宇多丸 関東大震災と朝鮮人虐殺を語る(2021年9月1日)

宇多丸 野外フェス『波物語2021』問題を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2021年9月1日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で関東大震災の際に発生した朝鮮人虐殺についてトーク。加藤直樹さんの著書『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』などを紹介しながら話していました。

(宇多丸)そんな中、9月1日。先ほど、『Session』でもそんな話をいっぱいされていましたけども。私も年イチ程度はちゃんとこういう話もしたいということで。ちょっとメールから行こうかな。ぜひ、日比さん。そちらを読んでください。

(日比麻音子)はい。ラジオネーム「大友カレー」さんからいただきました。「今日は防災の日ですが、僕には1年前の宇多丸さんと宇垣さんのオープニングトークを聞いて思い出したことがあります。僕は東日本大震災の発生当時、宮城県に住む大学生でした。震災から間もない頃、ボランティア活動に参加していた際、そこで出会った人から『沿岸のあたりで○○人の人たちが窃盗をしている』という話を実際に耳にしました。当時は手に入る情報が限られていたため、手に入れた情報はできるだけシェアしようという空気がありました。

当時の僕もその情報を鵜呑みにしたわけではありませんでしたが、かといって深く考えることもなく、『うわあ、怖いな』と受け流してしまいました。そして1年前のアトロクの放送を聞くまで、このことを完全に忘れてしまっていました。新聞記事を調べてみると、震災の前後で外国人犯罪の発生率に変化はなかったということです。正直、自分はデマを広めるような人間ではないと思っていましたが、その自分が全くデマに気づいてなかったことに失望し、後悔しました。関東大震災で起きた過ちを繰り返さないよう、改めて自分を戒めなければ……と考えさせられた出来事でした」。

(宇多丸)そうなんですよね。ということで、改めて「防災の日」とついていますけども。1923年に関東大震災があって。防災の日ってそれは「地震に備えましょう」っていう心構えの日ということかもしれないけども。それももちろんのことですけども。まあね、東京に住む日本人としてはやっぱり絶対に忘れてはいけない件。というか、そっちの方をまず先に考えてくださいよっていうのはまさに、多くの命がデマとかによって……朝鮮人の方のみならずね、中国の方だとか。当時、日本にいらっしゃった方がデマで虐殺を……しかも、結構広い範囲で。

あと、恐ろしいことにたとえば公的機関。警察であるとか、マスメディアですよね。といったところもそれに加担をしていたりという。これ、教科書的には本当に皆さん、ご存知のことでしょうけども、やっぱり「風化させてはならない」っていうその言い方がまたちょっと風化チックだからあれだけれども。でも、それをさせないために毎年、僕なりの言葉でいろんなお話をしているんだけども。まあ僕なりの言葉というか、基本的には推薦図書としていつも加藤直樹さんの『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』。ころからというところから出ている本。この本がすごい証言集だからということでおすすめをしているし。

(宇多丸)あとは西崎雅夫さんの『証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』という、これはちくま文庫で非常に読みやすい形で出ていて。これも貴重な証言集みたいなのがあって。あとは、それが事後的に改ざんをされて、できるだけその気まずい、ひどいことを権力者であるとか、それを忘れたい人たちがそれを隠そうとしたのか。忘れさせようとしたのかっていうところまで含めて……でも、資料は豊富にあるわけですよ。これはね。ということで、お話をしているんです。

(宇多丸)それでまさにこの大友カレーさんがおっしゃっている通り。まさに近々でだってちょっと異常な精神状態になった時というのは、このコロナ禍だってそうかもしれないよね。人というのは恐怖……恐怖というものは最も人の本能に訴えるものですから。いつもと違う角度の行動に出てしまったりとか。まさに「よかれと思って」ということで恐ろしい行動に出たりするということはある。「そういう風になりうる自分」というものを意識することこそが、かろうじてブレーキをかけうるなにかじゃないか? 去年の今日、宇垣さんとちょうどその日だったのでお話をした中でも言いましたけども。たとえば……毎回、同じ話をしてすいませんね。同じ話はするけども、まあ届いていなかったということで。「ああ、またその話か」と思う人もいるかもしれないけども、その人は他の人に伝えてください。

『九月、東京の路上で』で非常に僕が印象的だったのは最初は冷静だった、どちらかというとインテリ。ちゃんと落ち着いたような男性が最初はデマを聞いて「いや、そんなはずはないだろう。朝鮮の人がいろいろとやられているらしい。かわいそうだな」なんて言っていた人が、その数日後の日記では「いや、どうやら本当らしいぞ? 町中でワーッとなっているのを見かけて、自分も一発やってやろうと思って杖を持って行こうとした」なんてことを書いている。それでまたその数日後には「どうやらそれはちょっと違ったようだ」みたいになっていて。

まあ、冷静になって、手をくださなかったのは何よりでしたけども……でも、ある程度知性があって分別がある人でさえ、飲み込まれる時には飲み込まれてしまう。だから、我々は誰一人として安全圏にはいないというか。「俺が危ないんだ、私が危ないんだ」っていうところにくさびを打つ意味でお話をしている。だから要するに「ひどい人たちがいました」っていう風に他人事として語ろうとしているわけじゃないんですよ。

入江悠監督『シュシュシュの娘』

あと、ちょうど先週、ムービーウォッチメンで評した入江悠監督の『シュシュシュの娘』という作品。あれはフィクションだから埼玉県の架空の都市で移民排斥条例みたいなものが制定されようとしているという。まあ、架空の話なんだけど、誇張された話なんだけど、やっぱり今の日本のある部分の空気みたいな……あるいは、公的文書の改ざん、隠蔽の話が出てきたりして。まあ、フィクションだし誇張をされているというけども、これは本当じゃね?っていう風に……たとえば、その移民・外国人に対する風当たり、扱いのひどさってこれ、全然現在進行形だったりしますよね。

という話を映画評の中でもしましたけども。その『シュシュシュの娘』の中で非常に重要なセリフが出てくるんですね。宇野祥平さん演じる、非常にコミカルな役なんですよ。コメディリリーフ的な役なんだけども、おじいさんがその移民排斥条例みたいなものに反対をし続けたことによって、ある種村八分みたいになってしまっている。「なんでそんなに頑張るんだ?」っていう風に主人公から聞かれて、まさに関東大震災が出てきて。「当時、噂が広まっていろんな人が殺されたのを知っているだろ? どこまで広まったのか、知っているか?」と。

で、これ、作品の舞台上では「福谷市」という架空の街になっていますけど、まあ入江悠さんと縁の深い深谷市という実際の街があって。そこの歴史も踏まえた上で入江さんは脚本を書かれているんだけども。「その噂が広まった北の端がここ、福谷市なんだ」と。そこで宇野さんがついさっきまで、オフビートな笑いだったのが「繰り返してはいかん。だからだ」って言うわけですよね。これ、非常に重要な考え方ですよね? 当たり前なんだけどさ。「繰り返してはいかん」っていうのは。せめて、我々にできることとは「繰り返してはいかん」っていうことじゃないですか。

(日比麻音子)そうですね。

(宇多丸)ここで、この期に及んで……もちろん、さっき言ったように「人間、誰しもがおかしくなってしまう瞬間がある」なんてことを言い訳にしながらね、なんかあった日にはこの日本、そもそもいろいろとあるのにさ。終わるぜ、マジで? なんかその、みなさんが「よかれと思って」とかいろんなことをおっしゃるかもしれないけど、どういう行動が本当に、それこそ日本というコミュニティーのためになるのか?ってね、考えていただきたいということで。まあ、推薦図書としてこんなのとか、いろんなのがありますし。あと、僕はこれ、知らなかったんだけども。国立映画アーカイブという、京橋にある施設。

いろんな映画を「アーカイブ」というぐらいですから、取っておいたり、修復したりとか、上映があったりとかという貴重な施設で。この番組でもちょいちょい国立映画アーカイブの話をしていますけども。ここがなんと、関東大震災の貴重な記録映画をしかもWEB上で無料公開している。これは本当に皆さんに「忘れるな。繰り返してはならぬ」っていう精神なんでしょうけども。これ、すごいんですよ。その関東大震災の『關東大震大火實況』という1923年。文部省社會教育課が監修して作った映画なんですって。で、その場所……たとえば文京区がこうだったとかっていうのがあるんですかね。僕もこのフィルムの存在自体、知らなかったんだけども。

(日比麻音子)私もはじめて知りました。

(宇多丸)これを修復して。

(日比麻音子)全編をはじめてWEBで無料で公開ですもんね。

関東大震災映像デジタルアーカイブ

関東大震災映像デジタルアーカイブ
関東大震災映像デジタルアーカイブ / Films of the Great Kanto Earthquake of 1923

(宇多丸)全然知らなかった。だから「見る」という意味では誰でもアクセスできるものですし。こんなあたりもどうでしょうか?

(日比麻音子)そうですね。9月1日、「防災」の「防ぐ」という言葉がね、「二度と同じことを繰り返さないためにもう一度、気を引き締める日」ということにしなければいけませんから。

(宇多丸)だから「防災の日」なんていうぬるい名前の付け方でいいのかな?って思うぐらいですよ。

(日比麻音子)たしかにね、改めて防災グッズを揃えるとか、そういうのももちろん大切なんだけど……。

(宇多丸)それも大事よ。自分の身を守るのも大事だけど……ということよ。被害者気分だけでいていいのかしらねっていうね。

(日比麻音子)何が「災い」なのか?っていうところももう一度、考えるというね。

(宇多丸)そう。いいことを言いました。「人災」なんてこともありますしね。おっしゃる通り。そこも含んでいたわけですね。でも本当に、たとえば小池百合子都知事が関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者の方の追悼式に追悼文を出すのをやめてしまったとかさ。去年も言いましたけども。その時に小池さんが「朝鮮人の方が虐殺を受けたということに関しては諸説ありますんで」なんて言っていて。諸説なんてないよ。なにを言っているの? その「諸説ある」っていうワードそのものが完全に加害側の発言ですから。

犯罪的だとすら思いますね。都市の長がそんなことを言うなんて。しかも東京オリンピック・パラリンピックを開くような都市の長が……まあ、開かれちゃったけども。まあ、どの口でそんなことを言うかね?っていう風に……それを恥じろっていう風に思いますよ。我々はそういう長を仰ぐ都市にいることを恥ずかしいと思わなきゃいけないと思うぐらいですよ。なんてことをバーバーと言ってきましたが。すいませんね。『Session』でもちゃんときっちりした話をやっているのにね。「お前みたいなのに言われたくねえ」って……まあ、俺が何者かはまた別問題ですから。すいませんね、本当にね。

(日比麻音子)いやいやいや。

(宇多丸)急にここで我に返るみたいな。

(日比麻音子)それがちょっとした宇多丸流でもありますから(笑)。

(宇多丸)一瞬我に返る……いや、「我に返る」が大事ね。ということで、始めさせていただきたいと思います。

<書き起こしおわり>

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