竹田ダニエルと荻上チキ Mrs. GREEN APPLE『コロンブス』MV問題を語る

竹田ダニエルと荻上チキMrs. GREEN APPLE『コロンブス』MV問題を語る 荻上チキSession22

竹田ダニエルさんが2024年6月13日放送のTBSラジオ『荻上チキ Session』の中でMrs. GREEN APPLE『コロンブス』ミュージックビデオ内で描かれていた表現が歴史的理解を欠き、差別的であるとの非難を受け、公開停止になった件について荻上チキさんと話していました。

(南部広美)最新のニュースをお送りするDaily News Session。まずはこちらのニュースからです。「歴史理解に欠ける表現。Mrs. GREEN APPLEのミュージックビデオ公開停止」。3人組バンドMrs. GREEN APPLEの新曲『コロンブス』のミュージックビデオに歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていたとして公開を停止したとユニバーサルミュージックなどがホームページで発表しました。

昨日、公開されたミュージックビデオにはコロンブスなどの歴史上の人物に扮したメンバーが猿の着ぐるみを着た出演者に人力車を引かせたり、西洋文化を教えたりするシーンがあり、公開後から「植民地主義・奴隷制を肯定している」などとSNS上で批判が集まっていました。ミュージックビデオは所属レーベルと事務所で制作したということで、「公開前の確認が不十分で皆様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」としています。

(荻上チキ)さてMrs. GREEN APPLEの楽曲『コロンブス』のミュージックビデオが公開停止。こちらのニュースについてアメリカ・カリフォルニア在住でZ世代文化にも詳しいライターの竹田ダニエルさんに伺います。ダニエルさん、こんばんは。

(竹田ダニエル)こんばんは。

(荻上チキ)よろしくお願いします。まずはこのMrs. GREEN APPLEの楽曲『コロンブス』のミュージックビデオ、ダニエルさん、ご覧になっていかがでしたでしょうか?

(竹田ダニエル)そうですね。まず自分のバックグラウンドを説明しますと、2018年くらいから音楽業界でマネジメントだったりとか、ディレクションだったりとかに携わっているので。どちらかというとその裏方の目線で作品を見ることがすごく多いんですけど。個人的には。まあ多くの方も、批判されている方の中でも思った方も多いとは思うんですけれども。自分も結構、同じように「なんでこれが通ってしまったのだろう?」っていうのが初めの印象でしたね。

(荻上チキ)つまり誰かが「いや、これは違うよ。これはおかしいよ」っていうことが……ミュージックビデオっていうものは1人で作るものではないので。たくさんの大人たち、たくさんの人々の目線が介入するものなのにもかかわらず、なぜ止められなかったのかという点ですか?

(竹田ダニエル)そうですね。さらにこれはコカ・コーラとのタイアップの曲で。なおかつ、広告代理店の方々も入っているのでかなり大規模なプロジェクトで。なおかつ予算だったりとか、人員だったりとかも入っているっていうことが推測されるので、なおのこと……「大きく拡散される」という前提であって。たとえば音楽を始めたばっかりで、自主制作で自分たちの友達の間で作品を作ったというわけではないんですよね。やっぱり多くの人が関わっていて。海外とかでも見られるという前提の上で作られたっていうことは考えた方がいいんじゃないかなっていう風に思います。

(荻上チキ)また今回のミュージックビデオで描かれた内容は先ほど、ニュースもありましたが。コロンブスら西洋的な偉人とされる人たちが実際に類人猿とされるような人々に対して文明を教える。しかし、その中には人力車を引かせるような、使役をするような場面もあるなど、表象がいろいろと話題となりました。この表現などについては改めて、どういったところでしょうか?

「コロンブスが偉人」という前提がおかしい

(竹田ダニエル)そうですね。まず大前提として「コロンブスが偉人」っていう前提が個人的にはすごく「えっ?」って思ったところがありまして。個人的に私はアメリカで生まれ育ってきて。もちろん、その前提として「アメリカの価値観が正しい」というわけではないんですけれども。歴史の認識っていうのは変わりつつあって。コロンブスが「アメリカを発見した偉い人」ではなく、「多くの犠牲者を出した奴隷制度や虐殺だったりとかを行った人。先住民たちを長らく苦しめるきっかけを作ってしまった人」っていうような教育がされるようになっていて。コロンブス・デーという祝日がアメリカではかつて、あったんですけれども。それが名称が変わって。「Indigenous People’s Day(先住民の日)」っていう風に名称も変わったんですね。

(荻上チキ)はい。

(竹田ダニエル)その教育の考え方だったりとか、実際にどういうことを行った人なのか。そして誰にとって偉人なのか。誰が犠牲者となったのかっていうところに目を向けようっていう意味で、変更している州だったりとか地域も増えていますね。

(荻上チキ)そうした背景というものがあって。それが広く知られているにもかかわらず、今回の作品というものが出されたということですね。これに対して先ほどMrs. GREEN APPLEのメンバー、大森元貴さんがWebサイトでコメントを発表したということで。南部さんに紹介してもらいたいと思います。

Mrs. GREEN APPLE・大森元貴のコメント

(南部広美)「Mrs. GREEN APPLE『コロンブス』ミュージックビデオについて」。「『コロンブス』のMusic Videoを制作するにあたり・年代別の歴史上の人物 ・類人猿 ・ホームパーティー ・楽しげなMVという主なキーワードを、初期構想として提案しました。類人猿が登場することに関しては、差別的な表現に見えてしまう恐れがあるという懸念を当初から感じておりましたが、類人猿を人に見立てたなどの意図は全く無く、ただただ年代の異なる生命がホームパーティーをするというイメージをしておりました。

しかしながら、意図とは異なる伝わり方もするかもしれないと思い、スタッフと確認し合い、事前に特殊メイクのニュアンス、衣装、演じ方のフォロー、監修をしていたつもりではおりましたが、そもそもの大きな題材として不快な思いをされた方に深くお詫び申し上げます。決して差別的な内容にしたい、悲惨な歴史を肯定するものにしたいという意図はありませんでしたが、上記のキーワードが意図と異なる形で線で繋がった時に何を連想させるのか、あらゆる可能性を指摘して別軸の案まで至らなかった我々の配慮不足が何よりの原因です。

「『コロンブスの卵』というキーワードから制作に取り掛かり、前向きにワクワクできる映像にしたいという気持ちが、リスクへの配慮をあやふやにし、影響を及ぼしてしまったと認識しております。こちらの意図する物語の展開としては、歴史的時間軸は存在せず、類人猿も人の祖先として描きたかった。そして時間の垣根を越えてホームパーティーをする。これはあり得ない話であり、あくまでフィクションとしての映像作品であると。ただ、ある事象を、歴史を彷彿とさせてしまうMVであったというご指摘を真摯に受け止め猛省しております。

この度は本当に申し訳ございませんでした。以後このようなことが無いよう、細心の注意を払い、表現することに対して誠実に、精進してまいりたいと存じます。Mrs. GREEN APPLE 大森元貴」。

(荻上チキ)はい。というメッセージが先ほど、出されました。こうしたメッセージの発信、あるいはその内容についてはダニエルさん、いかがですか?

(竹田ダニエル)そうですね。「早々に対応した」っていうのを高く評価する意見もありまして。その意見に半ば同意するとともに、やはりその深入りしてしまったっていうことだったりとか。個人的にはちょっと、エクスキューズがいろいろ入ってるなって風には思ったんですけれども。もちろん謝罪も込められているので、全てダメってわけではないんですけれども。すごく興味深いのは、やっぱりその「懸念していた」っていう点だったりとか。やっぱり、大森さんご本人がディレクションをやっていた。で、やっぱりいろんなところに着想を得ていたけれども、その歴史というものをある意味ファンタジーの延長線として捉えていたっていうのがクリエイティブを作るにあたっての致命的な点だったんじゃないかなっていうのを、今回の声明文を聞いて、改めて思いましたね

(荻上チキ)そうですね。またスタッフと話し合って監修を丁寧に行ったという経緯がここで説明されたにもかかわらず、なぜその表現になったのかというところはやはり、考えなくてはいけない点ですし。また、具体的にどんな表現を出すのかだけではなくて、どんな構図が表現の中で描かれるのかということについては、なかなか言及されておらず。今回のような描き方になればどうしても「文明対野蛮」とか、そうしたような図式になりがちだということはわかる。

そうすると、コロンブス自体が行ってきた虐殺、性暴力、奴隷売買などの歴史というものを知らなかったとしても、それが何かしら問題ある表現に繋がりそうだということもぜひ、思い立ってほしいかなとは思います。なお、このミュージックビデオを公開してから、英語字幕なども含めて公式でアップロードされていたというところもあったりしましたが。こうした発信そのものが持つリスクであるとか、あるいは他の議論での反応などはダニエルさん、どう見ましたか?

(竹田ダニエル)はい、そうですね。先ほどの声明文にも共通することなんですけれども。その「意図的に差別しているわけじゃない」とか「悪意があるわけじゃない」「悪気があるわけじゃない」「本人たちを責めないでほしい」っていう意見が結構、ファンの間から見受けられて。同時にやっぱりその「自分はコロンブスの行ったことを知らなかったし、偉人としてしか知らなかったけれども、ちょっと調べて学びを積んだら全然これはダメだっていうことがわかった」っていうファンの方もいらっしゃったんですよね。で、やっぱり今まで結構メジャーだった、ファンの間で「推しを全肯定する、信じる。それこそが応援のあり方だ」っていうことがどちらかというと、アーティスト本人の作品を苦しめてしまうだったりとか、更なる弊害を起こしてしまう。

「推しを全肯定する」ことの弊害

(竹田ダニエル)そのように、やっぱり全肯定だったりとか……差別的な行為を「悪意がないから」と擁護してしまうというのは、改善の余地さえも奪ってしまうので。そのファンのあり方っていうのも強く問われていると思いますし。さらに自分自身もそういうクリエイティブだったりとか、ムービーのディレクションを行う側の人ではあるんですけれども。どういう倫理性を持って制作を行うのか? さらにはその曲だったり企画、MVのコンテンツだったり制作物のメッセージを改めて、やっぱり深く考える必要があると思っていて。それはその「不快にしない」とか「配慮をする」「ポリコレ」とかいう次元ではなくて。やっぱり本質的に誰に何を届けたいのか?っていうところを個人的には引き続き大事にする必要があるなっていう風には思いました。

(荻上チキ)また、これからクリエイティブ制作する上では、どういった仕組みや体制、あるいはどういった考えというのがさらに必要になっていくとお感じですか?

(竹田ダニエル)そうですね。個人的には経験から言うと、同じチームでやり続けていると結構「NO」って言いづらい雰囲気が出てしまったりだとか。あとは結構、ポップスにおいてだとちょっと変わってることとか、ちょっとリスキーだから受けるとか。ポップなら、いい。派手なら、いい。おもしろければ、いいっていうのがやっぱり……吉本だったりとかのいろんなパワハラだったり、性加害だったりとかが話題になっている中で、それが最終的には「視聴者にとっておもしろければいい」っていうのだけでは通れないというか。より大きな……さらに今回のMrs. GREEN APPLEに関してはかなり大きな規模感で展開もされていて。海外展開も視野に入れているっていうことを過去に述べられているので。であるならば、特にそういうことを考える場合は専門知識のある人だったりとか、そういうところだったりにも配慮する必要があると思いますね。

(荻上チキ)そうですね。「他の人がやらないから」とか「奇抜だからきっと受けるだろう」ではなく、なぜそこでやられないのか? あるいはやるとしたら、どんな人の意見を聞くのか。そうした体制というのもいろいろなクリエイターに届いてほしいなと。そういったものを作ってほしいなと思います。ダニエルさん、ありがとうございました。

(竹田ダニエル)ありがとうございました。

(南部広美)ありがとうございました。

(荻上チキ)ライターの武田ダニエルさんにお話を伺いました。

<書き起こしおわり>

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