ZEEBRAと宇多丸 トラップとBAD HOP『Kawasaki Drift』を語る

ZEEBRAと宇多丸 トラップとBAD HOP『Kawasaki Drift』を語る アフター6ジャンクション

ZEEBRAさんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』にゲスト出演。「日本語ラップ、その技術と進化の現代編」と題して解説をする中で、大人気のトラップ楽曲とBAD HOP『Kawasaki Drift』について宇多丸さんと話していました。

(宇内梨沙)ここからは日本語ラップ、その技術と進化の現代編後半です。節回しから少し離れていま流行っているビートの正体は? という話なんですが。

(宇多丸)先ほど、ジブさんがちょろっと言っていた「トラップ」というね。僕、普通に「トラップ、トラップ」って言っちゃって。映画評の中でも「このお母さんがずーっとトラップ聞いててさ……」とか普通にやっちゃっているんだけど、ちゃんと説明をしていなかったっていう。

(ZEEBRA)はいはい。これはでもね、なかなか難しいですよね。説明をはっきりと「こうだ」と言い切るのは。定義がすごく難しいんじゃないかなと思うんだけど、やんわりと言うならそもそもこれはサウス、アメリカ南部の方から始まってきたビートで。テンポ的にはBPMが70前後。60ぐらいから80ぐらいまでなのかなって思っていますけども。

(宇多丸)基本、遅い。

(ZEEBRA)基本は遅いやつを倍で取る。で、あと実際に「トラップ」って一言でいうけど、あんまりヒップホップと直接関係ないトラップもあって。いわゆるEDMみたいな方でかかる、そういうトラップのアーティストっていうのもいるわけですね。

(宇多丸)俺、最初に「トラップ」っていうジャンル名を聞いたはヒップホップじゃなかったもん。

(ZEEBRA)ダブステップとかトラップとか。それはそれであるんだけど、まあよく向こうで「トラップハウス」って言われているのが、それがドラッグをやるお家、パーティーをするお家みたいなもののことらしくて。そういうところでかかる音楽みたいなことでもあるっていうことなんだけど。それが、基本的には音的にはゆっくりなやつを倍で取る感じ。それがトラップミュージックと考えていいんじゃないでしょうかね。

(宇多丸)はい。

(ZEEBRA)で、それこそT.I.がね、「俺がトラップを始めた」みたいなことをいろんなところで言っていたりとかして。「そんなことはない!」とかいろいろやってますけども。『Trap Muzik』っていうアルバムを作っていたんだよね。結構早い段階(2003年)にね。

(宇多丸)そう。結構早い段階で、T.I.が。

(ZEEBRA)でもまあ、基本彼もサウスの出身なんで、サウスから生まれてきた音楽という。

(宇多丸)要はそれまでのニューヨーク発、ニューヨークが中心地だった。LAも盛り上がり始めたけど、ある意味田舎というか、南部から盛り上がり始めて。いまや南部の音楽像がある意味ヒップホップの主流になっているという。

(ZEEBRA)そう。中心になっている。

(宇多丸)で、いつの間にかニューヨークの、僕らが最初に憧れたようなヒップホップは割と……さっき言っていたブーンバップですか。それは昔のヒップホップのスタイルっていう感じになってきたという。

(ZEEBRA)そうですね。「クラシック・ロック」みたいな感じでいくところの「クラシック・ヒップホップ」みたいな感じになってきている。

(宇多丸)という感じでございます。

(宇内梨沙)へー!

(宇多丸)じゃあ、実際に音楽像を聞いてもらうのがいいと思うんで。なにかご紹介ください。

(ZEEBRA)じゃあ、その元として90年代サウス系のビートということでノーリミットとかの話なんですけども。

(宇多丸)マスター・Pという人がいてね。

(ZEEBRA)じゃあ、一瞬だけちょっと聞いてみましょうか。Juvenileの『Back That Ass Up』っていう曲を聞いてみましょう。

Juvenile『Back That Ass Up』

(宇多丸)はい。Juvenileでございます。こうやってジブさんがいま乗っているの、わかるでしょ? 「♪♪♪♪……」っていうテンポで首を振っているじゃないですか。こういうテンポで取っている。ゆっくりと「♪、♪、♪、♪……」じゃなくて「♪♪♪♪……」って。だからクラブで踊る人もこうやって体を……。

(宇内梨沙)こうじゃないんですね。

(宇多丸)その宇内さんダンスも素敵ですけども(笑)。

(ZEEBRA)ちょっとね、ハワイアンみたいなね。うん。

(宇多丸)ちょっと肘をキュッキュッとやる感じ。

(ZEEBRA)ということですね。

(宇内梨沙)これがいまの?

(宇多丸)いまの感じのベースになっているっていう。

(ZEEBRA)そう。これは90年代にあった曲で。まあ、これが当時ノーリミットっていうレーベルから出ていたんですけど、この感じがまた最近流行っていて。もう大流行中で。それが流行った理由の曲があるので、行ってみましょう。これはG-Eazyという白人ラッパーなんですけども。なかなかイケてまして。G-Eazy feat. A$AP Rocky, Cardi B『No Limit』!

G-Eazy feat. A$AP Rocky, Cardi B『No Limit』

(宇多丸)このタイトルの『No Limit』っていうのがまさにマスター・Pのノーリミットレーベルへのオマージュなんだ。へー。

(ZEEBRA)そうですね。このビートの「ドン、ドン……♪」っていう感じとかはまさにさっきのJuvenile『Back That Ass Up』の中にも同じようなパターンがあったり。

(宇多丸)ちゃんとキメがある。

(ZEEBRA)あと、ビートのライド感ね。

(宇多丸)遅いけど、間に乗りやすい刻みは入っているし。

(ZEEBRA)で、こんなのがありまして、こういうタイプのビートを使うのが世界中でいろいろ流行っていて、後を絶たないんですけども、日本でもさらに川崎のBAD HOPの連中が……T-Pablowとね、YZERRという高校生ラップ選手権から出てきて『フリースタイルダンジョン』もやっていた、そんな感じの若いニューヒーローたちが。

(宇多丸)川崎のね、『ルポ 川崎』という磯部涼の本があって。とてもその本にその状況が書かれていて。要は彼らがすごくいまの若い子の……まあ実際には日本もさ、格差社会は昔からちゃんとあったし。そんな中で若い子の希望の星になっているというあたりがその本にも書かれていますので、ぜひそちらも読んでいただきたいんですが。

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(ZEEBRA)で、彼らがこの前、Zeppで初のワンマンをやったんですよ。

(宇多丸)ねえ。大成功だったらしいですね。

(ZEEBRA)それも大成功。パンパンで。もう本当に、俺もお父さんみたいな気持ちで見ていたんですけども。

(宇多丸)ずっとね、面倒を見ていたからね。

(ZEEBRA)いやいや、でね、その彼らが自分たちのワンマンのギリ手前に発表した楽曲で、これも全員でやっているので聞いてください。BAD HOPで『Kawasaki Drift』。

BAD HOP『Kawasaki Drift』

(ZEEBRA)はい、ということでお聞きいただきました。

(宇多丸)これ、この間『人間交差点』でも披露していただいて。さっきのさ、(T-Pablowの)「川崎区で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるか」っていうラインが多くの人に衝撃を与えていまして。

(ZEEBRA)いや、あれはすごすぎですよね。

(宇多丸)BAD HOPはね、やっぱりメンバーが華があるし。いっぱいいてそれぞれにテクも違うし。

(ZEEBRA)そうなの。だから一時期で言ったらニトロ(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)とかね、そういうのもいましたけども。

(宇多丸)要するに、いろんな個性がいる集団っていうのがたまにね、スターグループとしてあるんだけど。まあ、現代のそういうグループというか。

(ZEEBRA)まさに。で、8人8様ですごい違うし。これからソロ売りがどんどん激しくなっていくらしくて楽しみだなと。

(宇多丸)なるほど。あと、彼らのやっているインターネットラジオ(WREP『リバトーク』)がね、めちゃめちゃ面白いの(笑)。

(ZEEBRA)フフフ(笑)。

(宇多丸)こんなだけど、やっぱり若くてかわいいいんですよ。お菓子の話とかしてるの。

(宇内梨沙)アハハハハハッ!

(宇多丸)めちゃめちゃかわいいんですよ。最高。

(ZEEBRA)そうそう。なんて言うのかな? コンビニの前にたむろしているやつらがしゃべっているみたいな。

(宇内梨沙)「川崎区で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるか」って言っている人が?(笑)。

(宇多丸)好きなお菓子の話を(笑)。

(ZEEBRA)「お前、どうすんの? 人殺すの?」「いや、俺はラップやろうかな」みたいな。そういうレベルの話だから。本当に困っちゃいますけどね。まあ、人は殺さないですけどね。

(宇多丸)な……(笑)。当たり前のことを(笑)。

(ZEEBRA)フフフ(笑)。そんなことでも言っておかないとね、最近はわからない子がいたりすると怖いんでね。

(宇多丸)はいはい。そうかもしれませんね。でもだいぶ宇内さんも並べて聞くと……。

(宇内梨沙)3曲立て続けに聞いたら、ビートというか。わかりました。

(ZEEBRA)この感じのビートね。

<書き起こしおわり>

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