辻田真佐憲と荻上チキ 安倍首相「#うちで踊ろう」動画を語る

辻田真佐憲と荻上チキ 安倍首相「#うちで踊ろう」動画を語る 荻上チキSession22

近現代史研究家の辻田真佐憲さんが2020年4月13日放送のTBSラジオ『荻上チキ Session-22』に出演。荻上チキさんと安倍首相のSNSアカウントで公開された「#うちで踊ろう」動画について話していました。

(荻上チキ)この間、ネット社会になってからいろいろな……TwitterであるとかYouTubeであるとか、そうしたものを使った広報というものも話題となっています。たとえば東京都知事の小池都知事がトップYouTuberのHIKAKINさんとコラボをして。その新型コロナに関する質問に対してやり取りをするという動画が話題になった。その後には安倍首相が星野源さんが呼びかけたInstagramの投稿に対して、まあ便乗するような形で。まあ「コラボ動画」って言っていいのかな? コラボっていうよりは……まあ、何か動画を上げたんですよね。

(南部広美)画を重ねたものを。

(辻田真佐憲)まあ、「勝手にコラボ」みたいなね。

(荻上チキ)そうですね。そういうのを上げて、それがいろいろ話題になったのですが。このあたりの動きはいかがですか?

(辻田真佐憲)そうですね。これは大変興味深く見ていてですね。先ほど「コラボ」という言葉にちょっと留保されてましたけれども。これは安倍首相側が勝手に使った……つまり星野さん側が了解をしたとか許諾をしたとかということではなくて、安倍首相側がその動画を、まあ要は勝手に使ったので。勝手にコラボみたいな動画でして。これが今、ネットですごく炎上をしているわけです。

(荻上チキ)星野源さんの動画を総理が勝手に使った……まあ、あれはフリー素材というような格好で、いろんな方に「コラボをしてください」っていう形で呼びかけていたものの、官邸がそれをそのように使うとはさすがに想定してなかったというケースですが、どうご覧になりましたか?

(辻田真佐憲)そうですね。だから安倍首相が……まあ、一言で言うとInstagramにあるようなすごい「勘違いセレブ動画」みたいになっちゃったわけですよね。すごく自粛を呼びかけているんだけども、単なる自分の生活ぶりをアピールするようなものになってしまっていて、そういう動画や写真はインスタでよく炎上をしていますけれども。これに関してもね、いろいろと擁護する意見はあるんですが。

先ほどおっしゃっていた小池都知事とHIKAKINさんのコラボ動画は別に全然炎上していないわけですよ。小池さんも安倍さんと同じぐらい嫌ってる人が多いというか、アンチの多い政治家ではあるのに、あっちは炎上をしていない。でも安倍首相の方はすごい炎上してるわけですから、やっぱり私はあれは稚拙な動画だったということに尽きると思うんですよ。

炎上しない小池都知事とHIKAKINコラボ動画

(荻上チキ)うん。

(辻田真佐憲)それは、一言で言うと先ほど申し上げたような事実上、勘違いセレブ動画になってしっていたというのが一点ですね。そしてもう一点、これに関して言いたいのは、批判してる人もすごい過剰なところもあって。というのも、「星野さんに対する批判」というものもあるわけですよ。私、これはもらい事故みたいなもんだと思うんですよ。つまり向こうから勝手にコラボされちゃったというもの。それに対して星野さん側が「いや、安倍なんかに使われたくないんだ」というような、そういうメッセージというかツイートなりステートメントなりを出すべきなんだっていうような批判がある。

「そうしなければ我々の敵だ。つまり政権側の人間に協力してるのも一緒だ」というような、「中立は敵だ」みたいなことを言う人っていうのが今、SNS上では結構多いんですが。これはやっぱりやり過ぎだと思いますね。というのも、あらゆる楽曲とかにそういう「政権批判をいますぐ表明しろ」なんてやってしまえば、文化芸術の表現の幅はめちゃくちゃ狭くなってしまいますよ。政権批判や今の現状、あるいは政治に対する不満、怒りみたいなものを表明する仕方っていろいろ実はあるわけですよね。それは単にツイートをするだとか、ステートメントを出すだけではなくて。

たとえば、何か作品の中で昇華する。数ヶ月後、あるいは1年後でもいいですけれども。そういった様々な作品の中で表現するってことだって当然あっていいわけで。「今すぐ白か黒かはっきりさせろ」という風に迫るっていうのは、まあ言っちゃ悪いですけど思想警察の取り調べみたいな話であって。私は批判する人たちはそういうことをやるべきではないと思いますね。

(荻上チキ)今回ね、星野さんはInstagramで「安倍晋三さんが上げられた”うちで踊ろう”の動画ですが、これまで様々な動画をアップして下さっている沢山の皆さんと同じ様に、僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません。」っていうことを文字だけで上げていて。

星野源さんのコメント

(荻上チキ)他の様々なコラボ動画に関しては、動画を紹介したりもしているので。まあ、その文脈でわかるだろうというような、そうしたものではあるとは思うんですよね。

(辻田真佐憲)私もそう思いますね。でも、「それじゃあ不十分んだ。もっとやるべきだ!」みたいな人たちがいて。なんというか、Twitterってすごくバーッと炎上して。でも、このあと1週間もたたないうちに、これは話題から消えると思いますけど。今回の感染症の問題というのはもう1ヶ月、2ヶ月で済まない問題で、おそらくはずっと続くわけですね。そういった中でこういうことをずっと繰り返していくと、やっぱり社会がすごいギスギスしてしまいますし。もうちょっと冷静に……もちろん政権批判自体は私は別に全然やってもいいし、私はあの動画のことは大変滑稽だと思いますけど。ただ、ちょっともう片っ端から気に入らないものを切っていくみたいな状態は批判者側も冷静じゃないのかなと私は思いますね。

(荻上チキ)今回、あの動画を日曜日のゴキゲンな自宅でタイムラインで見た時の僕の心理はですね、「文化にお金を出さないやつがタダ乗りしてらあ」っていうのはまず第一印象だったんですね。

(辻田真佐憲)まあ、そうですよね。

(荻上チキ)まず第一には。で、それに対するいろんな反応とかを見て、「ああ、今日はTwitterを見ない方がいい1日だな」っていう風に思ってデジタル断捨離した1日だったんです。

(辻田真佐憲)ああ、素晴らしいですね。全くその通りですね。

(荻上チキ)それでもうひとつ、思ったんですけども。でもあの動画の問題点というのは、「Stay Home、家にいろ」っていうあの言葉が持つ、覆い隠す格差だと思ったんですよ。というのは、あの動画で総理が星野源さんのバックグラウンドビデオを活用してやっていたことというのは「犬を撫でて、お茶を飲んで、本を読んで、テレビを見る」っていうアクションだったんですね。で、見事にここには家事もないし、なにかしらの工夫みたいなものも特に感じられなくて。単なる日常風景の日曜日ですみたいな感覚だったんですよね。ただ、その「家にいろ」っていう風になった時に今、問題視されているのは……特に怒っている人たちはそうだと思うんですけど。

「Stay Home」の意味の違い

(荻上チキ)「仕事は失われて家にいても、その『家にいる』という行為の意味が違う。家にいざるを得ないのに『家にいることを楽しみましょう』とよく言うけども、それは『Stay Home』って言うセレブ側とかいろんな著名人の方、そして政治家の方は家も広いだろうし、犬もいるし、白い壁紙のところでリラックスができる。でも、そういったような状況にはいない人たちにとって『Stay Home』は意味が違う」っていうことをすごく総理自らが浮き彫りにしたなっていう風に思ったんですが。そこはどういう風に感じましたか?

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