武田砂鉄さんが2020年5月15日放送のTBSラジオ『ACTION』の中でTwitterで盛り上がった「#検察庁改正案に抗議します」についてトーク。著名人の政治的発言などについて話していました。
(武田砂鉄)「きゃりーぱみゅぱみゅ」っていうのはね、どういう風に言うのが一番言いやすいのか?って調べていたら、ドラえもんの道具紹介のやり方で言うと噛まずに言えるっていうことなんですけども。どういう感じですかね? きゃりーぱみゅぱみゅって。
(幸坂理加)(ドラえもんのモノマネで)「きゃりーぱみゅぱみゅ~♪」でございます。
(武田砂鉄)なるほど。
(幸坂理加)フフフ、言わせておいて……(笑)。
(武田砂鉄)まあ、そのドラえもんのクオリティーは……(笑)。まあ「きゃりーさん」という言い方をした方がいいんですかね。でも今、ずっと議論されてるみたいで。僕はまだちょっと終えていないんですけども。検察庁法の改正の……まあ多くのいろんな反対意見が出まして。SNSで「#検察庁改正案に抗議します」っていうのが広く拡散されたですけども。きゃりーさんをはじめ、芸能人とか有名人の方でたくさん、発信が目立ちましたけども。
そうすると、その政治的な発言をした芸能人に対していろいろ「よく知らないくせに政治的な発言をするな」とか「そんな人だとは思わなかった。ファンをやめます」とかっていう声が出て、あちこちから叩かれたっていう。でもこういう場合の「ファン」というのはね、おそらくはあまりファンじゃないじゃないかな?っていう風に思いますよね。だって「まさかあなたが自分なりの意見を持っている人だはと思いませんでした。残念です!」って……なんかすごい奇妙な主張だなって僕は思うんですよね。
(幸坂理加)うんうん。
「#検察庁法改正案に抗議します」小泉今日子、浅野忠信、井浦新も配信【きゃりーぱみゅぱみゅ真っ当な市民感覚】政治的発言もブランディングのひとつ きゃりーの印象と政治的発言のギャップに驚いた人は多かったのは分かるが20代女性の真っ当な市民感覚に噛みつく方がどうかしている(日刊ゲンダイ) pic.twitter.com/JzuYDmnb2o
— KK (@Trapelus) May 12, 2020
(武田砂鉄)このきゃりーさんの曲で2015年にリリースした『もんだいガール』っていう曲がありまして。この曲はいろいろインタビューを読むと、ご自身のその社会に対する不信感というのがいろいろと反映されてるらしくて。歌詞を引用すると「だれかを責める時には『みんなと違う』と言うけれど 毎回『みんな』に当てはまる そんなやつなんているのかよ」っていう。すごい……まあ引用ですけどね、とても鋭い歌詞で。「毎回『みんな』に当てはまる そんなやつなんていない」んですよ。
(幸坂理加)そうですよね。
(武田砂鉄)だから、先々週は自粛警察の話なんかをしましたけども。自粛警察の取り締まり基準ってこれ、「みんな」じゃないですか。で、「みんなに当てはまらない」っていうのを怖がってる数ヶ月だからこそ、「なるほど。いい曲だな」っていう風に改めて思いましたけど。
まあよく言われますけど、この「政治的な発言をするな」という発言ほど政治的な発言はないっていうところがありまして。誰かに対して「お前、声を上げるな」っていう風に強制するっていうのはこれは最も悪しき政治性だなっていう風にいつも思うんですけれども。この発言した有名人、著名人をリストにして「このリストは永久保存版だ!」なんていう風に言いながら拡散するような人もいるんですけれど。「この人たち、こういう発言しちゃってますよ。ヤバいですよね」なんていう風にリストを作る方が、これはどう考えてもヤバいと思うんですけれど。
まあ、そうやって芸能人に対して「この検察庁法改正の件って本当に分かっているんですか?」っていう風に問いかけをする人たちが結構いますけれども、「むしろそれを投げかけたいのは芸能人に対してというよりも、政治家の方に対してだろう」っていう風に僕は思いまして。まあこの批判の声が高まっていることについて安倍さんは「インターネット上のさまざまな意見に政府としてコメントすることは差し控える」という風に言ったり。
朝日新聞を読んでいたら、これは13日の記事ですけども。自民党の幹部が「今から芸能人が反対したところで法案審議は止まらない」とかですね、政府高官は「世論のうねりは全く感じない」というような声も出てまして。これって何だか、「国民の声を聞くことはあまりしません」っていう風に宣言してるような感じが僕なんかにはね、してしまうんですけれども。
まあ少し前を思い出すと、星野源さんの『#うちで踊ろう』に便乗するような動画がありましたけども。その時には菅官房長官は「SNSでの発信は極めて有効であると考える」っていう風に言ってたんですけれども。今回は「インターネット上ではいろんな意見があることは承知していますが、政府としてはコメントは差し控える」ということで。「発信する」のは有効なのに、「意見する」という方は無視してしまうという感じで……そういう感じがしたんですよね。
それで政治家の人たちが「ネットで騒がれても」とか「芸能人が騒いでも」とかっていう風にあらゆる声を「一部の人」っていうことにしたがりますけれども。まあどんな規模になろうとも、全体に比べたら一部じゃないですか。だから自分たちに向けられた声を「これは一部です。これは一部です」っていう風にで片付けるような人は本来、政治家になっちゃいけないと思うんですけれども。なんでそういう風に「いや、『みんな』は本当はこっちにいますよ」って管理したがる感じはいただけないなって思うんですよね。
「毎回『みんな』に当てはまる そんなやつなんているのかよ」
そのきゃりーさんが言うようにね、「毎回『みんな』に当てはまる そんなやつなんているのかよ」というこの考え方が大事だと思うんですけれども。これからちょっと強行採決がされるんじゃないかっていうように攻防が続いているみたいですけれども。今回の問題をね、急いで振り返ると……その東京高検保険の黒川検事長が今年2月に63歳の誕生日を迎えて定年退職となるはずだったんだけれども、今年の1月に安倍政権が検察庁に適用される検察庁法ではなく、国家公務員法を適用するという行為によってですね、黒川検事長の定年を半年間、延長するということを閣議決定したんですけれども。
ところがこれは1981年の政府答弁で「国家公務員法の定年延長は検察官には適用しない」というのが出ていたんですね。そのことを指摘されると安倍さんは「法解釈を変更した」という風に言いまして。その法解釈変更のプロセスを記した議事録もなければ、「口頭決裁でやった」という、もう本当にあり得ないというやり方で法解釈変更などをやっていたわけですけれども。昨年秋に出た検察庁法の改正案ではですね、「検察官の定年を63歳から65歳にま引き上げる」としつつも、「63歳になったらいわゆる幹部の役職からは退く」という役職定年制というものを設けていたんです。
しかし、今国会に提出されている法案ではその役職定年というのに例外を設けて内閣や法務大臣が「公務の上に著しい支障が生じる」と認めた際には最長で3年、そのポストに居続けられるという。まあ言ってみれば、時の政権の判断で検察首脳の定年であるとか、役職定年っていうのを引き延ばすことができるようになってしまうということなんですね。それで皆さん、ご存知のように検察っていうのは政治家や首相でも何かがあったら逮捕することができる、強い権限を持っているわけですよね。
今回のその検察庁法の改正っていうのは明らかに違法に定年延長をさせたということを後付けで合法化させようという風にしているものですけれども。昨日、元検事総長ら検察OBがこの定年延長に反対する意見書を出して。この検事たちは(田中角栄元総理大臣らを逮捕した)ロッキード事件に関わった人たちがその意見書を出してるわけですけれども。これはかなり異例中の異例のことらしいんですけども。そういったことが今、起きているという。
元検事総長ら 検察庁法改正案に反対の意見書提出 極めて異例
元検事総長ら 検察庁法改正案に反対の意見書提出 極めて異例 #nhk_news https://t.co/p4NoYaXT9j
— NHKニュース (@nhk_news) May 15, 2020
それでなんでこんなに問題が大きく盛り上がったのかといえば、やっぱりこのコロナ禍のの中でですね、政治家の言動っていうのを僕たちがチェックすることが増えてきたことっていうのも大きいと思うんですよね。かつて、共謀罪……テロ等準備罪の時にもですね、当時の金田勝年さんという法務大臣がいらして。この人がなかなかいつもしどろもどろの答弁をしてまして。「私の頭脳と言うんでしょうか。対応できなくて申し訳ありません」っていう風に言ったことがあったんですけれども。
金田法相の答弁、際立つ迷走ぶり 「私の頭脳では対応できない」https://t.co/Z0pWUro2Gd
「共謀罪」法案の金田法相の答弁ぶりをみていると、閣僚としての資質に疑問符を付けざるを得ないのは事実。不信任決議案は否決されましたが…。 pic.twitter.com/jJjQa7HdYV— 東京新聞政治部 (@tokyoseijibu) May 19, 2017
今回も森法務大臣がね、「たとえば東日本大震災の時には検察官が逃げたんです」とかなんとか言い始めて、後で謝罪するっていうことがありましたけれども。僕、どうしてもそういう人たちを見ると「なんだ、この人は?」っていう風に思うんだけれども。その「なんだ、この人は?」っていうのももちろんなんですが、「なんだ、この大臣は?」っていうのと「なんだ、この政治は?」っていうのをセットにしておかないと。「その人が能力が足りなかった」ということとはまた別にしなくてはいけないなっていうことをいつも思うんですよね。
今回のこの「#検察庁法改正案に抗議します」っていうのは1人の女性の会社員の方から始まったツイートで。この方が毎日新聞の取材に答えているんですが。この方は「日頃の生活の中で政治とか社会問題について周囲と話すことはほとんどなかった。話しても声が震えて上手く言えなかった」ということらしいんですが。去年、性暴力への抗議の意志を示すために路上に花を持って集まるフラワーデモという活動に何度か参加されたということらしくて。
「それに出て、小さな声でも話がうまくなくてもなんとなく受け止めてくれる雰囲気があって。それで発信をするハードルを下げる大切さをフラワーデモで感じた」という風におっしゃっていて。その「ハードルを下げることの大切さ」っていうのはまさしく今、本当に大事だなっていう風に思うんですよね。「いろんなことを網羅的に知っていないと発言しちゃいけない」ということがおかしいのであって。自分が「おかしい」と思うのであればその意見を発すればいいと思うんですけど。
そうするとね、採点する人が出てくるんですけども。それはちゃんちゃらおかしいという風に思うんですよね。こういう風に今、同調圧力がとても強まっていますけども。まさにこのきゃりーさんが歌っていたように「毎回『みんな』に当てはまる そんなやつなんているのかよ」という。「そんなやつなんていねえんだよ!」って思いながら自分の意見を自由に発するということが今、とても重要なことなんじゃないかなという風に今週は感じました。
<書き起こしおわり>