町山智浩『映画には「動機」がある』を語る

町山智浩『映画には「動機」がある』を語る たまむすび

町山智浩さんが2020年6月9日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で自身の著書『映画には「動機」がある』を紹介していました。

(赤江珠緒)もしもし、町山さん。おひさしぶりです!

(町山智浩)ああ、本当におかえりなさい。どうも。

(赤江珠緒)戻ってまいりました。

(町山智浩)お元気そうですね。

(赤江珠緒)はい。そうなんですよ。休んでる間に町山さんのご紹介いただいた『37 Seconds』、そして『ミス・アメリカーナ』も見ましたよ。よかった! 『37 Seconds』の方はお母様、神野三鈴さんがされていたのがなんか沁みましてね。大事にして「守らなきゃ!」っていうのが手放さなきゃいけない時の切なさみたいなのがね。

(町山智浩)娘が出ていっちゃうのがね、つらくてね。まあ、僕もリアルタイムで体験してますけどね(笑)。

(赤江珠緒)ええっ?

(山里亮太)えっ、娘さん?

(町山智浩)だって彼氏とかできちゃうじゃないですか。

(赤江珠緒)ああ、そういうことね!

(町山智浩)お父ちゃんなんかどうでもよくなっちゃいますからね。

(赤江珠緒)それはね、旅立つとき、巣立つときが来ますからね。

(町山智浩)ねえ。そうそう。そういうとこで切ない映画でしたね。

(山里亮太)主人公がとにかく切ないっていうね。

(町山智浩)でも最後の方、声がね、ちゃんと出るようになってね。ああいうところはよくできていましたね。

(赤江珠緒)そう。いい映画でしたわ。本当に。

(町山智浩)赤江さん、そういえば『THIS IS US/ディス・イズ・アス』って見ていたんですよね?

(赤江珠緒)はい。見ていました。

(町山智浩)今日、その話を後でします。

(赤江珠緒)おっ、本当ですか? やった!

(町山智浩)ちょっとその話をします。それで今日はね、プレゼントがあるんです。リスナーの皆さんに。本が出ましてですね。先週の終わりに出まして。集英社インターナショナル新書で『映画には「動機」がある』。これで『「わけ」がある』と読む本なんですけども。

(町山智浩)これは最近の映画……たとえば『シェイプ・オブ・ウォーター』とか『スリー・ビルボード』とか『君の名前で僕を呼んで』とか、そういったもうここ1、2年の映画ばっかりの評論を集めたんですけども。ちょっとこのなんていうか方向が……書いてから気が付いたんですけども。どの評論もですね、その映画を監督がどうして撮ろうと思ったのかってことに向かっていく内容になっているのでこういうタイトルにしたんですね。

(赤江珠緒)へー!

監督がどうしてその撮ろうと思ったのか?

(町山智浩)たとえば、『ラブレス』っていう映画があるんですけど。これはねロシアの映画なんですが。小学校5、6年ぐらいの男の子が両親が離婚するんですけど。その両親が互いにその子をどっちも引き取りたくなくて、互いに押し付けている会話を聞いちゃうんですよ。で、行方不明になっちゃんですね。で、両親がその自分の子供を捜さなきゃいけないんだけども、どっちも捜そうとしないっていう、すごい嫌な話なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ、つらすぎる……。

(町山智浩)そう。で、なんでこんなひどい話を……って思って、この監督のアンドレイ・ズビャギンツェフという人について調べたら、子供の頃にお父さんが家を出て行っちゃったんですね。そうなんですよ。それでその後もお父さんと連絡をとろうとしたんだけど、お父さんが逃げ続けて。死ぬまで会えなかったということがあって。その彼の体験が元になっていうのが『ラブレス』っていう、「愛がない」っていうすごいタイトルの映画で。

(赤江珠緒)「愛がない」だ。うんうん。

(町山智浩)あとね、『聖なる鹿殺し』っていう、これはギリシャのヨルゴス・ランティモス監督の映画なんですが。心臓外科医の話で。心臓外科医が酔っ払って心臓手術して、あるお父さんを殺しちゃうんですね。するとその息子がずっとまとわりついてきて。「僕のお父さんはあなたのために死んだんだから、僕のお父さんになってください」って言ってついてまわるんですよ。その子供が。高校生ぐらいの子が。

それでやっぱり「俺には奥さんも子供もいるから、家庭を壊されたくないからダメだ」って言うんですね。「うちの家のねお母さんはね、いい体してんるですよ」とか言いながらね。自分のお母さんとそのお医者さんと結婚させようとする少年の話なんですよ。で、なんでこんなものを撮ったんだろう?って思ったら、この監督が子供の頃にお父さんがやっぱり家を捨てて。お母さんと2人で苦労して育ったということが元になってるんですよね。だからね、知らないうちにね、変な映画が……こういう、すごく変な映画が多いなと思って。

映画監督たちの個人的な体験が映画となる

『ファントム・スレッド』っていう映画はお母さんの幽霊を求めているファッションデザイナーの話なんですね。これも監督に聞いたら「お父さんが亡くなって、お父さんの幽霊に会いたいと思った気持ちから作った」って言っていて。実はその映画ってどれも非常に個人的な体験……特に子供の頃のトラウマが映画に出てるんですけど。大抵、そのことはどこにも書いてないんですよ。インタビュアーがものすごく突っ込まないと答えてないし。まあ、すごく調べないとわからないことなんですね。で、それを徹底的に調べた本です(笑)。

(赤江珠緒)ほー! 『映画には「動機」がある』。

(町山智浩)で、この本をリスナーの方10名にプレゼントします。

(プレゼント情報省略)

(町山智浩)まあ、この『たまむすび』でも何回か……たとえば『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーっていうのはそのジョージ・ルーカス監督のお父さんのことだったとかね。

そういう話を……だからステーヴン・キングのお父さんってのいうは子供の頃に行方不明になって。そのことが『シャイニング』とかに影響しているというような話を前からしてたんですけども。

結構そういうのってあって。ただ、パンフレットを見てもそのことは書いてないし。どこにも、映画の宣伝にも書いてないんですよね。大抵。関係ないことだから。監督の家庭の事情っていうのは。

(赤江珠緒)そうですね。真相の中の真相ですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。それを徹底的に調べていくという本になっていますので、よろしくお願いします。

<書き起こしおわり>

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