町山智浩 映画『21世紀の資本』を語る

町山智浩 映画『21世紀の資本』を語る たまむすび

町山智浩さんが2020年3月24日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でトマ・ピケティの著書の映画化作品『21世紀の資本』を紹介していました。

(赤江珠緒)町山さん、どうですか、アメリカは?

(町山智浩)アメリカはロックダウンという都市閉鎖状態になって1週間ちょっと経ちました。あと2週間ちょっと続くことになると思うんですが。

(赤江珠緒)そうか。じゃあ町山さん、買い物とかに行くぐらいであとは出られないってことですか?

(町山智浩)行けるのは買い物だけですね。図書館から何から全部閉まっているんで。映画館も全部ね。普通の洋服屋さんとかももちろん全部閉まってますよ。

(山里亮太)これ、いつぐらいまでとか全く言われないんですか?

(町山智浩)一応、4月頭までと言われてるんですけど。でも感染がどのぐらい広がるかによって延びると言われてますね。

(赤江珠緒)それに対して、その市民の声みたいなのはどんな感じなんですか?

(町山智浩)まあみんな納得して……すごく説明がしっかりしてるんで。トランプ大統領も毎日、コロナに関してテレビに出て説明をしてくれてるんで。あと州知事とかもね、すごくみんな、現在どういう状況で何のためにどうしてるかとか、それは分かってるんで、すごく平穏です。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)で、それに逆らったりする人もあまりいなくて。たとえば買い占めとか、トイレットペーパーとかのパニックも起こっていないですね。

(赤江珠緒)ああ、起きていない? へー!

(町山智浩)起きてないですね。「1人2個まで」っていう風に決まっているんで。各店で。あと、お店の中でも人がたくさんいる状態にならないように入場制限もしてるんで、混乱もないですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ただね、もうすぐ大変なことになるのが、ほとんどの人が今月、収入がないんで。それだと、家賃を払えないんですよ。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)はい。アメリカはみんな、ギリギリのところで家賃を払っている状態なんで。家賃が高すぎて。特に都市部ではね。家賃を払えない状態に突入するので、お金をどういう形で支給するのか。ないしは、まあ家賃の支払いを猶予するという法律ができるかということで。今、そのへんですね。で、あと大きいのは11年間ずっと株価が上がり続けてきたんですけれども、今回株価が落ちまして。今、アメリカの株価は3年前のトランプ大統領就任前よりも低くなってるんですよ。

(赤江珠緒)うーん。

トランプ大統領就任後の3年間の株価上昇分が消える

(町山智浩)で、それも大変なことなんで。まあ、今年はおそらくどこの企業も税金を払わないでしょうね。

(山里亮太)「払わない」? そういう風にしていいということにするんですか?

(町山智浩)だって、赤字だもん。大変な財政難と……まあ大変なことになるでしょうね。

(赤江珠緒)財政難でしょうね。税金は入ってこないけど、使わなきゃいけないものはいっぱいあるしね。

(町山智浩)そう。ということで……ただね、1929年に世界大恐慌っていうのがあったんですね。その規模になるんじゃないか?っていうことまで言われているので、そうなることを避けなければならないんですよ。そんなことになるともう10年ぐらい、再起できないことになるんでね。で、どうやったらそうならないようになるのか?ってみんな言っているんですけど、それに関しては「これはある種、大きな変革のチャンスだ」と言っている人がいるんですね。で、それがフランスの経済学者のトマ・ピケティさんなんですね。この人は『21世紀の資本』という本でベストセラーになったんですけども。

(赤江珠緒)そうですね。日本でもピケティブームになりましたね。

(町山智浩)はい。でも誰もその本自体は読んでないと思います。ほとんど。というのは、5500円もするんですよ。

(赤江珠緒)1冊5500円?

(町山智浩)そう。この本は「なぜこんなに格差が開いてしまって、一部の金持ちとたくさんの貧乏人ばっかりになってしまったのか?」っていう本も関わらず、5500円もしてるんで。そういうことに怒っている人が買えないんですよ。

(山里亮太)ああ、なるほど(笑)。

(町山智浩)で、今回、映画が作られまして。その『21世紀の資本』の本の内容をわかりやすく1時間半にまとめた映画できたんで。それで今、日本で公開中なんですよ。だからその話をちょっとします。一昨日かなんかに日本で公開されてると思いますね。これはトマ・ピケティさんが自分で出演して監修している映画で『21世紀の資本』っていうそのままのタイトルなんですが。ドキュメンタリーですね。

本の内容を1時間半にまとめる

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、内容的にはとにかくこんなに格差を開いてしまったのは一体どうしてか?っていうことを19世紀からずっと見ていくということになっています。で、とにかく今、アカデミー賞をこの前取った映画『パラサイト 半地下の家族』がやっぱり格差についての話でしたよね。韓国の映画でしたけど。

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(赤江珠緒)そうですね。うん。

(町山智浩)それで是枝裕和監督の『万引き家族』は日本の格差、貧困層を描いていて。

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(町山智浩)それからイギリスのケン・ローチ監督の『家族を想うとき』もやっぱりそうで。イギリスの貧困と格差社会を描いていました。

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(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからこれはもう全世界的な動きなんで。これはもう各国の特殊な事情とかと関係なく、大きな流れとしてそういうことがあるんですよね。格差社会というものは。

(赤江珠緒)それは間違いないですね。

(町山智浩)で、どうしてそれが起こるのか? 起こっていない、格差社会はないところもあります。はっきり言って。北欧とかね。で、どうしてそういう差ができてしまったのか?っていうことが歴史的に描かれるのがこの『21世紀の資本』っていう本とその映画化された映画なんですけれども。これはね、本当にまさに今、このコロナ不況から脱出するために非常に重要なことなんですよ。

(赤江珠緒)へー! うんうん。

(町山智浩)というのは、このままだと大恐慌になっちゃうよと言われているわけですよね。「じゃあ、以前の大恐慌の時にどうやってそこから脱出をしたのか?っていうことを逆に考えてみよう」っていうことなんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

ニューディール政策

(町山智浩)それでまず、大恐慌になった原因っていうのはあれは株式バブルが崩壊したんですね。いくつかの理由があるんですが。で、まあ大変なことになりまして。それをどういう形で解決したかというと、ニューディール政策というのがアメリカで行なわれたんですね。で、それははっきり言うと、具体的に一番大きかったのは金持ちに税金をかけたんですよ。所得税を60%ぐらいの税率にしているんですよ。すごい額なんです。

(赤江珠緒)おおっ、重いですね。すごいな。半分以上持っていく。

(町山智浩)これが第二次世界大戦の時には90%まで行きました。

(赤江珠緒)90!?

(町山智浩)で、その後も70%ぐらいまでしか下がりません。アメリカは1960年ぐらいまでの30年間ずっと金持ちに対して7割から8割の税金をかけていたんですよ。この30年で、そのかけた税金を普通の人たちに分配をしたんですよ。30年もかけて金持ちから取ったお金を公共事業とか、まあ工事ですね。橋とか道路とかダムを作ったりする工事とか、まあいろんな形でずっと再分配していったから、それで何が生まれたかというと「中流」というものが生まれたんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それまで、中流ってないんですよ。アメリカって。たくさんの労働者と一部の金持ちだけだったんですよ。でも、このニューディール政策からずっと続いた30年間でずっとたくさん金持ちとか大企業から取っていって、分配していったんで中流が生まれたんですよ。で、この中流というものはみんな、勝手に生まれんだと思ってるんですよね。経済が大きくなったからっていうことで。でも、違うですよ。普通にやってたら金持ちとか企業っていうのは労働者の給料を安くして、自分たちだけが儲けようとするから。

それで中小企業を潰していって、お金が大企業に集中していくじゃないですか。で、できるだけ効率良くするために人のクビを切って……ってやるじゃないですか。給料上げないとか。そうしたら、金持ちばかりが金持ちになって、貧乏人にはいつまでたっても貧乏のままなんですよ。それは強制的に国が法律でそれを平等にするように力をかけなければ絶対に中流は生まれないんですよ。人の力でしか生まれないんですよ、それは。法律とか政治によってしか。唯一、企業が自分で中流を作った例っていうのはフォードぐらいになんですよ。

(赤江珠緒)ああ、フォードが?

(町山智浩)フォード自動車は一般の給料の2倍以上を出したんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)それで彼らを中流にすることで、余裕を持って車を買う消費者にしたんですよ。

(赤江珠緒)そうか。自分たちが売るものを買ってくれる人がいなきゃいけないんだから、消費者を作らないとね。

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