宇多丸 チャドウィック・ボーズマンを追悼する

宇多丸 チャドウィック・ボーズマンを追悼する アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2020年8月31日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で亡くなった俳優のチャドウィック・ボーズマンさんを追悼していました。

(宇多丸)そんな中、ちょっとね今日はまず、悲しいニュースから。すごくリスナーの方からもたくさんメールをお寄せいただいたですが。アメリカの俳優チャドウィック・ボーズマンさん……映画『ブラックパンサー』とかね、『42』とか。あのジャッキー・ロビンソンを演じていた。あと、ジェームス・ブラウンを演じた『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』なんかもありましたけども。

そのチャドウィック・ボーズマンさんがなんと結腸がんのために43歳でお亡くなりになったという。28日に亡くなられて、日本時間29日午前にご家族が発表されたということで。私も含めて、もう世界中のファンというか。結構衝撃を……がんであることを公表なさってなかったというのもあって。そんな中、ずっと結構長い間、闘病をされながらの作品作りというのをされてきたということで。それを聞くにつれ、「ううう……」という風になってしまっている方はいっぱいいると思いますが。

本当にね、たくさんのメールをいただいて。代表的なところをご紹介しますね。「宇多丸さん、クマス、アトロククルーの皆さん、いつも楽しく拝聴しています。チャドウィック・ボーズマンさんの突然の訃報にショックを受けた1人です。その週末に開催されたF1ベルギーグランプリでは父方にアフリカ系のルーツを持つ現チャンピオンのルイス・ハミルトン選手もこの件について触れ、ポールポジション。

そして翌日の勝利を彼に捧げました。ポール獲得後、表彰台でも胸の前で腕を交差し、『ワカンダ・フォーエバー』のポーズを取る姿が印象的でした。『ブラックパンサー』をはじめ、チャドウィック・ボーズマンさんが成し遂げた功績の大きさを感じた週末でした。改めてご冥福をお祈りします」ということで。ねえ。こんなことあったんですね。これね。

(熊崎風斗)そうですね。スポーツ界でも本当に……メジャーリーグでもジャッキー・ロビンソンデー(8月28日)ということもあって。

(宇多丸)ちょうど、奇しくもその日だったんですよね。

(熊崎風斗)それで追悼というところもありましたし。

(宇多丸)あと、これはスタッフの注で情報を入れていただいてますが。サッカー界では土曜日に行われたイングランド、プレミアリーグのコミュニティ・シールド、リバプール対アーセナル戦でアーセナルのピエール=エメリク・オーバメヤン選手が得点を決めた後にやはりワカンダ・フォーエバーのポーズを取ったという。ガボン出身のオーバメヤン選手はかつてリーグ戦でも得点した後、隠し持っていた『ブラックパンサー』のマスクを被ってゴールセレブレーションを行なったことがあるということで。

(熊崎風斗)うんうん。

(宇多丸)まあ、各スポーツの選手とかもそういう風にね。

(熊崎風斗)世界的なスターというところで。

(宇多丸)だし、やっぱりさっきのジャッキー・ロビンソンとかジェームス・ブラウンとか。実在のアフリカ系アメリカ人ヒーローじゃないですか。で、『ブラックパンサー』というのもMCUの、もちろんアメコミヒーローなんだけど。あの作品をご覧になった方はおわかりの通り、非常に強い社会の意識を持って作られた作品で。現実にエフェクトすることをはっきり志向して作られたという。あの最後の演説なんかね、まさにその分断とヘイトが蔓延るこの時代に直接的なメッセージを送るような作品で。

非常に強い社会の意識を持つ作品で活躍

まあ、まさにチャドウィック・ボーズマンさんはそれを意識的に選ばれてきたと思うから。たぶん、やっぱりオピニオンリーダーというか。そういう面での信望も厚かったからこそのショック、悲しみというのもあると思うんですね。もう一方、ご紹介しようかな。

「こんばんは。いつも楽しく聞かせていただいております。今回、メールをさせていただいたのは週末に衝撃を受けたチャドウィック・ボーズマンさんの訃報についてです。アトロク的にはもちろんブラックパンサー役がおなじみですが、私が特に好きだったのは『42』でのジャッキー・ロビンソン役です。作品中でチャドウィック・ボーズマンさんは差別と戦ったヒーローを熱演していました。

Black Lives Matter運動にもいろいろ意見はありますが、そもそもこんなに卑劣な差別が日常的に公然と行われていたこと。そしてそれに対して静かに、そして勇敢に戦った人がいたことを知るためにも、さらに多くの人に見てほしい傑作だと思います。『42』で描かれていたハリソン・フォード演じるオーナーの後悔と贖罪やチームメイトとの友情はこれからの世界を変えうる希望だと思います」というね。

チャドウィック・ボーズマンさん。要するに、いわゆる「黒人俳優として」っていうけど。いずれ、そういう「黒人俳優」みたいなくくりとかが必要なくなるような世界であるべきだということで。この方も「チャドウィック・ボーズマンさんの活躍はそんな世界を作るための力となり、未来を担うはずの人だっただけに残念でありません」という。「彼は史上初の黒人の侍・弥助を演じるはずだった」という。そうなんだ。これ、ちょっと僕は知らなかったです。「より日本でも親しまれ、文化の架け橋となるはずだったことを考えると、失われた未来の大きさに深い悲しみを感じます」とかね。

皆さん、すごく本当に熱い思い……それぞれの角度でいろいろね、書いていただいて。もう一方、紹介しようかな? やっぱり亡くなられたことをすごく書いていただいて……。「僕は正直言うとMCU以外の作品の映画でお見かけする機会がないままだったので、映画『ブラックパンサー』でのティ・チャラの気品ある姿や、国王としての戦う力強さがとにかく印象に残る役者さんでした。『エンドゲーム』のあのシーン……」。

まあ、ちょっとここは……まあ、全員帰ってくるっていうことですかね。「あのシーンでの表情。力強く握る拳。そして小さな頷き。あの時も涙が止まりませんでしたが、まさかこんなニュースで涙を流すことになるとは……。訃報に接した時は信じられない気持ちでしばらく泣きじゃくっていました」というね。「現在進行形のBlack Lives Matterの真っ只中にチャドウィック・ボーズマンさんが亡くなってしまったことが何とも言えない虚しさを感じてしまいます。悲しみは簡単には消えませんが、彼の残してくれた作品を心に刻んで大切にしていきたいと思います」という。

ぜひ、そのチャドウィック・ボーズマンが他にも演じていた、特にその実在のヒーローものというか。『42 〜世界を変えた男〜』とか『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』などなどもご覧いただけるとさらに彼の志というのが分かるんじゃないでしょうか。そしてあと、この方も含めて複数の方が、もちろんその訃報。お亡くなりになったことを悼みつつも、その『ブラックパンサー』の続編をどうするのかな?っていう。「そんなことを心配するのも申し訳ないんだけど……」っていう。でも、もちろんそれはファンとしては当然、気になるあたりですけども。

『ブラックパンサー』の続編

それで実は複数の方が、それでじゃあ、ブラックパンサー役。だったら一作目で敵役エリック・キルモンガーをめちゃめちゃ好演していたマイケル・B・ジョーダンさんに継いでもらったらいいんじゃないかって。まあ、マイケル・B・ジョーダンさんもアフリカ系アメリカ人として非常に社会的な発言もものすごく積極的にされてる方ですし。僕も大ファンですけど。離れ業ではあるけど、そういうのもありじゃないか、みたいな。

それだけやっぱり、並大抵の人が受け継げる役じゃないというか。というような、皆さんの思い入れの強さゆえのね、こういうお話だと思うんですね。まあ、もちろん亡くなったばかりでね、こんな話をするのも……っていうのもあるけども。まあ、でもファンの気持ちとしてはすごいわかるし。というぐらい、いろんな俳優さんがいらっしゃいますし。お亡くなりになるニュースっていうのも当然、伝えることはありますが。何しろ、お若いっていうのもあって。43歳。病気だったということも我々は知らなかったし。

そしてそれを隠して……要は、そういう心配をさせないというか。ノイズにならないようにっていうのもあったんでしょう。だって2016年からか。がんの告知を受けて。そこから先の作品は闘病をしながらだったっていうのを聞くとね、いよいよ作品を見る側も気合が入るというか。でも、作品中ではそんなもの、おくびにも感じさせないという……。

(熊崎風斗)本当にプロフェッショナル中のプロフェッショナル。

(宇多丸)ついこの間も、今年公開の作品だとあのネットフリックスのスパイク・リーの最新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』でも若い時代のベトナムにいた兵士たち。その中でも一番重要な役目を果たしていたりしましたからね。で、その役もすごく重要なメッセージを仲間に発する役柄でしたからね。やっぱりすごくチャドウィック・ボーズマンさんらしい役柄でもあって。

いや、ちょっとね……僕はもちろん海を隔てたこっち側のただの1ファンでしかないですけども。いや、皆さんが強いショックを受けているのも本当にわかりますし。うん。ご冥福をお祈りしたいし、先ほどのメールにもあった通り、やっぱりその残された作品というものをさらに見返したり、味わいつくしたり、そこから考えたり。そこで、我々の社会のいろいろな問題。どう向き合っていくのか?っていうことにフィードバックしていくのがやっぱり一番、表現者としてのチャドウィック・ボーズマンさんのご冥福を祈ることになるでしょうから。

なんていうことを思ったりしましたね。改めて、お疲れ様でしたというか。本当に大変だったとは思いますが。という感じでございます。

<書き起こしおわり>

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