武田砂鉄 東京オリンピック開催1年前の問題点と懸念点を語る

武田砂鉄 東京オリンピック開催1年前の問題点と懸念点を語る ACTION

武田砂鉄さんがTBSラジオ『ACTION』の中で開幕まであと1年となった東京オリンピック2020についてトーク。現在までにしてきされている問題点や懸念点をまとめて紹介していました。

(幸坂理加)ここからはパーソナリティーが見たこと、聞いたこと、考えたことなど日常のアクションについてお話しするコラムコーナーです。砂鉄さん、今日のアクションは?

(武田砂鉄)相次いで問題点が明らかになる東京オリンピック、本当に大丈夫? というテーマです。まあ、大丈夫じゃないんですよ。今週、いろいろ新聞、ニュースを見てると相次いで東京オリンピック関連の問題点が浮き彫りになってきたなっていう感じがするんですよね。この番組が始まってすぐくらいにこのコラムコーナーでも言ったと思うんですけど、そのオリンピックについて「どうせやるなら派」っていうことを言ったと思うんですけども。この「どうせやるなら派」っていうのは神戸大の小笠原博毅さんっていう先生が作った言葉で。

「東京オリンピックに反対だったんだけど、まあもう近くなっていたし、どうせやるならしょうがないか」っていうことで。最初は批判的だったんだけれども、まあせっかくの機会だから……っていう風に考えを改めてしまう。で、それをやってると、やっぱりいろんな問題点をいかに忘却させるかということを画策してる人たちの思惑通りになってしまうんじゃないか?っていうことを小笠原さんはおっしゃっていて。

やっぱり本当に今回、そのオリンピック。大きな新聞各社がオフィシャルスポンサーになってることもあって、結構メディアの追求は弱いっていう風に言われているんだけども、でも楽しみにしてる人も問題点であるんだったらそこはきっちりと追求をするべきかなという風には思っていまして。先週の日曜日に、まずオープンウォータースイミングっていう競技のテスト大会がお台場で行われて。これ、男女ともに周回コースを10キロ泳ぐらしいんだけれども。テスト大会では5キロを泳いだという。

オープンウォータースイミング・水温&水質問題

それでその水質への懸念というものが相次いで。まず午前10時予定だったところを繰り上げて7時にスタートしたという。それは、暑いか。「健康的に泳げる水温の上限」というのは31度ということに国際水泳連盟ではなってるらしいんだけれども。その日の午前5時の時点で29.9度だったという。で、これが不思議なというか露骨だなと思うんだけれども。そのテスト競技中の水温は非公開になっている。だから、そのテスト中にはもうその健康的に泳げる水温の上限の温度を超えていたんじゃないのか?っていう気がしていて。

国際水泳連盟は「場合によっては、水温次第で午前5時から6時半に競技開始時間を変更する可能性もある」って言っているんだけども。午前5時にどうやって人が見に行くんだよ?っていう感じがするんですけどね。そして何よりもその水質が問題視されていて。ある男子選手は「トイレのような臭いがします。正直、臭いです。ただブレない気持ちが必要です。細菌検査で細菌がいないとなれば、信じてやるしかない」っていう風に言ってるんですけど……気持ち、ブレますよね。これね。

(幸坂理加)ブレますよね!

(武田砂鉄)トイレのような臭いがしていたらね。これ、これコースが東京湾の入り江にあってですね、それをふさぐように……その大腸菌類なんかを入れないように400メートルに渡ってポリエステル製の膜を張ったらしいんだけど。まあ、実際の五輪の時には三重に張るらしいんですけども。それで「だから大丈夫だ」って言ってるんですけど。組織委員会の担当者は「大腸菌が流れ込む原因となる大雨とか台風が本番で来ないことを祈るのみ」って言っていて、もう祈りに入っちゃってるんですよね。

(幸坂理加)最近の天気だと、絶対にNGですよね。

(武田砂鉄)昨日・今日の天候が本番だったとしたら、これはもう張った膜は越えてきますからね。あとね、競歩選手でね、9月の世界陸上に出場するような本当にトップ選手で。20kmの世界記録保持者である鈴木雄介さんという方が「さすがに東京オリンピックのコースは暑すぎるんで変えてくれませんか?」っていう。実際に7月31日、早朝にそのオリンピックのコースを歩いたら、全く日陰がない。「脱水症状になってもおかしくない」っていう感想を持ったらしいんですよね。

で、本当は最初は青山通りとか、そのあたりは歩く予定だったんだけども、皇居前を周回するっていうコースになったみたいで。本当に日陰がないところをずっと歩くことになったという。で、いろいろとこれまで陸連の強化委員長なんかをやってきた順天堂大の澤木啓祐さんという方が日刊ゲンダイの記事でコメントを出してるんですけども。「鈴木はよく声をあげた」と。なかなか選手で声をあげることっていうのは難しいですから。「この時期にこういう環境でやってると死に至る可能性もある。死人が出るということは決して大げさなことじゃないですよ」っていうことを言ってるんですね。

それで「たとえもしゴールをしても、後遺症が残るかもしれない。脳に悪影響をおよぼしたりする可能性も出ている」っていうことらしいんですよね。

(幸坂理加)臨海部とかは特に日陰とかがなくて危険だっていう話もありますよね。

(武田砂鉄)で、幸坂さんといえば馬好きで知られていますけども……。

(幸坂理加)そうですよ。馬術も「人馬ともに危ない気温だ」っていうのがありましたよね?

(武田砂鉄)「馬も危ない」っていうのはすごいですよね。馬術のテストをやったら、最初の1分で明らかに馬の反応は違った。早くしないと馬も人も危ない暑さだっていう。これはすごいよね。

(武田砂鉄)でも、「気象状況がそうなんだから仕方ないじゃないじゃないか」って思うかもしれないけど、東京オリンピックの招致委員会は最初に立候補する時に何を言っていたのか? 当時の資料を引っ張り出すと、「2020年の東京大会は理想的な日程です。なぜならばこの時期の天候は晴れる日が多く、かつ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」っていうプレゼンをして。それで招致をしてるわけですよね。いま、「最高の状態でパフォーマンスを発揮できる」っていう感じで歩いてる人、いないと思うんですけどね。とんでもない気温ですけども。

「理想的な東京の気候」(立候補資料より)

(幸坂理加)そうですね……。

(武田砂鉄)あるいは、その東京都。こういう風に気温が大変だっていう風に言われてるんでね、それオリンピックのマラソンコースとか、そういったところをですね、遮熱性舗装っていうのをしていて。路面に何か白いものを施して太陽光を反射させることで表面温度の上昇を抑えるという実験をしたんだけれども。そうしたら地面は温度はたしか低くなったけれども、高さ50センチとかとか1メートル50センチ、2メートルのところで温度を測ると、むしろ気温が上がったという。つまりそのマラソンをしている人たちの体感温度としては上がるんじゃないか?っていうようなことも出てきている。

(武田砂鉄)こんなことばっかりなんだよね。で、僕は東京オリンピックについていろいろと選べることもあるんで。そのボランティアの人たちがどういう風に運営されているのかっていうのをチェックすると先月、第4回ボランティア検討委員会っていうのが開かれて。そのレポートが上がってるんですけども。そこにはですね、「マラソンなど早朝に行われる競技については、ボランティアの会場入りが始発の交通機関でも間に合わないため、終電での会場入りを想定」っていう。この時点でもう……困るじゃないですか。

(幸坂理加)困る……。

(武田砂鉄)「終電で来い」って言われてもな……っていう。で、終電で来てどんな風に泊まらせてくれるのか? ベッドが確保されてるのか?っていうと、どうやらそうでもないらしくて。そこの文章の続きにはですね、「終電での会場入りを想定する。その場合は待機時間が見込まれるため、ボランティア同士の交流機会や士気を高めるような取り組みを検討していくこととなりました」っていう。どうやら、寝かせないつもりらしいということがわかってきて。これはすごい話ですよね?

ボランティアは終電で来て、寝かせない?

(幸坂理加)ねえ。だって寝不足で強い日差しに当たったら、熱中症になってしまいますよね?

(武田砂鉄)「熱中症にならないために」っていう風に検索をしたら、まず「睡眠不足はやめろ」っていう風に出てくるし。「疲れやすい体で外に出ないこと」っていう風に出てくると思うんですよね。

(武田砂鉄)で、僕はそれをTwitterでツイートしたらある人が、「戦国時代みたいですね」って言っていて。ほら、戦国時代って敵の方に攻める時に夜にサササササッて忍び寄って、日が明けたら「うおおーっ!」って雄叫びをあげるみたいなのが戦国時代のやり方でしたけども。そのやり方にほぼ近づいてるなっていう。

(幸坂理加)そうですね。

(武田砂鉄)で、その暑さ対策について、「ボランティアの人たちは基本的には自己管理でお願いします」ということも普通に言ってるんですよね。それでね、ボランティアの方たちっていま、たくさん集まったでしょう? 集まったというそれはいいことだと思うんですけど、「こういうことになりますよ」っていうのを……。

たとえば、「終電で来てもらうことになりますよ。その際に宿は用意できないかもしれませんよ。ほとんどお金も払いませんよ。ご飯もそんなに大したものをお出してきませんよ」って。それで「ボランティア募集ですけど、その条件でどうですか?」って言うんだってたらいいんですけど、いまはすでにボランティアを集めた後に「あ、実はすいません。終電で来られます?」っていう話をしているわけですよね。

(幸坂理加)順番が違いますよね。

(武田砂鉄)順番が違う。しかも年配の方とかも多いから。やっぱり自分たちぐらいの歳でも、徹夜明けでなんかアクティブなことをするとものすごく疲れるじゃないですか。しかも、そうやってオリンピックの本番ってなれば、自分の体調よりもその相手側のなにかケアしなきゃいけない場所で仕事するっていうことが中心になっちゃうから、たぶん自分の体調管理とかが二の次になっちゃうと思うんですよね。その状況も見越してるはずなのに、後からこういう風に「いや、実はこうなんですよ」っていう風に言ってるっていうのがね、なんだか納得いかないんですよね。どうしたいのかなあ?

あと、もうひとつ気になったのはね、そのJOCが先週かな? 理事会を開いて。1989年に発足して以来、ずっと報道陣に公開してきた理事会をですね、完全非公開にするという。それで新しく山下泰裕さんが会長になったんですけど、彼がどんな風に言ってるのかというと、「表に出せない情報も共有して、本音で話し合ってスポーツ界の発展に役割を果たす」っていう風に言ったんですけどね。「本音で話すから、もう中には入れませんので」っていう。

JOCの理事会、報道陣へ非公開に

(武田砂鉄)その東京の運動記者クラブはずっと7月下旬からJOCからそういう方針を伝えられていたけれども、「いや、それは時代の動きに逆行してますよ。JOCっていうのは高い公共性を持ってなきゃいけないんだから、それを公開しないのは国民の理解を得られませんよ」っていう風に抗議文を出してたんだけれども、それもなくなってしまったと。

それで、みなさんも覚えてると思いますけど、6月末でJOCの竹田恒和さんという方が任期満了で退任をして。今年頭にね、ずっと会見は7分で打ち切ったりとかっていうことで、かなり評判の悪い状態を見せつけましたけれども。で、その招致活動をめぐる疑惑でずっとそのフランス司法当局が動いてるぞっていうことで退任に追い込まれたんですけども。

(武田砂鉄)山下さんはその時にも「疑惑についての再調査を行ってくれるんですか?」っていう問いかけに対して、「現時点ではそれは頭にありません。潔白を信じています」って言うわけですよね。

(武田砂鉄)まあ、なんかそれも先輩の潔白を信じてるだけなんだけど。でも、そしたらもう山下さんがそんなに上下関係で何も言えないんだったら、もしかしたらそれは外からメディアが追求しようという動きも出てくるかもしれないんだけども、「理事会は非公開にします。非公開で俺たちは本音で話し合うんです」っていう……なんだかね。この山下会長が就任する時には「いま、信頼が落ちてるから、信頼回復へのインテグリティーの充実を……」って。「インテグリティー(integrity)」っていうのは「高潔性」という意味ですけれども。「……インテグリティー(高潔性)を充実させて真剣に取り組んできたい」っていう風に抱負を語ってたんだけれども、なんか全く違う方向に行っちゃってますよね?

(武田砂鉄)だからこういう、最初の方に述べたいろんな暑さ対策の問題とか、ボランティアの問題とか、いろいろとこの1年でどうなってるのかなっていう風に心配な中で、いざこのJOCの内部は「あ、ちょっともう外にお見せできませんので……」っていう風にチェンジしていくというのは、これは本当にヤバいことが起きるんじゃないかなと思って心配しかないですけどね。

(幸坂理加)ねえ。いい盛り上がり方をしてないですよね。東京オリンピック。

(武田砂鉄)そうなんですよ。だから僕がこういうことを言ってると「いや、選手はオリンピックを目指してるんだから。そんなにいろいろと言うんじゃないよ」っていう風に言われることもあるんですけど、やっぱり選手のことを考えた時に、選手が万全の態勢で臨めるように外から言っていくってことはすごく重要なことだと思うので。そういった、最初に言った「どうせやるなら」派にならないということが、すごく重要になってくるんだなっていう風に思いましたね。

(幸坂理加)森喜朗さん、1年前は「日本のイノベーションを世界に発信するチャンスだ」っていう風に言ってましたけど、ちょっと逆になってるかな?っていう感じがしますよね。

「日本のイノベーションを世界に発信するチャンス」

(武田砂鉄)イノベーションっていうか、いまはもう「がんばれ!」ということでしかなくなってますからね。「暑いけどがんばれ!」だからね。うん。

(幸坂理加)以上、武田砂鉄さんのコラムコーナーでした。

<書き起こしおわり>

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