高橋芳朗 Billie Eilish『bad guy』全米シングルチャート1位奪取を語る

高橋芳朗 Billie Eilish『bad guy』全米シングルチャート1位奪取を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で全米シングルチャートの連続1位記録を更新していたリル・ナズ・X『Old Town Road』から1位の座を奪取したビリー・アイリッシュ『bad guy』について話していました。

(宇多丸)ということで前回の7月31日の時点で全米シングルチャート17週連続1位だったリル・ナズ・Xの『Old Town Road』。これが19週連続1位まで記録を伸ばしたところでじゃあ、8月20日付けのチャートでついにその記録がストップしました。そんなリル・ナズ・Xの記録を止めたのは……?

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(高橋芳朗)ビリー・アイリッシュの『bad guy』です。あ、いまこれ、後ろでかかっていますね。

(宇多丸)でもさ、これも急に出た曲じゃないよね。ビリー・アイリッシュ、前にご紹介いただきましたよね。アルバムが3月に出たんだよね?

(高橋芳朗)そうですね。ビリー・アイリッシュは17歳。いまをときめくシンガーソングライターで。2000年以降に生まれたアーティストで全米シングルチャートで1位を獲得したのは彼女がはじめてだそうです。

リル・ナズ・Xから1位の座を奪取

(宇多丸)ねえ。星野源さんもビリー・アイリッシュが好きだなんて言っていましたけども。

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(高橋芳朗)ビリー・アイリッシュの『bad guy』は9週連続で2位につけていたんですよ。もうコバンザメのようにぴったりとリル・ナズ・Xにくっついてたんですけども。で、このビリー・アイリッシュによるリル・ナズ・X攻略作戦がなかなか面白いんですよ。

(宇多丸)ああ、つまり普通にしていたらなかなか破れないぞっていう感じだったのが?

(高橋芳朗)だって本来ならビリー・アイリッシュの『bad guy』がこのぐらいの記録を出してもいいぐらいのでっかい曲ですよ。で、いまのチャートっていかにして上位を狙うか? いかにして上位に踏みとどまるかっていうと、やっぱり物を言うのは各ストリーミングサービス、あるいはYouTubeでの再生回数なんですよ。もう売上とかラジオのエアプレイを伸ばすよりもそっちの方が手っ取り早い。

(宇多丸)うんうん。まあ、バズるっていうやつですね。

(高橋芳朗)そうそう。で、ストリームサービスとかYouTubeの再生回数を伸ばすためにどんな策を施すのか?っていうと、そのヒットしている曲の別バージョン。リミックスバージョンを作るんですよ。

(宇多丸)これってね、まさにリル・ナズ・X自体が『Old Town Road』という曲でそれを使ったわけですよね?

(高橋芳朗)5バージョンぐらい作っています。で、そのリミックスバージョンっていうのもオリジナルバージョンに再生回数として加算をされるんですよ。

(宇多丸)ああ、そういうことか! それもね、本当はどうなんだろう?っていう感じもするけどね。うんうん。まあまあ、でもそういうことで。

(高橋芳朗)あとは新しいミュージックビデオを作ったりして再生回数を稼いで。

(宇多丸)でも、逆に言えばひとつの曲を手を変え品を変え、大事にプロモーションし続けているとも言えるよね。

(高橋芳朗)そうですね。それでああいうリル・ナズ・Xの『Old Town Road』みたいなロングランヒットが生まれるわけですよね。

(宇多丸)さあ、そこでじゃあビリー・アイリッシュはどんな手を打ったのでしょうか?

(高橋芳朗)二発、手を打っているんですけども。まず一本目の矢としてビリー・アイリッシュが打った手は7月11日、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーして『bad guy』の新バージョンを出してきたんですよ。

(宇多丸)最強じゃん!

ジャスティン・ビーバーを投入

(高橋芳朗)いや、最強なんですよ。しかももともとビリー・アイリッシュはジャスティン・ビーバーの熱狂的なファンだったということもあって。そういう話題性もあるから、これは行けるな!って。

(宇多丸)松田聖子と郷ひろみだ!

(高橋芳朗)ええっ?

(宇多丸)フハハハハハハッ!

(高橋芳朗)本当、もうベストテン流れのたとえ……あんまり上手くないし(笑)。

(宇多丸)フハハハハハハッ! 「もともとファンだった」っていうところがね。

(熊崎風斗)そのイメージでいいんですね?

(高橋芳朗)よくない、よくない(笑)。で、そのジャケットもビリー・アイリッシュが13歳、14歳ぐらいの時に自分の部屋で、後ろにジャスティン・ビーバーのポスターをベタベタって貼って写っている写真とかを使っていて。これでさすがにね、1位を取れるかな?って思ったんですけど、それでも、ジャスティン・ビーバーの投入をもってしても首位は奪えなかったんですよ。

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bad guy FEAT. JUSTIN BIEBER OUT NOWWW OMGFFFFGGG ANYTHING IS POSSIBLE MAN

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(宇多丸)これね、ちょっと……うんうん。

(高橋芳朗)それで二本目の矢です。ビリー・アイリッシュ。これが見事に命中したというか、これでリル・ナズ・Xの牙城を崩すことになるんですけども。バーティカル・ビデオっていう。

(宇多丸)バーティカル・ビデオ?

(高橋芳朗)新しいミュージックビデオで「バーティカル」は「垂直」っていう意味ですね。それでわかると思うんですけども、要はスマホ対応の縦型ミュージックビデオを出したんですよ。これ、日本だとlyrical schoolが2016年に『RUN and RUN』っていうミュージックビデオで使っていた手法ですけども。

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)アメリカでもいま、マルーン5とかテイラー・スウィフトとかも取り入れていて、去年ぐらいから急増していて、ちょっとしたトレンドになっているんですよ。

(宇多丸)たしかにでもいま、スマホとかで手軽に見ようっていうことが多いから。そうすると、このちっちゃい横長のあれでいちいちこうしたりってやるよりは、たしかにたしかに……。

(高橋芳朗)で、ちょっといま見てみようか。ビリー・アイリッシュの『bad guy』のバーティカル・ビデオはオリジナルの『bad guy』のミュージックビデオのアウトテイク版みたいな感じなんですよ。

(宇多丸)へー。

Billie Eilish『bad guy (Vertical Video)』

(高橋芳朗)あ、これこれ。結構さ、まあどうってことないっちゃどうってことないんだけども。

(宇多丸)NG集的なことね。平たくいえば。

(高橋芳朗)でも、なんかこの縦型のビデオってかわいいんだよね。物として。

(宇多丸)かわいいし、それとNGっていうものの……要するにプライベート感が、より近い感じがするじゃん? その感じね。

(高橋芳朗)そうそうそう。まだそんなに普及もしていないから、縦画面をどう生かしてくるか? みたいな好奇心とか新鮮味みたいなのでみんな見るんですよね。

(宇多丸)しかもビリー・アイリッシュがどうやるかっていうのはとっても興味深いし。

(高橋芳朗)だからこれが現状、再生回数を稼ぐにはすごいもってこいの有効な手段だったっていう。たぶんこれが決め手になってひっくり返したんだと思います。

(宇多丸)しかしまあ、なんていうかいろいろと考えるわね!

(高橋芳朗)そうですね。じゃあ、ここで改めて『bad guy』。ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした新バージョンで聞いてみましょうかね。ビリー・アイリッシュで『bad guy feat. Justin Bieber』です。

Billie Eilish『bad guy feat. Justin Bieber』

(宇多丸)はい。ということでビリー・アイリッシュ『bad guy』のジャスティン・ビーバーをフィーチャーしたバージョンをお聞きいただいております。まあね、かっこいいし、すごい先端的だし、でも乗りやすくもあって……みたいなね。で、ビリー・アイリッシュのキャラクターもあってということで。文句なしの今年を代表する曲のひとつかなって。

(高橋芳朗)あとはこれがね、どれだけ1位を続けられるか?っていうところもあるんですけども。

(宇多丸)ただもともとね、これだって長くいる曲だからさ。ある意味、耳慣れきっているとは言えるけども。

(高橋芳朗)しかも先週末、テイラー・スウィフトのニューアルバムも出ているんで。ちょっとね、長期政権を取るのは難しい気もしますね。で、ビリー・アイリッシュ関連でもうひとつ、チャートに関するニュースを紹介すると……ビルボードは6月15日付けのチャートから新しいチャートを新設したんですよ。これがソングライター・チャートとプロデューサー・チャート。要はいまの売れっ子コンポーザーを可視化するようなチャートなんですけども。

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)ストリーミングが普及してから以前に比べて、レコードとかCDとかみたいにブックレットとかがないから、ソングライターとかプロデューサーに対する意識がちょっと低下しているんですよね。

(熊崎風斗)そういうことか。

(宇多丸)俺ね、それは本当によくないと思っている。クレジットが見れないのは。

(高橋芳朗)それがこのチャートの登場によって多少は改善されるかな?っていうね。

(宇多丸)ちょっとその是正をするっていう意識もあるのかしらね。

(高橋芳朗)でもこれ、昔からあってもよかったかな?っていう感じもしますよね。で、このソングライター・チャートとプロデューサー・チャート、記念すべき第1回目のチャートを征したのは両方とも同じ人物で。これはフィニアス・オコンネルっていうLA出身のシンガーソングライター。当時21歳。これ、誰か?っていうと、ビリー・アイリッシュのお兄さんです。

(宇多丸)ビリー・アイリッシュはだからお兄さんと2人でやっているんですよね。そこがすごいんですよね。

(高橋芳朗)いまのところビリー・アイリッシュが出した曲は全部、お兄さんと共作です。お兄さんがプロデュースもやっているし、ソングライティングもしている。

(熊崎風斗)お兄さんもだから相当なスーパーマンですね。

(宇多丸)いや、すごいですよ。だからある意味、ベッドルームからだけでこんなことになっているわけですよ。なんなんだよ?

(高橋芳朗)フハハハハハハッ! だからいま、全米チャートだとビリー・アイリッシュの曲は『bad guy』以外にもたくさんランクインしているから、フィニアスはソングライター・チャートとプロデューサー・チャート、開設以来ずっと上位に居続けているんですよね。で、このフィニアス・オコンネル自らもフィニアスの名義でアーティスト活動をしていて。10月4日にデビューEP『Blood Harmony』っていうのをリリースすることが決定していて。

(宇多丸)これもじゃあ、ドカンと行きそうですか?

(高橋芳朗)どうですかね? いままでにシングルを10枚ぐらい出しているんですよ。2016年ぐらいからコツコツコツコツ。それは全然当たっていないから。

(宇多丸)つまり、ビリー・アイリッシュっていう触媒ありきっていう形でも……ただ、とはいえこのブーストがかかっている状態なら。

(高橋芳朗)このタイミングで行けば、どうなるかな? だから妹に続いて兄貴もいよいよブレイクするかもしれない。

(宇多丸)めっちゃ才能があることは疑いない方だからね。うんうん。

(高橋芳朗)なんで今日は1曲、彼の曲も聞いてみたいと思います。今年2月にリリースされたシングルです。ビリー・アイリッシュのお兄さん、フィニアスで『Claudia』です。

FINNEAS『Claudia』

(宇多丸)はい。ビリー・アイリッシュのお兄さんでソングライター、プロデューサーをやっているフィニアス・オコンネルさんのフィニアス名義の曲、『Claudia』でした。テンポ感とか間を生かしたサウンドとか、まあ通じていますね。

(高橋芳朗)ベースがブンブン鳴っていたりね。

(宇多丸)正直、『bad guy』と流れで聞くと「ちょっと似ている」って思わざるをえないところもありましたけども。

(高橋芳朗)でも、似てるからこそ……っていうのもあるかもしれないですよ。

(宇多丸)たしかに、たしかに。でも間違いなく今後もシーンを席巻すること間違いなしのド天才の兄と妹ですから。

(高橋芳朗)兄貴がなんか他のアーティストのプロデューサーとかもし始めたらちょっとおもしろいかなとも思います。

(宇多丸)非常にすごいなと思いました。チャートもまだまだ面白いですね。

(高橋芳朗)引き続き追っていきたいと思います。

<書き起こしおわり>

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