荻上チキ 大阪府立高校・髪染め強要問題を語る

荻上チキ 大阪府立高校・髪染め強要問題を語る 荻上チキSession22

荻上チキさんがTBSラジオ『Session-22』の中で、大阪府立の高校で生まれつき頭髪が茶色いのに学校から黒く染めるよう強要され不登校になった生徒が学校を提訴した件についてトーク。髪染め強要の問題点などについて話していました。

(荻上チキ)いやー、子供の頃、学生の頃を思い出しましたね。ニュースなんかを見ていて、ちょっとモヤモヤしていたあの時代のことを思い出しましたね。うん。

(南部広美)それは……今日の毎日新聞の夕刊に載っていたニュースでしょうか?

(荻上チキ)はい。朝日にも載っていたと思いますけども。大阪府立の高校生が高校に対して訴えを起こしたというニュースがあったでしょう? それは生まれつき茶色い髪の毛をしていたんだけども、その髪の毛を黒く染めるように繰り返し指導されたということで、精神的な苦痛を味わったというようなことなんですけども。

(南部広美)はい。

(荻上チキ)まあ、そりゃそうだよ。そりゃ苦痛だよと。なんでさ、あれさ、黒髪にしなきゃいけないっていうルールになっているんでしょうね?

南部広美さんの体験

(南部広美)いやー、私もね、髪の毛が……いまはもう全体的に染めちゃっているんで目立たないんですけど、一部だけ金色なんですよ。

(荻上チキ)あ、そうなんですか?

(南部広美)一部分だけが、もう生まれつき金色で。

(荻上チキ)じゃあハイライトを当てたみたいな?

(南部広美)そうなんですよ。まあ、メッシュを入れているみたいな風に見える。

(荻上チキ)今風だね(笑)。

(南部広美)そう(笑)。だけど、当時私、中学生の頃に、やっぱり小学校から中学生に上がる時に両親が「これでいじめられるんじゃないか? 染めた方がいいんじゃないか?」っていう。まあ、お友達のお父さん・お母さんからも指摘されて。言われて。で、大人に言われると、当時中学生だった私は……。

(荻上チキ)まあ、怖くなるよね。

(南部広美)いや、「怖い」というよりも、自我が……「いや、これが私よ!」みたいな気持ちになって。そのままで、生まれついてその髪の毛の色だから仕方がないじゃないかと。

(荻上チキ)そうですよ。ありのままですよ。

(南部広美)っていうか、「これが私だ!」っていうことで、そのまま入学し、登校し。で、一応担任の先生とかには親が言うわけですけど。私はちょっといきがってというか、「こういうものよ!」という風にしていたんですけど……やっぱり目立つわけじゃないですか。まあ1人だけ、変わっているっていうか。たとえば全体で全校集会とかって言うと、まあ先輩たちから見ても目立つと。

(荻上チキ)みんな同じ制服を着て、同じ黒髪なのに、あの子だけちょっと1ヶ所が金だと。

(南部広美)うん。で、「生意気!」みたいなこととか。私の世代は校内暴力の世代なんで。

(荻上チキ)スケバン?

(南部広美)とかの世代なんで。まあ、先輩たちがそれはもう、目立って。「なんだ!」ということで、取り囲まれたりとか。

(荻上チキ)「あんた、なによ。その髪?」と。

(南部広美)そうそう。あと、本当に地毛だと、根本からその色になっているから……っていうことで、「検査する」っていう風に先生たちに検査されたりっていうこともあり。まあ、いろんなことがあって。あと、本当にそのような毛が生えてくるかどうか、パチン!って切られて。伸びてくるかを見てみるとかいうことを、私の時代で……私なんていま、もう40後半ですから。ねえ。ずいぶん前ですけども、ありましたよっていうことをその今回の記事を読んで。「ああ、染めるかどうしようか、悩むよね。その気持ち、すごいわかる!」って思って。

(荻上チキ)いや、でも髪の毛を切るのだってね、傷害ですからね。傷害罪ですよ。他人の髪の毛を切るっていうのは。

(南部広美)いまにして思えばそうですけども。

(荻上チキ)だから、それはいけないことです。でも当時から、そういったものが続いていて、なんだかわからないけどそれを守っているみたいなところもあるわけでしょう?

(南部広美)ねえ。あとその、その記事を読んでみると、申告書みたいなことを行っている学校もあるって……。

(荻上チキ)「地毛証明書」でしょう?

(南部広美)そう! ああ、そうか。いまはそういうことになっているんだ!っていうことも含めて、驚きでしたよ。私は。

(荻上チキ)それでね、この論理がわからない人も中にはいるのかなと思うんですけど、地毛証明書って結構な差別ですからね。「生まれもっての身体性であることを証明しなさい」っていうことを他人に、一部の人に強要するっていうのはこれは明確な差別ですよ。

(南部広美)うんうん。

地毛証明書は明確な差別

(荻上チキ)で、世の中にいろんな家庭だってあるし。そういう風な証明書を出させることがいろんなルーツに土足で踏み入るっていうこともあるわけですよ。

(南部広美)「黒髪が標準」っていうことに立った上でのことですからね。

(荻上チキ)そうそうそう。で、たとえば家庭によっては、まだ親子のコミュニケーションで自分のルーツについて説明をしていない家庭だってあるかもしれないけれども。「実はね……」って、それで促さなくてはいけないということもあるかもしれないし。逆に、たとえば生まれもって、南部さんと同じように金色だったとすると、逆に染めさせるというような方針を示していたようなんですよ。その学校は。

(南部広美)学校側がですよね。

(荻上チキ)バカじゃないですか。

(南部広美)うん。なんか、ものすごい反発を覚えるだろうなと。

(荻上チキ)だから、「(黒以外の色に)染めてはいけないから、(黒色に)染まれ」っていうことなわけでしょう? 「特定の色にお前ら、染まれ」っていうことでしょう?

(南部広美)もうアイデンティティー全否定ですよ。それをされた側からするとね。

(荻上チキ)うん。まあ、そんなこんなもあって、まあ勝ってほしいですよね。まあ、裁判に対してこんなことを言うのもなんですけども。ばっちり勝訴してほしいなと思いました。でもまあ、それを見ながら思ったのは、「ブラック校則」っていっぱいあると思うんです。ブラックな校則。

(南部広美)学校っていうくくりの中ではね、「なんでこれがまかり通っているんだ?」っていうような。

(荻上チキ)そうそう。だから、組体操とか、あるいは部活動の問題とかに取り組んできた内田良さんに「今度、ブラック校則をやって!」ってこの前、言ってみた(笑)。他力本願みたいだけども。

(南部広美)あ、ささやき女将のようにささやいていたのを私、目撃しましたけども(笑)。

(荻上チキ)そうですね。組体操とか部活動に比べると、ねえ。このブラック校則って定義がちょっと難しいから。データを取るとかはなかなか難しいかもしれないんだけど。やっぱり髪の毛を染めさせるとか……もともと、たとえば学校に携帯とかゲーム機とかを持ち込んじゃいけないとか、休み時間にお菓子を食べちゃいけないとか、そういったのもこれ、大概ですからね。そういう風に学校の休み時間でストレスを発散することができない状況の中で、一方では「休み時間は外に出るな」とか、「○○するな」と。「教室で仲良くしていろ」と。でも、先生はいません。……そりゃあ、いじめは起きるでしょう。ストレス発散としてっていう。そういうような状況が放置されている。僕も中学校の頃とかだと、当時はね、ワックスとかジェルが禁止だったんです。ジェル!

(南部広美)ああーっ!(笑)。整髪料。

(荻上チキ)そう。特にね、ジェル禁止って言われました。当時はね、格好つける人ってジェルだったんです。

(南部広美)ああ、わかります。知ってますよ(笑)。

(荻上チキ)わかりますか? いまの若い人もやっていますかね? あの透明なベタベタするやつで、カッチカチになるんですよ。で、スーパーハードっていうイワトビペンギンがテレビCMをやっていたやつでもうガッチガチに固まるんですよ。

(南部広美)ああ、CM思い出すな。うん。固まってた。男子、固めてた(笑)。

(荻上チキ)っていうやつをやることがとにかくモテの条件だったんですね。いや、モテてはいなかったと思う。あれは異性に響いていたかどうかとか、目的の対象に対して響いていたとかはさておき、でも調子ずくための……。

(南部広美)トレンドだった。

(荻上チキ)で、それをしていた人が「お前、なんだ、それは! ジェルをしてるじゃないか!」って。髪の毛を引っ張るとわかるじゃないですか。カッチカチだと。

(南部広美)固まっていたらダメだったんですか?

(荻上チキ)固まっていたらアウトですよ。「なんだ、お前?」って。

(南部広美)ベタベタだったらいいの?

(荻上チキ)ベタベタはもっとダメでしょう。「つけたてじゃないか!」っていう。

(南部広美)あ、違う違う。固まらないワックスみたいなの、あるじゃない?

(荻上チキ)それもダメだと思います。ただ、当時はジェルだったので。ワックスはまだね、そんなに普及していなかった頃だと思う。ムースかジェルでした。

(南部広美)あ、ムースね! ありましたね。

(荻上チキ)で、そういうやつは「来い!」って言われて、なんか怖い先生に水道のところに連れて行かれて、頭ガシャーン! 水バシャーッ! ゴシゴシゴシゴシ! みたいな。で、「なんだよ、やめろよ!」みたいな。

(南部広美)で、それを見て、「ああ、ああいう風にならないように、つけないでおこう」っていう空気が蔓延するんですね。

(荻上チキ)そうそうそう。あとは、私の頃は(女子は)ルーズソックスだったので。で、ソックタッチで靴下を止めるんですね。ふくらはぎあたりでね。落ちないように。

(南部広美)落ちないように。でも、あんまりソックタッチって止まらない。

(荻上チキ)止まらないんですよ。だけど、いろいろがんばってみなさん、止めるんですね。でも、「そこに靴下があることはおかしい!」って……。

(南部広美)はあ?

(荻上チキ)だから、ソックタッチとか固定禁止だったんですよ。「ちゃんと伸ばしきれ」と。

(南部広美)なんでダメなんでしょう? ワックスにしてもジェルにしても、なんでダメっていう?

(荻上チキ)3つの論理があります。

(南部広美)なんでしょう?

禁止する論理

(荻上チキ)僕が聞いたのは、ひとつは「だらしがないから」と。もう、見た目としてだらしがない。そういうだらしがない格好をしていたら、だらしがない気持ちになる。……謎理屈ですね(笑)。

(南部広美)うん……。

(荻上チキ)なにひとつ、いま南部さんを説得できていませんけど、まずそれが1個。それからもうひとつは、「そういうルールだ。あなたを認めてしまったら、いままでそのルールを守ってきた先輩たちに悪いと思わないの?」っていう。

(南部広美)ああーっ! それ、言われた。そうだそうだ。「そういうものなんだ」って。みんな、守ってきたと。

(荻上チキ)そうそう。これが2つ目。で、3つ目。「この学校全体がそういう子だと思われるよ。その制服を着ていて、『ああ、○○高校の子だ。あんな格好をしている。あの高校の子って、あんな子なんだ』という風に見られる」と。

(南部広美)イメージ?

(荻上チキ)そうそう。「だからあなたたちは、いついかなる時もこの学校の代表者でいなさい。その代表する学校のイメージを汚すから、やめなさい」っていうようなものでしたね。校則は。

(南部広美)はー。そこにジェルとソックタッチ禁止が?

(荻上チキ)もう、バーローですよ。なんじゃ、そりゃ?っていうものだったんですけど。いまならもういくらでも、理詰めで問い詰めていきますよ。そんなことを言った人たちに対して、「その根拠はなんですか? その象徴を見る眼差しに対して、はねのける力こそが現代に必要なのじゃないですか? 地域の人がそう言ってきたら、先生がちゃんと対話して、『そういった生徒の個性と言うものを……』と言わずに、(生徒の)個性を潰すのはいかなるものなのか?」と。「『これからの日本社会を背負っていく』って、その日本社会を背負うとかそんな気概とかではなく、そもそも『背負う』という考え方そのものが、個人を押し付けているのではなかろうか?」みたいな。

(南部広美)はー。いまならね。

(荻上チキ)いまなら言うけど。でも当時なら、「ひー!」ですよ。

(南部広美)「そうなんだ」ってなりましたよね。

(荻上チキ)なりましたよね。そんなこんなもあって、もう入れ知恵してほしい。いろんな大人たちが。僕とか内田良さんとか木村草太みたいな、もうひねたと思われがちな生活をしてきた結果の大人たちが。

(南部広美)そこを通ってきた大人たちがね。

(荻上チキ)「こんな論理で勝とうぜ!」っていうことで。このブラック校則をどんどん撲滅していってほしいなと思います。

(南部広美)はい。その第一歩を。

(荻上チキ)はい。ちょっとヒートアップしてしまいましたけども。でも、南部さんも思ったよりヒートアップしたので。

(南部広美)いや、ものすごい共感ですよ。

(荻上チキ)もうすぐ歳を取る私たちですけども。フフフ。

(南部広美)その情報はいらないのではないだろうか?

(荻上チキ)今日も盛り上がっていきたいと思います。

(中略)

(飛び入りゲスト・神保哲生さん登場)

(神保哲生)ただね、一言いっていい? 僕は中学時代にね、要するに茶髪・天パー証明書を両方持たされたわけ。

(荻上チキ)マジですか!?

(神保哲生)そうなんですよ。

(南部広美)アメリカでですか?

中学時代に地毛証明書を持たされた神保哲生さん

(神保哲生)いや、日本。アメリカは逆に言うと、全員持ってないといけない。直毛の人は少ないからね。アメリカはね。で、そのひとつの反発……それだけが理由って言うと嘘になるんだけど、反発もあって、「こんな学校、辞めてやる!」っていう感じで。6年制の中高一貫の、横浜の方にある桐蔭っていう某学校だったんですけども。そこを中学で辞めて。それでたまたま母がアメリカに行っていたものだから、「もうアメリカに行ってやる!」って、ひとつ背中を押されたの。

(荻上チキ)はいはい。ああー。

(神保哲生)だから、怪我の功名か知らないですけど。大問題なんだけど。そういう副効果もあったりするわけ。こういう人間を「そんなの辞めてやる!」って言わせる……だって、1970年代ですよ。そんなのを持たされていたの。

(荻上チキ)うーん。

(神保哲生)まあ、すっごい頭髪に厳しい学校で、耳にかかったらいけないのね。で、桐蔭バスっていうのが柿生と市が尾っていうところから出て、バスを降りたらもう学校なんですよ。そこに体育科の教官が竹刀を持って立っていて。で、もうそれで引っかかっていたりすると……「桐蔭頭髪検査」って有名なんだけど。で、桐蔭の山を下りると、もういまはないと思うから言っていいかもしれないけど、モンマっていうボウズ専門店みたいなのがあって。(頭髪検査で引っかかると)そこに行ってボウズにされるんですよ。

(荻上チキ)へー!

(神保哲生)で、僕はとにかく天パーだし、ちょっと茶色い、色が薄かったのね。地毛でね。本当に。ちょっといまは白くなっていますけどね。で、やっぱりダメなわけ。絶対にそれは。だから、もう証明書を……証明書を首からかけないだけ、まだマシだと思っているわけですよ。でもそれがやっぱり、事程左様にものすごく締め付けが厳しくて。それは、あの学校の場合はそういうことがもう受験の邪魔になるわけ。全部ね。パーマかけたり、そういうのが。だから、そういうのをさせないっていう当時の校長・理事長の強い方針があって。

(荻上チキ)はい。

(神保哲生)で、やっぱりその締め付けというので、これはもうダメだなと思ったのも……他にもいろんな理由が個人的にはあったんだけど。もうひとつは、僕は中学でラグビーをやっていたんですけど、高校に行ってスポーツの両立がちょっと難しい学校だったんですね。あれは文武両道って言われているけど、文武別道で。運動枠と勉強している人が全く別になっているところがあるのね。で、僕はやっぱり運動を続けたかったんだけど、もうどっちか選ばなきゃいけないようなところが多分にあって。それもひとつの理由だったんだけど。でも頭髪は、今日の話はいい話でしたよ。40年ぐらい前に言ってくれたら、僕はもうちょっと違った人生を……「やっぱりラジオパーソナリティーでも味方をしてくれる人がいるんだ」っていうね。

(荻上チキ)届いてほしいですよね。

(神保哲生)と、思います。だからいまもそのことで苦しんでいる人がいるんで。あの言葉は大事です。大きいと思いますよ。

(荻上チキ)いや、おかしい。ブラックですからね。うん。

<書き起こしおわり>

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