荻上チキと松本俊彦 上島竜兵報道と自殺報道ガイドラインを語る

荻上チキと松本俊彦 上島竜兵報道と自殺報道ガイドラインを語る 荻上チキSession22

荻上チキさんと精神科医の松本俊彦さんが2022年5月11日放送のTBSラジオ『荻上チキ Session』の中で上島竜兵さんの死とそれに伴う報道についてトーク。「自殺報道ガイドライン」や報道機関が伝えるべき情報について、話していました。

(南部広美)続いてはこちらのニュースです。ダチョウ倶楽部の上島竜兵さん、死去。お笑いタレントでダチョウ倶楽部のメンバーの上島竜兵さんが亡くなったことがわかりました。61歳でした。警視庁によりますと、今日午前0時ごろ家族から119番通報があり、上島さんは自宅マンションから病院に搬送されましたが午前1時前、死亡が確認されたということです。関係者によりますと、自殺とみられています。

上島さんは劇団青年座を経て、肥後克洋さん、寺門ジモンさんらとダチョウ倶楽部を結成。バラエティ番組を中心に活躍し、体を張ったリアクション芸で知られていました。一方、今回の上島さんの死去を巡って一部メディアでその手段も報じられたことなどから、厚生労働省はWHOの自殺報道ガイドラインに沿って報じるよう要請をしています。

(荻上チキ)それでは上島竜兵さんの急死に関する一連の報道について、精神科医の松本俊彦さんにお話を伺いました。その様子をお聞きください。

<インタビュー音源スタート>

(荻上チキ)松本さん、こんにちは。お願いいたします。

(松本俊彦)こんにちは。

(荻上チキ)まず今日のこの報道に触れて、松本さんはどういった印象をお持ちですか?

(松本俊彦)はい。まず一個人としてですね、「まさか」という衝撃というか、驚きがありました。その中で様々な報道の記事を目にすることがありまして。ちょっとですね、自殺の手段・方法に関してかなり詳しく書いてるなっていうこと。そして一斉にいろんな各メディアが報じ始めて、なにかこう、ものすごく全体として強いインパクトを覚えました。で、この報道のいくつかは自殺報道のガイドラインをちょっと超えてるというか、抵触してるような内容があったことが気になりました。

(荻上チキ)はい。今回の報道に関して、自殺報道ガイドラインが改めて注目されています。この自殺報道ガイドラインというのは一体、どういったものなんでしょうか?

(松本俊彦)2000年にWHO(世界保健機関)が制定したものです。自殺関連の報道として「やるべきでないこと」っていうのをいくつか、設定しています。というのも、その背景にはやはり「著名人の自殺報道の後に明らかに自殺が増加する」という現象がの複数の研究によって指摘されていて。やはり、好ましくない報道があるだろうということで。で、ひとつは「やるべきでないこと」として報道を過度に繰り返さない。それから自殺に用いた手段や方法に関して詳細に表現をしない。あるいは、自殺が発生した現場であるとか場所の詳細について伝えない。センセーショナルな見出しを使わない。それから写真とかビデオ映像、デジタルメディアのリンクを用いない、なんていうことが定められています。

(荻上チキ)では、「やるべきこと」というのはいかがでしょうか?

(松本俊彦)はい。まず、著名人の自殺を報道する際には、特にやっぱり注意をする必要があること。扱う場所とか……一面で報じるのかどうかとか。それから、これが一番大事なことなんですけれども。支援策や相談先について、精神的に追い詰められて自殺することについて考えている人を想定して、支援策や相談先についての正しい情報も共に提供するということ。それからですね、このいろんなストレスとか自殺念慮に対する対処法であるとか、あるいは支援を受けるという方法についても、きちんと「助かる方法があるんだよ。自殺以外にも選択肢があるあるんだよ」ってことを報道してほしいということですね。

で、あわせて自殺対策、そういった全体の政策の流れであるとか、健康問題として扱うということが必要なんだっていう情報もあわせて啓発していくことが必要という風に言われています。

(荻上チキ)この自殺報道ガイドライン、それなりに社会に広がっていったように感じるところもありまして。新聞報道などは特に気を遣ってるような場面も目立ってきたと思うんですけれども。一方で、放送した後、最後にちょろっと連絡先さえ載せておけばガイドラインを満たしたことになるというような、そうした態度の報道もいくつか見られます。これはいかがでしょうか?

(松本俊彦)はい。今回、一番ショックだったのはそのことがこの数年、なんか強まっている感じがするんですね。たとえば、インターネットのニュース記事なんかを見てもですね、ほとんどそのテンプレートであらかじめ設定されてるかのように、いくつかの相談先、相談機関の名前が出てるっていう感じになってるんですね。それがちょっと免罪符のようになってはいまいか? ということもこの機会に関係者の方たちに考えてほしいなと思っています。

自殺対策の相談先を出すことは免罪符ではない

(荻上チキ)また、このガイドラインというのは当然、その報道によって、多くの人たちが自殺という手段を考えて。そしてそちらの方に向かってしまうということもあれば、そのやり方によっては様々な選択肢……より救済であるとか、支援に繋がるという、そうしたようなこともありますよね。

(松本俊彦)はい。あります。おそらく、このニュースを受け取ってる方たちの中にはですね、同じような様々な苦境に追い込まれて、「どうしようか?」って迷ってる方がいると思います。この報道によって背中を押される方もいるでしょうし、報道によって別の解決策、選択肢を取る方もいると思うんですよね。そういう意味では、やっぱりこのメディアのその役割、影響力というのはとても重要かなと思っています。

(荻上チキ)またより広くの方が、自殺を考えなかったとしても、報道経由でストレスを強く受けるということもありますよね。

(松本俊彦)ありますね。やっぱり自分自身の気持ちが暗くなっていったりとか。「死にたい」と思ってるわけではないけど、いろんな生きづらさを抱えてる方たちがますます沈み込んでいったり、ネガティブな方に考えが行ってしまうこともあると思います。その場合には少し、そのニュースを見ないと申しますか。その情報から少し離れるってことも必要になってくるのかなと思います。

(荻上チキ)はい。また特に今、報道する側に求められることというのはいかがでしょうか?

(松本俊彦)はい。やはりですね、自殺のことを「この人はこういうことで悩んでいた」とか「これが自殺の原因だろう」みたいな形で憶測した記事がしばしば出てくると思うんですね。で、これはどうなのかな? と思っています。そもそも自殺の原因はそれほど単純ではないですね。「ひとつの原因で」というストーリーでは簡単に語れないんですね。いろんなものが複合的に生じて、たまたまそういう風な現象が出てきたと考えるべきだと思います。

で、うっかり憶測したストーリーを提示してしまうと同じような状況に置かれてる人たちというのは世の中にたくさんいるんですよ。その方たちが、その自分の状況の解決策の選択肢として「自殺」というものを考えてしまうっていうこともしばしば、専門家によって指摘されているところです。

(荻上チキ)この自殺に関する知識というのは社会的に大きな誤解があるポイントのひとつでもあります。たとえば「死にたいという人は本当に死にたがってはいない」であるとか、「鬱であるとか、そうしたようなものについての社会的な偏見があって、病院に通いにくいだろう」とか。本当に報道ができる役割というのは非常に大きいですね。

(松本俊彦)はい、そう思います。ぜひこういった報道をきっかけに自殺対策。それからそのメンタルヘルス問題に対する啓発の機会という風にしていただけるとありがたいなと思います。

(荻上チキ)また特にSNSの役割も今は大きくなっています。こちらについてはいかがでしょうか?

(松本俊彦)はい。SNSでこういった自殺報道を……もちろん個人がショックを受けたから記事をシェアしたりとかするんだろうと思うんですけれども。安易にそれをシェアすることが本当にいいのかどうか?っていうこともちょっと、立ち止まって考えていただければなと思います。そうしてシェアされた記事を受け取る方たちの中にはですね、かなり自分自身もしんどい状況にある方がいるかと思うんです。その方に、その選択肢を与えてしまったりとか、あるいは憶測で書かれている自殺の原因とされているものと自分とを当てはめて、「ああ、こういう方法があるのか」っていうことでいわば模倣自殺と言われるような現象を引き起こしてしまうこともあるなという風に思っております。

(荻上チキ)また、長い間テレビなどで慣れ親しんでいた方がいなくなるということについて、喪失感を覚える。そういったストレスを与えるようなこともニュースにはありますよね?

(松本俊彦)はい。ありますね。自分自身が何かを失ったに準ずるような喪失感を体験される方は少なからずいると思います。

(荻上チキ)一方でそういった様々な死を連想させるようなこと……いわゆる「ウェルテル効果」と言われてるものとはまた別に「パパゲーノ」と言われるように支援を繋げていく、支援をより意識しやすい社会にしていく。そうした役割についてはいかがでしょうか?

(松本俊彦)はい。まさにこれがメディアに期待するものだという風に思っています。この報道を通じて「他の解決策がある」ということを知る。可能であれば、そういう風な他の解決策を取った方がうまく苦境を脱したというようなエピソードなども付け加えられたら、その効果はより強くなると言われています。

(荻上チキ)わかりました。松本さん、ありがとうざいました。

(松本俊彦)ありがとうございます。

<音源おわり>

(荻上チキ)精神科医の松本俊彦さんにお話を伺いました。さて、今回の一連の報道によって気分が沈んだという方もたくさんいると思うんですね。その理由も人それぞれだと思います。なじみが深い方が亡くなったというようなニュースに触れての喪失感であるとか、それから死というものが具体的に身近なものとしてニュース立ち現れてくる。そういったものに繰り返し触れる。その中にまた具体的な描写が含まれる報道もあって、そのことによって抑うつ感覚や気持ちの沈み込みを感じたという方もいらっしゃるでしょう。

報道によるフラッシュバック

(荻上チキ)また、人によっては様々なフラッシュバックを経験したという方もいると思うんですね。私も長年、鬱を患っていて。なおかつ、自殺を何度か試みたこともあります。自傷行為も繰り返し行ってきました。そうした中で、いろいろな……今は気分が落ち着いて寛解というか、ある程度そうした衝動みたいなものを抑えることに成功はしているんだけれども、でもやっぱりそのストレスが一定程度高まるとパニックのように目の前に「死」という選択肢がポンと現れるということはあるんですよね。

そうしたようなフラッシュバックはこういった様々な自殺関連報道の中で具体的なアイテムの名前とか場所の名前とか、そうしたものが出てくることによって同じくスイッチが押されるということがあるんですよ。僕は今回の報道で今朝、明確にスイッチを押されたんですね。だから今日の午前は本当に苦しかったんです。で、こういったような状況の中で、しかしなぜ僕が寛解というか、改善したかというと、やはりひとつは医療機関にかかって。そこで投薬の治療。お薬を飲むという治療と、あとは適切なカウンセリング。これも当たり外れ、いろいろと経験しましたけれども。自分にマッチしたカウンセリングを経験することによって、その心理的なカウンセリング、自分自身に対してケアを行うことができるようになった。

また様々なつらさとか苦しみみたいなものを割と溜まる前に人に言うようになりましたね。南部さんとかにもよく相談というか、「こんなことがあってね」っていう話をプライベートではしてますけれども。そういったようなことを話すようになったりはしました。社会的にはやはり自殺に関して議論する際に、その報道機関がやるべきでないこととやるべきことが書いてあるというのは、それはやっぱり「多くの人たちに対してより選択肢を与えるような社会になった方がいいだろう」ということなんです。

で、そのためにメディアにできることをそれぞれしましょうということが訴えられているわけですね。なのでこの番組でもいろんな自殺報道についての特集をしてきたり、あるいは様々な生きづらさを招くような社会的要因について特集してきましたけれども。そうしたことを重ね合っていくこと。そして身近な方などから相談された場合に「このアイテムがある」っていう。そうしたものを増やしていくことがとても大事だと思います。では、まずはここで案内を。

相談の窓口

(南部広美)はい。相談の窓口。抱え込んでる悩みを一旦外に出すことで少しね、ほっとできることに繋がるかもしれませんので、相談窓口をお伝えしておきます。こころの健康相談統一ダイヤルです。電話をかけた所在地の都道府県、政令指定都市が実施しているこころの健康電話相談等の公的な相談機関に接続します。電話番号を申し上げます。0570-064-556。繰り返します。0570-064-556です。

続いて社会包括サポートセンターよりそいホットラインです。こちらは24時間の受付で、番号は0120-279-338です。24時間の受付です。0120-279-338。そして、チャイルドラインです。基本的には18歳までの方で、通話料のかからないフリーダイヤルで電話を受けています。番号を申し上げます。0120-99-7777。もう一度。0120-99-7777。毎日受付時間は午後4時から午後9時までとなっています。

(荻上チキ)はい。そして心理的危機対応プラン「PCOP」というものも私のNPOでは作っていまして。ストップいじめ!ナビというNPOで無料で誰でもダウンロードすることができます。これは元々の米軍兵士向けに開発されたものを日本語版としてアレンジしたものになっておりまして。これは先ほど出演してくださった松本俊彦さんと、それからの心理士の伊藤絵美さんという方。この番組を出ていただきましたね。その方々に監修をお願いして作成したものになっています。

で、「ファーストエイド」っていう考え方が心理分野においても今、とても重要な分野だという風にされているんですね。ファーストエイドっていうのはたとえば、怪我したら応急処置として血を止めるとか、心肺蘇生法を試すとか、人工呼吸をするとか。あと、溺れていたら水を出すとか。いろんな、最初に何をするか?っていうのがあるじゃないですか。

同じようにメンタルヘルスの中でも、本当に危機の状況にあった時にまずすべきこととか、そうしたような時のために備えておくべきことっていうものが一定程度、固まってきているので。「まずはここを見てください」というものをまとめたものがあります。無料で頒布しておりますので、そちらもぜひチェックしていただければと思います。

死にたい、と思うくらいつらい気持ちを支えるための情報 | ストップいじめ!ナビ
「死にたいと思うくらい辛い気持ち」のことを、私たちは「心理的危機状態」と呼びます。ここでは「心の心肺蘇生法」のような「PCOP」をご紹介しています。ご活用ください。

(南部広美)それからですね、インターネットの生きづらびっと。こちらは誰にも相談できない悩みなどにSNSで相談できるということで。LINEですね。友だち追加をして利用することができるということですので、こちらの方も検索してみてください。

生きづらびっと
「生きづらびっと」は、「死にたい」「消えたい」といった、あなたのつらい気持ちを安心して話していただくことのできるSNS相談です。私たちは、お気持ちを受け止めつつ、必要があれば様々な分野の実務的支援へとつなぐ「生きることの包括的な支援」を行っ...

<書き起こしおわり>

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