辻田真佐憲と荻上チキ 安倍首相「#うちで踊ろう」動画を語る

辻田真佐憲と荻上チキ 安倍首相「#うちで踊ろう」動画を語る 荻上チキSession22

(辻田真佐憲)だからまさにご指摘の通りで。「『家にいろ』っていうことには格差がある」ということなんですよね。富裕層とかセレブの人とか、インスタとかでいろいろと訴えかけてる人も「今は取りあえず家族を守るために四の五の言ってる場合じゃないんだ」みたいなことを書いてる方が多いですけど。それは貯金がある人はいいですけれどもね、お金を稼がなきゃいけない人ってのはまさに「家族を守るために、外に出なきゃいけない」ということになるわけですよ。

そういう人たちに対して、二重三重の圧になってしまいますよね? でも、首相はそういった人たちを助けることができるということできる立場なわけです。つまり「その人たちにお金を出す」ということを通じて。そういうことをしないで、家で本当にくつろいでいるような動画をああいう風に出した上で「Stay Home」って言われると、「いやいや、お前は働けよ!」っていう風にどうしても思ってしまいますよね。

(荻上チキ)そうですよね。しかも、「ああ、やっぱりそこに家事は含まれないんだな」みたいなものに、なんとなく日本の男性家父長制感みたいなものをすごく感じるものでもあったりしたわけですし。要は、非常にズレた格好で対応するという、その生活感のなさみたいなものも感じさせるものであったわけですよね。

(辻田真佐憲)だから首相周辺の……これは当然、首相が勝手に作ったわけではなくて、広報チームがやってるんでしょうけれども。散々、自民党だとか官邸周りの広報はいろいろと力を入れていて。斬新なことをやってるっていう風に言われてきたわけですけれども。その結果がこれか?っていうのはちょっと驚きますよね。

広報に力を入れていたはずなのに……

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(辻田真佐憲)ほぼ同時期に公開された小池さんのHIKAKINさんとの動画は、ある意味すごい成功しているわけですから。ちょっと稚拙すぎると思うんですよね。今回の動画に関しては。それは驚きましたね。

(荻上チキ)たしかに安倍首相のTwitterのツイートでも「友達と会えない。飲み会もできない。」みたいなことが真っ先にあげられていて。それもまた、「たしかに総理はよくお友達と飲み会に行ってますよね」というような批判をあぶり出すことになると思うんですが。例年、この時期というのは総理、桜を見る会をやってる時期なんですよね。で、そのことを連想すると普段からインスタ政治ということで官邸がやってきたのは、桜を見る会などに著名人を招いて、その著名人の方々との写真というものアップすることによって親近感というものを非常に抱かせるような演出というものをしてきたわけですね。

で、ある意味その平時の成功体験にならって今回も同じく、官邸や総理の頭の中ではコラボ動画を上げれば「おお、総理。わかってるじゃない! あの流行に自ら乗ってきてくださった。ああ、面白い! パズる!」みたいな。「いいねがたくさん来ますよ」みたいな。そうしたようなリアリティーで上げてみたというようなものだと思うんですよ。

通常の有名人・好感度UP戦略の延長線上

(辻田真佐憲)そうですよね。だからいわゆる有名人と一緒に写真を撮るだのなんだっていうことは首相のSNSアカウントは大好きで。いろんな芸能人と握手しているものだとか、一緒に並んでる写真だとかを上げてきて好感度アップに使ってきたわけですよね。で、今回も完全にそうで。たとえば「Stay Home」っていうメッセージを発する時にも、別にその家にいる人っていうのは首相である必要はないわけですよ。今回の動画に関してはどう考えても。つまり、普通の一般人の撮影をしてくれる人たちに頼んで、普通の人の映像を流すっていうこととかもできたわけですよね。

そういう動画コンテンツとかを組み合わせることによって。ところが、首相はやっぱり有名人の隣に出たいわけですよ。それで無理やりおかしな……あの家でくつろいでいる動画もすごい不自然で。家でくつろいでいるという割には髪型がバッチリ決まってるし。なんかすごい不自然な……「日常」と称する作られた日常感。それを無理やり合わせたことによって、もう動画としても滑稽になっていて。顔はすごいくつろいでいる60代半ばの男性なのに、髪型は若々しい選挙対策向けみたいな髪型になっていて。すごく違和感を与えるようなものになってましたよね。

(荻上チキ)そうですね。お茶も短期間で二口飲みますし、テレビも2、3回チャンネルを変えてるから、実は落ち着いて番組を見てないんじゃないか?っていうような。まあ、様々な指摘はありますよね。

(中略)

(荻上チキ)もうひとつ、メールです。

(南部広美)はい。「これまでも何度か首相会見をリアルタイムで見ましたが、冒頭の首相の演説を聞いた時点で非常に苦痛でしかなかったです。これまで、経過の繰り返しもそうですが具体的な対策ではなく、対策の方向性や精神論だけを延々と聞かされるのは非常に苦痛でした。特に3月の会見での『卒業、おめでとう』を聞いた時はテレビの電源を切ろうと本気で思いました。

首相がやるべきことや伝えるべきことを伝えず、国民に対する表面的なメッセージを述べる場なら、ビデオメッセージで済むはずです。首相の長い演説は質疑を削るためにわざとやっているのではないかと言いたくなるくらいです。そして記者会見の内容を会見で知るより、その後のニュース解説で聞いた方が分かりやすいのは、記者会見の意味すら問われるのではないかと思います。

首相と星野源さんとの動画が炎上していますが、自分の支持を得るために本人か取り巻きがコラボの背景に目を向けずに、表面的なタイトルだけに便乗するやり方は非常に失礼なやり方です。自粛でエンタメ業界には支援をしないのに、こういう時に都合よく利用するのはどうかと思います。記者会見も動画も本当に国民に何かを届けようという政府や首相の意気込みが全く伝わりません。それどころか現場で踏ん張る人たちにショックと絶望感だけを与えるのはやめてほしいです」という。

(荻上チキ)うんうん。今のメールを見て、大昔の2ちゃんねるの騒動を思い出しましたけど。昔、アスキーアートっていう絵文字みたいなものがあるわけですよ。文字列で作るような。その2ちゃんのキャラクターでギコ猫っていう猫のキャラクターがいたんですけど。それをある企業が商標登録しようという風に動いたところ、「みんながいろいろワチャワチャと自発的にやってることが楽しかったのに、急に公式に乗ってきて。しかも自分のものかのように、自分の手柄かのようにやるなんてお前、何やってるんだ!」っていうので大炎上して取り下げたという事例があったんですよね。

そこから炎上対策で20年ぐらい、いろいろと学んでいって。要はその自生的に生まれたコミュニケーションに対して勝手に成果を収奪するというか、独占しようとするような。自らの手柄とか、自分の私利につなげるようなものというのはあまりに興ざめになりますから、炎上対策のためにもやめましよっていうような形で言われていて。炎上の歴史の中で割と前半に書かれるぐらいのものだったんですけど。それをあまりに真正面からこじ開けて、軽視している様にですね、すごい懐かしい空気の読めなさっぷりを感じたりしました。辻田さんは今のメール、いかがですか?

(辻田真佐憲)なんか懐かしい話だと思って今、お話をうかがっていたんですけども。メールの内容に関しては書かれている通りだと思うんですよね。やっぱりこういう、会見をで何か気持ちのいい、きれいな言葉使って気持ちよくなりたいんだったら、その前にやるべきことをやってほしいなっていうことに尽きると思うんですよね。各国の首脳もたしかに戦争の比喩を使ったりとか、かっこいい会見して格好をつけたりしてるのは皆さんやってるんですよ。

各国首脳との違い

でも、やってるけれども彼ら、彼女らは同時にやっぱりちゃんとした経済対策を打ち出しているし、やるべきことをやってるわけですよね。あんまりそういう風に輪切りにするべきじゃないかもしれませんけど。たとえば日本よりも経済力がないと言われている国でも、お金に関しては結構出してますよ。あるいはいろいろと対策を打っている。日本は「やってる、やってる」って言いますけれども、なかなか支給しない。

あるいは支給にもすごいいろんな条件を付けたりするとか。まあ、たとえば最近も役所のアカウントがね、「我々はやってるんだ!」っていう風にアピールしてますけれども。それだったら、たぶんこの首相会見の内容の中で入れたと思うんですよね。そういう首相の外見でははっきり説明できないような状態なわけで。そういった中でこういうきれいごとばかり並べられたら、不愉快に思う人がいるのは当然だと思いますね。

(荻上チキ)うん。なるほど。

<書き起こしおわり>

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