朝井リョウ『仮面ライダーセイバー』第1話・第2話の感想を語る

朝井リョウ『仮面ライダーセイバー』第1話・第2話の感想を語る 高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと

朝井リョウさんが2020年9月20日放送のニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』の中で以前にも言及した『仮面ライダーセイバー』についてトーク。第1話、第2話を見た感想を小説家目線で話していました。

(朝井リョウ)もうすぐ200回が来るっていう、ちょっとめでたいところではあるんですけども。ちょっと、お知らせというか。私のもとに届いた文章があるので、ちょっと紹介していいですか?

(高橋みなみ)なになに? 怖いんだけど……。

(朝井リョウ)小説新潮という文芸誌ですね。その担当さんから……普段からやり取りすることはあるんですけれども。連絡が届きまして。ちょっと読み上げます。「朝井リョウ様、お世話になっております。9月に入っても暑い日が続いておりますが、お元気ではお過ごしであれば嬉しく思います」。あ、これ本当に作家と編集者ってこういうメールばっかりやり取りしてるの(笑)。

(高橋みなみ)そうなんだ!

(朝井リョウ)だから、もう申し訳ないよ。なくせばいいよ。もう。ありがとう。編集者さん、今まで10年間、こういう一文を入れてくれて。でも、本当に思う。なんか今さ、でもお気持ちですよ。嬉しいですよ。とても。ご丁寧に書いていただいて。でも、もういきなりその本題に入るのがあれかな?っていうことで皆さん、こうやって書いてくださるじゃない? 「9月に入っても……」とか。でも、「ごめん!」って思うわけ。本当に。今まで、ありがとうございました。編集者の方々のここの文章。ここの文章にはおさらばしまして。

「弊誌(小説新潮)10月号に『仮面ライダーセイバー』のプロデューサーのインタビューを掲載することになったのですが、その中で使用するセイバーのメインポスターの写真の説明文に朝井さんのお名前を使わせていただけないでしょうか? 具体的には『仮面ライダーセイバーメインポスター、ラジオ番組で作家の朝井リョウさんが万年筆と称していた頭部の装飾は実際には剣とのこと』となります。ご確認いただけましたら幸いです」という。

(高橋みなみ)ええーっ! ヤバッ!

(朝井リョウ)非常に丁寧なメールをいただきまして。たぶん史上初だと思うんですけど。よくありますよ。ラジオで間違った発言をしてしまって10分後とかに「訂正いたします」っていうのはありますけども。ラジオの間違いが小説新潮で訂正されるっていう初の試みです。

(高橋みなみ)なにそれ? それ、OKだしたの?

(朝井リョウ)もちろん。「あ、全然OKですよ」って。

(高橋みなみ)「もちろん」(笑)。ヤバい、それ見たいやん!

(朝井リョウ)だから私のラジオでの間違いが……だから、正式に言うとどうなんだろうな? 「先々週の発言で間違いがありましたけれども、たしか小説新潮10月号の方で訂正されております」って。

朝井リョウ『仮面ライダーセイバー』と小説家のリアルを語る
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(高橋みなみ)いやいや、ここで訂正せい!(笑)。

(朝井リョウ)ということになりますので。いや、びっくりよね。本当に。

(高橋みなみ)だからそういった方々も聞いてくださっているってことよね。だから。

(朝井リョウ)だから、気をつけないといけない。私の編集さんで聞いていただいている方は割と多いけど、それは気を遣って聞いてるんだと思う。会った時に……。

(高橋みなみ)まあ、そうね。「聞きました」とかね。

(朝井リョウ)ねえ。話のタネのひとつになりますから。まずはちょっとやっぱり責任がありますから。我々、間違えたという。我々ね。責任ありますから。

(高橋みなみ)笑ってるんだよな。ちょっと。ニヤニヤしてんのよ。

(朝井リョウ)私の万年筆はもう今、ドボドボなんですけども。ちょっとちゃんと感想の方をお届けしようかなと思います。

(高橋みなみ)はい(笑)。

(朝井リョウ)あのー、私まず今日、遅刻したんですけど。

(高橋みなみ)フフフ、それ、言うんだね。間違えたのよね。来る場所をね。

(朝井リョウ)そう。場所を間違えたっていうのもあるし。実は、本当はね、このセイバーの感想を話しながら私はグミを食べようとしていたの。

(高橋みなみ)ちょっと待ってください? どうしました?

(朝井リョウ)もう、グッズも出てるわけですよ。『仮面ライダーセイバー』さんのグッズも出始めておりまして。グミがね、なんとセブンイレブンで今、販売しておりまして。私、だから場所を間違えたっていうのもあるんですけど。結構そもそもギリギリで、そのセブンイレブンに駆け込んで。「仮面ライダーのグミって入荷していますか?」っていうのをいくつかの店舗でやっていたりとかしたっていうのがあるんですね。

(高橋みなみ)フハハハハハハハハッ! はよ来いや!

(朝井リョウ)で、その上でひとつも手に入らず、場所を間違え、全然関係のない会社の前で私はずーと立っていて。「この先にスタジオがあるようには思えないぞ?」って。

(高橋みなみ)だって珍しくメール来たもん。「ここ、合っていますか?」みたいな。

(朝井リョウ)住所をお送りしてね。まあ、間違っていたんですけど。グミを探し回っていたっていうところがありました。

(高橋みなみ)えっ、セイバーにグミが出てくるから?

セイバーグミを探して遅刻

(朝井リョウ)いや、そんなわけないじゃない? 「そんなわけない」って言い方もあれですけども。まあ、きっとだいたい売るんだろうね。グミを。どんな仮面ライダーでも。

(高橋みなみ)なるほど。全ての仮面ライダーでグミがね。

(朝井リョウ)で、その製品ページみたいなところを見たのよ。で、剣とかの形のグミっていうのが毎年たぶん売ってると思うんだけども。どんなグミが入っているのか、散りばめられててさ。ちゃんと本型のグミが写っていてさ。本型のグミなんて食べたことがないからさ。「今日、絶対にそれを食べながらしゃべるんだ」と思っていたら、遅刻という……。

(高橋みなみ)そして、手に入らず(笑)。

(朝井リョウ)手に入らず遅刻を。真面目にそんな、第一話から振り返ろうみたいなことではないんですけど。でもセイバー、ちょっと私と環境が違って。書店を経営してるんですよ。

(高橋みなみ)書店を経営?

(朝井リョウ)書店を経営しながら原稿を実際に書くっていう。

(高橋みなみ)そんなこと、できるの?

(朝井リョウ)でもまあやっぱり兼業作家の方とかとても多いですし。私も3年間、兼業作家をやっていましたから。という中で、編集さんがバーッと来て。セイバーから原稿を取り立てながら言ったセリフがありました。「要するに小説家がダメだ時の副業でしょう?」って。つらい……もう筆1本で食べていくことはなかなかつらい現状っていうことをすごく反映したセリフがそこでバーン!って出てきて。「ああ、すごくつらい、つらい……」って思いながら見てたんですけど。でも、すごい良かったのが、やっぱり1話に1冊、モチーフになる本みたいなのを登場させるわけ。

(高橋みなみ)おっ、なにそれ? 粋だね!

(朝井リョウ)そう。すごい粋だったの。たとえば1話だったら、リョウタっていう少年がお母さんとはぐれちゃうのね。で、「お母さん、お母さん!」ってリョウタが泣いている時に『家なき子』をセイバーが出してきて。「この本の主人公もお母さんを探して。でも、たくましく頑張っているから大丈夫」みたいな感じで。その本を使ってキャラクターを励ますみたいなシーンが出てきて。

(高橋みなみ)へー。その本で戦うわけではなくて?

(朝井リョウ)そう。でもね、聞いて。その後に本を使った、本と関わりのある技で戦うっていうシーンがあって。

(高橋みなみ)「『家なき子』!」みたいな?

(朝井リョウ)『家なき子』はこの時だけだったんだけど。そのリョウタに向けて励ますためだけに使ってたんだけど。だからこの後、あるかな? 部活を辞めようか迷っているキャラクターが出てきた時に『桐島、部活やめるってよ』を出して。「ほら、やめるってよ!」って。

(高橋みなみ)「やめるってよ!」(笑)。

(朝井リョウ)「ありえるし、あるな?」って思って。でも、2話を通じて見て「世界的名作じゃないと出てこないんだな」って思ったんですけど。それで2話だと『ジャックと豆の木』を取り出して。大きい敵と戦うためになんかセイバーが『ジャックと豆の木』を取り出したら、『ジャックと豆の木』って巨大な木がグーン!って生えていくじゃないですか。それが現実で起こせるようになって。その木に登っていって戦うみたいな。そういうことがあったんですよ。

(高橋みなみ)面白いね。

(朝井リョウ)それ。だからこういう感じで本をね、1冊ずつ毎話毎話出していくのであれば、なかなか面白い展開があるんじゃないかなと思って。で、「子供ももしかしたら『ジャックと豆の木』って面白いんだ」って思うかもしれないし。で、プロデューサーの方にもしかしたら……「届いた」っていう前例があるじゃない? 間違えた情報が届いたっていう。もしかしたらちょっとこれも何か提案をすれば今後の脚本に生かせるかなと思って。で、まあさっきの「やめるってよ」は冗談よ。

(高橋みなみ)ああ、あれは冗談なんですね。そうでしたか。

(朝井リョウ)みんな、冗談ですよ? 冗談を言ってます。基本的に。でも次はリアルに使えるんじゃないかなっていう風に思うんですけど。

(高橋みなみ)おお、提案ですね。

(朝井リョウ)そう。やっぱり『ジャックと豆の木』で木がグーンと伸びていったように使える。これは、おすすめ。私のおすすめは谷崎潤一郎の『春琴抄』。もうみんな大好き『春琴抄』なんですけど。谷崎と言えば、すごい耽美な……もう「ええっ!」って思うような恋愛模様をすごい美しい文章に書くっていう人なんですけど。

おすすめ作品・谷崎潤一郎『春琴抄』

(朝井リョウ)『春琴抄』でみんな大好きなシーンってさ、盲目の三味線を奏でている三味線奏者の女の人を佐助っていう人がすごい盲目的に愛するんだけど。その愛の表現でね、佐助が「自分も盲目になる」ということで。その目に針を刺すシーンがあるんですよ。でもこれはもうすごい、もう有名すぎてもみんな……「谷崎、春琴抄、佐助」みたいな。もうゲームができるぐらい。谷崎ゲームができるぐらい。差されたら「佐助!」っつって目に針を刺すみたいな。。

(高橋みなみ)怖いゲームだな(笑)。

(朝井リョウ)そういうゲームができるぐらい有名な話なんですけど。だからこれで『春琴抄』って出して敵の目にビュッ!って……(笑)。「針、バーン!」って。

(高橋みなみ)アハハハハハハハハッ!

(朝井リョウ)針を刺すっていうのはちょっとありえるかなって。

(高橋みなみ)それ、あるかな?(笑)。

(朝井リョウ)まあ、これも冗談よ。

(高橋みなみ)ああ、これもね? どこから本当のことになるのかな?

(朝井リョウ)これも冗談なんですけども。でも、私がすごい本当によかったというか、本当に気になったのは、2話の一番最後の方に倫太郎っていうキャラクターがいるんですけど。その倫太郎は現実世界じゃなくて、なんか特別な世界にいて。戦う時に現実世界に下りてきて。セイバーとコンビみたいな。

(高橋みなみ)人間?

(朝井リョウ)まあ人間なんですけど。なんだろうな? なんかバトルの世界にいる人で。日本の文化とかにあんまり詳しくないの。それで、一番最後にその編集者の人が差し入れて持ってきたエクレアを見て「食べたい!」って倫太郎が思うシーンがあったんですよ。

「でも、自分は戦う戦士だから体型をちゃんとしないといけないから食べることができない……」みたいな葛藤をするんだけど。その食べ物に向かってテンションを上げる時の一言として倫太郎が「本で読んだことがあるけど、食べたことがない。エクレル・オ・ショコラだ!」って言ったんですよ。で、私それを……「今のセリフを書いた人はすごく本が好きな人の気持ちをめっちゃわかってる!」って思って。

(高橋みなみ)へー!

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