宇多丸さんと宇垣美里さんが関東大震災から97年目の2020年9月1日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で関東大震災とその際に発生した朝鮮人虐殺についてトーク。『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』を紹介していました。
(宇多丸)そんな構成作家、古川耕さんと一緒に謝りたい件がございます。ラジオネーム「ベニメンの兄」さん。「昨日、月曜のオープニングトークのチャドウィック・ボーズマンさんが亡くなられた件で宇多丸さんが『カーリングカップのアーセナル対リバプール戦でオーバメヤン選手が得点後、ワカンダポーズを取った』とおっしゃられましたが、カーリングカップではなくコミュニティーシールドの間違いではないかと思います。校閲の仕事をしてる職業柄、そしてサッカーを愛する者としてメールしてしまいました」という。いやいや、これは「してしまいました」じゃなくて、本当にありがたい!
(宇垣美里)ああ、ちょっと古川さんが「ごめんね」って(笑)。
(宇多丸)古川耕さん、ZOOMにデカく「ごめん」と出ました。そうなんですよ。おっしゃる通りで。正しくは8月29日にウェンブリースタジアムで行われたFAコミュニティーシールド、リバプール対アーセナル戦でオーバメヤン選手がワカンダのポーズを取ったということです。お詫びして訂正いたします。本当に申し訳ないです。ワカンダ・フォーエバーということで。
いやー、すいません。サッカー情報といえば古川耕さんということで頼りにしたことが……「ごめんね」って謝っていますね。いや、本当に申し訳ございませんでした。いや、でもこれね、このぐらいの間違いだからまだいいというか。すぐに訂正もできたからいいんですけど。やっぱりメディアの責任も発信する側にはあるよというような話も絡めて、やっぱり9月1日はどうしてもこの話をいつもしてるんですけども。今日は関東大震災から97年目という日なんですね。
(宇垣美里)97年目ですか。
(宇多丸)1923年、大正12年9月1日11時58分。主に南関東で大規模な地震災害が発生。およそ190万人が被災し、10万5000人が死亡、あるいは行方不明になったという。大変な大災害なんですが……もちろん、地震は地震で大変だったというのがありますけど。皆さん、もちろんご存知の通り、そこでデマというのが流れて。流言が流れて、デマによって……要するに「外国人たちが暴動を起こしている」というデマによって、その時に日本に住まわれていた朝鮮人の方。あるいは中国人の方とかが本当に全く何もしてないのに虐殺されたという。
(宇垣美里)そのデマを信じ込んだ人たちによってということですね。
(宇多丸)そうです。で、これはもちろん教科書とかも載っていて。皆さん、もちろん知識としてもご存知なことだろうと思うんですが、毎年しつこいほど……「毎年」とも限らない。僕もことあるごとにこの件については「素晴らしい本があるので読んでください」っていうことでお勧めてる本があって。ころから株式会社というところから出てる加藤直樹さんという方が書かれた『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』という、なかなか強烈な……ジェノサイド。虐殺ですからね。
(宇垣美里)この言葉を使うことはなかなか……。
(宇多丸)なんですが、これがどういう本かというと、本当にリアルタイムで書かれた普通のあの市井の人たちの日記であるとか、あるいは実際に新聞に載ったこと。報道であったり、あるいは官報であるとか。公の記録ですね。それも含めて、複合的に実際にどういうことが起こったのかというのを追っていく本で。まあ、ちょっと本当に読み進めるのがつらくなるような本でもあるんだけど……本当にぜひぜひ、これはかならず。要するに知識としてのみならず、やっぱり何か感情に叩き込むというかですね。
(宇垣美里)「人間はそういう生き物なんだ」っていうことを。
(宇多丸)そうなんです。そこなんです。まあ、いつもいつも同じようなところを引用してますけど。僕はやっぱりすごく印象的だったのは、たとえばなかなか心あるような方というか。そういう流言飛語が流れていて。「あちこちで朝鮮人の人が暴力を受けてるらしい」っていうのを聞いて「それはひどい。そんなわけはないだろう」という風に判断されて。それを日記に書いていたような方が、でもしばらくするとやっぱりいろいろと……「どうも聞いてると、これは本当らしい。みんなが言っているし……」って。それで、やっぱり人間というのは生命の危機みたいなものが身に迫ってくると、やっぱりいろいろ普通の精神状態じゃなくなるところがある。
(宇垣美里)あとはどうしても心が狭くなりますから。
(宇多丸)そう。これはもう、全然私も含めてそうです。それにしたがって、だんだんそういう「どうやら、本当らしい」ってうい気持ちになってきて。それで街中で「ワーッ」と人だかりができていて。暴力を受けている様を見て「自分もちょっと一発やってやろうか」と思って杖、ステッキを持ってやってやろうと近づいたけども、そこでちょっと踏みとどまる。「あっ!」って。
それで数日経った時の日記で「やっぱりそんなわけはなかった。あの時はちょっとおかしかった。やっぱりそんなわけはなかった。デマでやられてしまった朝鮮の人はかわいそうだ」っていう。だから要は、自分のことを律することができて、いろいろと常識を判断することができていたはずの人もやっぱり、異常な精神状態になって。群集心理もあるんですかね? 「ワーッ!」ってなってる時に、義憤に駆られて。ここが怖いじゃない?
(宇垣美里)正義だと思っているんですよね。
(宇多丸)正義だと思って。こういう時が一番、人が怖いんだけども。そうなった。これはもう本当に我々全員が戒めとして……つまり自分も今、こうやって偉そうなことを言っている僕だってどうなるかわかんないという。「俺が俺を信用できない」という気持ちで人間、やっぱり戒めるべきだというか。あと、やっぱりそのメディアもデマ流した側なんでね。
ということで、発信する側として毎日、こうやって皆さんのある意味、生活に寄り添ってる番組として、本当に戒めとしてある事件でもあるなって思い知る意味で、この『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』。おすすめしたい。これはだから、要するにやってることって……宇垣さんもね、大学でお勉強されたことが。
(宇垣美里)民族紛争を勉強していたので。日本のことではなくて、ルワンダとか、ユーゴスラビアとかの勉強をしてたんですけど、当たり前に同じなんだっていうことなんですよね。勉強していてわかったのは。
(宇多丸)たとえばルワンダのツチ族とフツ族が……とか。ありましたけども。で、たとえば本を読んだり。『ホテル・ルワンダ』なんて映画もありましたけど。「あら、怖いわね」なんて思ってるけど、「あら、怖いわね」じゃないよ。全然それに先立ってこっちでも全く同じ構造のことをやらかしていて。ということですよね。だから、人間というのはある意味、もちろんもう人種、民族も関係なく。こういうことっていうのは起こりうるし。だからこそ、その歴史から学んで絶対に戒めとしなければならないということじゃないですか。
(宇垣美里)「人が弱い」ということを知っておかなければならないのかなって思いますよね。
歴史から学んで絶対に戒めとしなければならない
(宇多丸)なので、ちょっとそういう意味でも……まあ、非常に読むのがつらい本だということは承知の上で、1年に1回ぐらいというか。1年に1回ぐらいとかじゃないな。思い起こす意味でぜひ読んでください。それでですね、こういうことを言うと、やっぱり、いるんですよ。2020年現在も。「いや、それは本当に暴動をしている人はいたんだ。当時の報道とかがあるんだから」って言う人がいるんだけども。「いやいや、その報道自体がデマだっていう話をしているのに……」みたいな。「そこから話さなきゃ、ダメ?」みたいなことを。
(宇垣美里)まだ、ちょっとそれが飲み込めていない方が。
(宇多丸)これはね、「飲み込めていない」というよりかは「そう思いたい」というか。「これが歴史の真実なんだから」という、ひょっとしたら善意なのかもしれないけど。その大元をたどっていくと、たとえばその「これは虐殺ではなくて……」みたいな。いろんな理屈で正当化をするような言説というものはあるんだけれども。そういうのってもう1個1個……たとえば「それらの中で学説として認められているものは1個もない」とか。だから本当に1個1個がすぐに論破できてしまうようなものだったりするんだけれども。
ただ、たとえばそういうものをネットで見て。これもこの前に話しましたけども。歴史修正主義の勢いはすごいですから。そういうの見ているうちに「ああ、そういうもんなのかな?」って思っちゃって。それでやっぱり、そっちの方がつらくないですからね。
「そういうことをやらかした」なんてことはなかったと思った方が、それは気持ちいいですから。「いやいや、こちらは悪くないんだ。むしろその人が悪いんだ」みたいな風に考えることで溜飲を下げてしまっている方も……要は「悪いことを言っている」っていうつもりはなくてね。でも、それは本当によろしくない。でも、そういう時流の流れがある中で、小池百合子都知事がまた、今年もやっぱり関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者の方の追悼式に文を出さない。その時に小池さんがおっしゃるのが「朝鮮人の方が虐殺を受けたということに関しては諸説ありますんで」とかって言うわけですよ。
(宇垣美里)ないのよ!
(宇多丸)諸説なんかない。そうなんです。皆さん、これ本当にここが大事です。ホロコーストなかった論とかもそうだけども、そんな説はないんです。「諸説」なんかないんです。これは明快に事実としても分かっていることで。
(宇垣美里)あったんです。
(宇多丸)あったし、その事実ということに関しても資料も大量にあります。反証としてあることとかも、要するにその最初に出てきた「虐殺はなかった論」とかだいたい、その責任を取りたくない人というか、向き合いたくない人が事実をいろいろ都合よく編集して出してることが多いわけですよね。で、このさっきの『九月、東京の路上で』とセットで、同じ加藤直樹さんが出されている本ががあります。
たぶん、そういう本を出したらバックラッシュ的にそういおう反応がブワーッとあったんじゃないですかね。それに対して本当に、丁寧に誰にでもわかるように「それはおかしいですよね」ということをちゃんと1から、その「なかった論」に対して反論してる『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』。これもころから株式会社という同じ会社から出ている本です。
ぜひ、ちょっとこちらを読んでいただきたい。それで、なんでこういうことを……こういうことを言うと、宇垣さんとかにはいちいち言うまでもないことですけど。こういうこと、日本の負の歴史だとか戦争もそうですけど、こういうことを言ったりすると、「この国を大事に思っていないのか?」みたいな。それこそ非国民呼ばわりとかされたりすることあるじゃないですか。でもそれは違うでしょう? 逆でしょう? こんなことをもう1回、また繰り返したりしたら、日本は本当にそれこそマジで世界から相手にされなくなりますよっていうね。
「日本が成長する糧として過去に向き合いましょう」ということを言ってるんで。「僕は悪くないもん。あいつらが悪いんだもん!」っていうことを事実と関係なく言い張ってるのは、僕は幼児的な願望だと思うんですね。気持ちはわからなくもないけど。でも、その幼児的な論理は世界には通用しませんし。
日本という国をある意味を思えばというか。まあ、日本に住んでますし、日本人ですから。嫌な風には見られたくないですし。成長もしたいですし、ということで言ってることであって。だからなんか国の批判、あるいはその政権の批判でもいいですけど。そんなことをすると、なんか非国民呼ばわりするっていうのはものすごく幼稚な話っていうか。そういう風に思うんで。
(宇垣美里)面倒くさかったら別に言及しませんからね。そもそもそういう気持ちがなければ。
(宇多丸)だし、「俺たち最高! オールOK! 他人が悪いんだ!」ってそんな安直なこと。それは通用しないですよっていう。なのでそういうこと言われてる人。良かれと思ってっていうか、それこそ本当に「愛国心」というものを持っているのかもしれませんけど。だとしたら、ちょっともう1回、そこは考えてみてくださいよということで。ぜひこの2冊。『九月、東京の路上で』と『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』をおすすめしたい。
「諸説」なんてない
現にその東京の長が「諸説」なんて……「諸説」って言ってるっていうことは、つまりその「なかった論」というのをある意味支持してしまっているということですから。それは。もう大問題ですよ。もうひとつ、うるさく言うのは東京だって確実にまた大きい地震が来るわけじゃないですか。加えて、外国の方。もちろん今はコロナウイルスの影響でだいぶ行き来はなくなっていますけども。
(宇垣美里)それでも、今住んでいる方はたくさんいらっしゃいます。
(宇多丸)「東京オリンピックをやろう!」っていう国だったわけでしょう? 外国の方をいっぱいお招きするという。それで地震が起きました。外国の人を率先して殺すっていうことを否定しない都市でよくもまあ……っていうことじゃない?
(宇垣美里)今後、きっとどんどん人口は減っていくでしょうから、どうしても海外の方に来ていただかないといけないはずなんです。
(宇多丸)もちろん。住まわれて働かれる方も増えるでしょうし、そういうことです。だから、「外国の人に来てほしい。お金を落としてほしい。働いてほしい。けども差別をします」っていう、そんな理屈はないよっていうこともありますから。やっぱり恥ずかしくないようにね。あと、やっぱりいざ、本当にそういう事件が起こってからでは遅い。
実際に東日本大震災の時にやっぱり「窃盗団が横行している」というデマを信じて武装して乗り込んだという人がいて。それで事なきは得たけども、それは「事なきを得た」という話であって……ということも、この『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』の方に出てきますんで。本当に何か起きてからじゃ遅いですから。我々、本当に。日本全体のためにとっても。
ちなみにこの2冊は今日、9月1日でたぶん、「読みたい」と思われた方が多いのか、今はアマゾンとかだと品切れ中ですが、版元の通販とかでは買えますし、まだ在庫は探せばあるみたいですし。これだけ大事な本ですから。版を重ねていただきたいと思いますね。ということで、すいませんね。重苦しい話をね。こんなね。
(宇垣美里)いえいえ。それこそ、先週の『MIU404』というTBSのドラマ。私、大好きで見ているんですけども。星野源さんも出ていらっしゃって。その中で、Twitterではすごく「テロが起きてる!」って言ってるけども、実際はどうだったんだろうっていう話があって。つまり、真実かどうか分からないうちにリツイートするのってどうなの?っていう話なんですよね。それにもすごく近いと思っていて。今、情報があまりにもあるからこそ、ちゃんと選ばなきゃいけないし。じゃないと悲劇を生むし……っていう。
(宇多丸)デマの広がりのね。だから、訂正されるのももちろん早い。自浄作用っていうのももちろんインターネット、当然あると思うけど。広がる早さっていう意味では比じゃないわけじゃないですか。その震災が起きた大正時代の。
(宇垣美里)そして、訂正されたものが同じ量だけリツイートされるか?って言ったら、そんなことはないですよね。
(宇多丸)これね、前にそのデータの広がり方の分布の差みたいなものを分析したやつ。NHKのスペシャルみたいなのかな? 見てみたら、やっぱり全然違う。デマの方がセンセーショナルだから広がっちゃう。でも、『MIU』は偉いですね。やっぱりそういうテーマを意識的に……。
(宇垣美里)すごくしっかりしている。というか、ものすごく面白いんです。そもそもエンタメとして面白いんですけども、いろんな問題をしっかり見せてくれるっていう。
(宇多丸)これ、TBSだからって言っているわけじゃないんですよ? TBSドラマなら褒めるということだったら、もっと話をしていますからね。でも、大したもんだ。
(宇垣美里)野木亜紀子さんが大好きなんですよ。それで見ているんですけどね。
(宇多丸)星野源さんがその番組を始まる前の番宣とかで「こんな風にいろんな今までのステレオタイプみたいの崩して挑戦してるドラマはなかったと思います」って言っていたから。本当にでも、有言実行というか。その通りだし。
(宇垣美里)海外からの留学生の実情みたいなものを描いている回もありましたし。
(宇多丸)それこそ、そのTwitterでデマが広がる話をこのタイミングっていうのは多少、意味があるのかもしれないね。あ、でも遅れて……放送が遅れたから偶然か。
(宇垣美里)いや、本当に予言者かな?って思うこと、ありますよ(笑)。
(宇多丸)いやいや、さすがですし。ちょっとすいません。説教がましく聞こえたら申し訳ないですが。一緒に勉強をして、学んでいきましょうという意味でちょっと私の推薦図書とそのお話をさせていただきました。地震で亡くなられた方にも、そして全くそれとは関係なく、暴力で亡くなられた方にも、本当に追悼の意を表していきたいし、毎年これは忘れずにこの話はしつこくしていくつもりでございます。
<書き起こしおわり>
東京大震災から97年。宇多丸さんが加藤直樹さんの著書を紹介されてました。
『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』
『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』アフター6ジャンクション 2020.09.01(火) #utamaru #radiko https://t.co/vFO9CGQjXC pic.twitter.com/kpuz2wejkq
— 丸ゐまん丸(まるいまんまる) (@nmaruOOO) September 1, 2020