒になったら、どうなるか?っていう話なんですよ。

(赤江珠緒)はー! そうか。じゃあ、今までのロボットの暴走とか、今までの人形の怨念とか、そういうのとは全然違うんですね。

(町山智浩)全然違うんですよ。これ、ものすごくリアルな問題で。赤江さんは娘さんにスマホとか、与えていますか?

(赤江珠緒)いや、まだね、5歳なんで。与えないですね。

(町山智浩)まだですよね。だからこれ、すごく今、社会とか子育てにおいて大問題になってることを拾い上げている話なんですよ。

(赤江珠緒)そうか。ちょっと避けて通れない育児のひとつの問題になってますもんね。これはね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、これが怖いのは、さっきクラウドの話をしたんですけど。このミーガンというロボット自体は、本体ではないんです。これ、最近の映画にすごく多いんですけど。この間、『アバター』っていう映画があったんですけども。あれに出てくる敵って、基本的にはロボットみたいなもので、人工生物なんですけど。そこに前回の『アバター』の……要するに、今回のは続編なんで。前回の『アバター』の敵の意識が入ってるんですよ。ロボットの中に。で、その前回の敵の意識はコンピューターの中に、要するにインターネットというか、クラウドというか、そのネット界の中に保存されてるから。その敵を永遠に殺すことはできないんです。どこかに残っているんだもん。

これね、本当に怖い世の中になっているなと思いましたよ。僕は。『アバター』を見て。それで今ね、人間の脳のマッピングとかが進んでいて。人間の脳のデータを全てコンピューターに記録するっていう研究が進んでるんですよね。茂木健一郎さんなんかも、そういうのをやってると思うんですけどね。

(赤江珠緒)なんか亡くなった偉人とかもずっとここを引き継いでいけるように、とかね。ありますよね。

(町山智浩)そうですよね? 大企業の親父が死ぬ時に自分のデータをコンピューターに入れて。それで死後も会社を支配し続けるとか、そういう事態になるんですよ。下手をすると。

(赤江珠緒)そうか……。

(町山智浩)というようなことまで考えさせるような、もう恐ろしい映画なんでね。これはちょっと、よく考えたなって思いますけども。

(赤江珠緒)今ならではの映画でもあるんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。昔だったら「こんなバカな」だったんだけど。今、結構このギリギリのところにいるんですよ。世の中は。もうちょっとでこの世界に入っちゃう状態にあるんで。もうシャレになんないなと思ったんでね、すごく面白かったですね。ということで『M3GAN/ミーガン』はただね、日本公開がものすごく先なんですけど。

(赤江珠緒)そうですね。6月9日ですね。

(町山智浩)半年先じゃないか!っていうね。その間にもう全部ネタバレしちゃうだろう? 日本では。どうするんだ、それ?って思いますけど。

(赤江珠緒)なるべく情報をこれは入れないようにして見に行った方がいいですね。

(町山智浩)ということでね、もうネットに一切繋がないで。『M3GAN/ミーガン』を見るためにね。スマホをいじらないで、ずっと『M3GAN/ミーガン』に備えてください(笑)。

『M3GAN/ミーガン』予告編

<書き起こしおわり>

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