町山智浩 映画『21世紀の資本』を語る

町山智浩 映画『21世紀の資本』を語る たまむすび

(町山智浩)ねえ。そういうことになっちゃうんですよ。だって、いい大学にも行けないわけだし。コネとかもないから、何もない人が政治家になるのってものすごく難しいわけですよね。それを突破する方法として、昔は2つの方法があったんですよ。ひとつは労働組合。ひとつは宗教団体。今、残ってるのは宗教団体だけですよ。

(赤江珠緒)そうですね。そうですね、昔の政治家の人ではいましたよね。労働組合出身の方とかね。

(町山智浩)そう。労働組合の人はいっぱいいたから、その人たちを票田にして政治家になれたんだけど今は労働組合はほとんど滅んでしまったから。で、その労働組合が滅んだ理由っていうのは企業が利益を上げられないから、労働者の給料あげすぎてるからっていうことで、どんどんどんどんと80年代から労働組合が圧迫されていったんですね。で、「企業は利益をあげることが素晴らしいことなんだ」ってことで、株価がどんどんと上がるような社会に変わっていったんですよ。でも現在、株価の上がり方と給料の上がり方のスピードって全く違うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)どのくらい違うかっていうと、一番よくわかるのはこの3年間に株価が平均でどのくらい上がったか?ってことですね。まあダウ平均でいいんですけども。1.5倍ぐらいになっているんですよ。3年間で。3年間で1.5倍ってことは、1億円を持っている人はそれが1億5000万円になっているんですね。そうすると、3年間に5000万円の収入っていうことですよね。1年当たり、いくらぐらいかというと1600万円ぐらいですよね。1億円を持っている人は何もしなくても、年収が1600万円なんですよ。でも、年収1600万円の人って今、どのぐらいいると思います?

(赤江珠緒)うーん……それは、なかなかいないな。

(町山智浩)日本だと人口のわずか1%ですよ。しか、年収1600万円以上もらえる人がいないのに、株を1億円分持っていれば3年間で平均年収が1600万円になるんです。一生懸命働いてもそれ、無理なんですよ。ということがおかしいだろ?っていうことなんですね。で、この映画というかピケティの本の中でもう書かれてるんですけども。とにかく実体経済っていうものが現在、全体の15%ぐらいしかないんですね。つまり、誰かが働いて物を作ったりとか、物を売ったり、サービスしたりすることで動いてる部分。で、それ以外の85%は金融市場で動いてるだけなんですよ。だから一生懸命働いても金融市場で稼ぐのに追いつかないのは当たり前なんですけど、金融市場で稼ぐことができる人っていうのは元々お金がある人だけなんですよ。

(赤江珠緒)元々持ってる人じゃないとね。

そもそも無理ゲー

(町山智浩)でしょう? だからこれはどう考えてもこのゲームは無理ゲーなんですよ。要するに、資本主義というものをゲームだと考えると、完全にこれは無理ゲーなんですね。要するに最初から持っている者と思ってない者が……この映画でもやっているんですけども。モノポリーで最初に配られるお金が普通はみんな同じ額、資本として配られるじゃないですか。

でもそうじゃなくて、倍の差をつけたらどうなるか?っていう実験をこの映画の中ではするんですよ。そうすると、最初からどんどんどんどん物件を買える人と全然買えない人に分かれるわけじゃないですか。不動産投資とかできる人とできない人に分かれて。そうすると、勝ち負けはかならず固定されてちゃうんですよ。絶対に逆転が起こらないんですよ。で、逆転が起こらない状態でゲームをしている人はどうなるかっていうと、最初から倍のお金をもらった人がだんだん、最初からお金をもらっていなかった人をバカにするようになるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? ゲームの中でも?

(町山智浩)そう。ゲームをやっているプレイヤーでもそうなっちゃう。で、「自分は優秀だから勝っているんだ」って思い込んじゃうんですよ。最初にお金を倍の額、もらっているだけなのに。で、「お前らはバカだから……」みたいな感じになるんですって。「貧乏人はバカだから貧乏人なんだよ」って気持ちになるんですって。そういう風に振る舞うようになるんですって。で、ものすごくサディスティックにいろんな不動産とかを買って、最初にお金を持ってなかった人を追い詰めていくような態度を取るらしいんですよ。

それはどんな人に実験をしても、かならずそうなるらしいんですよ。金を持ってる人はかならず金を持ってない人をバカにして、人間扱いしなくなるらしいんですよ。でもね、こういったものを直すには政治しかないわけですよ。富の再分配をするしかないんですよ。それは政治にしかできないんですよ。税金をたくさん取っていくっていう。ただ、その政治家はその最初から金を持っているやつらなんですよ。

(赤江珠緒)そうか……。今や、ほとんどが。

(町山智浩)ほとんどがそうなんです。だから今回のコロナに関しては、すごくこれは大きな変化をもたらすだろうと言われてるんですね。つまり、これでまたものすごい貧困層の人が急激に増えてしまった時に、大企業の方にお金を入れたところで下に届かないですからね。だって今、まず大企業がやることはリストラでしょう。それで非正規雇用が多いでしょう? 大企業にお金を入れたって、下に届くわけないじゃないですか。経済の底が抜けそうなんだから、底の部分に直接お金をぶち込まなきゃなんないんで今、世界中の政府がそれをなんとかしようとして現金支給に関してどういう方法を取ろうか?っていうことをやってるんですね。イギリスなんか上限で32万円まで渡すって言っているんですよ。

(赤江珠緒)1人に? ふーん!

(町山智浩)1人に。だからすごく今までのこの状況が変わることが来るかなと。そのモノポリーがひどくなってしまってる状況を変えることが一種、この危機を回避するために……。

(赤江珠緒)ねえ。本当に資本主義の危機ですね。本当に。もう限界ギリギリだな。

(町山智浩)はい。ということなんですね。

(赤江珠緒)『21世紀の資本』は3月20日から。もうやってますね。新宿シネマカリテほか、全国順次公開ということでございます。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした!

『21世紀の資本』予告

<書き起こしおわり>

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