町山智浩 著名人の「政治的発言」日本とアメリカの違いを語る

町山智浩 著名人の「政治的発言」日本とアメリカの違いを語る たまむすび

町山智浩さんが2020年5月12日放送のTBSラジオ『たまむすび』TBSラジオ『たまむすび』の中でTwitter上で広がった「#検察庁法改正案に抗議します」についてトーク。著名人の「政治的発言」について日本とアメリカの違いを話していました。

(町山智浩)僕、朝にね、テレビに出たんですよ。ちょっと。急に呼ばれて。それで「なんでだろう?」って思って。

「なにか問題ですか?」って言ったら、日本であの芸能人の人とか漫画家の人とかが非常に政治的なツイートをしたことでものすごく叩かれてるという。特にその安倍政権が黒川検事長という人の定年を延長しようとしたということで。その黒川さんっていう人は今まで、小渕優子大臣とか松島みどり大臣とか甘利明大臣とか、そういった大臣の汚職事件を起訴しなかったということで、これまで安倍政権を守ってきた人なので。

その人にまだいてほしいという。それで今、すごく問題なっていることがたくさんあるので、彼をそのまま検事長としてキープしたい。しかも彼を昇進させて検事総長にしたい。そうすれば自分たち、安倍政権が起訴されるようなことがないだろうということでその定年を延長していて。それで今、このコロナで」大変な騒ぎの時に自民党がその定年延長を後から法律として、「内閣が検察官の定年を延長できる」という法律を国会で通そうとしているということになっていて。

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それに抗議するツイートがきゃりーぱみゅぱみゅさんであるとか、水原希子さん、浅野忠信さんとかがそれに賛同するツイートをしたということで。それでその人たちはみんな、すごく叩かれて、大変なことになっている。それでそのツイートを撤回するというところまで追い込まれたという。それで「アメリカではこういうことはあるんですか?」っていうことをテレビ局から聞かれたんですけど……あるわけがないですよね!

(山里亮太)ほう!

(町山智浩)だってアメリカって学校で……小学校、中学校、高校とその時の政治でたとえば大統領選挙があったりすると、「さあ、みんな。君は誰に投票するの?」って先生が聞くんだもん。で、みんなで「はい、僕は○○です」とかって言って話し合いをさせるんですよ。で、しかも模擬投票といって毎回、大統領選挙ごとに子供たちが投票をするんですよ。そうやってやってきている上で、芸能人だろうとなんだろうとそういった政治的な立場を表明しないということはまず、ありえないんですね。

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(山里亮太)うんうん。

学校で模擬投票やディベートによって訓練をする

(町山智浩)それから、授業の中に「ディベート」というものがありますから。つまり、政治的な立場というものを自分は選ぶことができなくて、先生から与えられるんですよ。たとえば「人工中絶」という議題に対して「君は人工中絶賛成派をやりなさい」「君は人工中絶反対派をやりなさい」って立場を与えられるんですね。それで生徒たちはそれぞれにその論拠を調べてきて。その上で論争をしろっていう風に言われるんですよ。つまり「君はどう思っているか?」ではなくて「その立場ならどういう論拠で戦うのか?」っていう。

そういうので訓練をしていくんですよ。政治的な問題になっていることを調べて、それでそれぞれの立場で……要するに、どっち側の立場にも立つという訓練をするんです。だから両方の側の考え方がわかるんですね。それを学校でずっとやっていくんですよ。だから「政治的なことを芸能人が言った」ということが問題になるはずがないんですよ。だってそれを学校で「やれ」って言っているんだから。

(山里亮太)ああ、そうか。

(町山智浩)だから逆に問題になった例としてはテイラー・スウィフトさんがトランプ大統領が非常に性的な、女性差別的なことを言ったりしてる時に、他の芸能人たちはみんなそれに反対の立場を表明したんですけども。テイラー・スウィフトさんだけはなかなかしなかったんですよ。で、彼女はテネシーっていうアメリカの田舎の方の出身で、カントリーソングをベースにしているんですね。それでカントリーを聞く人たちって保守的な人が多いんでね。なので「テイラー・スウィフトは自分のファンを切り離すことになるから、トランプ大統領に反対をしないんじゃないか?」って言われてたんですよ。

政治的発言をしないことで叩かれたテイラー・スウィフト

ところが彼女、2018年の中間選挙の時にはっきりと「共和党の女性差別的な立場には賛同しません。民主党に投票してください」っていう風にはっきり言ったんですよ。この後がすごくて。その後にじゃあ、共和党支持でテイラー・スウィフトのファンの人たちに「どう思いますか?」って僕、実際にテネシーで聞いていったんですよ。そしたら「はっきりと自分の立場を表明したことは間違ってないと思う。テイラー・スウィフトの曲は聞く。でも私は共和党に投票する」って僕が聞いた人は言ったんですよ。これが正しい民主主義なんですよ。

(山里亮太)うんうん。なるほど。

(町山智浩)だから本当にに日本の状況って訳が分からないですよ。すごく。芸能人が「そういうことは言わない方がいいよ」とか言われるって……別に関係ないからっていうね。でね、すごく変だなと思って。僕ね、日本出身のカズオ・イシグロさんっていうイギリス人の作家の人がいるんですけど。彼が書いた物語で『日の名残り』という小説があるんですね。これ、映画化されたものがアカデミー賞も取りました。

カズオ・イシグロ『日の名残り』

それは貴族に仕える執事の話なんですよ。で、政治家の執事の話なんですね。イギリスでは貴族が政治家をやっていますから。で、戦争とかいろんなものがある時にずっとそれを横で執事がその話を聞いているんですよ。何十年もそこで働きながら。で、ずっと聞いているから彼はその政治的なことがわかっているんですよ。わかっているのに、言わないでいるんですよ。「間違っている」ということがわかるんですけど、その政治家はドイツがひどいこと……ユダヤ人虐殺などをしているのに、それに対してやめさせないという立場を取っていたんですね。

でも、それが間違っているということはその執事はわかっていて、そう思っているんだけども、「私は執事だから絶対にそれはご主人様に対しては言ってはいけないんだ」ということで、言わないでずっときたために人生がめちゃくちゃになってしまうっていう話なんですよ。

(外山惠理)うんうん。

(町山智浩)その後に「あの時にあの政治家にちゃんとしなければいけなかったのになぜ、それをしなかったのか?」っていうことでずっとその後の人生で罪の意識を背負いながら生きていくことになってしまうんですよ。その執事は。で、その『日の名残り』っていう話をそれを人生の最後の瞬間に「しまった!」って気がつくという話なんですよ。だからそれがね、本当に「言わないでいるっていうことが正しいんだ。俺は言っちゃいけないんだ」と思っていた人の末路ですから。本当にもう、皆さんには『日の名残り』を読んでほしいと思いますけどね。

で、今日は『日の名残り』から始まる映画を紹介します。

<書き起こしおわり>

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