朝井リョウ『天使なんかじゃない』と矢沢あい作品の魅力を語る

朝井リョウ『天使なんかじゃない』と矢沢あい作品の魅力を語る 高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと

朝井リョウさんが2020年3月8日放送のニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』の中で『天使なんかじゃない』など矢沢あい先生の作品の魅力について話していました。

(朝井リョウ)皆さんは、家にいますか?

(高橋みなみ)えっ、突然? なんか始まった? どうしたの?

(朝井リョウ)皆さんはやっぱりこの放送がされている時もまだご自宅でたくさんの時間を過ごすタイミングが……。

(高橋みなみ)ああ、そうか。今、この時期だとね。

(朝井リョウ)まだ続いているのかなと思いまして。そんな時はやっぱり読書じゃないですか。で、私は最近ね、ちょっと読み返して「本当に面白いじゃん!」って思い直した漫画……まあ漫画なんですけども(笑)。小説の話をしろよって思うんですが。でもちょっとまとめて、家にいる時にもう丸1日、これはもうきっと楽しく過ごせるっていう……。

(高橋みなみ)朝井さんって何系の漫画読むの?

(朝井リョウ)私さ、3つ上の姉がいたっていうのもあって、少女漫画が家に自然にあったんですね。

(高橋みなみ)そっちか! 私、少年漫画だったな。

(朝井リョウ)でももしかしたら高橋さんも、これは読んでる可能性もあるなって。人類的にも非常に高いと思います。

(高橋みなみ)人類的に? そんな流行った漫画?

(朝井リョウ)映画で言うジブリみたいな感じ。『天使なんかじゃない』『ご近所物語』『Paradise Kiss』。

(高橋みなみ)ごめんなさい……。

(朝井リョウ)ええっ?

(高橋みなみ)ごめんなさい……。

(朝井リョウ)そうよねー!

(高橋みなみ)私、そっち行ってないんですよ。やんわりは知っていますけども。

(朝井リョウ)矢沢あい先生ですよね。

(高橋みなみ)そうですよね。

(朝井リョウ)ええっ? ADのミナミさんも? えっ、ここの現場にいる女性が誰も読んでいない……?

(高橋みなみ)いや、だって世代的に朝井さんよりもたぶんもっと前だよ?

(朝井リョウ)そうなのよ、たしかに。で、何が面白いかというと当時はさ、特に漫画読んでる時ってやっぱり主人公と……まあヒロイン・ヒーローがうまくいくかどうかがもちろんどの作品も主軸になっていて。そこにもう若え頃は振り回されるじゃないですか。読者としてもやっぱり。でも今読むとさ、全然そこじゃないんだよね。

(高橋みなみ)ああ、違うんだ。

「親との問題」を描く

(朝井リョウ)その三作品の共通としてまず書かれてるのが「親との問題」が書かれてるんですよ。両親との軋轢……主人公と両親ではなくても、そのヒーロー的なポジションの人と両親だったりとか。あとやっぱり離婚してる設定が多かったたりとか。でも子供の時にそこは全然響いてなかったの。正直。

(高橋みなみ)そうね。難しいよね。

(朝井リョウ)そう。全然わかってなくて。結構なんか1巻分ぐらいは家族の問題とかあったんだけど、そこはなんかサーッて読んでいたりしたんだけど。今、読むとそこが響く! その両親の不和からの子供への影響であったりとか。そこがどういう思想に影響を与えるかみたいなことが意外とちゃんと書かれてるんですね。

(高橋みなみ)私、だって『ホットロード』だもん。

(朝井リョウ)ああ、私は『ホットロード』、読んだことないんですよ。

(高橋みなみ)読んでください。紡木たくの名作でございます。

(朝井リョウ)それはそういう一面はあるんですね。恋愛だけじゃなく。

(高橋みなみ)そう。だからその『ホットロード』もヤンキー文化とそこに家庭環境がいろいろあって飛び込んで女の子が描かれてるんだけど。やっぱりその家庭環境が複雑で。それに対してちょっと恋をする男の子がガッと彼女が言えないようなことを言ってくれたりとか。そういうのはたしかに当時、わかんなかったけども今、読むとわかるっていう。

(朝井リョウ)そうなのよ。今、読むとあるじゃん。そういうのがあと2つあってさ。そのひとつはやっぱり親との関係がめっちゃ書かれてたんだってことに気づいたのと、もう1個は友人との関係を思ったより書いていて。恋愛以外に。で、私はとにかく『天使なんかじゃない』という漫画に出てくる「マミリン」というキャラクターが大好きなんですね!

『天使なんかじゃない』のマミリンが大好き

(高橋みなみ)マミリン?

(朝井リョウ)で、マミリンを説明すると……漫画でよくさ、月と太陽のコンビがあるじゃないですか? で、『天使なんかじゃない』では主人公はみんなから「天使・エンジェル」って呼ばれてるけど「でも私は本当は天使なんかじゃないのに……」とか思いつつ、好きな人のためなら天使にもなれるみたいな漫画なんですけど。主人公はだからもう太陽なの。自分も知らず知らずのうちに周りを照らしてる人なんですけど。

そのマミリンっていう子はすごい優等生で、これまでちょっとつっけんどんな態度を周りにとってしまうから友達も少ない。それで高校の生徒会でその主人公と出会うんですよね。それでマミリンはなかなかつれないのよ。その主人公が「マミリン、あれしようよ、これしようよ」みたいにやるんですけど、つれないんですよ。で、それが結構続いて、途中で学園祭みたいなのがあって。それが生徒会での初めて大仕事があって。それで1日、みんなで頑張って、最後に生徒会室みたいなところでなんか「今日1日、終わったね」みたいな感じの話をしてて。

それでなんかの流れでね、その主人公がマミリンに向かって「マミリンって何か夢とかあるの?」みたいな話を聞くんですよ。そしたらマミリンがスッと、1コマ2コマ分ぐらい落ち着いた後にまっすぐ主人公の方を見て。「あたしは冴島翠(主人公)みたいになりたい」っていうシーンがあって。もう泣いちゃうんですよね、私。そこを読むともう絶対に泣いちゃうんですよ!

「あたしは冴島翠みたいになりたい」

(高橋みなみ)フフフ、同じところでね(笑)。

(朝井リョウ)もう毎回、そこで泣いちゃうの! もう「ううう……」って思って。初めて素直にさ……ちょっと、むしろ「鬱陶しい」ぐらいの感じで主人公をやっていたんだけどさ。なんだけど……なりたいんじゃん!って思ってさ。

(高橋みなみ)フフフ(笑)。

(朝井リョウ)で、その3つ目に面白いところがさ、やっぱり最後に進路の話が出てきて。特に『ご近所物語』っていう漫画と『Paradise Kiss』はデザイナーを目指す子たちの話だったりするから。特にやっぱり才能がある人とない人っていう人の書き分けがもう読んですごい辛いんですよ。『ご近所物語』とかは芸大みたいな世界なのね。高校なんだけど。ファッションの専門学校みたいなところで。みんな、すごい楽しくずっと「みんなでなりたいものになろうね!」って過ごしてるんだけど、気づいてる子がいるの。「私は才能がない」っていうことに気づいている人たちがいて。その人が実は人知れず退学してたとか。でも、周りは全然気付かないの。

(高橋みなみ)えっ、そういう話なの?

(朝井リョウ)でも、結構シビアじゃないですか。その持つ者、持たざる者みたいな。

(高橋みなみ)もっと微笑ましい感じかと思っていた。

(朝井リョウ)そう。今、読むとすごいシビアで。その進路の話でもさ、マミリンは留学をしたいんですね。本当は。翻訳家になるのが夢なので留学したいんですけど……恋人もいるから、その日本の大学を受験する。「でも私は全然それで幸せ」っていう話があってさで。それで周りも「マミリンが選んだんなら、それで」っていう風に思うんだけども、本当は留学したいっていうシーンがあって。で、その主人公が「なんで? マミリンは自分の夢に向かってもっと突き進んでほしいのに」みたいなことを涙ながらに言うシーンがあるんですけど。そこでマミリンが「あんたみたいな友達は……もう出来ないかもしれない」って言うんですよ。

「あんたみたいな友達は……もう出来ないかもしれない」

(高橋みなみ)いい!

(朝井リョウ)で、私はそこでも絶対に泣いちゃうんですね! もう本当にマミリンの……「マミリン!」って思って。

(高橋みなみ)マミリン、好きな!

(朝井リョウ)っていうかね、私はこの話をみんなで盛り上がる予定だったの。本当は……今、みんな「わあ、マミリン! マミリン!」ってなる予定だったの。

(高橋みなみ)ごめん。あのね……知らない。

(朝井リョウ)もう空調の音が聞こえた……びっくりですよ、本当に。

(CM明け)

(朝井リョウ)はい。今日のゲストはマミリンということでね……。

(高橋みなみ)フフフ、違う、違う。マミリン、来てないのよ。でもね、ちょっと読みたくなりましたよ。

(朝井リョウ)よかったー。みんな、読んでね!

<書き起こしおわり>

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